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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十四章 幕間劇
  懺悔室×雫の想い

ふむ。詩乃と雫はどこに行ったのだろうか。この時間なら部屋にいると思ったのだが。

「ああ、一真様。雫を見ませんでしたか?」

「雫?俺も探してるところだけど、見てない」

「そうですか。・・・・何か御用ですか?」

「ああ。一真隊の荷物について相談があってな」

「荷物・・・・」

「食料と弾薬だけでいいんだが、もう少しだけなんとかならんか?」

「もう少しと言われましても・・・・一真隊の荷駄は、小谷での補充を加えてすでに一杯ですよ?」

「分かっているんだけど、なんというか。神の勘なのか、少し未来予知が働いてな」

まあ、これは俺の勘なんだけどな。するとひよがやってきた。随分と機嫌が良さそうだけど、何かあったのかな。

「何かあったのですか?二人で難しい話をして」

「ちょいと荷物についてだ。食料と弾薬をもう少しだけ何とかならんかという相談をね。何かこの先で必要かもという未来予知が来てな」

「うーん。今日の補充分で、もう一杯まで積んでますけど。一真様の勘はよく当たりますからね、もう一回積み方を見直してみます。金ヶ崎まではそれほどありませんから、そこで使う分くらいは何とか・・・・」

「なら、お願いしようか」

「分かりましたっ!」

「ところで今日は上機嫌ですが、何かあったのですか?」

「えへへ。そう見えますか?」

「まあな」

「実は中庭に、懺悔小屋っていうのが出来ているんですよ」

「懺悔小屋ねぇ」

「はい。天守教の施設らしいんですけど、誰が行ってもいいらしくって」

懺悔小屋ねー。市たちが始めたのか。いや、さっき会ったときはそんなこと言ってなかったし。エーリカは忙しいから、天守教の奴だともしかして梅と雫か。梅は知っていたけど雫は服の装飾に十字架が入ってたな。

「ちょいと様子見てくる」

「分かりました。それでは、私はひよと荷駄隊の様子を見て参ります」

二人と別れて庭に出ると、そこには長い行列ができていた。これが懺悔小屋ねぇ。庭の隅に建てられた小さな小屋があって、そこに一人ずつ入って行ってる。しばらくしてから、裏口からスッキリとした顔で出てきていたけど。俺は神だけど誰がやっているのか知りたいな。

「和奏、ここに並べばいいのか?」

「ああ。一真も懺悔小屋に?」

「なんか面白そうだなって。中では何がやってるの?」

「ボクもよく知らないけど、犬子や雛から聞いた話だと、中で愚痴を聞いてくれるんだってさ」

「愚痴ねぇ」

「兵のみんなも何か言いたい事あるんだろうけど、溜まっているらしいけど」

まあ、上官には逆らえないからな。言いたい事はあるけど、上の発言からは逃げられないっていうし。
俺のところは、そういうのはないけど。上官の言う事は全てが正しいとかはないし。

「次はボクの番だから、先に行くな」

「いってらっしゃい」

一応デウスからはいつでも召喚可能らしいので、神の姿は目のみ。それに召喚時は、いちいち言わなくても来い!の一言で来るようにしている。

「次の方、どうぞ」

神が懺悔などしないが、誰がやってるくらいは知らないとな。カマをかけてやるか。呼ばれたので入ると教会の懺悔室みたいにはされているようだ。どうやら戸板の向こうに、聞き役がいるみたいだけど。

「ようこそいらっしゃいました、迷える子羊よ」

「貴方は何を悩んでいらっしゃいますの?」

あー、板の向こうにいる声の主はやはりあいつらか。

「ここで告白して全ての罪は、でうすの名の下に許されるでしょう。そして、誰にも明かされる事はありません」

「さあ。全てを吐き出すのです」

「俺は罪深い男なのかもしれません」

「我らの父は全てを許します」

「さあ、告白なさい」

「同じ隊に所属する女の子や他の武将たちを十人くらい好きになってしまいました」

俺が言ったあと、物音が聞こえた。動揺しているな、これは。

「ちょっ。何をしているんですか、梅さんっ」

「だ、だって・・・・!」

もうバレバレだぞ、声を聞いてる時点で。

「とはいえ、たくさんの女性を好きになったとはいえそれはよくない事。一人に告白しようかなと思うんですけど。誰がいいのでしょうかね(笑)?」

動揺ぶりが激しいと思うが。

「そ、それは・・・・蒲生忠三郎賦秀を選ぶと良いでしょ・・・・」

「う、梅さんっ!?」

「それは公私混同と言わないのか、梅」

「う・・・・梅などという娘など知りませんわ!この壁の向こうにいるのは、等しく神の御遣いたる・・・・」

「あと雫もいるだろう」

「い、いませーん!」

それはもう確定だろう。あっ、戸板が外れて。

「あ・・・・」

「あ・・・・」

「何をしてるの、二人とも」

で、話を聞くと兵の皆が疲れを溜まっているからと。エーリカに話を聞いて行くうちに、懺悔室と言うのを知ったそうだ。市に聞いたら面白そうだからやるようにと許可が降りたのだと。

「そうですわ!ハニー、さっきのお話・・・・本当ですの?」

「さっきの?」

「ほら、あの、誰か一人告白するという・・・」

「冗談に決まっているだろう」

「「えっ!?」」

「そこで驚かれても困るんだが、第一俺はすでに妻がいるからな。それに俺から告白するなんてことほとんどないし」

そう言ったら納得したようだった。妻がいるし、今更告白とかしてもだなと思ってしまうほどだし。

「懺悔室って悩みを聞くだけなんだけど」

「はい。そう聞きましたけど・・・・」

「人から悩みだけ聞かされて、相談に乗れずに放っておくなんて・・・・私はとても出来ませんわ!」

「・・・・だそうで」

梅の性格からしてそうだもんな。こう見えて情にもろいタイプだし。これだけ行列になるのも、ちゃんとアドバイスをしているのだろう。

「どうかなさいましたの?ハニー」

「んー?二人がどんな風に懺悔室をしているのか、気になってな」

俺のはカマをかけて終了したけど、二人の仕事ぶりが気になるし。一応俺のところに、デウスが降りてきているからな。

「でしたら、一真様も・・・・」

ということで、見てみることにしたが小屋自体が小さいためなのか。二人がいたスペースも小さいがため、俺は身体を小さくして翼を出して雫の肩に座った。ちなみに、マイクを付けてるから声は普段通りに出る。

「こういうことも出来るのですね、一真様」

「まあな。あと、巨大化もできるけどな」

「次の方、どうぞー!」

雫の呼びかけで入ってきたのは俺たちの顔見知りだった。

「やっほー!中にいるのは梅と雫だよね?」

思いっきりばれてるけど。俺もいることは知らないはず。

「はい。お市様も懺悔ですか?」

「そだよ。大人気みたいじゃない」

「お市様のおかげですわ。ありがとうございました」

「いいよいいよ。それよりさー。市の悩みも聞いてほしいんだけど、いいかな?」

「は、はぁ・・・・」

お互い匿名が原則なのに、いきなり正体バラしてから挙句の果てには堂々と悩み相談かよ。相変わらず自由すぎるなぁ、市は。

「まこっちゃんが最近元気なくてさー。もっと元気に指揮とかして欲しいんだけど、どうしたらいいのかなぁ?」

「ま、まこっちゃんとは?」

「市の旦那のことだ。浅井新九郎眞琴長政のことだ」

「眞琴様だから、まこっちゃんですのね」

「あれ?その中にお兄ちゃんもいるの?」

「まあな。一応神だからな、願い事も聞くが悩み事も聞くのも神の仕事だ」

「そうなんだ。けど、ちょうどよかったよー!お兄ちゃんも良い方法ないかなぁ?」

懺悔室じゃなくて普通の雑談かと思ってしまうくらいだ。

「そうですね・・・・」

「でしたら、お市様が今よりもっと元気に振る舞ってみてはいかがですの?」

「市が?」

「そうですわ。健気に頑張るお市様を見て、自分も頑張らねばと思う浅井様!素敵だとは思いませんこと?」

「・・・・うん。やっぱりそれしかないよね!よし、市が頑張って、まこっちゃんをもっともっと元気にさせちゃおう!」

「その意気ですわ!」

「ありがとー!何か、スッキリしたよ!お兄ちゃんも二人も頑張ってね!」

そして、市は元気よく懺悔小屋をあとにした。

「まわりが元気な姿になれば、まわりも元気になるもんな」

「そうですわね。それに何かあればハニーの力で何とかなりましょう」

「そうだといいけどな」

で、懺悔室を見学していたら、あの足軽には死相が見えていたが。この戦いが終わったら、京で買った土産を結婚する彼女に渡すこと事態が死亡フラグなんだけどな。

「でも、一応あの足軽にはお祓いしといたから、大丈夫だろうな」

「いつの間にしたのですの?」

「まあな。神の前での願い事が外れたら困るからな」

「さすがですわ。では、次の方どうぞ!」

「おじゃましまーす」

次に入ってきたのは、また見知った顔であった。ころだったけど、何か悩み事でもあるのか。

「ようこそいらっしゃいました、迷える子羊よ」

「ここで告白した全ての罪は、でうすの名の下に許されるでしょう。そして、誰にも明かされる事はありません」

「さあ、全てを吐き出すのです」

「ええっと・・・・最近、隊のお役に立ててない気がして・・・・」

ああ、まだ気にしていたのか。

「お役に?」

「はい。前線の指揮も軍略も、凄い人がどんどん増えてきて・・・・私、ちゃんと役に立ってるのかなって・・・」

「それは、影が薄・・・・むぐぐ」

「それ以上言うな。ころは結構気にしているんだから」

「そうですよ。それだと追い打ちですよ」

「ここは俺の番だな。声を変えよう。こほん、では伺うが、前線の指揮で一番上手い者は誰だ?」

「それは・・・・梅ちゃんです」

「まあ・・・ころさんったら」

「では、二番目は誰だ?」

「それは・・・・たぶん、雫か私だと思いますけど」

「だったら、荷駄の管理が一番上手いのは?」

「ひよです」

「じゃあ、二番目に荷駄を把握しているのは?」

「詩乃ちゃんか私・・・・かなぁ?いつも手伝っているし」

「軍略はどうだ?」

「一番は詩乃ちゃんだと思うけど、今は雫もいるし・・・・」

「では、次に戦い慣れているのは?」

「一真様か梅ちゃんかな。経験なら、一真様か私だと思う」

「まあ・・・経験を持ち出されては、確かにちょっとだけころさんの方が戦い慣れてますわね。一番はハニーですけど」

「その中で一番目と二番目が多かったのは?」

「・・・・・あっ」

「お主ではならんか?」

「・・・・・はい」

「一つのことに優れた将は、確かに強い。が、全てに通じた将もまた優れた将だ」

「あ・・・ありがとうございました。何か、ちょっと自信が出てきました」

そう言ってぺこりと頭を下げると、ころは小屋を出て行った。

「さすがですね、一真様」

「それほどのことはしてないよ。こういうことは、上司の俺には言えないことなんだろうな」

「ですが、まさかころさんにあんな悩みがあったなんて・・・・」

「ころは、自分が思っている以上に優秀な将だからな。古参だし」

「はい。ひよさんと同じく古参ではありますし、新参の私も立てて下さいますし・・・・。一真隊の統率が取れているのは、ころさんのおかげだと思います」

「ええ。それに、私たちにも何かと親切にしてくださいますし」

「それもそうだけど、俺もだけど何より・・・・」

「「料理がうまい」」

「ころさんもですが、ハニーのも絶品ですわ。少し味が濃いですが」

「はい。一真隊に加えて頂いてから、食事の環境が良くなったと姫路衆の皆も喜んでいますし・・・」

まあ、俺の料理は二つ名があるくらいだしな。別名女殺しだし。IS世界に行くまでは、料理は奏に任せっきりだったんだけど、IS世界からは料理のスキルが上がったからな。で、次の人になったので聞いたあと、スッキリした足軽が出てったあとなんだけど。

「故郷の料理が食べたいか」

「遠征も長くなっていますからね。里心が付くのは仕方がないかと」

「その辺りも調整が必要だな」

一真隊でその話が出ないのは、俺かころが料理がうまいからだろう。それに、俺はよく洋食=南蛮料理を作るからな。故郷よりそっちのほうが珍しいのかもな。

「そうですわね。余裕のあるうちに、故郷の食事会でも開いてみては?」

「提案してみるか。故郷の料理を教えてくれたら再現できそうだし」

小谷には市もいるからな、尾張辺りの料理は知ってそうだし。

「では次の方、どうぞ」

「失礼します」

「し、詩乃殿!?」

「しっ。聞こえるだろう」

「あ・・・・は、はい・・・・・」

「ようこそいらっしゃいました、迷える子羊よ」

「ここで告白した全ての罪は、でうすの名の下に許されるでしょう。そして、誰にも明かされる事はありません」

「さあ、全てを吐き出すのです」

「・・・・・・・・・」

あー、この沈黙はバレているかもな。雫は心配してるようだけど、梅は軍師が二人もいらないとか言ってたがそれはないのだろうな。あと、雫はまだ詩乃と話すときは緊張するんだと。

「どうも最近・・・・」

「っ」

「一真隊の中でも・・・・」

「・・・・・・っ」

聞こうとしたが、俺の勘によって耳を塞いだ。これは俺が聞くべきものではないと判断してイヤホンで音楽を聞き始めた。あと梅と雫は、俺が小さいがためにどうしようとしてたらしいが、俺が耳にはめていて何も聞こえない状態になったのでホッとしたようだ。ついでに、俺は雫の肩から後ろを向いた。たぶんこれは女の子しかわからない話かもしれないと思っての事だ。随分と深刻な雰囲気だったけど、俺は何も知らない。そして時間が経っていき。

「・・・・ありがとうございました。少し、すっとしました」

やがて、詩乃がお礼を言った辺りから俺は再び前を向いてイヤホンを外した。

「特に梅さん。あなたの助言は、うじうじと悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなるようで、とても痛快でしたよ」

「う・・・・梅などここにはいませんわ。この壁の向こうにいるのは、神の御遣いたる・・・・」

「そうですね。そういう事にしておきましょう。雫もありがとうございました」

「そ、そんな者はいませんにょっ!」

そう言い残して詩乃は部屋を出た。

「で、なんだったんだ。詩乃の悩みは」

「一真様は聞かない方が良い事です」

「けれど、これで一真隊の結束はより強固になったと言っても過言ではありませんわ」

「そうですね」

やはり聞かないで正解だったか。それから、また兵士や将のみんなの愚痴と共に悩み相談を解決させたりした。俺も神だし、たまにはこういう仕事もいいかもなと思って。

「そろそろ今日はお終いでしょうか・・・・」

「そうですね。もう良い時間ですし」

小さな明かり取りの窓から入る光は、赤色の光。時計を見ると夕方だった。結構な人数を裁いたのか、思った以上に時間が経ったようだ。

「次が最後か」

「次の方、どうぞ」

「おーう!」

って、おい。小夜叉かよ。なので、神の力で梅の口と体の動きを止めた。

「悪いな、梅の事になったら暴れるだろう?」

そう言って梅は首を縦に振った。ここで暴れたら、懺悔室の価値がなくなるからな。さっき各務が来ては、永遠に愚痴をこぼしていたが、小夜叉に悩み事なんてあるのか。梅を口封じしているから、俺の声を変えて代わりに言ってみた。

「ようこそいらっしゃいました、迷える子羊よ」

「ここで告白した全ての罪は、でうすの名の下に許されるでしょう。そして、誰にも明かされる事はありません」

「おう。あのさー。もっともっと敵をぶち殺せるくらい強くなりたいんだけどよ。なんかこう、手っ取り早い方法ってねえか?」

ああ、やっぱりか。さすが森家だろうな。梅を口封じしてよかったな。

「ふむ。そなたは強くなりたいと言ったが誰を目標にしている?」

「んーとな、一真か母だな。一真と会う以前は母を目標にしてたんだが、一真が現れてから母とオレが負けてからは一真に勝つことを目標にしている」

「ならば、その一真という者に力の源を教えてもらってはいかがだろうか」

「力の源かー。一真は神だから、神の力でやっていると思っていたんだけど違うのかー?」

「我らも神の遣いとして見ておるが、一真とやらは神の力など使っていなくとも強いと聞く。それはなぜかと思う?」

「んー。分からねえけど、経験かな」

「経験も豊富だが、一真とやらは何千年生きていると聞く。だから、いつも鍛錬しているからあの強さなのではないかな。お主はまだ十何年しか生きていないからかもしれんが、手っ取り早い方法もあるが、まずは己自身を見直してから毎日の鍛錬を続けることだ。それと一真と言う者にも言って仕合をしてみてはどうかな。そうすれば、己の身体能力が向上すると我は思うがどうだろうか」

と俺はそう言ったら、小夜叉は納得したかのように、礼を言ってから小屋を出た。そして、梅の身体と口封じを解除してから今回の懺悔室は終了し、俺も元の大きさに戻ってから一度別れた。森家のオチはなんとなく分かっていたからな、梅だと逆に怒らせてしまうからな。そして、その日の夜に。

「雫。少しいいか?」

「あ・・・・一真様。どうぞ」

声をかけて入ると、雫は書見台で静かに本を読んでるところだった。

「悪い。お邪魔だったかな」

「いえ、構いません。どうかなさいましたか?」

「ふむ。昼間のあれはとてもよかったなと思ってな」

俺が適切なアドバイスを小夜叉にしたおかげで、梅も小夜叉も暴れずに済んだからな。だから、また明日からも懺悔小屋はやるそうだけど。森家絡みだったら、梅を封じ込めるようにしといたからな。

「ふふっ。それでしたら、一真様も良い判断でした。悩み相談もけっこう慣れているんだなと思いました」

「まあな、これでも黒鮫隊の者の相談をけっこう受けているから。でも男ならどんな相談も構わんけど、女だったら俺でもまずいときがあるから。今日の詩乃みたいに」

結局詩乃のは、分からず仕舞いだけど聞かなくて正解だったのかもしれない。ああいうのは同性同士ならばのだと判断したし。

「しかし、詩乃殿のときもですが、聞かない判断をしたのは正解だと思いました」

「勘が働いただけだよ。それに俺の勘はよく当たるそうだ。それより、雫も大変だったろ。懺悔室をしようという提案は梅だろう?」

「あれは・・・同じ天守教の信徒として、私も早く織田家に馴染めるようにと思いついて下さった事でしたので」

「そういうことか」

「梅さんも、先日の六角攻めでお味方になったのですよね?」

「まあな」

なんか、ずいぶん前からいたような感覚だけどな。

「梅さんも、本当は凄い人見知りだそうで。梅さんがこれだけ早く織田の皆様に溶け込めたのは、ころさんや詩乃殿が心を砕いてくれたおかげだと」

「そっかー」

梅が人見知りなんて初めて知ったんだが、そんな雰囲気はなかったが。それに雫は一真隊じゃ後輩だけど、先輩として同じようにしてあげたかったのか。

「あ、すみません。これは内緒でした」

「別にかまわん。雫も懺悔しただろう、なあ、デウスよ」

といって、俺の隣にデウスがいた。雫にも見えるようにしているからな、雫はいきなり現れたデウスを見ていたけど。

「この御方がでうす様?」

「そうだ。俺と同じ男神だからな。あの懺悔室のときだって、ずっと見てたんだぞ」

デウスは頷いてから神界に戻って行ったけどね。長時間の神召喚は、疲れるけどな。

「それに、人を知るのも軍を動かすのに必要なことだ」

「はい。皆さんの本音を聞けたのは、これからの軍を動かす上でも役に立ちますし」

「俺もだけど、詩乃みたいな言い方だよな」

「詩乃殿は・・・・すごいお方ですから。詩乃殿と一緒に一真様のもとで働けるなんて・・・・正直、とても幸せなんです」

そういや雫は詩乃に憧れているんだっけな。この世が安定したら才を試せるところが無くなるとか言ってたな。

「ですが、詩乃殿も凄いですが、一真様も凄いです」

「何がだ?」

「懺悔小屋の中で、色々兵の皆さん悩みも聞きましたが・・・・一真様に対する不満はほとんどありませんでしたから」

「ああ、そういえば」

美人な奥さんがたくさんいて羨ましいとか言ってたが、奥さんじゃなくて恋人な。というのはたまにあったが、俺は懺悔室でたまに喋るときもあったけど。そのときは声を変えていた。でも俺に対する不満はなかったなー。

「ふむ、何でだろうな。そこらへんは自分でも分からん」

「墨俣に一夜にして城を築いたことも、その際に川並衆を引き入れたのも、一真様の手腕だと聞きました」

「あれはひよところがいて、創造の力でしただけだ」

「その後の、詩乃殿を美濃から救い出した件は?」

「あれは、偶然と俺の勘が働いただけだし」

「では、稲葉山城や観音寺城での首級を取った手際は?駿河を落ち延びた鞠様を迎え入れたのは?」

「ずいぶんと詳しいな」

「はい。田楽狭間の一件から、織田家の情報は色々と集めていましたから。その中でもひときわの活躍を見せているのが、一真様でした。田楽狭間からのごく僅かな期間でこれだけの働き。ただの天人にはとても思えません」

「そう言われると照れるな。だが、俺だけではなく俺の部下の活躍もあってのことだ」

「たしか黒鮫隊でしたね。一真様直属の部隊と聞きましたが、それだけは情報に入らなかったです」

「まあな。だが、よくぞそこまで調べたと思うよ。それにな、小寺家に雫みたいな動ける人がいなかったら、ここには雫はいなかったかもよ」

「あ・・・・・」

「俺は小寺家があんな姿勢でよかったと思っているし」

「一真様・・・・」

「一緒に戦ってくれるなら、それも一つの理想だけど。それだと雫は俺のところには来なかっただろう」

もっと悪い可能性なら、下手な野心を出した小寺家だったら神の鉄槌を喰らっていたところだ。けれど、小寺家は俺たちと構えることもなく、やる気のない態度ではあったが、俺たちに雫を預けてくれた。

「だから、雫が来てくれたことが嬉しかったな」

「一真様。私が来て嬉しかったのは、鬼と戦う仲間が増えたからですか?」

「いや違う。そういうのもあるが、女性として見てるつもりだ。こんなかわいい子が味方になってくれたのは歓迎するさ」

「でしたら・・・・その・・・・・」

「久遠が言ったあの宣言は、皆が決めることであって俺が決めることではない。まあ増えるのは嬉しいが、こういうのはゆっくり考えて結論を出したほうがいいぞ」

「ふふっ。不思議な方ですね、一真様は。天から降りてきた、神の使い・・・・」

「正確には神そのものだ。創造神であるからな。だから、他の神や人や獣や自然を創ったといわれるとな」

あとは、他の神はなぜか俺に好意を持つ。創ってくれた感謝なのかもしれないが。でも他の神話系も俺が創ったらしいが、俺には記憶はないな。ちなみに日本のだと創造神様だけど、他だとブラフマー様って呼ばれる。

「天守教で神の使いなんて言っていいのか?」

「たぶん大丈夫です。エーリカさんも大丈夫だとおっしゃっていましたし」

まあそりゃそうか。でもアバウトな司祭だな。

「雫。力、貸してくれるよな?」

「・・・・・はい?」

「おそらく今回の戦いは、何が起こるか分からない。この前の二条より厳しい戦いになるだろう」

「食料や弾薬を増やすように仰っていたのも、そのためですか?」

「ん?詩乃から聞いたのか」

「はい。姫路衆の荷駄に少し余裕が出来ましたから、そちらに何とか」

「そうか。ありがとう、雫」

「いえ。ひよさんの荷物の積み方のおかげですから。本当に一真隊に加わってから、勉強になる事ばかりです。ですが、本当にあれほどの物資が必要なのですか?」

「さあな。あれでも足りないかもしれないけど。まあそれ以上になるんだったら、俺の船から調達すればいいことだし。それか創造の力でな。それに軍師も」

「・・・・・・」

「詩乃一人や雫一人でもどうにもならないときは、二人の軍師の協力が必要になるだろう」

「私と・・・・詩乃殿の・・・・」

「だから、頼むよ」

そう呟いた俺の手をそっと握ってくれた雫。その手は小さくてはあるが柔らかなのだった。

「はい。私の力でよければ・・・・これからも、存分にお使い下さい」

両手で押し抱くようにして、雫は、優しく微笑む。その笑顔は、まるで朱里や雛里を思い出すかのような、とても暖かいものだった。

「ありがとうな、雫」

「あ・・・・ひゃ、す、すみませんっ」

「いいや、よかったよ。とても暖かくて」

「あぅぅ・・・・・」

耳まで真っ赤になってうつむいている、小さな頭を軽く撫でてから立ち上がる。

「邪魔して悪かったな。夜更かしもいいが、ほどほどにな」

「・・・・・はい」

「じゃ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい」

このあとの会話を聞くのは野暮だったので聞かなかった。俺は神界に行ってデウスに会いながら、他の男神と飲んでいた。そのあと神界で寝たのだが起きたら、女神たちでいっぱいだった。 
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