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I want BRAVERY

作者:清海深々
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十六話 終闘

「・・・っ」

 死と隣り合わせのこの感覚。
 それがなんとも心地よ

(い、わけあるかぁ!)

 なんて一人ツッコミしながら攻撃を避ける。

 右に光が見えれば左へ、左に光が見えれば右へと。

 だんだんと避ける動作が小さく、より無駄がなくなってくる。
 避けることに慣れてきたのか、それともアドレナリンが出てきて集中力が高まったのか、それらを判断する余裕はない。

(勇気は!?勇気はどこいったぁ!)

 さっきからシャドウの方へ攻撃しようとは思いながらも、全くもって体がそちらへは向かってくれない。
 これはまさに、前世からの生粋のチキンっぷりが魂にまで定着でもしてしまったかのようだ。

(怖いっす!マジパネェっす!よく原作の奴らはこんなと戦えるな!)

 その時、より色濃く光が見える。
 その光の範囲からギリギリの位置に小さな動作で避ける。

 途端そこには体勢の崩れたシャドウが現れる。

(チャンス!もうやるっきゃない!)

 勇気もクソもへったくれもない。
 思いっきり、2体のうち、自分に近い横っ腹に太い線の見えるシャドウへと踏み込む。

「ふっ!」

 軽く息を吐いてその線をなぞるように切り裂く。
 まるで、戦いなれた者のような息遣いだが、

(うわぁぁぁぁ!あったれぇ!!)

 内心はそれどころではないようだ。


———ズシャッ!


 血の代わりに黒いシャドウの一部が飛び散る。
 それが後ろにいる女の目の前に落ちる。

「ひぃぃ!」

 女はそれを見て悲鳴を上げる。

 そして、切り裂かれた、というよりは三角定規で表面をなぞられただけのシャドウは地面に溶け込むようにして消えた。

(おぉぉ!さっすが魔眼!)

「後一体かっ!」

 内心ではテラ喜んでいるのだが、そんな風を見せることなく次のシャドウへと向く。

 自分の頭らへんに光が見える。

 上半身を反らすように避ける。

 そこへ一拍遅れてシャドウの手が通りすぎる。

(大分慣れてきたな)

 そして、シャドウが両手を振り上げる。

 自分の体の中央に縦一直線の形で光が見える。

 この光の場所具合からして、これは一瞬溜めた後に両手をますぐ振り下ろす動作がわかる。

(これまたチャンス!)

 シャドウが溜めのために両手を高く上げているうちに、思いっきり踏み込みキョリを詰める。
 一見自殺行為に見えるかもしれないが、シャドウが手を振り下ろすまでにかける時間はさっきまでの戦闘でなんとなくは掴んでいた。

 そして、シャドウが振り下ろす前に、横一線。
 これらの種類のシャドウはどれも同じなのかはわからないが、少なくともこの2体は、大体同じところに太い横線が見える。

 だから、その線をなぞるように切る。

「ふっ!」

(おぉぉぉ!)

 内心は直線から三角定規がズレないか、それが心配で仕方がない。

 ちなみにさっき倒したシャドウも共に、頭にあたる仮面に大きな点が見えるのだが、そこは怖くて攻撃する気にならない。

 さっきと同じように線をなぞられたシャドウは溶けるように消える。






「はぁ、はぁ・・・」

 息が上がる。
 影時間で行動するのは初めてにも関わらず、あれほど激しい運動をしたせいか体力の消耗が激しい。
 そのうえ、魔眼を2つとも戦闘で使ったため精神的にもくるものがあった。

「た、助かったの?」

 後ろからそんな声が聞こえた。

「たぶ・・・ね・・・はぁ、はぁ」

 息がしづらい。

「だ、大丈夫ですか?」

「だいじょう、ぶに・・・はぁ、はぁ・・・見える?」

(やっべぇ!足が今になって震えてきたぁ!)

 シャドウに切りかかり(?)にいった時から止まっていた足の震えが、今になって戻ってきていた。

「ご、ごめんなさい・・・私のせいで・・・」

「きにすんなっ・・・て・・・はぁ、はぁ」

 ドサッと女の横の地面に腰掛ける。

 俺が座った瞬間に、ビクッと横で震えたが、そこは気にしないことにした。

「にしてもさ・・・なんだったんだろうな」

 頭上の月を見上げながら言う。

「わ、わかんないです・・・それに、こっから戻れるかも」

 女は膝を抱えだした。

「きっと、すぐに元に戻るさ」

(頼むから!頼むからもう戻って!もう戦闘とか無理!)

 内心は土下座ものだったが、表面上は女を安心させるように言う。

「・・・でも、すごいんですね」

「何が?」

「さっきの黒いの倒しちゃったし」

「あぁ・・・あれか、なんてか我武者羅だったし」

「しかも、武器はそんな頼りないオモチャだし」

「これね、これは数学の先生からもらった由緒正しき三角定規なんだよ。断じてオモチャではない、三角定規だ」

「さっきの化物に対しては同じようなものです」

 俺はさっきまで握っていた三角定規を見つめる。

「ま、確かにな」

「・・・名前」

「ん?」

「名前教えてくれませんか?」

「あ、そうだね。俺は琉峰彩、月光館高校1年」

 キーホルダーをポケットに仕舞いながら言う。

「え?1年生!?」

「お、おう」

 女があまりにも大きな声を上げたので、少々驚きを隠せぬまま頷く。

「年下・・・だったんだ」

「あーそれより、君は?名前なんての?」

「あっ、ゴメン。えっと、私は暗越楓。月光館高校の2年生です」

「へー」

「え?それだけ?『先輩だったんだ』とかないの?」

「いや、わかってたし」

「嘘・・・じゃあ私だけ?私だけずっと先輩とか勘違いしてたの?」

「え?俺のこと先輩だと思ってたの?」

 なんだか微妙に敬語を使っていたけどそのせいだったのか。

「う、うん・・・って、あ!」

「おぉ!?」

 またしても突然の大声に驚かされる。

「君が・・・琉峰君か」

「ん?俺って有名なの?」

 まだ先輩達の方へ『友達作り』に行った覚えはないのだが。

「割とね。頭良くて、イケメンで、クラスの中心人物だって2年でも有名だよ?」

「へー、そんな噂2年にまで行くんだ」

 頭が良いのには自信があった。
 なんてった前世の知識がある。
 それにクラスの中心人物、というのも俺の行動は結果的にそうなるであろうことはわかってた。

「実際に会ってみると、その噂も納得できるしね」

 しかし、予想外だったのは俺の顔だ。
 確かに魅力5とかなり高めの数字だ。
 でもこれがどの程度のものかは全くわからなかった。

 先輩達からすれば、俺はあくまで後輩。
 自分達よりも年下のガキだ。
 そんな者がいくら魅力が高かろうと、あくまで年下の子供扱いかと思っていたのだが。

「ま、そういう先輩も結構美人ですけどね」

 ここで変に自慢したり、謙遜するのもいいと思わないので、とりあえず無難に返してみる。

「え?そ、そうかな?」

「その長い前髪が邪魔で顔あんまり見えないけど、かなり美人じゃない?」

「・・・・/////」ポッ

 先輩は真っ赤になって俯いてしまった。
 風邪でもひいたの

(ってミスったぁぁぁ!!こ、こんなとこでフラグを立てるはずではなかったのにぃ!!)

 内心は焦りまくりだ。
 こんなとこでフラグを建ててしまうと後々、他の女の子と話しづらくなる。
 それに、

(この先輩!なんでこんな簡単に!おかしい!おかしすぎる!何故だ!俺の狙った子にはこんなイベント起きないのに!)

 いや、もう、叫ばずにはいられない。

 
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