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I want BRAVERY

作者:清海深々
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十八話 大会



 時は遡って夏休みに入ってすぐのこと。

「あー俺の夏休みがぁぁ」

 今日から部活の特訓の日だ。

「ほらほら、文句言ってないでウォーミングアップしてくる」

 パシパシ、と結子に背中を叩かれる。

「あつぃ〜」

 まだ特訓初日の日の開始20分、つまりは来て、着替えて、外に出た瞬間から俺はバテていた。

「日陰ぇ〜」

 そうボヤくほどに。

「もう、ほんっと体力ないんだね」

 呆れながらも、どこか嬉しげに言う結子。

「なんでニヤついてんのさ」

「だって、彩君にも苦手なことあると思うとねー」

「俺は別に完璧人でもなんでもないんだけど」

(まぁ、2週目ですから高校生活)

 なんて内心で思っていても口には出せないが。

「勉強が出来て、明るく人当たりもよくてそのうえイケメン、もうこれを完璧と言わないでなんていうのよ」

「完璧3歩手前人」

「・・・微妙」

「人間そんなもんなんだよ」

「何悟ったようなこと言ってるの」

「俺の好きな言葉にな・・・『何事も諦めが肝心』て言葉があるんだ」

「・・・ミヤの『根性論』とは真逆ね。というかただ楽したいだけでしょ」

「楽して何が悪い!」

「何も」

「・・・調子狂うんだけど」

「ハハハ、彩君もそんなことあるんだ」

「いっつも髭やモブといる時は常に狂いっぱなしなんだけどな」

「へぇ」

 そう言ってクスクスと笑う結子。

 そんなに俺の欠点を見つけられて嬉しいのだろうか。

「あ、そんなことより早く走っておいでよ。早くしないと皆ウォーミングアップ終わしちゃうよ?」

「おっと、それはマズい」

 結子に背中を最後に叩かれて、グランドを俺は走りだした。











 今日は陸上の大会の日だ。

「うわ、かなり人多いな」

 思わずそう呟いてしまうほど、人がいた。

「ま、そりゃそうでしょ。これでプロにスカウトされる選手とかいるみたいだし」

 横にいる西脇さんがそう教えてくれる。

「ほほぅ。じゃあ、来年は頑張らなきゃってか?」

「う〜ん。でもスカウトされるのは本当にごく一部だし、どうせ3年だよ」

「あらまぁ、3年か、まだ先だな。ま、来年でもミヤならスカウトされちゃいそうだけど?」

 そう言ってチラリと宮本を見る。

「・・・」

「ん?どうしたんだ?」

「ぅ・・・ぉぉおおおおおお!」

 突然宮本が叫び出した。
 周りにいる他校の人もビックリしてるようだ。

「来年は俺が勝つ!!」

 そんなことを堂々と言って見せる。
 別に試合が終わったわけでも、ましてや負けたわけでもないのだが、宮本にとっては出れないというのは同じことなんだろう。

 と言っても、ここは選手控え室に近い場所であるため、グラウンドの今の2,3年には聞こえていないだろう。
 しかし、1年にはバッチリ聞こえている。

(おいおい、変に目立ってんじゃねーよ!)

 その1年の中に原作男主人公の星コミュの他校のエースがいる可能性があるため、その状況であまり俺に注目を集めると俺が目をつけられる可能性がある。

(熱血は宮本だけでいい・・・)

 内心ボヤかずにはいられない。



 試合が終わった。
 試合は、先輩達はほんの僅かの人が表彰台の一番低い所に上るだけに終わった。

「あぁ、くそっ・・・」

 宮本は先輩達が自分がずっと見てるだけだったためか、かなり悔しそうにしていた。

(どーせ来年もあるんだってのに)

 彩には一生、部活を真面目にする人間の気持ちがわからないだろう。

「ミヤ・・・」

 結子が宮本を見てどこか心配そうな顔をする。

「来年こそは出てやる」

 決意したような顔で宮本は言う。

 試合前にも言って、出れないことはわかっていたはずだが、やはり試合を前にすると悔しいようだ。

 それにしてもかなりの熱血ぷりである。

(え?もしかしてもう甥っ子と約束した?)

 実際、それを確かめる術を俺は持たないためわからない。
 いきなり甥っ子と約束した?なんて聞けるはずもない。

「そうだな。来年こそは出たいな」

 悔しくともなんともないが、握りこぶしを作って悔しげに言ってみる。

「彩・・・そうだな俺達の番だ」

「てか俺らが出たら先輩の出る幕ないんじゃね?」

 若干おどけた風に言う。

「彩君・・・もうちょっと早くなってから言おうか?そういうことは」

 場の空気が緩んだことに安心したのか、結子は俺の耳を引っ張っていつも通りのように振舞う。

「アデデ、耳ひっぱるなって」

 耳を引っ張られながら思う。

(こんな暑い中、日の下に出たくねぇ)

 宮本達の前では口が裂けても言えないセリフである。

「ま、その大会までに怪我しないように頑張りますかね」

 そして俺は宮本の方を見て言う。

「特にミヤ。お前一番怪我しそうだわ。なんかあったらすぐ言えよ?」

「俺が怪我するわけないだろ」

 原作では怪我してるんだよ、なんていえないけど、これはキツく注意してもいい内容だろう。

「そう言ってる奴が一番危ないんだよ。怪我してもそれを隠すなんてことしそうだしな」

「ま、ここに怪我してなくてもしたと言いそうな人がいるけどね」

 そう言って結子は俺を見て笑う。

「ハハッ、確かに。ま、心配すんなって俺は大丈夫だから」

「本当だな?ミヤは時期エース、てか主将なんだから体気をつけろよ?」

「大丈夫、そこらへんは私がちゃんと見てるから」

「おいおい、お前は俺の母ちゃんかよ」

 結子が見ていてくれるなら問題ないだろうとは思う。
 実際俺がもし宮本が怪我を隠すような場面に出くわしたら、宮本に嫌われてでもそれを顧問なり結子に伝えるだろう。

 それが本当の友情ってやつだ。

(というより、後々『なんで気付いていて言わなかった!』なんて言われたくないしな)

 本当に友情もヘッタクレもない男である。
 

 
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