I want BRAVERY
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十四話 初影
結局その日のうちに伊織たちが宿題を写し終えることはなさそうだった。
伊織たちの勉強の写し具合を見ながらそう判断する。
「駄目だぁ・・・終わんねぇ!彩なんか買ってきてぇ!」
伊織が机に突っ伏しながら言う。
そろそろ体力の限界のようだ。
(ちなみに、それ俺の机だから、顔の油あんまつけないで欲しいんだが)
時刻を表すデジタル時計は11:45分を示している。
「さ〜い〜、俺もぉ!プリンが食いたい!」
友近も伊織に便乗してきた。
「はぁ。お前、もうすぐ0時だぜ?いくら今日は寮母さんが戻ってこないからってさ・・・」
今日は寮母さんも用事があるらしく、朝ご飯を作って実家の方へと帰ってしまったのだ。
明日の昼頃帰ってくるらしく、明日は自分達で朝ご飯を調達しなければならない。
「頼む!」
「頼むよ!」
二人共、手を合わせて俺に拝むように頼み込んでくる。
「・・・はぁ、しゃないな。モブはプリンで、髭は?カミソリでいいのか?」
「おぅ、味はなんでもいいぜ。あったらラーメン味で」
「ねぇよ!」
「ちょい待って!この髭剃る気ないから!・・・えっとな、ポテチで」
「はいはい・・・ポテトの形をしたカミソリな」
「ちっげぇよ!」
なんて笑いの取れない、ギャグのような会話をした後、俺は寮を出た。
コンビニは寮からそれほど離れていない。
歩いてだいたい10分かからない程度だ。
「はぁ、もう0時じゃないか。なんでこんな時間まであいつらに付き合ってんだか」
実際は、自分だけズルをしてるという罪悪感から逃れるためかもしれない。
まぁ、友達だから、という理由が大半を占めているのだろうけど。
「お、あった」
コンビニを見つける。
流石コンビニというべきか、日付が変わりそうというのに電気がついている。
中にも人がチラホラ見受けられる。
流石に学生は俺くらいだろうけど。
不良に会いませんように、なんて考えながら自動ドアをくぐる。
「ありがとうございましたー」
店員に見送られてコンビにを出る。
伊織用のポテチ、念のため3袋ほど買って、友近用にラーメン味はあるわけないので普通のプリンを買った。
コンビニから出て数歩歩いた時だろうか、突如世界が変わる。
なにかに塗り替えられるように。
黒に染まっていた空は緑へと、銀色に輝いていた月は黄色へと変わる。
町の中の電気が消える。
さっきまで明るく、話し声がわずかに聞こえていたコンビニもシンと静まり返り、音が消える。
前の方に歩いていたサラリーマンのような男性はいなくなり、いつの間にかそこのは棺桶のようなものが立っている。
———ぱちゃっ
足元から水溜りを踏んだような音がする。
静まり返った町に、その音は大きく響いたように聞こえた。
「ん・・・・血!?」
ふと下を見て驚愕し、そのあと直ぐにこの状況を理解する。
(まさか!影時間!?)
どうせなら寮にいるときに来てほしかった。
こんな街中では安全もクソもない。
かと言って寮内が安全というわけではないのだが、やはりこういった状況になるとビビってしまうものだ。
そのときの混乱が寮内の自分の部屋ならある程度は緩和されるからと、0時以降は出歩いたことがなかった。
(こんな時にっ!・・・嬉しいのか嬉しくないのかわかんねぇな)
影時間に存在していられるということは、俺にも適正があることが証明されたため、嬉しくなくはないのだが。
そんなときだった。
———グチョリグチョリ
何か得たいの知れないものが後ろから迫っている音がする。
振り返ると、そこには棺おけのオブジェクトに並んだ町の風景に溶け込むように黒い、黒いスライムのようなモノがいた。
スライムでないのは、その一部に顔らしきお面が存在しているということ。
(シャドウ!)
何か、戦いに使えるものはないかとポケットを探る。
いきなりのシャドウの登場に焦る。
(何か!何かないのか!)
本当なら、真田先輩や桐条先輩のいる安全な場所でこのような状況になりたかったのだが、なってしまったものは仕方ない。
今は、そんなことを言ってたらこっちが『影人間』になってしまう。
(くそっ!ポケットには財布、手にはコンビニ袋で、その中にはポテチとプリンとか!なんか刃物を!)
『直視の魔眼』があるため、指でやろうと思えば、多分、多分戦えるのだろうけど。
もし、シャドウに線が見えなかった場合を考えると刃物が最も好ましい。
(くっそ・・・これでもし線が見えなかった、最悪じゃねーか!)
焦る。焦る。
勇気MAXの『漢』はどこえやら。
足が震える。
冷や汗が止まらない。何故立っていられるかが不思議だ。
しかし、シャドウはこっちの気もしらずに近づいてくる。
そんな時、
「いやぁぁ!来ないで!!」
聞きなれない女の声が聞こえた。
(誰だ!?)
バッとそちらへ顔を向けると、同じ学校の制服を着た女が、向かいの道路にいるのを見つけた。
学校で見たことはないため、多分先輩だろう。
この時間にいるということはあまり素行が良くないのだろうが、その先輩らしき女の顔は前髪が長く、正直どちらかというとイジめられてるような顔にしか見えない。
「来ないでぇぇ!!」
女はヒステリック気味の声を上げる。
腰が抜けたのだろうか、尻餅をついた状態で、女はズリズリと座り込んだ体制のまま後ろへと下がる。
その女の目の前には、俺の前にいるスライムのようなシャドウと同じようなシャドウがいる。
「っ!」
流石に見過ごせない。
しかし、今の自分に戦うことができるのだろうか。
(どうしたら・・・っ!)
ふと探っていたポケットの中にと尖ったものを見つけた。
どうやら携帯のキーホルダーのようだ。
そのキーホルダーを携帯から引きちぎり、ポケットから出す。
今はどんなものでも武器になるのなら歓迎だ。
(頼りねぇな!これ!)
出したキーホルダーは三角の形をした、数学教師がもっていそうな三角定規の縮小版だった。
別に自分の趣味というわけではないのだが、毎回毎回数学の教師の間違いを意地悪く指摘していたら、何故か気に入られてしまったらしく、こんなものをもらった。
せっかくもらったものなので、携帯につけていたわけだ。
それは、一辺が3cm、7cm、7cmの二等辺三角形のものだった。
キーホルダーにしては大きく、ステンレスかそこらの金属で出来ているため、それなりにつっついたりすれば痛いだろうが。
シャドウのような化物と戦うにはあまりにも心もとない。
こんなときこそまさに、
(・・・勇気だ!勇気!勇気カモン!)
内心そう叫ばずにはいられなかった。
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