ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第47話 嘘吐き全快!! まとめて拉致れるか?
こんにちはギルバートです。グラヴィルに侵入して居る草(諜報部員)と合流します。しかしその前に、カトレアと会わなければなりません。黒髪の貴族と言うだけで、ドリュアス家が特定されかねないからです。なのでフェイスチェンジだけでなく、髪色を変えるのは必須です。
と言う訳で、トリステイン魔法学院までやって来ました。信頼できる水のスクウェアメイジが、カトレアしか居ないからです。門番に話しかけてカトレアを……と思っていたら、タイミング良くカトレアが出て来ました。
「ギル。お待たせ♪」
しかし何故かトランクを持っていて、服装も余所行きの装いになってます。
「えっと、その……」
「ギル。私も行くわ」
何処へ?
「とりあえず、ドリュアス家本邸まで」
何故に?
「ギル。お義母さまの説得。後回しにする心算でしょう」
はい。全て見透かされています。思いっきり手紙で済ませる心算でした。父上と母上なら、事後承諾でも理由を話せば問題ないと思っていました。
「そんな不義理をしてはいけないわ」
まったくもって仰るとおりです。
「私も一緒に行ってあげるから。お義母さまに話しましょう」
私が力なく頷くと、カトレアはティア(風竜ver)に乗り込みました。後に残されたのは、ガックリと項垂れる私と唖然としている門番だけでした。
門番はカトレアの婚約者が、私の様な子供だった事に驚いたのでしょうか? それとも私が全く喋ってないのに、会話が成立した事に驚いたのでしょうか?
私は現実逃避に、そんな事を考えていました。
「ギル。早く」
カトレアに言われティアに乗り込むと、ドリュアス家本邸に向けて出発です。
「ギル。これからの予定は?」
出発してすぐにカトレアがそう聞いてきました。心が読めるならそんな事する必要も無いのですが、そう言うのも無粋でしょう。
「カトレアの言うとおり、一度ドリュアス家本邸に行きます。そこで母上達に“ゼロの使い魔原作知識”の存在だけ打ち明け、ジョゼットの受け入れをお願いします。父上は王都に居るので事後承諾になってしまいますが、これに関しては諦めるしかありませんね。本邸には一泊だけして、後は予定通り行動する心算です」
私の言葉にカトレアは大きく頷いてくれます。
「そう言うカトレアは、本邸で一泊した後如何するのですか?」
そして無警戒に問いかけてしまいました。
「ギル。修道院に行くメンバーに、女の人は何人いるの?」
質問に質問が返ってきます。
「そ それは……」
しかも、かなり痛い。
「この場合女性が居ないのは不味いと思うけど」
まったくもって正論です。今回の作戦は急遽実行する事になったので、女性の人員をそろえる時間がありませんでした。一応ティアが居るには居ますが、ティアに年頃の少女の機微を分かれと言う方が無理です。現地に居る草も女性と言う話ですが、会った事が無いのであてに出来ません。
「それは暗に自分も連れてけ……っと、言う事ですか?」
思いっきり頷かれました。しかし決して悪い事ばかりではありません。女性が2人より3人の方が彼女達の警戒を軽くする事が出来ますし、同じ(人間の)女性のカトレアなら彼女達の機微にも敏感でしょう。そして何と言っても、カトレアの人を見る力は大きな武器になります。
(断れる理由がありませんね。ヴァリエール家や学院云々では、カトレアを説得する事は出来ませんし……)
結局私は頷くしかありませんでした。
「ところでレンは如何したのですか?」
「ギルと会う直前に魅惑の妖精亭に送ったわ」
ニッコリと笑いながら答えるカトレアに、ちょっとだけレンを不憫に思ったのは秘密です。……カトレアにはバレバレでしょうが。それにしても“行かせた”じゃなくて“送った”と言った事に、怖いと感じる私は変なのでしょうか?
「ギル? 如何したの?」
「な なんでもありません」
私はカトレアを直視出来なくて、思わず目を逸らしてしまいました。
---- SIDE ファビオ ----
ギルバート様の出発を確認して、報告書を提出する為に私達は王宮へと向かった。
王宮に到着しギルバート様の名前を出すと、有無を言わせない勢いで謁見の間へと連行される。
(これはギルバート様の勘が当たったかな)
「面を上げよ」
陛下の許しを得て顔を上げた。陛下の左隣りに、ヴァリエール公爵とアズロック様も居る。3人に共通している事は、入室してきたメンバーを見て僅かに動揺した事だ。
「此度の事件解決、大儀であった。褒めてつかわす」
「はっ!! 身に余るお言葉をいただき、恐縮に存じます」
定型の挨拶を交わし報告書を提出する。謁見はそれだけで終わり、退出するとアズロック様が追いかけて来た。
「ファビオ。ギルバートは如何したのだ?」
アズロック様の表情は引き攣っている。これは逃げられた事に感づかれたかな?
「ギルバート様は奴隷商が、ある修道院の襲撃を計画している“可能性がある”と言う報告を受け、確認に向かいました」
「奴隷商が?」
渋い顔をするアズロック様に、頷いて肯定する。
「何故私に報告しなかった?」
「“可能性がある”だけで、確認が取れてないからです。必要なのは真偽の確認ですが、早急に対応しなければならない場合を考え、ギルバート様は自ら行くと言って先程立たれました。ギルバート様からは伝言を頼まれていましたが、突然あのような場に通され……」
困惑したようなしぐさをして見せると、アズロック様は盛大に溜息を吐いた。
「逃げられたな。だがどうやって……」
やはり父親にはバレバレだな。しかしまさか、勘だけで回避したとは思わないだろう。
「ギルバート様が居ないと、何か不味い事があるのでしょうか?」
「いや、そう言う訳ではない。もしギルバートが居れば、陛下から勲章を賜われたかもしれないと言うだけの話だ。それにギルバートは、私の陞爵式に出席しなかったから、これを機に顔を売っておくべきだと思ってな」
……やっぱり当たりだったか。
「それは良かったです」
アズロック様の眉間にしわが寄る。
「何故かね?」
「他の貴族から余計な妬みを買わずに済みましたから」
「!!」
ギルバート様の立場と心情を良く理解した一言に、アズロック様はぐぅの音も出ない様だ。と言うか、ギルバート様の歳で勲章なんかもらったら、如何なるかくらい想像してほしい。
いや……想像出来ても、せざるを得なかったんだろう。立場って面倒だな。
「それはそうと、ギルバート様から預かって来た物があるのですが……」
「?……分かった。とりあえず私の執務室で良いか?」
「はい。ヴァリエール公爵を通して、王家へ献上する品との事です」
「分かった。公爵も呼ぼう」
アズロック様がそう言うと、この場の話は終わりなので執務室へ移動する。
献上品を見たアズロック様とヴァリエール公爵は頭を抱えていた。
私は良く分からないのだが、ガラスの置き物は過去に例の無い一品であり、杖の方に至っては国宝級と言って良い品であるそうだ。
その所為か、場に献上品を無かった事にしたい雰囲気が出て来た。なので公爵には、一応釘を刺しておく。
「ヴァリエール公爵」
「なんだ?」
「例の杖はカトレア様が既にお受け取りになっています。大変喜んでいらっしゃいました」
「ぐぬぅ」
もはやうめき声しか出ない公爵。この杖を作る様に意見した事を後悔しているのだろう。正に口は災いの元だ。巻き込まれたアズロック様には同情する。
「では私はこれにて失礼します。くれぐれも製作者については、ご内密にお願いします」
最後に念を押すと、恨みがましい目で見られてしまった。私が悪い訳ではないのだが。
魅惑の妖精亭に戻ると、既にレン(猫ver)が待っていた。酷く草臥れた様子なのは何故だろう?
「では、いったんゲルマニアに向かい、船を購入・偽装してガリアに向かいます。クリストフ様とドナルド様には、引き続き護衛をお願いします」
2人が了承してくれたので、レンに向き直る。
「レン様は、ギルバート様との連絡役と、船の守護をお願いします」
レンは弱々しくも「応」と答えた。
---- SIDE ファビオ END ----
ドリュアス家本邸に到着しました。……到着してしまいました。
「ほら。ギル。入るわよ」
元気に声をかけて来るカトレアに引っ張られ、本邸へと足を踏み入れます。
そんな私達の様子を見た使用人達は、ひそひそと何かを話しています。風メイジなので思いっきり聞こえましたが、その内容は速攻で頭の中から追い出しました。あまりにも情けないし。
「兄様!!」
「アナスタシア」
アナスタシアが私の胸の中に飛び込んできました。
「お帰りなさいませ」
「ただ今戻りました」
頭を撫でてやると、凄く嬉しそうにしてくれます。カトレアの視線がちょっと怖いですが……。
「ギル。帰ったのですか?」
「はい。ただ今戻りました」
続いて迎えてくれたのはディーネでした。カトレアに気付き歓迎の挨拶をすると、すぐに私に向き直ります。
「王都で叙勲式があると聞いたのですが……」
やっぱり。
「いえ。大切な話があったので、こちらに来ました」
ディーネの目元がピクリと反応しました。そしてカトレアを一瞥すると、あきれ顔で溜息を吐きます。何か勘違いしていませんか?
「話の内容は、以前からディーネが聞きたがっていた事ですよ。人に聞かれたくないので、母上とアナスタシアも含めて聞き耳が無い所で話したいです」
そう言うとディーネの顔が、途端に真剣な物になりました。
「なら執務室ですね。母様もそこに居ますし」
ハイ決定です。早速執務室に移動します。執務室に到着すると、アナスタシアにへばり付かれている私の代わりに、ディーネがノックをしてくれました。
「入りなさい」
私とカトレアが入室すると、母上の顔に動揺の色が広がりました。
「な なんでギルバートちゃんが?」
母上もグルだった様です。分かっていたとはいえ結構ショックですね。まあ、その事はいったん忘れましょう。
「まあ、……その方が良いか」
母上はそこでホッとした様な表情をすると、そのまま視線を私からカトレアに移ります。
「それと……」
「大切なお話があったので戻って来ました」
私がそう言うと、母上は大きく溜息を吐いてから何時もの表情に戻りました。そしてカトレアに歓迎の挨拶をします。その間にディーネが、聞き耳防止用のマジックアイテムを発動させました。
「それで、話とは何なの?」
そんなに焦らないでほしいです。私は長い話になると、着席を促しました。
「話とは……」
そこでいったん言葉を止め、母上、ディーネ、アナスタシア、カトレアの顔を順に見ました。そしてもう一度心を落ち着かせ口を開きます。
「私が何故ルイズの魔法系統を知っていたかです」
そして私は長い説明を始めました。まず前提条件として“物語と因子の流転”の話をします。
「……創られた物語は、因子となり世界より漏れ出る。因子は新たな世界を創りだす。創られた世界は因子を還す。世界が因子を取り込み、人は新たな物語を紡ぎだす。
これが“物語と因子の流転”です」
私が説明を終え言葉を切ると、母上達は難しい顔をしていました。まだ本題に入っていないので、先行きが少々不安です。
「そして俺の世界に、“ゼロの使い魔”と言う物語があります。その物語の主要人物の1人が、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。そして主人公は、その使い魔となる少年です。物語は彼女が、トリステイン魔法学院の使い魔召喚の儀式で少年を呼び出す所から始まります」
私はそこまで言うと、語るのを止めました。ディーネが目で“続きは?”と聞いて来たので、私は目を瞑り首を横に振ります。
「物語の内容については、知らない方が良いでしょう」
私がそう言うと、ディーネはうつむきます。反論や質問が無いと思った私は、本題に移ろうとしましたが母上がそれを止めました。
「その物語には、ドリュアス家は出てこない。……いえ。ドリュアス家自体が存在しない。違う?」
私はその言葉に答える事が出来ませんでした。
「ギルバートちゃんは、何より自分の存在がイレギュラーと考えているのでしょう。そしてギルバートちゃんが居なければ……いえ、あの時ギルバートちゃんが泣いてくれなければ、私は生きて居られなかったでしょう。そしてそれはアズロックも同じよ」
私は“自身の存在がイレギュラー”であると言う考えを、完全に捨て去る事が出来ていません。その事実はカトレアだけでなく、父上、母上、ディーネにも気付かれているのは知っていました。アナスタシアも理屈ではなく本能的にそれを感じ取っているのでしょう。(だから、べたべたと甘えて来る)
本来は無いはずの物が在ると言う矛盾。だから母上は、ふとした瞬間に本来の道筋を考えてしまうのでしょう。そしてそれが、母上にとってどれだけの絶望だったかも……。
私は嘘を吐きたくありませんでした。だから、以前父上と母上の前で「純粋な貴方達の子供である。ギルバートは、もう存在しません」と、言い切った時の様に事実だけを突き付けます。
「はい。その物語の中に、私はおろかドリュアス家も存在しません。タルブ領の領主名もアストン伯とありました」
「アストン伯……ね。あの人が治めてくれていたなら、タルブが困窮する事は無かったのでしょうね」
母上は安堵の声を上げました。並行世界とは言え、領民が不幸で無かった事に安堵しているのでしょう。いや、思考を無理やり逸らしただけか?
ちなみにアストン伯とは、陛下を迎える際に(陛下を慕い)付いて来た元アルビオン貴族です。当然王権強化を掲げる王党派で、運営が難しいラ・ロシェール(貴族派の横槍や商人達の勢力争いが原因)の代官職をこなす優秀な文官です。まあ、その一方で軍事面には弱く、レコンキスタ相手にアッサリ戦死していましたが……。
「きっと難しいラ・ロシェール運営を認められて、陛下から領地を賜わったのでしょうね」
母上は感慨深そうにしていますが、陛下の死後に体よく左遷されたと言うのが本当の所でしょう。
これは黙っておいた方が良さそうですね。そう判断した私が本題に戻そうとした所で、今度はディーネから横槍を入れられました。
「アンリエッタ姫を異常に避けるのも、その“ゼロの使い魔”と言う物語が原因ですか?」
答えにくい事をズバリ聞いてくれました。私が普段口にしている理由では、これほどまでに避ける理由にはならないので仕方が無いでしょう。
「……はい」
一応肯定だけして“これ以上聞くな”と、ジェスチャーしておきます。色恋沙汰で“国を何度も滅ぼしかけたアホ姫”とは言えませんから。更に言うと“恋愛対象が私になりかねない”とか、自意識過剰な理由なんて言えません。(あながち否定出来ないのが恐ろしい)色恋沙汰で王党派(王家・ヴァリエール家・ドリュアス家)が分裂なんて本気で勘弁です。原作通り、貴方はウェールズ殿下に惚れてください。彼は助けてあげるから。
「本題に戻します」
私がそう言うと、母上達の顔が引き締まりました。
「ガリアのオルレアン公には、双子の娘が居ます」
「なっ!!」
驚いたのは母上だけで、ディーネとアナスタシアはキョトンとしています。
「ガリア王家で双子は禁忌とされていて、最悪生まれて直ぐに片方が殺されます。王家に生まれた双子の兄弟が、王権をかけて国を割り殺し合ったのが原因らしいですが……。まあ、下らない貴族のしがらみと言う奴ですね。もしバレた場合、オルレアン公にとってスキャンダルになります」
念の為、ディーネとアナスタシアに補足を入れておきます。
「1人は姉で、王家に残っているシャルロット。もう1人は、居なかった事にされた妹のジョゼットです。ジョゼットは生まれて直ぐに、ロマリアが経営する修道院に預けられました」
ロマリアと言う言葉を聞いた途端、母上とディーネの眉間に皺が寄りました。
「私はこのジョゼットを、秘密裏に救出したいと考えています」
現状が分かっている母上は頭を抱えてしまいます。こんな危険な案件に関わりたくないのでしょう。
「何故救出が必要なのですか?」
ディーネがそう聞いてきました。アナスタシアは、先程から頭の中が“?”で埋まっている様です。
「このまま放っておけば、ジョゼットはロマリアに利用され操り人形にされます。その結果ガリアは、大きくロマリア派に傾く事になるでしょう」
ディーネが渋い顔をします。アナスタシアもようやく危険性を理解した様です。
「そして更に不味いのがロマリアの現状です。表に出せない貴族の子供を預かる事により、その親から口止め料として莫大な寄付を受け取っています。しかし相次ぐスキャンダルから寄付金が激減しているので、ロマリアは取れる所から絞り取ろうとするでしょう。しかし、親達は寄付金額の維持は応じられるでしょうが、増額に応じられるかと言うと……」
「応じる理由がありませんね。そもそも(懐事情的な意味で)応じられない貴族も居るでしょうし。となると、脅迫ですか……」
ディーネが答えてくれたので、私は頷いておきます。
「そう。脅迫です。それが第一の収入になりますね」
私がそこでいったん言葉を切ると、母上の目が吊り上がりました。怖いけどここでやっぱりいいとは言えません。
「そして貴族の血をひく奴隷は、高く売れると思いませんか?」
これが、今ジョゼット救出に踏み切る最大の理由です。あくまで懸念の範囲ですが、とても無視出来る話ではありません。まあ、ここまでロマリア(神官達)を追い込んだのは私なのですが。
「……それって」
アナスタシアが呆然としながら口を開きました。それから、ディーネと母上の血管は大丈夫でしょうか?
「大きな収入を得られる上に、修道院の維持費と言う支出が無くなります。あのゲス共が、やらないと思いますか?」
執務室がシンと静まりかえります。と言うか、母上から放出される殺気で誰も動けません。
「フッフフフフフフフフ」
自分で仕掛けておいてなんですが、本気で怖いです。そこで笑わないでください。
「ギルバートちゃん」
「はい!!」
「私が許します。全員保護しなさい」
流石に全員は無理です。ドリュアス家が関わった事は、隠さなければなりません。無理やり連れて来て、逃げ出されたりしたら大変な事になります。監禁する訳にも行かないし……。
「全員よ。例外は認めないわ」
この状況では頷くしかありません。本当に如何しよう。
私達は、ガリアの海沿いの街グラヴィルに来ました。
ここまでくれば、ジョゼットが居るセント・マルガリタ修道院は目と鼻の先です。と言っても、漁村からではサンドウェリー寺院がある丘が邪魔で、修道院を確認出来ません。逆にサンドウェリー寺院からは丸見えなので、連れ出す時に工夫が必要です。
「ようやく到着しましたね」
「ええ」
「……の」
私、カトレア、ティア(人間ver)は、3人そろって疲れた顔をしています。母上の迫力に負けて、予定を変更して一泊せずに逃げ出しました。それだけならまだ良いのですが、黒髪や桃髪を見られない様にする為に、少し離れた町から顔と髪色を変え(騎獣は目立つから)馬車で移動したのです。その馬車が安物で……。
ティアは私とカトレアが、お揃いの髪色にした時に「吾も……」と言い出した事を後悔しているでしょう。人型でなければ無関係でいられましたし、馬車から抜け出す事も出来ましたから。途中で馬車から消えるのと怪しまれるので、私とカトレアは逃げる事を許しませんでした。(道づれにしたとも言う)おかげで全員グロッキー状態です。と言うか、ティアの消耗が一番ひどいです。
「疲れましたね」
「ええ」
「……じゃの」
恐怖心から休まず移動したのも不味かったです。早く草と合流しましょう。
「明日からサンドウェリー寺院を調べるのに忙しくなります。今日は早々に休む事にしましょう」
私がそう言って移動を促すと、カトレアはとぼとぼと付いてきますが、その動きは鈍く逸れそうで怖いですね。そしてティアは、明らかにカトレアより重症です。そう判断した私は、2人の手を取り目的の宿へ引っ張って行く事にしました。馬車の揺れが辛かったのは分かりますが、確りしてほしいです。
「やっと到着しました」
私達が泊まる宿は、平民用にしては立派な造りをしています。ファビオが私に気を使ったのでしょうか? それとも草(諜報員)が、女性だからでしょうか?
後ろを振り返ると、カトレアがニコニコしています。しかし宿の中に入る為に手を放すと、途端に不満そうな顔になりました。まあ、カトレアの手だけ放したので、不満に思うのも当然でしょう。しかし、私も余裕が無いので付き合って居られません。無言で宿に入ると、カトレアはあわてて私に続きます。
「店主。3人でふ「一部屋で良いわ」……空いてるか?」
カトレア。そう言う行動は止めて欲しいです。そして残念ながら、店主は直ぐに首を横に振りました。その事実に頭が痛くなりましたが、シャマーラとは接触しておかなければなりません。
「俺の名はアスだ。連れのシャマーラが、ここに部屋を取っているはずだ。伝言は預かってないか?」
店主に問いかけると、返事は直ぐに帰ってきました。
「預かってる。部屋に来てくれとよ。シャマーラの部屋は201号室だ。それから、彼女の連れなら同じ部屋に泊まれるぞ。彼女が止まっているのは4人部屋だし、その分の料金は貰っているからな」
私は店主に礼を言って、その場を辞します。
ちなみにアスとは、私が今回使う偽名です。カトレアがレア。ティアがアイドス。シャマーラは先に現地入りしている草が使っている名前です。元ネタは知っている人だけが知っている。……詳しくは説明出来ません。だから聞かないでください。私の精神衛生上……。
「早速シャマーラの部屋へ行きますよ」
私がそう言うと、カトレアは力無く頷きました。
「レアとアイドスは、慣れない馬車で疲れているでしょう。部屋に行けば休めます。もう少しだから頑張ってください」
私がそう言うと、素直に頷いてくれました。
「ほら。行くわよ」
ティアがカトレアに促されて……と言うか、半ば引きずられて階段を上って行きます。
「おっと。おいて行かれてしまいますね」
私はそう呟くと、私は2人を追う様に階段を昇り始めました。
201号室に着いてノックすると、返事は直ぐに帰ってきました。
「はい。なにか?」
「“お母さまの事”でお話があります。今お時間よろしいですか?」
「分かりました。入ってください」
シャマーラに促され、私達は部屋へ入ります。ちなみに“お母さまの事”と言うのが、合言葉になっています。
「すみません。連れの2人が慣れない馬車で……」
一応、歩きながら謝罪しておきます。
「気にしないで。それより……、えっと」
そしてシャマーラは、何か言いずらそうに口ごもりました。私は不思議に思い聞き返そうを思いましたが、その前に「やっぱりいい」と言われてしまいました。ホントに何なんでしょうか? まさか何かドジでも踏んだとか……
私が本格的に心配になった所で、カトレアがティアを寝かせ終わりました。
ティアはベッドにうつ伏せに寝かされて、唸っています。馬車の所為で、お尻が辛いのでしょう。
私はドアを閉じ、サイレントの魔法を使って聞き耳を防止します。
「これで大丈夫ですよ。先ずは自己紹介と行きましょう。と言っても作戦中なので、本名は伏せておきましょう。私がアスで、そっちがレア。うつ伏せになっているのがアイドスです」
するとティアが顔を上げ……
「すまぬの。慣れぬ馬車の所為で、この醜態じゃ。吾は……?」
そこで何故かティアの動きが止まりました。
「ブリジットではないか。何故汝がここに居るのじゃ?」
本名を伏せようと言ったそばから、相手の本名を暴かないでほしいです。って、なんでティアが彼女の本名を知っているのですか? 不思議に思っていると、事態は更に進行……してしまいました。してしまったのです。
「私の本名を知ってる? ……それにその喋り方。髪色と顔が違うけど……ひょっとして、ティアさん?」
「応」
この時点で私は、内心で溜息を吐く位の余裕がありました。
「あの。私……あなたに聞きたい事があって探していたの!!」
シャマーラ……いえ、ブリジットはすごい勢いでティアに詰め寄ります。
「な なんじゃ?」
「あの人!! あの人は誰で何処に居るの!?」
ティアが“誰の事か分からない”と言わんばかりに首をひねります。そして少し考えるそぶりを見せると、直ぐに「あぁ」と声を上げました。
「そう!! あの人は何処に居るの!?」
「ファビオな……」
「ちぃぐゎう!! あんなひょろもやしの事なんて聞いてないわ!!」
ファビオは細いですが、決して貧弱ではありません。むしろトレーニングを欠かしていないので、見た目より筋肉があります。私が内心でファビオのフォローを入れていると、何故かティアの顔色が青くなりました。
ティアの反応に釈然としない私は、首をひねりカトレアの方を見ました。カトレアも似た様な反応をしています。目が合うと、同時に首をひねってしまいます。その時私とカトレアの顔が、盛大に引き攣りました。2人揃ってお尻を押さえます。
((ティア!! こんな時に《共鳴》なんか使うな!!))byギル&カトレア
(すまぬ!! じゃが声に出すわけにも行かぬ。非常事態じゃ!!)byティア
(何なの?)byカトレア
カトレアも怒ってますね。
(あの人とは、精霊達の事じゃ!!)byティア
………………
…………
……
「はぁ?」
ティアの言葉を理解するのに、時間がかかったのは仕方が無いと思います。カトレアは未だにフリーズしたままです。
(主にも話したじゃろう。吾が奴隷商にさらわれた時に会った娘じゃ。吾とブリジットに接点があるのは、ファビオと精霊だけじゃ)byティア
と言うか、とても信じられません。他にさらわれた人や犯人とか……。
「あの人って、ムキムキ・スキンヘッド・刺青のオッサンですか?」
「あなたも知ってるの!?」
はい 確定。如何しよう? と言うか、ブリジットの矛先が私に向きました。らんらんと輝く目が怖いです。
助けを求める為カトレアを見ると、視線をそらされました。ティアは枕に顔を埋め、力尽きた振りをしています。そして何時の間にか、尻の痛みもひいていました。(……《共鳴》が切れてる!? 見捨てられた!!)
私は二人の無情を嘆きながら、恋する乙女を迎え撃つ羽目になりました。
「昨日は酷い目に遭いました」
私がそう口にすると、カトレアとティアが気まずそうな顔をしました。
「一晩経って彼女も落ち着いたでしょうし、本題に入れるでしょう。私も落ち着けましたし……」
あの後私は切れてしまい、スリープ・クラウド《眠りの雲》でブリジットを眠らせました。その直後、カトレアに同じ魔法で眠らされましたが……。おかげ様で私の機嫌はすこぶる悪いです。
「カトレアが主を眠らせたりするから……」
「あのまま放置したら徹夜コースで……」
2人が小声で言い争いを始めましたが、思いっきり聞こえています。
「カトレア」←声が重低音。自分でもビックリするくらい、ドスが利いた声が出ます。怒ると何故かこうなるんですよね。
2人の肩がビクッとなり、がたがたと震え始めました。
「何を怯えているのですか?」
笑顔で聞くと、仲良く首を横に振ります。
「それよりカトレアは、ブリジットを起こしてください」
カトレアはカクカクと頷き、ブリジットが横になっているベッドへ行きます。ティアの目が“置いて行かないで”と訴えてましたが、その事に気付く余裕は今のカトレアにありません。と言うか、同じ部屋に居るのですから変わらないと思います。
私から離れて一息ついたカトレアは、「笑顔から漏れる殺気。何時爆発するか分からない爆弾みたいな雰囲気。あの重低音なラスボス声。自覚してほしい」とか言ってます。思いっきり聞こえています。カトレアは直ぐに笑ってごまかしましたが、あれは聞こえるのを前提で口にしましたね。面と向かって言えない要望を口にした心算なのでしょうが、残念ながら自覚していて改める気が無いので意味がありません。と言うか、不味い相手(目上や子供)の前ではちゃんと自制しています。
しかしカトレアは、原作の面影がぜんぜんありません。これも私が居る影響かと思うと、頭が痛いと言うか……遣る瀬無いと言うか……。
目の前で縮こまっているティアを見ながら、そんな事を考えているとカトレアがブリジットを連れて戻ってきました。
「昨日は大変失礼……いたしました」
どうやらブリジットは一晩経って、だいぶ落ち着いたみたいです。「ドリュアス家の最高機密なので、オッサンの正体は教えられない」と言ったのも、効いた様です。
「気にしないでください。それより現状で分かっている事を教えていただけますか?」
「はい」
ブリジットは頷くと、説明を始めました。
「私の任務は、この町での拠点の維持とサンドウェリー寺院のマチス司祭を調査する事です。と言っても、実際はこの宿に部屋を取り続ける事と、寺院に通い彼と話をするだけの簡単な任務なのですが……」
まあ、当然と言えば当然ですね。彼女はスラム育ちのお陰で人を見る目はありますが、諜報に関しては素人です。ファビオが危険な任務につけるとは思えません。私がそう考えている内に、ブリジットの報告は終わりました。報告の最後の方になると、敬語を使わなくなりました。どうやら敬語は苦手な様です。
「それで、ブリジットはマチス司祭にどの様な印象を受けましたか?」
「良くも悪くも神官ってところね。職務に忠実なのは良いとして、不器用でクソ真面目。小心な所もあるけど、腐って無いだけ他の神官より十分まともよ」
想定通りですね。担い手候補が居る修道院の関係者に、下手な人間は採用しないでしょう。
「他に何か気付いた点や気になった点はありますか?」
「う~ん。気になったと言うか、不思議に思った事はあるよ」
「何ですか?」
「寄付する時に聞いたんだけど、寺院への寄付が急に増えたらしいの。それとグラヴィルは田舎の漁村なのに、神官や商人がやたらと多い事かな」
ブリジットが寺院で演じているのは、敬虔なブリミル教徒で裕福な商家の一人娘です。親の仕事について来て体調を崩し、迎えが来るまで逗留すると言う事になっています。怪しまれない様に、寺院に寄付もしています。その時に神官から聞いたのでしょう。
「トリステインで神官が問題を起こしたから、普通なら寄付が減ると思うんだけど……」
「あぁ、その事ですか」
1人で納得する私を、ブリジットが「如何言う事?」と目で聞いてきました。
「修道院には訳ありの貴族令嬢が、秘密裏に集められているのは知っていますね?」
ブリジットは軽く頷きます。
「親は止むを得ない事情で子供を預けていますが、子供に愛情が無い訳ではありません。当然“不自由させたくない”と、考えているでしょう。そう言った親達に出来るのは、子供の養育費を出す事。……つまり、寄付をする事だけです。しかし神官達が起こした不祥事の所為で、ロマリア自体が信用出来なくなってしまったのです。普通ならば寄付を続けるしかありませんが、サンドウェリー寺院やマチス司祭の事を知っている親は如何するでしょう?」
そこでブリジットは、得心が行ったと言う様に頷きました。
しかし私は心の中で(娘の安否や存在の発覚を心配した貴族が、調査員を出したのかもしれませんね。そいつらが正体を隠す為に、商人に……)と、付け加えました。それに別の懸念があります。
「他に何かありますか? 例えば、神官同士のいざこざとか」
ブリジットは首を横に振りました。寄付格差による軋轢は絶対に発生します。まだ発生していないか、表面化していないだけでしょう。しかし、神官が来ている以上それも時間の問題です。そして、何故寄付格差が発生するか疑問に思う者が出てくれば、セント・マルガリタ修道院の存在に気付く者も出て来ます。もし他の神官に秘密が漏れれば、蜜に群がる蟻の如く集まって来るでしょう。
そうなると、ジョゼット達の存在が明るみに出る可能性もあります。そうなれば、新たなスキャンダルを恐れる神官は如何言う行動に出るでしょう? 蜜を独占しようとする外道神官が居れば、私が最初に懸念した事につながります。
まあ、如何転んでも碌な事になりません。それに思ったより猶予も無さそうです。
「ファビオと合流次第、救出を行えるようにしますよ」
私はそう宣言すると、明日から如何動くか作戦会議を始めました。
グラヴィルに到着して3日が経ちました。
調査の方は順調なのですが、決して安心出来ません。私の想像以上に不味い状況が発覚したからです。
ハルケギニアに存在するロマリア関係の施設は、大小に関わらずロマリアから援助を受けています。当然昨今の寄付激減で、援助額の大規模な見直しが行われました。
ここまでは私の想定内ですが、そんな中で膨大な維持費を使うサンドウェリー寺院は私の想定以上に目立って居た様です。それに追い打ちをかけたのが、セント・マルガリタ修道院の支出が増え、逆に寺院の予算が増額された事です。修道院の維持には地形の関係で、竜籠や(空を飛ぶ方の)船が必要なのですが、風石の値上がりに対応出来なかったのです。(風石の値上がりは、大隆起阻止の為に地下の風石除去で産出量が低下したのが原因)
それが原因で現在グラヴィルは、サンドウェリー寺院を調べに来た神官が現在進行形で増えています。調査員らしき商人も増え、村では神官と商人があふれると言う異常な光景が広がっています。
(急がなければなりませんね。しかも原因の一端は、私……か)
私はファビオと合流次第、作戦を決行する決意を固めました。
更に2日経って、ようやくファビオ達が到着しました。
私達は宿を引き払い、港でファビオ達が乗って来た船に乗り込みます。
「首尾は如何ですか?」
船長室に入りサイレントを掛けると、早速報告を聞きます。
「はい。乗組員はドリュアス領外で、信頼出来る者に入れ替えました。多少手間取りましたが、この船の(空を飛ぶ船を海上船に)偽装の方も完璧です。ゲルマニアの職人は腕が良いです。風石も予定量を購入出来ました。……ちなみに、これが明細です」
ファビオが最後に私から目を逸らしたので、とても嫌な予感がします。
明細を受け取り金額を確認すると、思わず「ゲッ」となる様な金額が書き込んでありました。特に風石の値段が洒落になっていません。
「ファビオ。この金額は……」
「やはり問題となるのは風石です。価値の上昇で管理が厳しくなり、売買履歴を偽装するとなると……」
「確かに“多少の出費は目をつぶる”と言いましたが、それにしてもこの金額は……」
私が頭を抱えそうになると、ファビオが「笑って誤魔化します」と言わんばかりに口を開きました。
「やっぱり、私の後ろに神官の存在をチラつかせたのが原因ですかね?」
それだよ!! なんでそんな事したんだよ!! ゲルマニアでそんなことしたら、吹っかけられるに決まってんだろ!! って言うか、良く依頼を受けてもらえたな。
「今回の救出作戦を、一部神官の誘拐に見せかける為の策です。他にも色々してますよ。例えば……」
「それ以上は言わなくても良いです」
と言うか聞きたくないので黙らせます。ファビオが神官関連で、見境が無くなるのを忘れてました。まあ、リコード《記録》の話はしてあるので、早々足がつく事はないと信じたいです。
「……ギル」
私の後ろから明細を覗き込んだカトレアが、引き攣った声を出しました。
「だ 大丈夫です。必要経費……です。タブン」
滅茶苦茶不安です。後で母上に何を言われるか……。
「うぅ……如何しよう」
クルデンホルフから盗って来たお金がありますが、そのお金は基本的に使えません。(また盗みをしたなんて言ったら、母上達に殺されかねません)だからこの明細は、このまま母上に見せなければならないのです。やっておきましたで誤魔化されるほど、母上は甘くありません。
「まあ、今回は仕方が無いです」
お前が言うなファビオ。それから、クリフとドナも下手な慰めは要りません。
「それはそうと……」
私は気持ちを無理やり切り替え、この場に居る全員を見渡します
「これから行う作戦は、将来の不安要素を排除する為の物です。修道女達を助ける意味もありますが、やる事は誘拐と言って良いでしょう。それでもこの作戦に参加する意思はありますか?」
私がそう聞くと、クリフが代表して一歩前に出ました。
「私達を含めたこの船の乗組員は、ギルバート様に付いて行きます。それに今回の任務は、断じて誘拐などではありません」
頼もしい事を言ってくれます。
「では作戦を確認します」
私はそう宣言すると、数枚の羊毛紙を机に広げました。
私達の船は海上船を装ってグラヴィルを出港し、セント・マルガリタ修道院の前を一度通り過ぎます。
「そろそろ接岸しますよ」
修道院がある岬が見えなくなった所で、良い場所を見つくろい接岸させました。
「船はこの場に待機です。暗くなったら風石炉に火を入れておいてください。レンを通して合流を指示します。降ろす位置は念の為、サンドウェリー寺院の死角になるようにしてください。指揮はファビオに任せます。ここで事故を起こしての失敗は悔やみきれないので、《暗視》の魔法が切れない様に注意してください」
私の言葉に、ファビオが短く「はい」と返事しました。
「突入班は私と共に来てください。日没と共に仕掛けます。分かっているとは思いますが、ライトニング《稲妻》等の光や音が出る魔法は厳禁です」
突入班は、私、カトレア、ティア、クリフ、ドナの5名です。本当はもう少し人数を増やしたいのですが、接近する前に気付かれる可能性や修道女達を委縮させてしまう事を考慮して人数を限界まで絞りました。
岩陰などを利用し、慎重に近づきます。結界や侵入者感知の罠も警戒していたので、想像以上に時間がかかりました。既に日は傾き、空は赤く染まっています。
「カトレア。大丈夫ですか?」
一見平気そうにしていますが、念の為に体力面で劣るカトレアに確認します。ちなみにティアは、小鳥に化けて偵察に出ています。
「大丈夫よ」
カトレアの顔を見て、問題無さそうと判断した私は頷きました。
「私もインビジブルマントを使い、偵察をして来ます。それまでここに隠れて休憩していてください」
全員が頷くのを確認すると、足跡がつかないように注意しながら修道院に近づきました。
窓から中を覗くと、修道女達がお喋りしながら廊下を歩いています。話の内容は、ちょっとした失敗談や食事のメニュー等の実にたわいない物でした。彼女達の今の生活を壊す事に、若干の後ろめたさを感じながらも情報収集を続けます。ついでにティアに服を渡しておきました。
私は晩の祈りの開始を確認してから、カトレア達の所に戻りました。
「ギル。お帰りなさい」
「ただいま戻りました。修道院の人間は、晩の祈りで礼拝堂に集まっています。日が完全に落ちていれば、このタイミングで突入するのが一番なんですがね」
私がそうぼやくと、カトレアが「それは仕方が無いわ」と労ってくれました。
「夕食中に日が完全に沈みます。その時に仕掛けます」
私はそう言いながらしゃがむと、地面に簡単な見取り図を描き始めました。それを全員で覗きこみます。
「突入時に目標が集まっている場所は、食堂と赤ん坊が居る育児室です」
私は食堂と育児室を順番に指さします。
「出入り口は、正面と裏……それに礼拝堂に有る3カ所です。礼拝堂は私が《錬金》で塞ぐので、クリフとドナは裏口から侵入して育児室を押さえてください。突入の合図はティアにさせます。カトレアと私は正面から入り食堂を押さえます。杖を持っている者が居るかもしれないので十分注意する事と、絶対に修道女を傷つけないでください」
ティアも含めた全員が了承したのを確認すると、私達は夕食が始まるのを待ちました。
(夕食が始まった様じゃ。食堂と育児室に全員集まっておるぞ)byティア
ティアが《共鳴》を発動し、私達に連絡を入れてきました。
(分かりました。ティアは人型になって、裏口に行ってください。突入後、食堂で私達と合流です)byギル
(了解じゃ)byティア
「全員配置についてください」
私の合図でクリフとドナは裏口に向かいました。私とカトレアは、一度礼拝堂に移動し入口を錬金溶接で固定すると正面へと移動します。
正面入口に到着すると、既に日は沈んでいました。
(ティア。そちらの準備は?)byギル
(とうに出来ておる)byティア
(では、作戦開始です。カトレア。行きますよ)byギル
(ええ)byカトレア
音を立てない様に扉を開け、中に入り込みます。正面玄関は石造りで音が響きそうなので、慎重にゆっくり進みました。その所為か多少時間を食いましたが、無事に食堂前に到着出来ました。
(主)byティア
食堂に突入しようとした所で、ティアが合流して来ました。
(クリフとドナは? そちらは大丈夫なのですか?)byギル
(こちらに居た修道女は《眠り》で無力化済みじゃ。後始末は2人に任せて来たのじゃ)byティア
仕事が早いですね。
(こちらはこれから突入です。先ず私がインビジブルマントで姿を隠し入り込みます。カトレアとティアは、私が合図したら堂々と入って来てください)byギル
(分かったわ)byカトレア
(了解じゃ)byティア
私はインビジブルマントを被ると、音をたてない様にノブをまわし、まるでちゃんと閉まって無い扉が風で開いたかのように開きます。扉付近に居る数人の修道女が、扉が開いた事に気付きましたが、さほど気にしていない様です。私はフライ《飛行》によるホバー移動で、修道院長(杖や寺院への通信手段を持っている可能性が高い人)の傍らまで移動します。
(準備完了です。入って来てください)byギル
カトレアとティアが入って来ると、食堂がシンと静まりかえりました。
「貴方達は何者ですか?」
修道院長が立ち上がり訪ねました。しかしカトレアは、黙ったまま杖を抜き一歩前に出ます。
「!!!?」
修道院長とその隣の修道女が、反射的に杖を抜きます。しかし魔法を使わせるほど私は甘くありません。2人の杖を切り落とします。
「えっ!?」「何が?」
修道院長が慌てて杖を捨て、ポケットの中に手を突っ込もうとしました。私は手早くマントを脱ぎ棄てると、その手を掴み首筋に後ろからナイフを突き付けます。
「何時の間に!?」
抵抗を止めたのを確認すると、私は手を放しポケットの中を確認します。出て来たのは……。
「指輪? ……通信用のマジックアイテムか」
指輪を取り上げられると、修道院長の顔が真っ青になります。その表情を見た私は、他に抵抗手段が無い事を確信しました。
「ふざけるな!!」
「スリープ・クラウド《眠りの雲》」
修道院長の隣に居た修道女(杖を持っていた人)が殴りかかって来たので、眠ってもらいました。
「抵抗しなければ危害は加えません。始祖ブリミルに誓いましょう」
私の言葉に院長は、頷くことしか出来ませんでした。
「この修道院に入り込んだのも故あっての事。また、同様の理由で名乗らない無礼も許してほしい」
私はそう言うと、ナイフを引っ込めました。修道院長の顔も若干ですが元に戻ります。
(レン。船を出してください)byギル
(了解じゃ)byレン
「ジョゼット」
私がその名を口にすると、修道女達の目が1人の少女に集中します。灰色の髪をした少女は、訳が分からず動揺していました。
「えっ!? わたし!?」
私とカトレアがその少女の前に移動します。私は少女の正面に立つと「レア」と、一言つぶやきました。するとカトレアが「失礼します」と言って、ジョゼットの首にかかる十字架型の聖具に手をかけます。
「そ それを外してはいけません!!」
修道院長が止めようと声を上げましたが、カトレアは無視して聖具を外しました。途端にジョゼットの顔や髪が燐光に包まれ、その光がはじけます。そして残ったのは、別の顔をした鮮やかな青髪の女の子でした。
(これがジュリオに汚されてない綺麗なジョゼットか……)byギル
(ギル。余計なこと考えない。それから表現がなんかいやらしい)byカトレア
((主。吾らだけでは満足出来ぬのか?))byティア&レン
酷い言われ様です。ちょっと感慨深かっただけですよ?
「そのお顔。何より、その鮮やかな青髪。間違いありません」
私はそう呟くと、ジョゼットに跪き家臣の様に礼をとりました。カトレアも私にならい跪きます。
状況が何一つ分かっていないジョゼットは、もう大混乱です。面白い位取り乱しています。
「ジョゼット様。この修道院は危険です。我々が安全な場所にご案内します」
ジョゼットは混乱を通り越して、パニック状態です。思いっきり挙動不審です。
「待ちなさい。あなた達に何の権限があって……。それに危険とは聞き捨てなりません」
修道院長が茶々を入れてきましたが、私は涼しい顔で立ち上がります。
「ジョゼット様のお父様からの命令で救出に来たのです。それに危険と言った意味は、貴方が一番良く分かっているのではないですか?」
私の言葉に修道院長は、否定する様に首を横に振りました。よほど認めたくないのでしょう。まあ、それも仕方がありません。
「? まさか、知らないのですか? ……いえ その様子では、認めたくないだけで分かっている様ですね」
思いっきり憐みの表情をしてあげました。
「そ それは……」
はい。途端に黙り込んでくれました。分かりやすいです。自身の仕事を考えれば普段気にかけていないだけで、思い当たる節などいくらでもあるでしょう。
「少なからず身に覚えはある様ですね。あなたの立場には同情します。しかし私達の目的は、あくまでジョゼット様の安全を確保する事です」
そう言ってからジョゼットに向き直ります。
「では、ジョゼット様。まいりましょう」
そう言ってジョゼットの手を取ろうとすると、手を引っ込められました。ジョゼットも修道院内に友達は居るでしょうから当然の反応です。
「ジョゼット様?」
「わたし。行かない」
「何故ですか?」
「修道院が危険って、如何言う事なの?」
「申し上げられません」
一瞬だけ修道女達を見てから返答します。
「みんなは如何なるの?」
「申し上げられません」
今度はジョゼットから明らかに目をそらし返答しました。
「なんで話せないの?」
「この場では申し上げられないのです。この修道院を離れれば、直ぐにお話しします」
今度は目を合わせ、すまなそうな……しかしハッキリと言います。
「何も話してくれない。そんな人と一緒に行けない」
ジョゼットが私を涙目で睨んできます。ちょっと心が痛みますね。
「それは私に、話せと命令しているのでしょうか? そして、話せば了承していただけると言う事ですか?」
「えっ!?」
「この場で話せとのご命令なら、仕方がありません。お話しします」
この場の決定権はジョゼットにあると暗に言ってやります。……子供相手に最低だな。
ジョゼットは、必死に「話させてはいけません」と言う修道院長と、助けを求める修道女達の板挟みにあっている様です。修道院長は己の職務を漠然とこなそうとしているだけですが、修道女達は(修道院が危険=自分達が危険)と言うのを察した様で必死です。
「話し……なさい」
ジョゼットは修道女達の願いを優先しました。慣れない口調で命令を口にします。
「はい。それでは簡単にご説明いたします」
全員の注目が私に集まります。
「この修道院は、訳ありで表に出せない高位貴族の子女を秘密裏に預かる施設です。逃げ出す事が出来ない立地や、顔や髪色を変える聖具を身につけさせている事から、この事が事実であると察していただけると思います。それに途中から修道院に来た聖女なら、私の言葉が事実であると知っていると思いますが?」
何人かの修道女に目線が集中しました。聖女とは途中から修道院に入れられた者を指す隠語です。その隠語を知っていた事に、修道院長は驚いていますが今は無視します。彼女達が頷くの確認してから続けました。
「この修道院の維持費はロマリアが出していますが、元は娘を預けた高位貴族が出している寄付で賄われています。そしてこの修道院は、竜籠や船を使う事から膨大な維持費が必要です。それに合わせ、娘を預けた親達の寄付も莫大な額になります」
私が聖女と呼ばれている娘達を見ると、私の言葉に頷いていました。
「今まではそれで問題は起こりませんでした。しかしロマリアの神官が、トリステイン王国を滅ぼしかねない様な事件を起こしたのです。それも2回続けてです。悪い事をする犯罪者に“寄付をしたい”と、思う人が居ると思いますか?」
修道女達は真剣に私の話を聞いています。一方で修道院長は力無く項垂れていました。あの様子では、知っていた様ですね。
「答えは否です。ロマリアに収められている寄付は激減し、困窮する事になりました。それ自体は自業自得です。しかし潤沢な寄付から贅沢を覚えてしまった神官達は、それが許せませんでした。少ない寄付を取り合う醜い争いに発展します。そして彼らが目を付けたのが、膨大な維持費を必要とするこの修道院です」
私の話を理解した修道女の表情は、一様に引き攣っています。良く分かってない子供も居ますが……。私はポケットに入れておいたエンブレムを取り出すと、全員に見える様に掲げました。
「そ そのエンブレムは……」
声を上げたのは修道院長でした。どうやら彼女はこのエンブレムを知っている様です。誰も知らなかったら如何しようかと思いました。
「はい。ロマリアの神官が飼っている奴隷商が使っているエンブレムです。ゲルマニアからここに向かっている不審な船を見つけ拿捕した所、このエンブレムを付けていました」
私は“手にとって良く確かめろ”と言わんばかりに、修道院長へエンブレムを手渡します。
「当然神官達は、一度の失敗くらいでは諦めないでしょう。そして、第2波を止める者は……」
もう居ません。と、暗に言ってやりました。(最低最悪の屑になった気分です)そこで言葉を止め、もう話は終わりと言わんばかりに口を閉じました。修道女達の反応は、泣いたり震えたりと様々です。
後は船を移動する時間を利用して、“全員助けろと命令された時の為に、大型の船を用意していたのが無駄になったな”と言う内容の話を、ジョゼットに上手く聞かせれば次のステージです。
「では、ジョゼット様。別室にt……」
「待って!!」
その声の出所は、ジョゼットでも修道院長でもありませんでした。聖女の話をした時に、見られていた者の中の1人です。歳は20前くらいでしょうか?
「君は?」
「私はアグラエよ。去年ここに来たばかり。私も連れて行って」
十分予想された事態です。彼女達からすると、私達の存在は“蜘蛛の糸”でしょうから。そして上手くすれば、行程をいくつか省略出来ます。
「移動に船を利用しますが、部屋が手狭になってしまいます。よろしいでしょうか?」
「えっ? はい」
ジョゼットに了解をとります。そして他の修道女達も、目の色が変わりました。“蜘蛛の糸”に気付いたのでしょう。定員があると思えば、あぶれたくないと思うのが人情という物です。
「条件をいくつか呑んでいただければ構いませんよ。それは他の同行したい方も同様です」
アグラエを含む幾人かの修道女は、私の物言いに一瞬顔を顰めましたが直ぐに表情を消しました。警戒していますね。
「条件って何?」
「絶対条件として、当家から離れる様な事が無いようにしてください。もしロマリア神官に感付かれれば、彼等は新たなスキャンダルの発覚を防ぐ為に何をするか分かりません。当家も危機にさらされますが、何よりジョゼット様や他の修道女達が危険です」
私の言に納得したのか、何人かの修道女は頷いていました。
「それとジョゼット様と同条件での保護は無理です。当家も余裕が無い訳ではありませんが、無限にお金がある訳ではありません。働かざる者食うべからず。と言う訳で、一定以上の年齢の方は働いてもらいます。働き口の例で言うと、当家のメイド・孤児院の管理手伝い・当家所有の商館の手伝い等です。技能を覚えたいのなら、当家の方で支援します。ここに居る皆さんは貴族の子女……つまりメイジなので、その技能に魔法も含まれます。魔法を覚えれば可能性が広がりますよ。お給金も上がりますし、護身にもなります」
私が口にした条件が意外だったのか、全員キョトンとしています。もっとドロドロした事を想像していたのでしょうね。
「ちなみに当家の領地には、神官に不当に虐げられた者が多いので、神職関係の仕事は全くありません」
私がそこまで言うと、修道女の中に「メイドになるって事は、お手付きになるって事よね?」等と言っている耳年増が居ました。と言うか、メイド=使用人であって、メイド=愛人ではありません。閉鎖された世界だけあって、知識が物凄く偏ってます。
「そこ!! 早急に一般常識を覚える事も追加です」
「はい!!」
私が渋い顔をしながら突っ込みを入れると、突然右肩と掴まれました。振り返ると凄く良い笑顔のカトレアが……。
「手。出さないわよね」
纏ってるオーラが半端じゃないです。無茶苦茶怖いです。私はガタガタ震えながら、頷くことしか出来ません。
「なら良いわ」
解放されました。物凄く心臓に悪いです。私が脱力していると、笑いを押し殺す様な声が聞こえ、振り返ると先程まであった悲壮な雰囲気が無くなっていました。(ああ。カトレアの狙いはこれだったのか)と、1人で納得していると袖を引っ張られました。犯人はジョゼットです。
「私は?」
「その髪色は目立つので、魔法で変えていただきます。ジョゼット様は養子となり、私の妹になる予定です。そうなると今後私は、兄としてジョゼット様に接する事になります」
ジョゼットが頷くと、気持ちを切り替えました。
「ちなみに少し狭いのを我慢すれば、全員乗れますよ。先程の条件が呑める人は引越しの準備です。食事が終わったら、私物をまとめてください」
私がそう言うと、修道女達は拍子抜けした様な表情をしました。蜘蛛の糸みたいな事はしませんよ。母上に殺されるし。
「修道院長は食事が終わったら、一緒に来てください」
食事が終り修道女達が部屋に戻るのを待ってから、眠らせた修道女を起こし育児室へ移動します。二度手間になるので、事情説明は育児室に居る修道女と一緒にした方が良いでしょう。育児室にはクリフとドナが待機していました。そして赤ん坊2人と、赤ん坊を見ていたと思われる年配の修道女が2人眠っています。
私が(修道院の運営者は、修道院長を含めて4人か……意外に少ないな)等と考えていると、クリフが先に口を開きました。
「この赤ん坊は如何しますか?」
「連れて行ってあげてください」「修道院長!!」
しかし私が答える前に、修道院長が口を開きます。
「良いのですか?」「駄目に決まってます。第一、こいつ等は……」
……五月蠅いです。先程まで暢気に食堂で眠っていたくせに。
「スリープ・クラウド《眠りの雲》」
話が進まないので、また眠ってもらいました。この様子から察するに、修道院長と違い彼女を連れて行くのはリスクが高過ぎる様です。母上の言葉の虚を突く様で難ですが、あくまで全員助けるのは“この修道院に預けられた修道女”だけです。運営側の人員を助ける義務も義理もありません。
……それよりも修道院長です。何故今更態度を翻したのでしょうか?
「……何故? と聞いても?」
「私も外の事はマチス司祭から聞いています。今がどれだけ不味い状況かもです。いえ、私が聞いていたよりもずっと酷かったのですね」
疲れた様に言う修道院長は、先程より老けこんで見えました。
「何故私達を信用したのですか?」
「貴方達が悪漢なら、食堂に居た全員を瞬時に眠らせる事も出来たでしょう。わざわざこのような芝居をする理由がありません」
あれ? 意外と冷静ですね。それに盲目ではない様です。眠っている2人(1人は既に除外)は分かりませんが、この人は惜しい人材だと感じました。突発的な事態に弱いみたいですが、修道院長を任されていたなら能力的にも期待出来ますし人格的にも信頼出来そうです。
「修道院長は「サンドラです」……サンドラさんは、これから如何する心算なのですか?」
「分かりません。しかし、ロマリアの恐ろしさは知っている心算です」
何か人生を諦めてしまったみたいですね。なら生きがいを与えてやれば、裏切る様な事も無いでしょう。
「よろしければ、当家の領地で孤児院長をしてみませんか?」
「え?」
「私達が預かった娘達が、如何なるか見届けてください。私達が期待を裏切ったら、ロマリアに密告でもすれば良いのです」
驚いてますね。しかし顔には精気が戻って来ています。子供達を守ると言う使命感を持ったのかもしれません。サンドラさんはこれで良いとして……。
「こちらの2人は連れて行けそうですか?」
サンドラさんは少し考える様なそぶりを見せると、辛そうに首を横に振りました。
サンドラさんは、快く孤児院の管理を引き受けてくれました。彼女を信頼していない訳ではありませんが、念の為に残りの2人とも話そうとしました。しかし彼女の言うとおり、罵倒しか口にしてくれませんでした。仕方が無いので、サンドラさんを除く運営側の3人は、そろって修道院に置いて行く事にしました。
そのまま置いて行くだけでは旨みは無いので、色々とミスリードさせる情報を与えておく事にしました。いったん魔法で眠らせ、目を覚ましているのを気付かないふりをして様付で何人かの神官の名前を口にしました。そしてそいつ等の命令で動いた様にふるまいます。サンドラさんや修道女達とした話は聞かれていないので、そこそこ効果が望めるでしょう。ファビオの発案で、他にも色々とキーワードを仕込みました。内部抗争に発展したらいいなと、密かに思っていたりします。ちなみにファビオが、物凄く楽しそうにしていました。
修道女達は予定通り全員ついて来てくれました。迷っている子も居た様ですが、サンドラさんも行くと言うのが決め手になった様です。危なかったです。もし1人でも行かないなんて言われて居たら……。怖ろしい。
領地に無事帰還し、ジョゼットを養子にする件を家族会議で話し合いました。父上達は快く賛成してくれましたが、アナスタシアだけは良い顔をしませんでした。仕方が無いので「これでアナスタシアもお姉ちゃんですね」と耳元で囁いたら、簡単に丸めこまれてくれました。我が妹ながら単純過ぎて将来が心配です。
「そう言えばジョゼット」
「何?」
「髪の色は何色にしますか?」
するとジョゼットは、家族全員の頭を見て……。
「黒が良いわ」
まあ、そうですよね。ディーネが不服そうな顔をしていますが、見なかった事にしておきます。
「カトレア。お願いします」
「分かったわ」
カトレアの魔法が完成すると、ジョゼットの髪色が艶のある漆黒へと変わりました。髪色しか変えてないので、青目黒髪です。
(なんか、何処かで見た事ある配色ですね)
「ギル。アナスタシア。もう小さくて着れなくなった服が有ったでしょう」
「ええ」「うん」
「もらって良い?」
私とアナスタシアが了承すると、カトレアは嬉しそうにジョゼットを連れて出て行きました。
暫くして戻って来たジョゼットは……。
アナスタシアのお古水着の上(黒)。私が気まぐれで作って結局履かなかった黒の短パンに白い太ベルト。小さくなって履けなくなった私の黒の返し付きロングレザーブーツ。前を盛大に開けたままの(周りの評判は悪いけど、お気に入りで偶に着ている)黒いフード付きロングコートには、肩から袖まで白いラインがあり、左胸に星形のバッチと背中に星形の特大ワッペンが追加してありました。髪型も「ポニーテールか?」って突っ込みたくなるほど、後ろで結ばれた不揃いツインテールです。
ブ〇ック☆ロッ〇シュータァ――――!!
何か黒い刀と岩を射出する片手持ち大砲を作りたくなって来ました。あとバイク!!(ここ重要。と言うか、私も欲しい。多分無理だけど)
ちなみに家族内では何故か好評でした。
「ギル。片目から青い炎が出る様なマジックアイテムは?」
「ありません。作るにしても……」
そのまま家族の団欒に突入しようとした所で、突然扉が開きました。
そこには息を切らせたカロン(マギ商会代表)が居ました。
……嫌な予感がします。
後書き
ご意見ご感想お待ちしております。
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