脚気
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第二章
第二章
「脚気にかかるのは兵隊だけだ」
「そして下士官だ」
「将校はかからない」
そうなのだった。海軍では何故か脚気にかかるのは下士官や兵士ばかりだった。将校はかからないのだ。それがわからないことだった。
「居住区域の関係か?」
「いや、それはない」
この可能性はすぐに否定された。
「船の中は何処も同じだ。だからそれはない」
「船の中は同じ」
「というとだ」
そしてであった。ここで気付いたことがあった。それは。
「伝染病ではないのか?」
「そうだな、伝染病なら同じ船に乗っている将校もかかる」
「しかし一人もかからない」
このことが確かめられるのだった。
「それは何故か」
「どうしてだ?」
「一人もなのは」
そしてであった。ここで彼等は熟考した。そして様々なことが調べられた。それこそ海軍全体が再び調べられたと言ってもよかった。
その中でだ。海軍の特徴が一つ出て来たのである。それは。
「下士官や兵士が食っているのは白米だ」
「だが将校は違う」
「将校は洋食を食っている」
このことが言われたのだ。
「その将校は誰も脚気にはなっていない」
「そうだな」
「誰もだ」
将校が脚気になっていないことが重要なのだった。
「これは何故だ?」
「食べ物か?」
「まさかとは思うが」
「いや」
そしてであった。一人が考えたのだ。
「そうかも知れない」
「食べ物だというのか」
「原因は」
「まさかとは思うが」
こう考えたのは軍医の高木兼寛であった。彼は同じ船の中にいても士官が脚気にならず下士官や兵士ばかりが脚気になることからそのことを考えたのである。
森がドイツに留学したのに対して高木はイギリスに留学した経験を持っている。そこで経験主義に基づく医学を学んだのだ。ジェンナーの流れである。
彼はここであることにも気付いた。
「日本には今多くの外国人もいる」
「そうだな」
「それは」
「しかし彼等は脚気にかかっていない」
このことにも気付いたのである。
「同じ日本にいてもだ。これが天然痘やコレラならかかっているな」
「そうだな、特にコレラだ」
「それはだ」
外国から入ったコレラにより多くの者が死んだことがある。このことからも考えてみるとやはり脚気は伝染病ではないのではと思うのであった。
「脚気は伝染病ではない」
高木はこのことを確信するようになった。
「食べ物にあるのではないか」
「しかし食べるものはだ」
「下士官や兵にしてもだ」
「流石に将校の様に洋食ではないが」
イギリス海軍に倣っていた帝国海軍では将校と下士官、兵士は何から何まで違っていた。これはそのイギリス海軍では将校は貴族だったからだ。貴族と平民ではその待遇が全く違うのである。とりわけ欧州の貴族社会ではそうなのである。
それが食事にも出ているのだ。将校は当時では御馳走であった洋食を食べていたのである。なおそれは彼等の給料から食費を出してである。
「しかし白米だ」
「白米を食べさせているのだぞ」
「腹一杯だ」
このことが言われた。白米といえば御馳走であったのだ。
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