戦国異伝
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第百六十三話 紀伊での戦その六
「本願寺と戦ってもらう」
「畏まりました、それでは」
「この度も」
池田も森も応える、確かな言葉で。
「それぞれ一軍を率いてです」
「門徒達と戦います」
「そうせよ。頼むぞ」
信長を兵で守る者達がそれぞれ軍を率いるからだ、ここではだった。
信長が直接率いる兵に加えてだ、家康が率いる徳川三千の兵が彼を守ることになった。そのことが決まってだった。
信長は夜のうちに動き出した、幸い敵はまだ動いていなかった。
まず柴田や佐久間達がそれぞれ兵を率いて山に入る、その軍はというと。
「柴田殿、佐久間殿、丹羽殿に」
「それにじゃな」
酒井に石川が言っていた、徳川家の重臣達がだ。彼等は徳川家の黄色の鎧に服、それに陣羽織といった格好だ。その黄色は闇夜でも目立っている。
「滝川殿、池田殿に森殿、前田殿、佐々殿、川尻殿」
「長宗我部殿に浅井殿じゃな」
「羽柴殿、明智殿、荒木殿」
「兵は十に分けられておる」
信長が直接率いる兵も入れると十一だ、信長は二万を率いて残る兵を十に分けてそれぞれの将に率いさせているのだ。
そしてだ、その彼等がなのだ。
「先に出て山に入られるか」
「それで敵を待つか」
「まずはな」
最初に発ったのはというと。
「今は荒木殿じゃな」
「荒木殿は陣の最後尾に入られる」
織田家が敷く陣のだというのだ。
「そしてな」
「最前列は柴田殿じゃ」
「あの方が入られる」
言うならば蛇だった、信長が今回敷く陣は。彼は右手に山が連なる道を進みその山に兵を潜めさせるのだ。
そしてだ、今彼等がいる場所から見てなのだ、最後尾に入るのが荒木であり最前列に来るのが柴田なのだ。
何故柴田が最前列か、それは。
「やはり柴田殿は違う}
「うむ、あの方はな」
「織田家でも随一の武の方」
「攻めなら申し分ない」
「そうそう勝てる者はいない」
その柴田を最初に、蛇の頭に置いてなのだ。
「右大臣殿はご自身で敵を誘き出される」
「我等の殿と共にな」
「それではじゃな」
「我等も」
彼等七千の徳川軍も山に入ることになっている、その指揮には酒井、徳川四天王筆頭である彼が担うことになっているのだ。
その酒井がだ、ここで言うのだった。
「ではな、我等も順番になれば出ようぞ」
「そうしようぞ」
石川も応える、そしてだった。
彼等は夜のうちに出た、他の織田家の軍勢も次々に出て行く。そのうえで信長は明け方に自ら率いる兵達と家康に言った。
「では我等もじゃ」
「今こそですな」
「うむ、行くぞ」
こう家康にも答える。
「敵から逃げるぞ」
「逃げますか」
「途中まではな」
そうするとだ、信長は家康に思わせぶりな笑みで答えた。
「そうするぞ」
「わかりました、それでは」
「御主も共にな」
「はい」
そこは話した通りだった、家康も笑顔で応える。
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