ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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影と絶
ユウキの家を見に行ってから約一ヶ月が過ぎた。あれからユウキは毎日授業に参加していたのだが、その持ち前の明るさと元気のよさであっという間にクラスの人気者になっている。
ただ、問題があった。
ユウキは男子からの人気よりも女子からの人気の方が高い。ユウキ自身も女子だ。故にユウキの周りにはかなりの頻度で女子が集まるのだ。そしてユウキが居る……というかユウキのカメラが設置されているのは俺の肩。つまり、休み時間の度に女子トークに巻き込まれるのである。
これはかなり精神的にくるものがあった。……顔には出さないが。
その日の放課後。いつもは居る取り巻きがその日は存在しなかったため、珍しく二人(?)で帰宅の途にいた。
「あ、燐。実はね。今日からALOにログインできるようになったんだよ?」
「ああ、一ヶ月程前に言っていたことか」
菊岡が珍しく殊勝なことをしたってことで記憶している。
本当になにか裏がないか勘繰ってしまう。
「うん! でね、燐。ボクとデュエルしてくれない?」
「……いきなりか。別に断る理由はないからいいが……なぜ?」
「前々から決めてたんだー。ALOにログインできるようになったら燐とデュエルするんだって。理由は……燐が強いから、かな?」
ユウキはいつの間に戦闘中毒者になってしまったのだろうか。……思い返せばユウキはPVPでプレイヤーたちを薙ぎ払ったりボス戦を一ギルドだけでクリアしたり……ALOに来てから戦ってばかりだったな、おい。
和人も負けたって言ってたからまだ戦ってない手頃な人は俺くらいしか残ってないということか。あの頃はユウキを助けるために奔走していた時期だし。
「わかった。受けて立つ。絶剣の強さ、見せてみろ」
「ふふっ、負けないよー!」
ユウキの元気な声が辺りに響き渡った。
†††
挨拶や整理もそこそこに早速ALOにログインすると装備を確認し、ほとんど倉庫と化しているプレイヤーホームを飛び出す。場所は第二十四層主住区の北にある巨大な樹の根本にある小島へ移動する。
そこはユウキが以前絶剣という名前で有名になる原因となった腕試しを目的とした辻斬り……もといデュエルの場のなったところだ。
ちなみに俺は全く知らなかった。
ユウキがデュエルの場に指定したこの場所だが、有名な観光スポットらしい。らしい、と伝聞形なのは詩乃から聞かされてそれっきりだからだ。
俺がその場所に到着するとユウキは既にそこにいた。
大樹の根本の開けた広場で、風に長めの髪を靡かせながら目をつむり、凜と立っている様子は周囲のプレイヤーたちを魅了しているように思える。
何人かが慌てた様子でメールを打っているのは絶剣を知っているからだろうか。
俺がその広場に降り立つと、その音に気がついたのかユウキはそのアメジストのような澄んだ赤紫色の目を開き、無邪気に笑った。
同時に俺が来たことに気づいた周りのプレイヤーたちがざわめく。裏方に徹しているとはいえ、ある程度は名前が売れているらしい。……一回だけ、詩乃に言われて参加した月例大会で優勝したのが原因かもしれんが。
「違和感はないか?」
「うん! 下手すると前より調子がいいかもねー」
完全にネットワーク上の存在となったユウキ以上にVRに馴染む人なんていないだろう。メディキュボイトを使っていたことより強くなっていることは間違いない。
「それはよかった。それでルールはどうする?」
「んー……リンの強さがわからないんだよねー」
「なら純粋な剣技だけ戦うか。それでいいか?」
魔法と鋼糸を織り交ぜて戦うのが俺のスタイルだが、ユウキは簡単に引っ掛かりそうなのでやめよう。というかやめたい。SAOが俺のVRMMOの根幹となっている以上、剣だけでデュエルしたいと思うのだ。
「うん、いいよ。飛行はどうする?」
「無しで頼む」
そう言いながら俺は翼を消した。
「わかった。楽しいデュエルにしようねー!」
ユウキも同じく翼を消した。爛々と光る無邪気な瞳には抑えきれない闘気が見て取れる。
先程メールをしていた人たちが呼んだのか、少しずつ人が増えてきている。しかし、俺には目の前のユウキ以外を意識から外した。
ユウキはもう一度無邪気に笑うと片手を振り、慣れた手つきでウインドウを操作し始めた。
そして
Yuuki is challenging you
という文字の羅列が最上段に輝くデュエル申し込みウインドウが少々派手な効果音と共に登場した。
オプションは当然のように全損モードが選択されている。
拒否するような理由がないので、当然選択したのはOKのコマンド。デュエルウインドウが消失し、代わりに10秒のカウントダウンが開始された。
ユウキが右手で左腰に下げた透き通るような紫色の剣を抜き放つのを見ながら、俺は両腰に下げた剣を二本引き抜いて両手にそれぞれ一本ずつ握る。
周囲に響き渡る涼やかな音の余韻と共に思考を戦闘へと切り替えると右手に持った剣を少し前に突き出し、左手に持った剣を肩に担ぐという構えを取る。対するユウキは剣を中段に置く正眼の構え。
そしてカウントがゼロになり、目の前にDUELという文字が一瞬だけまたたくと即座に地面を蹴って跳び出した。
俺もユウキもスピードタイプなのも後押しし、最初に開いていた10m程の距離が一瞬で食いつぶされ、ゼロになる。
「ふっ!」
「やあぁぁぁ!」
俺が短い呼気と共に放った右手の剣による突きはユウキの手が霞む程の速さの斬り払いによって弾かれた。
見え見えのこの一撃はあくまで牽制。故に全く力を入れた突きでは無かったのだが、こうも完璧に弾かれるとはさすがの実力だと再確認。
反転して襲い掛かってきた斬り返しを右手を引き戻しつつ左手の剣を振り上げることで左下に流す。
流されて上体の浮いたユウキに向かって今度は右手の剣でユウキの胴を右から薙いだ。
しかし、上体を流されながらもしっかりとそれを捉えていたユウキはわざと仰向けに倒れかけることでその剣の下をくぐることに成功する。
そして、そのまま地面に着いた右手を起点に片手倒立。勢いそのままに後方へ待避され、追撃の左手の剣による袈裟斬りをかわされてしまった。
再び距離が開き、仕切り直しとなる。
ユウキの構えはさっきよりも切っ先が上がってより攻撃的な上段へ。俺は右手の剣を鞘に戻して、左手の剣は変わらず肩に担いだ状態。
今度は先程のように開始の合図があるわけでは無かったのにも関わらず、跳び出したタイミングはほぼ同時だった。
ユウキの正中線を狙った振り下ろしを左手の剣で弾く。
するとユウキはそれを想定していたかのように……実際にしていたのだろうが、弾かれた瞬間に腕ごと剣を回転させ、間発いれずに斜め上からの袈裟斬りを放ってきた。
「……ふっ!」
だが、俺はそれを無視し、一気にユウキの懐に潜り込む。肩に強い衝撃を受けるが、速度が出切る前にぶつかっていったため多少はダメージを抑えられたような気がする。
そして、驚愕で目を見開いたユウキの無防備な脇目掛けて右手の剣を抜き打ちした。
「……チッ」
思ったよりも(・・・)吹っ飛んでいくユウキを見ながら剣が当たった時の衝撃の軽さを反芻し、思わず舌打ちが飛び出す。
……インパクトの瞬間、後ろに飛んでダメージを軽減しやがったな。
俺のHPは今ので5%弱程減った。ユウキは7%程度。あまり差はないがこれが後々効いてくると信じている。
「無茶するね。まさかボクの攻撃を無視するなんて」
「想定以上にユウキが強くてな。こうでもしなければ当てる自信が無かった」
肉を斬らせて骨を断つという感じだろうか。
鋼糸や魔法を使えばまた別だろうが、純粋な剣のみの戦いならば乾坤一擲の構えをとらなければならないのだ。
……ならば次で決めよう。
本来のスタイルであるカウンター型を捨て、防御を捨てた超攻撃型に。たまにはこういうのも悪くない。
欲を言うならこのままユウキと舞っていたいが、一瞬で決めるのが一番良いならば、それがいい。
俺は力を抜いて自然体に。無駄な力を入れず、特別な構えも取らない。
対するユウキは俺の意図を感じ取ったのか先程よりも攻撃的な雰囲気を纏った正眼の構え。
「……行くよ!」
そして、場の緊張が最高潮にまで高まった瞬間、ユウキは掛け声と共にこちらに向かって駆け出した。
俺はそれを見ながらも動かない。完全に待ちの姿勢を取る。
「……やあっ!」
ユウキは微かに訝しげな表情を浮かべるも、スピードを緩めることはなく、そのまま突っ込んで来て剣撃を放つ。
高速で放たれた突きを鞭のように柔らかくしならせた腕の動きで剣の回転に巻き込み後ろへ流す。
しかし……
「なっ!?」
思わず出た驚きの言葉はユウキが受け流された勢いそのままにこちらにラリアットをするかのごとくぶつかって来たからだ。
そして、ぶつかってくるユウキの左手は固く握られ、そこにはソードスキルの発動を表すオレンジ色の輝きがたゆたっていた。
「せりゃぁぁ!!」
凜とした気合いと共に放たれた単発体術スキル《フロント・フィスト》が俺のガラ開きの身体に叩き込まれ、激しいノックバックを発生させた。武器を装備していない素手での発動だったため、ダメージはそこまででもないが衝撃によるスタン効果が痛い。
後ろに跳んで追撃に備えようとしてもユウキのスピードならば一瞬で詰められて終わりだろう。ならば……その場で踏ん張って迎撃する。
「りゃあっ!!」
ユウキの振り絞った剣が青紫色の光を纏う。
システム外スキル《スキルコネクト》を使う関係上、俺が使う片手直剣、投剣、鞭(鋼糸)、体術に関するスキルは初動から属性、軌道に至るまですべて記憶しているのだが、ユウキの現在の構えから発動し、かつ青紫色のソードスキルの発動光持つ既存のソードスキルは存在しない。つまりユウキの使用しようとしているのはオリジナルソードスキルということになる。
ユウキの剣速から繰り出されるソードスキルとなると初見での受け流しは不可能。となれば……
こちらもソードスキルを使い、自分のHPが削り切られる前にユウキのHPを削り切るしかない。
もともとSAOからのコンバート組である俺のHPは客観的に見てユウキよりもかなり高い。しかし、剣速はあちらの方が上で秒間当たりの破壊力DPSはユウキに軍配が上がるだろう。
そしてソードスキルを既に発動しているユウキの攻撃が先に発動する。
こうやって脳内でシュミレートしてみてもやるしかないのだが。
「っ!!」
短く息を整え、ユウキの青紫色の色彩を纏った神速の突きが着弾する前にソードスキルを発動させる。
片手剣三連撃ソードスキル《メテオ・ブレイク》
俺のソードスキルとユウキのソードスキルが交錯し、ダメージ痕を辺りに散らす。
ユウキの神速の突きは五つ。右上から左下にかけて放たれた。その時には俺のソードスキルは終了。しかし、ユウキの剣にはまだソードスキルの光が点っている。
「くっ!」
メテオ・ブレイクを放った右手の剣を引きつつ、スキルコネクトで別のソードスキルを左手の剣で放つ。
片手剣汎用四連撃《バーチカル・スクエア》
その四連撃と、今度は左上から右下に向けて放たれた五連撃の突きを交換し合う。この時点で互いのHPはレッドゾーンに突入していた。
そしてユウキの剣は十連撃を放ったのにも関わらず、まだ青紫色の光を纏っている。
ユウキはその身体に目一杯力を込めて剣を後ろに引き絞っていた。
今までの技の形状、ユウキの性格。それらから鑑みて攻撃を放つ地点を分析、予測する。
その結果からバーチカル・スクエアから繋がる最適なソードスキルを選別し、スキルコネクトで繋げるのだ。
スキルコネクトは樹系図をなぞることと同じだ。あるソードスキルから別のソードスキルへ、状況に応じて分岐させることで凄まじい汎用性を持たせるのがスキルコネクトの真骨頂。
片手剣汎用二連撃OSS《ディバート・アトネメント》
一撃目でユウキの渾身の突きを逸らして身体を掠める程度に抑え、そして返す刃がスキル後の硬直で動けないユウキを斬り裂く。
レッドゾーンのHPで耐えられるわけがなくユウキのHPはすべて消え、そのアバターは無数のポリゴンとなって砕け散った。
直後、デュエル終了のファンファーレが鳴り響き、周りのプレイヤーが歓声をあげた。
いつの間にか周りにいるプレイヤーが増えていたようでゆうに50人程はいる。
「……はぁ……」
それにしても疲れた。相手が強ければ強い程楽しいのだが、同時に疲労も大きい。
とりあえずユウキが死に戻りする前に蘇生してやらねばならないので、腕を振ってプレイヤーメニューを呼び出すと、蘇生アイテムを取り出す。そして、紫色に光るユウキのリメラメントに蘇生アイテムを使用する。
「あー……ボクの負けかー……」
残念そうに呟きながらもユウキは満足げに笑っていた。
そして、周りから送られている拍手に満面の笑顔を浮かべると、それに応えるように手を振る。
俺がSAOからのコンバート組でなければ負けていたな。それほどユウキの使ったソードスキルは強力だった。
「……単純な剣の腕なら俺より上か」
しかも、まだ発展途上だから恐れ入る。
蘇生アイテムと共に出していた回復ポーションをくわえるとボンヤリとファンサービス(?)に応えるユウキを見た。
……今度はすべての技能を使って戦いたい、そう思った自分に苦笑しつつ、俺はユウキに声をかけた。
後書き
リンVSユウキでした。
どうもお馴染み蕾姫です。
回避タイプVSカウンタータイプという確実に千年戦争(サウザンドウォー)が始まる対決でしたがいかがでしたでしょうか?
純粋な剣の腕ではリンよりもユウキの方が高いです。……が、リンの真骨頂は絡め手からのカウンターですので素直なユウキは完全に獲物と化します。なので、ユウキが発展途上ということを加味した結果、リンは魔法、鋼糸、投剣禁止の縛りプレイということになりました。ユウキが体術スキルを使ったのは原作でもあったアスナとの対決で使われて、隙を作ったことが悔しかったため……という裏設定がありますがお気になさらず。このユウキ、いろいろな訳があって原作よりも数段強くなってます(それに勝てるリンェ……)。
ユウキはこれから進化する予定ですからそろそろリンが負けそう……。バトルセンスはほぼ同等くらいなんですが。
そろそろアリシゼーション編に入らないと怒られそうなので、次回辺りから突入していきたいと思います。
では今話も読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。あ、感想意見その他お待ちしていますね。
ではでは
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