普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
009 忠告──と云う名の脅迫
SIDE 平賀 才人
(この気配は……)
結局、今度の休日にルイズの好きな食べ物を奢ると云う約束をして何とか許して貰ったが、平民である俺は食堂で食事を摂る事が出来ないらしくて、途方に暮れていると〝見聞色〟の範囲内に前に感じた事が有る気配が有った。……しかし、〝彼女〟とは大して親しい訳では無いのでスルーしておく。
「久しぶりに会いましたね、サイト」
「そうだな。……ユーノ」
スルーしようと思っていたら、それをユーノは見透かしていたように、何故か向こうの方から挨拶してきた。
「お腹を空かせているであろうサイトに朗報です。……厨房に行って私の名前を出せば、何か食べ物を分けて貰えるかもしれませんよ?」
「……ユーノには色々と訊きたいことが増えたけど、とりあえずはありがとう。恩に着るよ」
ユーノと別れた後、学院に勤めているメイドに食堂の場所を訊き、ユーノの言っていた通りユーノの名前を出して何とか朝食にありつく事が出来た。
……メイドとコックからのユーノの好感度が凄く──最早、カリスマレベルに高かったのが気になったが。……何やらユーノは平民を差別しない貴族らしく、取っ付き易いらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食を済ました俺はその内に料理スキルを習得する事に決めて、これまた食事を終えたルイズと合流する。
「ルイズ、まだヘソ曲げてるのか」
「ふんっ、ツェルプストーなんかに見惚れてた罰よ。これに懲りたらツェルプストーなんかに鼻の下を伸ばさない事ね。……いい?」
(……そろそろ話かけて来てくれないかな?)
ルイズの諫言をサブの思考で適当に相槌を打ちながら、ちょくちょくと警戒する様な視線を送ってくる人物にそろそろ、いい加減嫌気が差して来た。
(殺気は無いようだから、放って置いてもいいが……)
「ちょっと! 聞いてるの!?」
「聞いてる聞いてる。今度の虚無の曜日にトリスタニアでルイズにクックベリーパイを奢れば良いんだよな?」
「そうよっ、聞いているならいいわ」
ルイズは気恥ずかしさからか、俺からぷい、と顔を逸らし軽くスキップをしながら教室の中に入っていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、召喚された使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ。……あら? ミス・ヴァリエールの使い魔は彼で宜しいので?」
「はい、彼が私の使い魔です」
「「「ははははははははっ!!!」」」
「昨日も言ったが、どうせお金を出して来て貰ったんだろう? 流石、≪ゼロのルイズ≫だな!」
「だな! ははははははっ!」
ルイズが言い終わった数秒後、教室の中が嘲笑の渦が巻き起こされた。……ルイズは目に涙を溜めるて、拳を握りしめる。
(〝これ〟は確かにルイズも嫌がるのも判るな。……〝ルイズを笑わせない〟って約束もしてるし。……いっちょヤるか)
「“絶霧(ディメンション・ロスト)”」
俺は得心しながら、ルイズを“絶霧(ディメンション・ロスト)”の〝霧〟で覆い、威圧感だけを込めた薄目のオーラを教室中に撒き散らす。……俺のちょっとした怒りに当てられたドライグのオーラも乗ったのはご愛敬か。
SIDE END
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
「ディメンション・ロスト」
……サイトが何かを呟いたと思ったら、サイトが召喚された時に纏っていた霧が私の身体をまるで守護するかの様に覆う。その霧を纏っていると、鎧を着込んでいるかの様な安心感が湧いてくる。
……サイト・ヒラガは私から見たら、不思議な少年。トリスタニアからいきなり私に召喚されたのに、召喚した相手に──私に嫌味1つ言うこともなく〝仮〟との注釈は付くが使い魔になってくれた。……春の使い魔召喚の儀は進級試験も兼ねていたので、人知れず安堵の息を洩らしたのは内緒だ。
何故か教室の中がシン、と水を打った様に静かになる。……この惨状の原因であるだろう私の使い魔へと──サイトへと目を向ける。
「皆さんに忠告しておきます。これ以降、俺の主を馬鹿にする様な、泣かす様な発言をしたら──」
私が不甲斐ない所為でサイトは多分、自身をヨゴレ役にして私を持ち上げようとしている。……つまり私に今出来る事は──
(サイトを諫める事が今の私に出来る最善策!)
「サイト、ダメよ。止めて。それ以上は言っちゃダメ」
「……判ったよルイズ。……この場は主であるルイズの顔を立てて引いておきましょう。……皆さんが出来ない事がルイズには出来た。この事をちゃんと留意しておいて下さいね?」
サイトはぱんぱん、と2回手を叩くと私を覆っていた霧の様な物が消えた。……教室のほぼ全員──シュヴルーズ先生さえも含めたほぼ全員はホッと胸を撫で下ろした様な感じがした。……何か嬉しい事が有ったのだろうか?
SIDE END
SIDE ユーノ・ド・キリクリ
今日は真人君──平賀 才人が召喚されて2日目に当たる。……〝知識〟によると、ルイズがシュヴルーズ先生の授業の時に爆発を起こす日。
だから私は、竜之炎伍式──“円”を何時でも出せる様に準備をしておく。……あわよくば、平賀 才人──サイトも一緒に守れればサイトの好感度も上がるだろうと希望的観測もしながら。
「「「ははははははははっ!!!」」」
「昨日も言ったが、どうせお金を出して来て貰ったんだろう? 流石、≪ゼロのルイズ≫だな!」
「だな! ははははははっ!」
数多くではないが、それなりの数を読んでいた【ゼロの使い魔】の二次創作でもある程度の割合で起こるルイズへの嘲笑。
(……ルイズを笑ってる奴らはこの学院出たらどうするんだろうか?)
ふと、疑問。ルイズは魔法を使えないだけで、公爵家三女。しかも、これは笑ってる奴らには知り得ない事かも知れないが、アホリ──アンリエッタ王女とは竹馬の友。ルイズの不興を買えば貴族生命が絶たれてしまう可能性があるし、自分たちのランクはドット──若しくは、ラインが良いところ。……なのに、どうしてあんなに馬鹿に出来るのだろうか?
……とりあえず判らない事は置いて於いて、現状の見るに耐えない状況を打破せんとつぐんでいた口を開こうとした時、教室にピンッと、糸が張られた様な気がした。
「皆さんに忠告しておきます。これ以降、俺の主を馬鹿にする様な、泣かす様な発言をしたら──」
教室に糸の様なモノが張られた感覚がして数秒後。静かに、緩やかに──されど確かにサイトは言った。
「サイト、ダメよ。止めて。それ以上は言っちゃダメ」
ルイズはサイトが云わんとしている事を察知したのか、すぐさまサイトに諫言を投げ掛ける。……幻聴だろうが、私は確かに感じた。
『皆さんに忠告しておきます。これ以降、俺の主を馬鹿にする様な、泣かす様な発言をしたら──〝無かった事〟にしてやる』
……と。サイトは迷う事なく〝それ〟を行動に移すだろう。
サイトの手拍子で教室に張られた糸の様なモノが弛められる。
(……それにしてもさっきの威圧感、サイト──真人君はいったいどんな修練を積んできたんだろう)
……教室で動けたのは多少の荒事に慣れているであろうタバサと、霧の様なモノに覆われていたルイズだけだった。
SIDE END
SIDE 平賀 才人
「シュヴルーズ先生、いきなり授業を中断してしまって申し訳ありませんでした。誠にお詫び申し上げます」
「いえ、私にも非は有ります。私がミス・ヴァリエールを名指ししなければ良かったの話ですし。……それでは皆さん、授業に入っていきましょうか」
それから、系統魔法についての説明をヒラヒラした服を着た軟派な男が饒舌に説明した後、“錬金”の魔法の実践はルイズ──ではなく、何故か俺がする事になった。
「……で、何を作ればいいんですか? シュヴルーズ先生」
「難しく考えなくても大丈夫ですよ? 貴方が思い浮かべる金属を作ってくれれば結構ですので」
(じゃあ、無難に鉄でもいいか)
教卓の上に置かれた石に、Fe──鉄の原子記号と、原子構造をイメージし、ルーンを唱えながら杖を振る。
「“錬金”!」
その石は鉛色の物体に姿を変えた。……どうやら成功したらしい。
「……出来ました。シュヴルーズ先生」
「実演ありがとうございます。今“ディティクト・マジック”にて調べますね。 どれどれ ……“ディティクト・マジック”」
俺が精製した鉄を調べていると、シュヴルーズ先生の顔がちょっとした驚きに染まっていく。
「素晴らしい! こんなに純度が高い鉄を見たことはあまり有りません! 貴方の魔法の先生はさぞや高名の方だったでしょう!」
「いや、まぁ、ソウデスネ」
シュヴルーズ先生にこれでもかと褒めちぎられるが、こんなのは〝特典〟と、〝現代知識〟の流用に過ぎないので、『そこまで褒められても……』と云う感じである。
そんなこんなで生徒達に軽い嫉妬の視線を受けながら俺の初めての授業は幕を降ろした。
SIDE END
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