大阪の魅力
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9部分:第九章
第九章
「迷いもしなかったな」
「それはまた変わったな」
「そうだよな。ああ、それとな」
「それと?」
「結婚するんだよな」
このことも話すのだった。
「俺な。もう少ししたらな」
「おっ、そうなったか」
「ちょっとな。知り合ったんだよ」
「何処でだよ」
「仕事の時にだよ。学校でもネット接続するよな」
「ああ」
「それである大学に行ってそこの事務員の人とな」
少し、いやかなり恥ずかしそうに話す。顔は赤くこそなってはいないがそれでもだ。普段とは表情がかなり違っていた。
「そういうことだよ」
「そうか、よかったな」
「それで地元の人だしな」
「それで余計にか」
「縁だよな、これは」
猛久の語るその言葉がしみじみとしたものになっていた。
「そうだよな」
「ああ、そうだな」
彼もそうだと話すのだった。
「そういうのはな」
「大阪に来たのも残るのもだよな」
そしてこんなことも話した。
「それも縁だよな」
「ああ、縁だよ」
彼もこう返して猛久の言葉を認めた。そのうえでだ。こんなことも話した。
「ただな」
「ただ?」
「残るって決めたのは御前だ」
「俺か」
「大阪、好きになったんだよな」
「ああ」
その問いにこくりと頷いて答える。
「今じゃ大好きだ」
「言ったな、慣れたか」
「慣れた。それで慣れるとな」
「いいものだろ」
「離れられないものがあるな」
猛久は笑顔でこう話した。
「この濃い味もな」
「いいだろ」
「ああ、いい」
猛久が今食べているのはお好み焼きだった。その上にはソースにマヨネーズ、それに鰹節と青海苔、紅生姜がこれでもかとある。
それを食べながらだ。彼は話すのだった。
「癖になるな」
「だろ?しかし俺はな」
「何だ?」
「広島生まれだからな。実はこのお好み焼きがな」
「嫌いか」
「嫌いじゃなかったが抵抗はあった」
そうだったというのである。
「広島のあのお好み焼きじゃなかったからな」
「そうなのか」
「けれど今はこれもいい」
その大阪のお好み焼きがだというのだ。
「美味いよな、本当に」
「そうだな。じゃあこれからもな」
「ああ、これからも」
「大阪を満喫するか」
猛久はここでも笑顔で話した。
「このままずっとな」
「たまには地元へ戻れよ」
「長野にもか」
「それは忘れるなよな」
「それはか」
「ああ、地元あってだからな」
それは忘れるなと。彼は猛久に話す。
「それはいいな」
「わかった。じゃあ野球もな」
「ベイスターズのままか」
「これは変えないさ。これから何回最下位になってもな」
「まあ頑張れ」
「そうさせてもらうさ」
そんな話をしながらたこ焼きとお好み焼きで楽しく飲む彼等だった。二人共完全に大阪に浸かっていた。店の音楽の六甲おろしも自然に耳に入っていた。
大阪の魅力 完
2010・9・8
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