I want BRAVERY
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二十話 再影
先輩の寮は、俺の寮から歩いて大体10分程度だ。
女子寮ということもあってか、男子寮よりも駅に近い位置にある。
俺のいたとことは、少し外見が違うが、基本は一緒といった感じの建物だった。
ただ今の時刻はPM10:58。
約束した時間の2分前。
デートのような場合ではあってはならないことだが、今回は別に構わないだろう。
というより、早めになんて行きたくない。
寮の近くまで来ると、携帯のバイブがなった。
「裏手?」
先輩からのメールの内容によれば、どうも裏口は裏手にあるらしい。
・・・まぁ、裏にあるから裏口なのだが。
とりあえず、メールからして、先輩は自分の部屋から外を見ていて俺を見つけたみたいだ。
あまり遅れないように裏の方へと回ることにした。
「こんばんわ」
裏口らしきドアのところに、中から顔を覗かせる先輩を見つけ、声を掛ける。
「あ、彩君。遅いよ〜」
「すいません。先輩の寮探すのに手間取っちゃって」
(わざとギリギリの時間を狙ったとは言えないな)
先輩は俺が遅れてきたことに若干不満そうな顔をしていたが、すぐに顔を笑顔にして俺を手招きする。
実際、不満そうな顔と言いつつも先輩は前髪が長いので、あまりよくはみえないのだが。
「中に入るんですか?」
流石に女子寮に入るのは気が引ける。
「外の方がいい?」
「えぇ、まぁ。一応俺も男なんで」
「そ、そっか・・・やっぱ好きなシチュエーションってのがあるんだよね」
「・・・もしかして、まだ誤解してます?」
「誤解?・・・あ、ホテルに行くの?」
先輩はホッとしたような顔をした後、赤い顔で悶え始めた。
「・・・もうなんでもいいです。とにかく、ここら辺で時間潰せるところないですか?」
「別に時間潰す必要なんてないんじゃない?」
先輩はキョトンとした顔で俺を見る。
(うぉぉ・・・なんて面倒な奴だよ・・・)
「時間潰す場所ないですか?」
先輩の発言を無視してもう一度言う。
「う〜ん。まぁ、人それぞれやっぱ好きな時間とかあるのかな?」
先輩は少し思案顔でぶつぶつ呟き始めた。
「あ、そんなことより時間を潰すんだったね」
俺の質問にちゃんと答えてくれる気になったようだ。
「えっとね、あっちにあるファミレスなら大丈夫なんじゃないかな?」
俺も先輩も、住んでる地域はほとんど、というか全く同じなためここらへんにある店は二人ともわかっている。
それなのに、俺が先輩に時間を潰す場所について聞いたのにはわけがある。
俺の外出している時間帯は、放課後から夜の9時ごろまで。
どんなに遅くても10時以降に外にいることはほとんどない。
例外として、前日のような場合とかがあるが。
ともかく、そういうわけで俺はあまりこの時間帯に開いている店や、この時間帯に入っても追い出されない店を知らないのだ。
「じゃあ、そこ行きましょうか」
俺はそう言うと、先輩を待たずに、先ほど先輩が指差した方へと歩き出す。
「あっ」
先輩が俺を追いかけてくる。
あっちにあるファミレスは一つしかない。
方角さえ教えてもらえば、それがどの店なのか判断できる。
「もうそろそろ12時ですね」
現在の時刻は11:50。
ファミレスに入って、大体40分程度が経った。
先輩がひたすらしゃべり続けるという、なんとも男女立場が逆のパターンだった。
話ながら、先輩はコーヒーを、俺は紅茶とたまにケーキを注文した。
「あ、もうそんな時間なんだ」
さっきまでは俺と一緒にいることが嬉しいのか、楽しいそうにしていた先輩だったが、昨日のことを思い出したのだろう。
途端に顔に恐怖の色が現れる。
「一旦、先輩のほうの寮まで戻りましょう」
「え?なんで?」
「ここだと、前みたいなことがあったときに色々邪魔ですし」
ファミレスの中には机と椅子が、びっしりとまではいかないが並べられている。
逃げるにしても、万が一戦うにしてもそれをするのに十分なスペースがここにはない。
「わかった」
先輩が頷いたのを見て、俺は立ち上がり会計を済ませにいく。
大した額ではないので、ここは俺が驕るというものだろう。
「あ、別に私出したのに」
先輩が少し残念そうに呟く。
「俺も男なんで、こういう時くらい見栄張らしてくださいよ」
そう言って俺と先輩はファミレスを出た。
そして、先輩の寮の前に着いた。
時刻は11:58。
俺は12時ジャストに影時間に入ることを知っているので、心構えが出来ていたのだが、先輩の方はいつ影時間に入るかわからないので俺の傍を離れようとはしなかった。
「ふぅ」
息を吐く。
先輩にはいざとなったら寮の中に逃げてもらうことにしている。
まず、ここで確認しなければならないことがある。
俺の目的は、寮の中が安全なのか、ということ。
予想ではほぼ100%安全だと思う。
その予想をするにあたってもう一つ確かめなければならないことがある。
シャドウは目で(あの黒スライムに目が見えているのかは知らないが)見て、人を襲うのか、それとも影時間中にいる人間の気配的なものがわかっているのか。
それを確かめることが出来れば、おのずと寮が安全なのかがわかる。
もしシャドウが目で見ていたのだとしたら、寮の中でシャドウが現れたり、原作の真田先輩がつれて帰ってくるみたいなことをしなければ、寮や建物の中は安全ということになる。
しかし、シャドウが気配のようなものを感じるのであれば、そのときはもう俺では対処できない。
もしそうだとすれば、元々のプランである原作の寮駆け込み作戦を実行するつもりだ。
「・・・」
先輩は無言で俺の腕に縋りつく。
その顔には、前のようなどこか楽しそうな雰囲気はなりを潜め、恐怖だけが残っている。
(あーやべぇ、こえぇ・・・てか、都合よくシャドウ現れるんかな?てか来るなら超雑魚にしてくれよな。というより足遅い奴)
なんて思いながら俺は携帯を見つめる。
そして、時刻は0:00。
世界が変わる。
空は緑色になり、町からは人の気配が完全に消え、ゴーストタウンのような雰囲気へと一変する。
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