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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十三章 幕間劇
  雫の処遇

「はい。その資材は向こうにお願いします」

「小寺様。こっちの壁は、こんな感じでいいですかね」

「図面だと・・・・ええ、大丈夫です。そのまま続けて下さい」

「へい。承知致しやした」

何やら順調に進んでいるようだが、俺が壊した城門や壁はそのままとなっている。

「お疲れさん官兵衛」

「あ、一真様!それに幽さん、詩乃殿も!」

「城壁の普請ですか?お疲れ様です」

工事の櫓が組まれているのは、先日の戦いで崩れ落ちた外壁。最も俺が創造して直したはず何だけど、何故かまた崩れ落ちた様子だった。また鬼が攻めてきたらたまったもんじゃないしね。今の所、前より頑丈にしているそうだけど。

「・・・・はて」

「どうした幽」

「いえ。このような普請依頼・・・・それがしにはとんと覚えがが」

「一葉からの依頼ではないな」

「流石一真様。分かっていらっしゃるようで」

だってあの一葉だもんな。この辺りの事は、幽に丸投げする事が多い。無論双葉の命でもあるまい。

「幽殿の指示でもないのですか?」

「そうなのです。二条で、この手も指示をするとすればそれがしだけなのですが、はて?いつその指示をしたかなと。はてさて・・・・それがしまで耄碌したとなれば、いよいよ幕府もお終いですかな?」

いやいや、幽はまだ若いのだからな。

「なるほど」

詩乃は官兵衛を見てたが、ああ、そういう事ね。

「・・・・す、すみませんっ!私、播州では縄張りや普請の指示もしていまして・・・・こういった壊れた壁は、見ていてどうしても我慢出来なかったんです」

やはり勝手にやったのか。

「播州の小寺官兵衛は築城の名手と聞き及んでいましたが・・・・やはり無断で」

「・・・・すみません」

「・・・・困りますなぁ。このような事を断りもなく行って二条に請求を回されても、それを払う金子などどこにも・・・・」

「あ、修繕の費用は全て小寺家から・・・・」

「流石は小寺殿。これだけ見事な城壁に修繕して頂けるなら、当方からは何も申す事などございません。ぜひぜひ、宜しくお願い致します」

変わり身早いなー、おい。勝手にやるのはよくないが、幽が修繕費は小寺家で払うならいいとは。

「それで何か御用ですか?」

「ああそうそう。この間は応援に来てくれた事、真に感謝する。あの時は、慌ただしかったからお礼が言えない状況だったからな」

「いえ・・・・私こそ、勝手に押しかけてしまってご迷惑をお掛けしました」

「とんでもない。我が主は多忙にて顔を出す事叶いませぬが、主に代わって幕府からも礼を言わせて頂きますぞ」

「公方様や一真様のお役に立てたのなら、何よりです。それと私の通称は雫と申します。お嫌でなければ、雫とお呼び下さいませ」

「それじゃよろしくな雫」

「はい!」

「それで、雫は今後どうするおつもりです?」

「はい・・・・事情はお伺いましたので、引き続き公方様や皆様に協力して鬼共を日の本から追い払いたいと考えております。・・・・構いませんか?」

これからの越前攻め、戦力が多いに越した事はない。それに雫みたいな軍師は欲しい所だが、詩乃は何か言いたそうだったが、もしかして播州からも勝手に出てきたとかじゃないかな?聞いてみるか。

「なあ雫。一つ聞いていいか?それは播州小寺家総意と取って良いのか?」

「それは・・・・」

あ、この感じは当たりか。やはり播州も勝手に出てきたようだ。

「・・・・御所に献上品を運ぶ指揮の為、京に向かう旨は伝えてあります」

「一真様の考えが当たりましたが、やはりですか」

「ふむ・・・・それは少々厄介ですな」

「小寺家は俺達に協力するのは反対なのか?」

「いえ・・・・我が小寺家は世の移り変わりに関心がなく、私がどれ程鬼や中央の変事に関しても進言しても、気のない返事をするばかりで」

小寺家のポンコツは何やってんだ。話を聞くと、領内の城の修繕やら改修を具申しても『任せる』の一言だけ。御所への献上品についても、同じように『任せる』だけだ。雫無しでは、小寺家終わりじゃねえの?と思ったの俺だけか。

「おおお・・・・あの献上品は、やはり雫殿の仕切りによる物でしたか。誠にありがとうございました」

そこまで丸投げする殿様もいるんだな。久遠とは正反対のタイプだし、例え美濃の龍興でも違うタイプだと思う。

「それでは、今回の壁の普請にかかる予算も?」

「はい。色々任されていますので、そこから・・・・領内の城の普請も同じようにするつもりです」

「それはそれでいいのか?」

「大丈夫です。城の普請は私の采配に任されていますから、何も言わないでしょう。・・・・それ以前に、誰も気付かないと思います」

雑な上層部だな。ポンコツ以上じゃねえの?俺の部下は、勝手にやらないだろうがやるなら許可書を発行して俺のサインが必要不可欠。それにこれは他家の話題だし、今は小寺家と事を構えてる暇もない。

「雫が大丈夫っていうのなら、大丈夫なんだろうけど。詩乃は何か言いたそうだな」

「はい。大丈夫、ではないでしょう」

「詩乃殿」

「確かに播州から京に来る位なら、何とかなるかもしれません。小寺家が世事に関心の無い内は良いでしょう。しかし主筋の小寺家が何かの弾みで変心し、雫の潜行を目障りに思うようになれば、どうなるか分かりますか?」

「それは・・・・」

「俺も詩乃の意見に賛成だ」

俺達と言うより織田勢かな?今更だが正義の味方とは言えないが、少なくとも仲間内に対して埃の出るような事はさせたくない。雫がしているのは、身内に対しての裏切り行為に近いらしい。

「雫の気持ちは嬉しいが、自分の立場を悪くしてまで俺達に協力はな・・・・」

「・・・・・」

「浸かっている湯が心地よければ心地よい程、それが冷や水に変わった時には冷たく感じるものですよ。自らの国に愛着を感じていれば、尚更です」

「詩乃殿」

詩乃の言葉は雫に向けられているより、自らにいい聞かせるのようだった。

「そうなれば国を捨てるか、潔く腹を召すか・・・・城を落とすしかありません」

「それは・・・・」

雫が言葉を詰まらせるのはよく分かる。国を少しでもよくする為に、城以外の面でも雫は色々な事をしてきたんだろう。しかも詩乃や梅のように自らの主君がいないならまだしも、小寺家の者達がいる限り敵に回す事は無い。

「・・・・少し、考えさせて頂けますか?」

「なあ詩乃」

「何でしょうか?一真様」

「他に良い案はないか。この子のような軍師系系統のは、実に欲しい所だ。詩乃の負担も、軽くなるだろう?」

「まあそれはそうですけど・・・・何とかする方法、ございますよね。幽殿」

「まあ、無きにしも・・・・」

「では幽よ。聞くがどうすれば雫が、小寺家と関係を悪くしないで俺達の仲間になるようにはどうすればいいのだ?」

「は。愚考致しますに、幕府から小寺家に、雫殿を貸して頂けるよう正式に依頼を出せば宜しいかと」

ああーそういう手があったな。葵が俺達に小波を付けてくれると同様な扱いにすればいいと言う事か。正式な依頼なら、雫も安心して俺達と行動が出来る。

「今の小寺家が雫の言う通りの状況であれば、さして気にする事なくその申し出に応じてくれる事でしょう。仮に断られたとしても、少なくとも今より状況が悪くなる事はありません」

「それは・・・・多分、大丈夫だと思います」

「そうなれば、後は雫殿の好きになさればよろしい。何せ腐っても幕府のお墨付きですからな」

「それに世事に無関心な小寺家が、将軍家の要請に応じて動いたとなれば、他の国にも影響を及ぼす可能性は高いでしょう」

「俺が、一葉や久遠に依頼すれば良い事か。なら雫よ。もう少しだけ待ってくれるかな?」

「はい!よろしくお願い致します。あ、あと職人の手でさえ直せない物があるのですが」

「もしかして北の城門か?それは俺が直すからいいよそこは」

一葉や久遠にお願いをした後、創造の力というよりこの場合は再生か。崩れた所に向かって杖をコンと地面につけると、光り輝いて壊される前の状態に戻した。ついでに城壁をコンクリート並みに強化してみた。その晩になった時に、二条館の廊下を歩いていると庭で静かに月を見上げていた詩乃がいた。

「詩乃、そこで何をしている?」

「いえ・・・・書見をしておりましたが、気分転換に少々月見を」

「そうか。あんまり夜更かしするなよ」

呟いてから、腰を下ろす。

「久遠様と一葉様にはもう?」

「ああ・・・・小寺家に使いを出すとさ」

二人も雫の活躍は知っていたし、明日の朝一番で使いを出してくれると。早馬を使うから、壁の普請が終わる頃には答えが返ってくる事もな。

「そうですか。・・・・一葉様はどのような条件でそれを?」

「大した事はないが、『はいそうですか』と受ける一葉ではないと知っているからな」

「そこまで立場を分かってるのなら安心です。ですが雫が既に、小寺家の不興を買っていなければ良いのですが」

雫の事が心配か。恐らく自分と重ねているのだろうか、美濃を少しでも良くしようと思い、龍興に進言をしても聞き入れてもらえなかった。それはそれでいいとして、軽く抱き寄せてからゆっくりと月見を堪能した。

「おーい雫」

「あ、一真様・・・・それに公方様っ!?」

「うむ。・・・・そう固くなるな。余は堅苦しいのは好かん」

「は、はい・・・・一真様、そのご様子は?」

「んー・・・・これはそうだな」

天下の足利将軍が、上機嫌で俺の腕にしがみついているからな。誰でも何事かと思うか。

「うむ。主様に貸しを一つ作っての、その借りを返してもろうておる。これもお主のお蔭じゃ」

「・・・・は、はぁ?」

「壁もほとんど完成だな」

「はい。皆、よく働いてくれました。明日には全ての作業が終わるかと思います」

「そうか・・・・幽から聞いたぞ。先日の加勢と併せて、改めて礼を言わせてもらおう。大義であった」

「はっ!」

「まあ余としては、この件が一番嬉しかったがの♪」

上機嫌で雫に見せつけているけど、腕には柔らかいのが当たってる。まあこれも役得だと思えばいいし、これから一葉とデート=逢引だ。

「はぁ・・・・?」

「んーとだな。小寺家に、雫を貸せという頼みの条件だ」

「事が首尾よく済んだらの。余が小寺に頭を下げた礼として、主様に一日付き合うよう約束しておったのじゃ」

久遠も雫の働き振りは知っていたから。戦力が増えるし、軍師が増えるからと納得してくれた。

「では・・・・使いが?」

「うむ。先程戻ってきた」

「それで、公方様が一真様と一緒にいらっしゃるという事は・・・・」

「そう言う事で、正式に雫は幕府で預かる事になった」

「小寺は、本当にやる気が無いらしいの。使いの者も、少しは引き延ばされるかと不安だったようだが、余りにあっさりと返答されて面食ろうておったわ」

「あはは・・・・そうでしょうね」

「雫としては微妙だと思うけど、これからもよろしくな」

「はい。お任せ下さい」

「それで雫。お主はこれより足利家預かりとなる訳だが・・・・余に刃を向けぬ限り、どこに行こうと自由じゃ。お主は何処の隊に付きたい?」

そう言った一葉が雫に言ったら、一葉の元でと言ったが一葉には御見通しのようだった。嘘付きは好かんらしいし、裏で笑う者より一葉を正面で笑う方がいい。

「別に善意ばかりで言うておる訳でもない。死に場所くらいは選ばせてやろうというのだ」

「おいおい一葉。それは神の前で言える事か?それならば軽く喧嘩売ってるかと思われるぞ」

「スマンスマン。主様が普通の人間であったなら、これからの戦はそういう事も在り得る。だが主様は神様であり、例え瀕死状態になったとしても生き返らせてくれるのだろう」

「当たり前だ。例え雫や一葉が死んだとしても、死者蘇生させるよ」

「叶うなら、一真様の下で働きとうございます」

「ふむ。そうか」

雫は顔を赤く染めているから、一葉がいじってるな。本来なら止めるが、まあいいか。

「俺と一緒に戦ってくれるなら、恋人になるって事だな」

「そういう事だな、主様」

「うぅ・・・・あ・・・・詩乃殿」

そんな話をしていたら、詩乃の事を思い出したんだろう。明るくなったが、また暗くなってしまった。

「詩乃がここにいる理由は、知ってるよな。雫も」

「・・・・はい。稲葉山城乗っ取りの件は、概ねは」

「雫の立場を見て自分と重ねてみたそうだ。言い方がきついのは詩乃の悪い癖だから許してほしい」

「はい。私の事を気に掛けて下さったのは、分かっていますから」

なら安心だ。また一真隊のメンバーが増えたがこれはこれでいい。

「じゃあ改めてだが、これからもよろしくな雫」

「はいっ!?」

「共に一真様の元で、の」

と言ったら顔を真っ赤になってしまった。まあこれはこれでいいし、一葉と同じ妾なのだから。

「では雫。話はこれで終いだ。城壁の普請、引き続き任せるぞ」

「お任せ下さい。休憩になったら、詩乃殿の所にも報告に行って参ります」

「雫から伝えた方がきっと喜ぶだろう」

「はいっ!」

「では行くぞ主様。まずは美味しい甘味でも・・・・」

「分かったから行くぞ」

俺は雫と別れて、一葉と共にデートした。その後、色々な所に行ってから帰ってきたのは夕方だった。 
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