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大阪の魅力

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8部分:第八章


第八章

「それに俺が嘘を言ったこともないだろ」
「まあ正直者なのは確かだな」
 彼は確かに冗談は言うが嘘は言わない。このことは猛久もよくわかっていた。だからこそ安心して付き合いを続けているのである。
「それはな」
「そういうことだよ。一年経ったらな」
「ああ、一年経ったらな」
「断言するさ。御前はこの街から離れたくないって言っている」
 そうなっているというのである。
「しかもだよ」
「しかもか」
「結婚相手もな」
「見つかってるっていうのか」
「これはひょっとしたらだけれどな」
 このことについては断言はなかった。
「そろそろいい歳だしな」
「そうなったらいいな」
 猛久は大阪のその酒を飲みながら笑ってみせた。その言葉を聞いてであるのは言うまでもない。
「それじゃあ。一年後か」
「ああ、一年後だ」 
 そんな話をしたのであった。そのうえで楽しく飲んでいた。
 そしてそれから一年経った。その時にだった。
 人事部長にだ。こう告げられた。
「故郷に戻るか?」
「長野にですか」
「ああ、長野に戻って係長はどうだ?」 
 出世の話もプラスされていた。
「主任から一足飛びにな」
「またそれは大きいですね」
「本社での勤務が評価されてな」
 それでだというのである。
「それでだよ。どうだい?」
「そうですね。少し前ならよかったんですが」
 ここで猛久はだ。少しだけ残念な笑みを浮かべた。そうしてそのうえでこんなことをその人事部長に対して言うのであった。
「けれど今は」
「嫌なのかい」
「実は。彼女もできまして」
 爆弾発言もした。
「その。地元の」
「おお、それでか」
「大阪も好きになりましたし」
 このことも話した。
「それで」
「ふむ、長野には戻りたくないか」
「駄目ですか、それは」
「いやいや、実は長野の方で今途中採用の社員を採用しようかっていう話もあってね」
「じゃあそっちに」
「うん、そうしよう」
 部長は何でもないといった調子で述べた。
「考えてみれば本社は今人手不足だ。人を減らすこともないしね」
「それでは」
「うん、本社に残ってくれ」
 話はそういうことになったのだった。
「それでいいね」
「わかりました。それでは」
 こうしてであった。彼は本社に、そして大阪に残ることになった。そしてこのことをだ。あの広島の彼に話すのであった。
「で、残るって言ったのか」
「ああ、そうだ」
 このことを話していた。話す場所はやはり酒場であった。そこで飲んで食いながらだ。そのうえでその話をしているのであった。
「そうすることにしたよ」
「一年前だったら戻ってたよな」
「多分な」
 それは自分でも認めた。
「そうしていたな」
「そうか」
「けれど俺は残った」
 このことをだ。たこ焼きを食べながら話す。
「殆ど考えないで決めた」
「考えなかったか」
「ああ、考えなかった」
 実際にそうだったというのである。
 
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