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腐敗

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第四章


第四章

「こんなにやっていたのかよ」
「信用できねえな」
「ここまで腐っていたのかよ」
「しかもあの新聞は井上が社長だからな」
 このことは誰もが知っていることだった。
「しかも代表取締役で主筆だ」
「じゃあ絶対者なんだな」
「誰も社内で逆らえないらしいぞ」
「そうだろうな」
 それは容易にわかることだった。
「あんだけ好き放題言ってやってるんだからな」
「周りにいるのは取り巻きのイエスマンばかりか」
 このことも察することができた。彼等は検証すればする程朝売、そして井上のとんでもなさを知った。やがてそれは一つの運動になっていった。
「もう朝売取るの止めるか」
「ああ、そうするか」
「そうした方がいいな」
「嘘ばっかりの新聞なんて読む価値がないからな」
 それぞれ言い合うのだった。
「よし、じゃあ俺読むの止めるな」
「俺は今までの朝売の嘘を検証したサイト立ち上げるな」
「俺はイネツネ批判するサイトだ」
 実際にそうしたサイトが次々に林立されたのだった。ネット中に瞬く間にできていく。
 それはただマスコミ関連だけでなくスポーツにも及んだ。最早ネット中に井上に対する批判が充満した。最早それは誰にも止められなかった。
 ネットは携帯でも見られる。従ってそれこそ誰もが知ることになった。そうして朝売のチームの人気は暴落し球場ではブーイングが集中した。
「負けろ金満球団!」
「他のチームの選手を掠め取るだけか!」
 とりわけ金で来た選手にはブーイングが殺到した。圧倒的なブーイングとパッシングにより選手達の士気は落ちその成績もまた同じだった。順位も落ち最早どうにもならないまでになっていた。
 それは井上へのブーイングにもなった。オーナー席に入ればバッシングの垂れ幕があり彼の席にもブーイングが届いた。
「イネツネ消えろ!」
「球界から出て行け!」
「黙らせろ」
 井上はその豪奢な席で葉巻を吸いながら忌々しげに言った。
「あの連中をな」
「はい」
 取り巻き達が応える。しかし黙らせることなぞできなかった。彼等も紙面で批判するがそれでどうにかなるものではなかった。球場に行けばそれでブーイングだった。
 井上はそれにより不機嫌になる一方だった。社内にも毎日抗議の電話が届く。そして発行部数も見る見るうちに低下していった。
「売り上げを伸ばせ!」
「やっているのですが」
「それでも」
「俺に逆らうっていうのか愚民共が!」
 井上は社長室で忌々しげに吠えた。
「朝売を買わないで何処の新聞を買うんだ!」
「どうも何処の新聞も取らない人間が増えているようです」
「どうやら」
「何っ!?」
 悪い意味で根っからの新聞人である井上にこれはわからないことだった、
「新聞を取らない奴がいるのか」
「最近はネットで情報を手に入れているようです」
「そして携帯で」
「そうなのかよ」
 井上はそれを聞いて唖然とした顔になった。信じられないというのだ。
「ネットや携帯でかよ」
「そうです」
「それで新聞はもう」
「じゃあそっちを叩け」
 井上はすぐに今度の攻撃の矛先を決めたのだった。
「ネットをだ。いいな」
「ネットをですか」
「ああ、叩け」
 彼は言うのだった。
「それで政治家にも話をやって規制にもっていけ。いいな」
「政治家にですか」
「官僚にもだ」
 井上はさらに命じた。
「いいな、ネットを規制すればそれで新聞に戻るんだ」
「そうですね」
「何しろ新聞、それにテレビなくして愚民が生きていける筈がありません」
 流石は井上の取り巻き達だった。極めて下劣な思想の持ち主達である。
 
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