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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第4話 「乱入者、そしてデュエリスト」

 甲高いコールがなり始めたのは、私がレイジングハートからプレイ時間も限られているのでアリサちゃん達と遊んだらと助言をもらった瞬間だった。

「な、なになに?」
〔このコールは……乱入者です〕

 レイジングハートが答えた直後、上空から閃光が降ってきた。最低高度まで到達すると大量の光と煙を撒き散らす。乱入者が現れたことに気が付いたアリサちゃん達は、光が落下した場所へと視線を向けた。

「乱入ですって!?」
「トレーニングモードにしてたはずだけど……」
「……なんだぁ?」

 現れたのは深紅の衣服に身を包んだ女の子と布を首に巻いたウサギのような人形だった。

「見ねー連中だな……お前らもテストプレイ組か?」
「テストプレイ組? 何のことよ」
「アリサちゃん凄いよ……あの子」

 すずかちゃんが凄いと言ったのは、おそらくRクラスのカードで通り名を持っているからだろう。所属にベルカとあるが、それが何を意味しているのかは説明を受けていないために分からない。ただ彼女の言動やカードから察するに実力者だとは理解できる。

「見たとこN+が3人……弱いもんイジメは趣味じゃねぇが記録更新のためだ。全力でブチのめす!」

 女の子はこちらに向かって接近を始めた。手に持たれているハンマーのようなデバイスで攻撃されるかと思うと……あんまり考えたくない。

「ど、どうしようアリサちゃん。こっちに来るよ!?」
「対戦ゲームなんだし乱入上等よ。行くわよフレイムアイズ!」

 アリサちゃんはこれといって戸惑った様子を見せず、剣を大きく振り下ろして炎の刃を飛ばした。すぐさま動くことができたのは彼女の性格が大きく影響しているのだろう。

「しゃらくせぇ!」

 女の子は気合と共に迫ってきていた炎の刃を殴りつけ破壊してみせた。回避や防御ではなく、破壊というまさかの出来事にアリサちゃんは驚愕する。
 お返しと言わないばかりに女の子は鉄球を数個出現させ、持っていたデバイスで打ち出した。爆発的な加速を得て接近してくる鉄球にアリサちゃんはどうすることもできずに直撃。爆発が収まったときには、彼女は宙に浮いたようにぐったりしていた。

「アリサちゃん! ……はれ? 何だか力が抜けて……」

 アリサちゃんに続いてすずかちゃんも倒れてしまった。すずかちゃんは何もされていないように見えたけど、ウサギのような人形が近くにいるのは見えた。アレが何かしたのだろう。何をしたのかは現状では良く分からないけど。

「何だ、やっぱ大したことねぇ……あとはお前か」
「どっ、どうしようレイジングハート」
〔私を相手に向け、こちらのスキルを使ってください〕

 私はレイジングハートの指示に従って、先端を女の子に向けながらスキルを使用する。

「行くよ……ディバインシューター!」

 光の球体が4つ現れたかと思うと、女の子に向かって飛んで行く。避けられることはなかったけど、すずかちゃんがアリサちゃんの攻撃を防いだときのようにシールドを展開されてしまいダメージを与えることが出来なかった。それどころかすぐさま反撃されてしまい、今度はこちらが飛来してくる鉄球の対処をしなければならない。
 ――今の私にできること……それは、レイジングハートが褒めてくれた空を飛ぶことを全力でやることだけだ。
 動きを観察しながら逃げ回り始めると、鉄球に誘導性があったこともあって3個が衝突し自壊した。その調子で事は進み、全ての鉄球を自壊させることに成功する。避けきったことに喜びを感じた私は、レイジングハートに話しかけた。

「やったよレイジングハート」
〔上です!〕

 警告が聞こえた瞬間、私の身体は強い衝撃に襲われて吹き飛んだ。アリサちゃん達同様に動けなくなるかと思ったけど、どうにか生き残ることが出来ていた。
 このまま何も出来ないで……負けちゃうの? 一方的にやられて……そんなのは

「案外しぶてーなお前。だけどこいつでしまいだ」

 そんなのは嫌だ!
 と、強く思っても今の私には負けが決まるまでは諦めずに頑張ることしかできない。勝つための方法は残念ながらないと言える。
 そんなことを考えていると、突如どこかで聞いたような声が私に話しかけてきた。

『制服の女の子、《ストライカーチェンジ》を使って』
「ストライカー……チェンジ?」
『君のデッキにはN+のカードが2枚入っているはず。その2枚を出して……あとは君のデバイスが補助してくれる』

 誰かは分からないけれど、私は疑問を抱くことなく指示に従った。
 すると制服姿だった私のアバターが白を基調とした衣服へと姿を変え、レイジングハートも槍を彷彿させる形へ変化していた。

「んげ!? あいつ、セイグリットタイプだったのかよ。どおりでバカかてぇと思った……って、白とか超の付くレアカラーじゃねぇか!?」

 女の子が驚愕している理由は今の私には分からない。ただ先ほどまでよりも戦うことができることは何となく理解していた。レイジングハートの指示に従って最後のカードを使用する。

「ディバィィン……バスター!」

 先ほどの攻撃よりも直感的に強力だと分かる光線が女の子を飲み込み、爆発するのと同時に大量の煙を発生させた。放つ瞬間に見えた焦った顔から、もしかすると勝つことができたのかもしれない。

「勝った……の?」
「…………てめぇぇぇ!」

 緊張感が途切れてしまった瞬間、煙の中から怒りを顕わにした女の子が現れた。多少なりともダメージを与えられたと思っていたけど、先ほどまでと変わっているのは帽子の有無だけ。
 急激な緊張と戸惑いで身体は硬直してしまい、言葉を発することしかできなかった私は女の子が眼前にまで迫ったとき目を瞑った。次の瞬間に来るであろう衝撃に備えて。

「…………あれ?」

 いつまで待っても衝撃は襲って来ず、何か硬いもの同士がぶつかるような音が聞こえた私はそっと下ろしていたまぶたを上げた。

「あっ……」

 私の視界に飛び込んできたのは、自分よりも頭一つ分ほど背の高い人の後姿。どちらかといえば細身の体型をしているけれど、その背中を見た私の中には安心感が芽生えていた。
 ショウ・ヤヅキ。所属はミッドチルダであり、使用しているカードはRクラス。黒のコートに同色のレザーパンツ、手に握られている剣型デバイスも黒。それが元になっているのか彼の通り名は《漆黒の剣士》になっている。

「悪いけど、このへんで終わりにしてもらえないか?」

 一切焦りのない落ち着いた声が発せられた直後、金属音が響きショウさんと女の子の距離が開けた。彼の姿をきちんと見た女の子は驚愕の表情を浮かべた後、強気なようで楽しそうな笑みを浮かべる。

「へ……冗談言うな。お前の乱入は予想外だったけど、ロケテストの時の借りを返す絶好の機会なんだ。そっちのヤローとまとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」
「ヴィータ、お前はロケテストの全国ランキングで6位になった実力者だろ。初プレイの初心者を倒すのは気が引けるはずだ」
「お前だって相当な実力……初心者ぁ!?」

 好戦的な顔から突如発せられた大声にはさすがに驚いた。
 その直後、アリーナ上にスクリーンが現れてアリシアちゃんとエイミィさんが申し訳なさそうに謝罪する。どうやら現状に至ったのは、私が適当に押してしまったボタンが原因だったようだ。説明してくれなかったのも悪いとは思うけど、疑問に思ったのに聞かなかった私も悪いので何も言わない。
 この場にいる全員が事情を理解したものの、同意もなしに対戦をやめることはマナーを考えると良くないと言える。
 とはいえ、いきなり戦いが始まると不安だった私は無意識にショウさんに隠れながら女の子に話しかけていた。

「えっと、その……」
「……油断してたとはいえ、あたしに一撃入れたんだ。次は手加減しねぇかんな」
「戦いたいなら俺が相手をしてもいいが?」
「気が削がれたし、またの機会にする。お前に勝つにはもっと準備したほうがいいだろうしな」

 女の子はそれを最後に消えてしまった。初めての光景に戸惑ってしまった私は、ショウさんのほうへ自然と視線を移す。彼は穏やかな表情を浮かべており、手馴れた動きで剣を振るって背中にある鞘に納めた。この人にとっては何気ないことなのだろうが、スクリーンで見たあの女の子と同じように私は見惚れてしまう。

「ん? その、ごめんね」
「え?」
「ちゃんと説明してればこんなことにならなかったからさ……ブレイブデュエルを嫌いにならないでくれると助かるんだけど」

 ショウさんはアリシアちゃん達以上に気にしているのか、こちらの様子を窺うような顔で私のことを見ている。
 ――初めてのデュエル……びっくりしたり戸惑ったりしたし、あの子に負けそうになったときは悔しかった。でも

「あの、楽しかったです。凄く楽しいって思いました。これからもやりたいです!」
「……そっか」

 彼が穏やかな笑みを浮かべた瞬間、ちょっとだけ恥ずかしさのようなものがこみ上げてきて視線を外しそうになってしまった。今日会ったばかりなので緊張でもしているのだろうか。

「なら、今日から君もデュエリストだね」
「デュエリスト?」
「あぁ、そういえば言ってなかったね。ブレイブデュエルの戦いのことはデュエル、プレイヤーのことをデュエリストって言うんだ」

 そっか……私もデュエリストなんだ。
 胸の中に様々な想いが込み上げてくる。その中には、いつの日かさっきの子とまた対戦したいという思いもあった。

「……それとさっきの子のことなんだけど、許してあげてくれないかな? 勝負にこだわりすぎるところがあるけど善い子だし、悪いのはこっちだからさ」
「あっ、はい……あ、あの、ありがとうございました」
「……言っただろ、悪いのはこっちだって。礼はいらないよ」

 ショウさんの返事は素っ気無かった。でも表情を見る限り、素直になれない性格なのか照れ隠しでそう言ったように思える。
 友達であるアリサちゃんにも似た一面があるため、ちょっとだけ可愛らしく思ってしまった。年上、しかも男の人にその手のことを言うのはダメだと思うので口にはしなかったけど。
 不意にショウさんは私から視線を外したけれど、すぐにこちらに戻した。どことなく優しい表情を浮かべている彼はいったい何を考えているのだろう。

「プレイ時間も残り少なくなってるし、外で君達に謝りたそうにしてる子がいるみたいだからさ……一度外に出てもらっていいかな?」

 視線をショウさんからスクリーンのほうに移すと、アリシアちゃんによく似ている女の子が申し訳なさそうにしていた。おそらくアリシアちゃんのお姉さんで、先ほど私に指示を出してくれた子だろう。

「はい、分かりました……あの、あとでまた出来ますか?」
「それはもちろん。まあ少し待ってもらうことになるだろうけどね」


 
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