落ちこぼれの皮をかぶった諜報員
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第11話 “生きる”意志
前書き
第11話です。
疲れた……とにかく疲れた……学校が……特に保険以外の教科が……
fucking勉強
「──オルメスとの戦いには手を出すな」
「別にそんな釘ささなくても、手なんか出しませんよ。」
「くふっ、冗談だよぉー」
「まったく、峰先輩の被害妄想には呆れてばかりですよ。偶然、神崎先輩と峰先輩が戦っている所を見て見ぬ振りをしますよ」
「そうだねー。偶然って怖いもんねぇー。くふふ……」
「……」
「まあ、応援しますよ。神崎先輩を」
「理子にしてよぉ!」
「え~」
……とこんな会話をしていた気がする。
数日後――
日が沈み夜になり勇人はある高いビルの屋上に隠れていた。
僕は峰先輩が言った通り先輩の大事なものがある部屋への最善の潜入ルートを探してそれを峰先輩に伝えた。ただそれだけだ。ちなみに大事なものは盗み出せたようだ。しかし、神崎先輩と峰先輩の戦いは起きなかった。
第三者の介入によって……。第三者とは、勇人が警戒していた小夜鳴先生だった。
(やっぱり、信用できなかったな……てことはあいつが……。もしもの時のために、少し細工をしておくかな……)
第三者がなんか説明している内に、勇人は何かを仕掛けている。
「よし、準備完了。あっちもおしゃべりは終わった頃だろう」
先輩たちの方へ目を向けると、小夜鳴先生は、今まさに人ならざる姿になろうとしていた。
「うわあ……さすがに、これは予想外だな……」
ブラドの姿は吸血鬼と言われる通りのものだ。鬼と呼ぶに相応しい外見をしている。
遠山先輩は峰先輩をだっこしてブラドから離れるがブラドも追いかける。
「このままじゃやばいよね……」
僕は死角から飛び出し、遠山先輩に迫っているブラドの肩に乗り、首にナイフを突き刺した。
ブシュッ!!!
「テメェ……どこから湧いてきやがった」
「あらら……不死身ってのは本当らしいですね……」
ナイフを引き抜き、肩を足踏み台にして先輩達の元へ。
「「天原!?」」
遠山先輩と神崎先輩が驚く。
「どうも先輩方、奇遇ですね。アドシアードの時も似たような会話をした気がしますが」
「あんた、なんでここにいるのよ!!」
「まあまあ、話しは野郎を叩きのめしてからでもいいでしょう?」
「終わったら全部話してもらうわよ!!」
「個人情報以外ならokですよ。遠山先輩、ブラドはひきつけるので今のうちに……」
「あ、ああ……」
遠山先輩は峰先輩を安全な場所へ運ぶ。
「このクソガキがああああ!!!!」
「うわあ!! ブラドさんが激おこぷんぷん丸や!! たかが刺されただけなのに……」
ブラドが怒りながらこっちに向かってくる。
「単細胞だねぇ」
いつぞやの誘拐犯を思い出す。
「天原!! 集中!!」
「了解」
神崎先輩はブラドの周囲を移動しながら二丁拳銃を放つ。
勇人はブラドの腕を回避しながら切り付け、すぐに離脱して、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
「ちょこまかとしやがって、猿が」
「猿って……レディに向かって失礼ね!」
「あぁ!? 何言ってやがるんだ、ホームズ4世。それにレディだと? おまえみたいなガキがか?」
「なんですって? あたしはもう16よ!」
「800年生きてる俺にしてみれば、人間なんてみんなガキだ」
「800年生きてるなら、隠居でもして茶でも啜ってろよ! クソじじい!!」
勇人はブラドを斬りつけながらそう口にする。
「くそガキ!! あんまり調子に乗らない方が良いぞ!!」
ブラドは暴れるのを止めると、こちらに背を向け屋上の隅に立つ携帯電話用の基地局アンテナの方へ向かった。
その間にアリアと勇人はキンジのもとへ……。
「やになっちゃう! あいつ、全然攻撃が効かないわ!」
「アリア……ブラドには弱点がある」
「あの目玉模様ですね」
「そうだ。ってなんでお前が知ってるんだ?」
「そうよ!! あんた、何でそんな事知ってんのよ!?」
神崎先輩が疑うような目で僕を見る。
「天原……おまえは……」
遠山先輩も何か疑わしげな眼で僕を見る。
「質疑応答ならあとで! 今は時間が無いでしょ?」
勇人は真剣な顔で言う。
「わかったわよ! ただし、あとで覚悟しときなさい!」
「だが実際、四つ目がどこにあるのかわからない以上、勝負は賭けられないぞ」
「いえ、四つ目の場所は既にわかっています。ていうかさっき発見しました」
「「何だと(何ですって)!?」」
「あの……揺さぶらないで……」
アリアが勇人の肩を掴み激しく揺らす。
「どこにあるの!? 早く言いなさい!」
「い、今言いますから! ……しかし、僕が攻撃するには狙いづらい場所なので、先輩のどちらかにお願いしたいんですけど……」
「どこだ?」
「さっき、首を刺した時に見えました。口の中……舌に描かれた目玉模様がね……」
「口の中、なるほどね……」
「わかった、そこは俺がやる。アリア、キミには両肩を頼めるかい?」
「わかったわ」
「じゃあ僕は右脇腹ですね」
それぞれが攻撃する場所を示し合せる。
バキンッ!!
「「「は?(え?)」」」
何かがへし折られたような音がし、3人で顔を見合わせた後、ブラドの方を向いた。
離れたところでブラドが数メートルはあろうかという携帯基地局アンテナをむしりとっていた。
それを槍のように足元に落とすと、地響きがこちらまで届く。
おいおい、そりゃねーよ……
「……人間を串刺しにするのは久しぶりだが、串はコイツでいいだろう。ガキ共、作戦は立ったか?」
「ああ……。丁度今、お前に勝つ方法を見つけたところだ」
「ゲゥウアバババババ!! 俺を倒すだと!? 面白い冗談だな!!」
「ふ、後悔するなよ! 先輩、それじゃあ、お先に失礼します!! 逃げるが勝ちだ!!
逃げるんだよォ!」
勇人は、叫びながら逃走しようとする。
だがキンジが勇人の襟首をつかみ止めた。
「ちょっと待て! 何逃げようとしてるんだ!?」
「そうよ! 弱点も分かって、反撃のムードだったじゃない!!」
「だ、だって! あそこまでチートだとは思いませんでしたもん!!! あんな物が当たったら、冗談じゃ済みませんよ!!」
「真に賢い人間は、絶対に勝てると思った時にしか戦わないんですよ!!」
「……今それ言うと、ただの腰抜けだぞ」
「いやいやいや! 僕は銃を持ってないし、射撃能力も毛が生えた程度ですよ!? 銃を撃てる先輩方と違って、僕にはアレに近づくというハイリスクが伴うんですよ!!」
勇人は完全に逃げ腰ムードだ。
しかし、今勇人が居なくなると攻撃数が足りなくなってしまうと考えているキンジは何とか説得しようとする。
すると、アリアが小声で――
「前のアドシアードでポケ〇ンやってて魔剣の侵入を許したことを教師にばらすわよ」
「ええ!! なんで知ってるんですか!? ええい、仕方ない!! やればいいんでしょ!! やれば!!」
「つまんねえ話は終わったか?」
ブラドは余裕綽々とした様子で俺たちを見下ろしている。
「合図は俺が出す! 行くぞ!」
その言葉と共に、アリアと勇人が動き出す。
否、勇人は既に動いていた。
勇人は地を蹴り一気にブラドへ接近し、思い切り跳躍する。
そして、懐からもう一本ナイフを取り出し両手にナイフを持ち逆手持ちに変える。
「よっと」
ブラドの両目を二本のナイフで突き刺した。
「ぐうう!!! テメエ!!!」
すぐにナイフを引き抜き、ブラドの右脇腹にポジションを取る。
「撃て!」
それを合図に、一斉に攻撃を仕掛ける。
ザクッ!
勇人は両手のナイフで右わき腹に突き刺し──
ダンッ! ダンッ!
アリアの撃った銃弾は両肩を貫く。
バンッ!
そして、キンジの撃った弾丸もブラドの口へ吸い込まれていった。
ブラドは目を潰され反応できない、完全に反応が遅れている。
「うぐっ……!」
四発の攻撃を喰らったブラドは動きを止める。
「……勝ったの?」
「ふぅ。何とか、ですね」
ああ~怖かった……。
しかし……。
「違う! まだブラドはやられてない!」
これは、峰先輩の声…?
「ゲゥゥウアバババババババッ!!!」
「「「!?」」」
気づいた時にはもうブラドは攻撃の態勢に入っていた。狙いは…神崎先輩!?
ギィィィィィン!
アリアが咄嗟にガードした小太刀ごと吹き飛ばされる。
吹っ飛ばされたアリアは、そのままヘリポートの隅まで転がっていった。
「「神崎先輩!(アリア!)」」
(何故だ!? あいつの魔臓に同時攻撃をしたはず――!? まさかあいつ、体を少し反らして舌の魔臓に当たらないようにしたのか!?)
「危ねえ、危ねえ……。俺をここまで追い詰めるとはな。」
「こいつ……!」
「それに、おまえらが厄介なのは確かみてえだな。ホームズ4世の次は、おまえにご退場願おうか」
黄金の双眸でキンジを見た。
「ワラキアの魔笛に酔え──!」
ずおおおおおおっ!
ブラドはまるで、エンジンのような音を立て空気を吸い込み始めた。
胸はバルーンのように膨らんでいく。
「ん? これって……まさか……」
勇人はブラドの行動に首を傾げたが、すぐに理解する。
「遠山先輩! 早く耳を塞いでください!!」
勇人の言葉にキンジはすぐに反応して耳を塞ぐ。
そして……。
ビャアアアアアアアウゥィイイイイイイイイ───ッッ!!!
ブラドが凄まじい雄たけびをあげた。
そのあまりの威力に空気までもがビリビリと震える。
数百メートル先でも聞こえるような大きな音だった。
服がばたばたと揺れている、風でなく音で……。
脳がかき回されるような感覚。
「塞いでても痛いとか……」
勇人は顔を歪め、悪態をつく。
「───なっ!」
キンジが突然驚く。
そして、グパァと口を開け笑うブラド。
(遠山先輩、まさかヒステリアモードが解けたんじゃ!? さっきの雄たけびはこれのためか!?)
再び、アンテナを手に持ってキンジに近づくブラド
ヒステリアモードが解けたキンジは呆然と立ち、ただブラド見ていることしかできなかった。
そしてブラドがキンジにアンテナを振るおうとした時――
「くそがっ!!! 遠山先輩!! これは貸しにしておきますよ!!」
ドン!
勇人はキンジを押しのけた。そしてブラドが振るったアンテナが勇人を吹っ飛ばした。
「イ゙ェアアアア!!!!」
「天原!!!」
ドン!!
運良く壁にぶつかって屋上から落とされることはなかったが、それでも致命傷を負ったことには変わりはない。
「ぐっ……覚えてろよ……クソ吸血鬼野郎……」
そこで勇人の意識は途切れた。
目を開けてみると、少しぼやけているが建物のようなものが見える。
ここは……どこだ? 天国か? いや……僕は、この場所を知っている。
この重い空気に、血の匂い……ここは……“裏”だ。
かつて自分が生まれ育った場所。
毎日、生存競争が行われている。命の奪い合いがそこら中で起きている。
大人が子どもを殺し、時には子どもが大人を殺すこともあった。
何が起きても不思議ではない世界、死が当たり前の世界。
「ぐああああ!!!!」
僕の目の前で男が目を押さえながら悶えている。
「このくそガキいいいい!!!」
「………………死ね」
勇人はナイフを振りおろし、男の息の根を止める。
動かなくなった男の荷物を漁っているとパンが出てきた。
しかし腐っている……。だが、明日へ命を繋げるためのご馳走だ。
腐ったパンを頬張りながら勇人は考える。
『ゆうと!! 生きるんだ!!』
恩人の言葉を思い出す。恩人と言っても僕より4歳か5歳くらい年上の子だけど、しかも名前は覚えていない。僕は彼に育てられた。(多分、赤ん坊の時から)
彼はすごい人だろう。まだ、3歳ぐらいの僕を守りながらこの世界で生きてこれたんだ。
それに、こんな世界で他人の面倒を見るなんて普通に考えたらありえない。
僕が今、生きているのは彼のおかげだろう。
しかし、彼とは離れ離れになり、それから会う事はなかった。
大人が僕達の住んでいる場所に入ってきた、大人の目的はまだ幼い僕でも察していた。恐らく、殺されるだろうと……。
しかし、彼は大人相手に勇敢に戦いながら僕に「生きろ」と言った。これが最後の彼の言葉だ。
1人になってからは泥水を啜り、なんでもいいから食べれそうな物なら口に入れる、そんな生活をしていた。 生きるための本能故か? それとも、僕を育ててくれていた彼のおかげか? 泥水を啜るなんて“表”じゃ普通はありえないだろう。
どっちにしろ、今は生きてこの生存競争に生き残っている。今は生きる事だけを考えよう。
生きる……?
「生きる」この言葉が頭から離れなくなった。すると、視界が白くなってきた。
そうだ……。1つだけ、言えることがある。
こんなところで、死んでる場合じゃない!! 生きるんだ!! なんとしてでも!!
目を覚ますと遠山先輩、神崎先輩、峰先輩が銃を構えていた。
「ゲゥゥウアバババババババッ!!! 諦めろ!! テメエらじゃ、俺には勝てん!!」
これはクライマックスかな……いいとこ取りでもやってみようかな……
「うるさい野郎だな……その笑い声を聞くと虫唾が走るよ」
立ち上がり、体を引きずりながら先輩方の前に出る。
「テメエ……しぶとい奴だな」
「「「天原!?(ゆっくん!?)」」」
「よかった、生きてたんだな」
「ええ、骨が何本か逝きましたがね」
「しぶとい奴だな」
「へっ、こちとら、命を賭けた戦いなら負けたことはないんでね、だからこうやって生きているんだよ。散々経験してきた修羅場と比べれば、お前なんてかわいいものだ!!」
「ハッタリをかます元気はあるらしいな。だが、テメエが加わったところで戦況は変わらねえよ!!」
「どうかな? 偉い人はこう言った「最後まで勝負は分からない」ってね!!」
勇人は何かを掴む動作をして、渾身の力で引っ張る。
すると、突然ワイヤーが現れブラドを締め上げる。
「ぐううう!!! なんだこれは!?」
「ただの罠さ。それに忘れたか? 僕の所属している学科は諜報科だ。こういう戦い方は得意中の得意だ!!」
「これは……ワイヤー!?」
「その通り! ここら一辺には、こいつが遺伝子が云々ほざいている間にワイヤーを仕掛けておいたのさ。それに、このワイヤーは平賀先輩の特別性だ! 化け物といえどそう簡単には破れないぞ!! まあ、僕の財布はすっからかんだけどね!! さあ、先輩方。今です、決めてください!!」
「ああ!! 2人とも、行くぞ!!」
「ええ!」
「うん!」
峰先輩がブラドの右脇腹の魔臓を撃ち抜き、神崎先輩が両肩の魔臓を撃ち、遠山先輩がブラドの口に向かって発砲する。
4つの銃弾はきれいに魔臓に入った。
「ぐああああああああ!!!!!」
ブラドが悲鳴を上げ倒れる。
「ブラド、逮捕よ!!」
神崎先輩がそう宣言する。
「天原、助かったよ。ありがとう」
「ゆっくん、かっこよかったよ。キー君には届かないけど」
「いえいえ、気になさらず。だが金髪、テメーはだめだ」
勇人はそう言うと……ふらつき始め……
バタッ
「お、おい!? 天原!! しっかりしろ!!」
「ゆっくん!? しっかり!!」
「ちょっとあんた!! 聞きたいことがあるんだから勝手にくたばんないでよ!!」
3人が何か言っているが、僕はそのまま気を失った。
後書き
本当に人外との戦闘描写は難しいですね。SAOやブラック・ブレットの小説を書いてる人のようにうまく表現できません。 偉大な先輩からありがたいアドバイスをもらったようですがどうやら私には宝の持ち腐れだったようだ……。
(あれ? やばくね? これじゃあ戦闘描写がうまくなる前にこの小説完結するんじゃね?)
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