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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§56 矜持と家族

「どーしたもんかなぁ……」

 任せて、と黎斗に自信たっぷりに言ったは良いが恵那は迷いが捨てきれない。黎斗の妹及び児童の保護と敵の捕縛、という「やらなければならない事」ははっきりしている。

「でもどこにいるんだろう……?」

 黎斗の実家に行った事もあるので、彼の妹と面識はある。が、名前は知らない。黎斗が徹底的に実家と神絡みの話を切り離していたことにより、話す機会がほとんどなかったことも一因だ。しかしこんなことになるならば、名前の一つでも聞いておけばよかった。

「ねぇねぇ」

「ひっ!!」

「……これは心にくるね」

 声をかけただけで怯えて後ずさる女子児童。精神面へのダメージが半端ない。が、しょうがない。なんせ今居る場所はかなり高い、百メートル位あるようなビルに拘束される。相手はテロリストにしか見えない。おまけにそんなビルの頂上に突撃する飛行機。爆発し、吹き飛び、炎上するビル。何処のB級映画だとツッコミが入ってもおかしくない。

「この子達普通の子だもんねぇ」

 こんな状況になって平常心でいたらそれはそれで異常者だ。しかし、これでは人に聞くことも出来ない。

「元凶の人達に聞こうかな」

 振り向けば、腰が抜けた風の術者しかいない。失神している人間もちらほら見られる。これならば、反抗はあるまい。油断をする気などないが。

「一応聞くよ。抵抗、する?」

「そんな恐れ多いこと、できません……」

 蛍火を構えた恵那の言葉に、術者達は土気色の顔で答えた。

「――――なんて、言うと思ったか?」

「!?」

 背後から感じる悪寒を信じて、蛍火を凪ぐ。刀は虚しく宙を切り、数m離れたところに一つの影が着地した。

「お前、何をしている!!」

 後ろで叫んでいる男たちを無視して男が笑う。

「ほぅ……少しはやるようだな」

「れーとさんに挑むの? 恵那を瞬殺出来なきゃ話にならないよ?」

 瞬殺出来てようやく土俵だろう。武術での勝負で考えるのならば。瞬時に距離を詰める相手に剣を振り下ろし、蛍火と相手の剣が衝突する。どうも嫌な予感がする。

「神殺しの巫女。貴様をここで潰す」

「あなた……!!」

 鍔迫り合いになって改めて浮き彫りになる男の異様さ。

「我が使命は、偉大なる主の敵を打ち砕くこと」

 男の肌は病的なまでに白く、瞳は、血のように朱い色をしていた。

●●●



 剣と剣が交差する。三合目にして、黎斗の剣が相手の左腹に突き刺さる。

「それほどまでに俺が憎いか? 神殺し」

「うる、さいッ!!」

 挑発だ。落ち着け。大丈夫。落ち着いている。色々な言葉が頭の中を走り回る。

「しっかし、それほど大事なのか? あの他人(・・)が。家族ごっこは、そんなに楽しいか?」

「――――」

 思考が、止まった。それはほんの一瞬。

「おいおい、情けねぇな」

「ぐっ!!」

 その隙に殴りくる少年。彼の一撃は黎斗の五臓六腑を粉砕し、四肢を撒き散らし、遥か彼方へ吹き飛ばす。壁をぶち抜き、飛ばされた先は空。

「弱っ」

 神殺しとは思えない耐久性に、予想外だと目を見開く少年。

「まぁ、油断してると返り討ちに遭うしな」

 念を入れて眷属に遺骸を始末させようとすれば、足元が揺れた。

「一体何が――?」

 直後に浮遊感。目まぐるしく回転する視界。ついで、崩壊していく壁と天井。

「……へぇ。滅茶苦茶やるね」

 呟く少年の目の前には、完全に再生した黎斗がいた。

「精神攻撃かましてくるお前に言われたくない。そもそも事前連絡回してこの辺は一般人退避済みなんだよ」

「だからって、俺の居た場所を”フロア毎切断して”投げるか普通?」

 それが、黎斗のとった手段。空中で再生したのち、ワイヤーで敵の居た階層のすぐ下を両断。あとは敵の居た階層から上をワイヤーで引っ張り放り投げ、叩きつける。

「そうしないと下の階の人質に影響でるからね。これで人質はいない。こっからが本番だ」

 屋外となってしまった部屋の中で黎斗が宣言する。

「ほぅ。しっかし再生系の権能持ちか。ヒヒヒ、実に面倒くさい」

 対する少年は、冷静そのもの。動揺する気配は微塵も無い。

「一つ聞きたい。何故、他人だとわかった?」

 戸籍上も、本人との関係も手を回した。関係性に気付くことが出来るのは、須佐之男命達古老のごく一部位の筈だ。

「精神操作出来るのがお前だけだと思ってんのか?」

「お前――!!」

 もう、やめだ(・・・)

「天より来たれ輝く御柱――――!!」

 黎斗が聖句を唱えるたびに、増大する呪力が渦を描く。

「消し飛べ!!」

 右手から放たれる必滅の光線。破滅を齎す輝きは目にした時点で回避は不可能だ。

「……ふっ」

「!?」

 万象を消し飛ばす光線は、放たれると同時に、消滅(・・)する。黒に染まり世界を映さなくなる片目と共に、周囲に闇の帳が落ちる。夜が、始まる。

「……夜を強制的に作り出す権能?」

 自問するが答えは否。もし夜を作り出して破壊光線を無効化したのなら、片目が失明する筈が無い。左目が光を失っているということは、間違いなく破壊光線を放つこと()出来たということ。破壊光線は、範囲・威力共に他の追随を許さない。全カンピオーネを合わせても最上位に位置するであろう殲滅特化の権能だ。それを、いともたやすく無効化する。鏡の反射みたいな小道具も何もなく。

「腑に落ちない顔をしているな」

 そういう少年の風貌は、美青年から青白い顔をした男へと変貌を遂げている。

「まぁね」

 威力と範囲に特化しているこの権能を簡単に打ち消すことは容易ではない。そして、もう破壊光線は撃てない(・・・・)。これが容姿が変わる程度の代償とは思えない。もし仮にあるとすれば――――

「試してみるか」

 呟き、二郎真君の権能を発動。変化対象は草薙護堂。月に七十二回、既知の存在に変貌する権能。

「これまた、俺と同種の力か」

 そう言った男は姿を変える。凶暴な牙を研ぐ狼に。闇夜を悠然と飛ぶコウモリに。

「我が元に来たれ、勝利のために。不死の太陽よ、我が為に輝ける駿馬を遣わし給え!」

 白馬が使える筈、という確信の下で変化したが、予想通り白馬が使えた。これを無効化(・・・)するかどうか、だ。

「ほぅ、芸の細かい男だ。だが無駄だよ」

 不敵に笑う男の前で、再び太陽が掻き消える。

「今度は、こっちの番だ」

 人に戻った彼が指を鳴らすと同時に四方から襲いくる犬の群れ。

「我は無知なる闇の神!!」

 邪気が、噴出する。飛びかかってくる犬は悉く命を奪われ消滅する。そのまま、邪気を相手の方へ噴出する。

「じゃあ、こっちも」

 嗤う男の手に、瘴気が集う。そのまま、邪気と衝突。大気を歪めて、弾け飛ぶ。

「それで終わりじゃ、ないんだろ?」

 鼠の群れが、蝙蝠の群れが、馬鹿馬鹿しい数で襲来する。

「喰らえ」

 それに対するのは紫電を纏った八匹の龍。数こそ圧倒的に少ないが、その実力差は数を補って余りある。

「大体わかった。お前の出自がなんだろうが関係ない、次で、潰す」

 これほどまでに強気な発言になるのは久しぶりだ。

「あはははは、ホントに潰せんの?」

 嘲笑してくる男に返す言葉として選ぶのは、先程言い負かされたこと。これだけは言わねば、気が済まない。

「さっき」

「?」

「家族ごっこ、と言ったな。実際そうなんだろうさ。義父(とう)さんも、義母(かあ)さんも。義妹(いもうと)も。だけど」

 確かに、現世での行動に支障が出るから、適当に選んだ、といっても過言ではない。偽りの関係だ。

「こっちが仕組んだとはいえ、あっちは僕を”息子”として認識してくれているんだよ」

 赤の他人との数日程度の家族ごっこに感情移入するとは。甘ちゃんになったものだ、などと苦笑しつつ。

「だから、せめて。……長男としての責任を果たす。義妹(あいつ)を傷つけさせは、しない」

 本当の家族とは別れたきり。携帯電話内部の写真頼み。黎斗にとって家族と呼べるのは須佐之男命達やエル達くらいだった。そもそも人間と触れ合ったのが最近になるまでなかった。だから余計に新鮮に感じたのかもしれない。マンガなどを読んで家族関係に憧れていたのかもしれない。

「洗脳とかいうゲスい戦法使った以上、偉そうに言えないんだけどさ」

 なるべく、巻き込まないようにしてきた。なるべく、金銭的負担にならないように、援助してきた。それも全ては罪悪感があったからなのだろうか。

「まぁ、クサいセリフ言ったところで俺に先手とられて後手に回っているワケだし?  何言っても絵空事だぜ?」

 なかなか辛辣な事を言う奴だ。

「そうだね。だから言っただろう? ――――全力で潰しにかかる、と」

 人間は基本的に助ける方針だ。だがそれは出来る範囲で、の話。家族や友人知人でもない限り、無理に助ける気は無い。

「一万匹の鳥や魚と千人の人間。どっちかを救うなら僕は迷わず鳥や魚を選ぶ」

 それは、黎斗が幽世に引きこもる前に徹底していた事。環境を破壊する人間共を助ける必要性を感じなかったから掲げた志。大自然と触れ合う生活。

「……いきなり何言ってんの?」

 その疑問に答えずに、黎斗の姿が変貌する。アレクサンドル・ガスコイン。黒王子の異名を持つ魔王に変貌した黎斗はとん、と軽くステップを踏んで。

「これで、最後の問題はクリア、だ」

 大迷宮を作り、恵那や児童達を押し込める。

「……随分余裕だなおい」

「一応避難勧告は出した。時間も結構与えた。だから、こっから先は知らない」

 そういう黎斗の目は昏い。

「シャマシュも効かない。スーリヤも効かない。オマケに白馬も効かない。完全な太陽アンチ能力だな」

「……まぁ、これだけやってりゃバレるか」

 太陽神の権能が使えず、邪気が決定打となり得ない。やりにくい相手に見えるが、その程度今までも経験してきた。まして太陽を封じる権能は須佐之男命とやりあった時に散々煮え湯を飲まされた能力なのだから。

「じゃあこれはどうだ? ……エリ、エリ、レマ・サバクタニ! 主よ、何故我を見捨て給う!」

 そう言って男が唱えるのは殲滅の言霊。

「使う意味ないから」

 冷めた口調で言うと同時に男の言霊が霧消する。サリエルの邪眼を前にして、あらゆる魔術は意味をなさない。ましてや人間程度が使える魔術など。

「ゥヒヒ、お前も無効化すんのか」

 嗚呼――――本当に、苛立つ笑いだ。

「変化――――斉天大聖・孫悟空」

 分身するのは、強大な力を誇る東洋の猿神。変化と同時に、筋斗雲で空高く。

「ハッ、逃がさねぇよ!!」

 宙を飛び追ってくる男を尻目に身を震わせる。自身の毛が、周囲に飛び回る。逃げるつもりなど最初からない。この時間が欲しかっただけだ。

「分身するか!」

 男の視界に写る無数の毛は全てが孫悟空の姿を形とる。分身の術で分身。そこで、更に変化。

「お前は、楽に殺さない」

 宣言するのは元の姿に戻った黎斗。分身体が変化した存在、つまりは黎斗が今まで会った神や神殺し達――もっとも黎斗が化けているだけなのだが――が一斉に男に牙をむく。

「今のままだとスーリヤとシャマシュになった僕が暴れられないからな」

 ツクヨミの権能で超加速した黎斗は刹那の間に男の背後に回り込む。右腕に宿すのは神殺しの焔。

「定義”男”。定義”太陽を隠す力”。分断せよ」

 言霊と共に焔を放つ。男に焔が当たる頃には、黎斗は元の位置に戻る。そこでちょうど時間切れ。

「ぐおぉ……!!」

 焼かれる痛みによる絶叫を合図に、夜が明けていく。光が差し込み、世界が光を取り戻す。そこからは、一方的だった。

 鎖が男を拘束し、木々が男を絞殺しにかかる。男の身体が金属化し始め、それが瞬時に熔解する。しかし、それだけでは終わらない。

「言の葉を聞け。万物に耳を傾けよ。路傍の石こそ叡智の鍵」

 男の頭を掴んで、カイムの権能を発動。男に与えるのはあらゆる生命と意思疎通を可能にする力。黎斗が普段使っている力だ。これを、手加減せずに、叩きこむ。

「ああああああああああああ!!!」

 木々のざわめきが。雑草のゆらめきが。虫の鳴き声が。鳥達の羽ばたきが。宙を漂う細菌の一つ一つの感情が。都市一つ分はゆうにあるであろう範囲の情報が――――男の脳内に流れ込む。耳を塞いでも流れてくる数多の意識は洪水となり、男の精神を破滅へ導く。

「如何に神と言えど、この大量の情報を前に自我を保てるものかよ」

 最初この力に目覚めた時、黎斗は意識を失った。それほどの情報量。殺神的な量の会話ログを一気に流すことで相手の精神に攻撃することこそカイムの権能の真骨頂。耐え切ったとしてもその後ひたすら聞こえてくる声に集中力を乱され、頭痛を引き起こされ、洞察力も低下する。須佐之男命をして「ロクな能力じゃねぇ」と言わしめる悪魔の権能、それが繋がる意思(リンク・ザ・ウィル)

「こんなもんか」

 黎斗の視線の先には、どろどろに熔けきった像、否、男だったもののなれの果て(・・・・・)。 
 

 
後書き
Name,二郎真君
Factor,強大な道教の武神
Skill,千変万化
既知の変化する能力。変化先の能力は黎斗が知っている範囲内で再現される
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久々に長い後書きですが大したこと書いてないですすいません。
すっげー余談ばっかです。

変化→分身→変化コンボですが
イザナミの能力での神増殖に比べると
メリット
・お手軽
・殺してなくても出現させられる
デメリット
・呪力の消費が激しい
・変化先のスペックは黎斗がどれだけ知っているかに左右される(=スペックの劣化が避けられない)
という違いがあったり。
まぁ多分ここら辺は裏設定で終わるんですが(苦笑
だってこの話公開する状況多分発生しませんし

あ、二郎真君原作で出てましたね(汗
まぁ、いいや☆
……変化の術はチートでした。
封神演義の二郎真君も変化でチートかましますからねぇ……
ぶっちゃけパワーバランス考えると変化の術でいいのか悩んだんですが、この作品元からパワーバランスないですし、いっか、と(笑



そして書いてて思ったんですがカイム単品での攻撃は初なんじゃなかろうか。
イメージ的には某クワガタライダーさんのペガサスが強制変身解除した時みたいな。アレの極悪版です



今回出てきた神様の名前?
そんなものなかったんや(爆 
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