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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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とある春の日常

三月下旬。俺は学校の宿題という冠詞が付いたレポートの製作に勤しんでいた。

学校……とは言っても普通の高校ではなく、ネット用語で言うSAO生還者のための特別学校だ。

まあ、学校という名前になってはいるが実際は監視センターのようなもので、普通の勉強のほかにカウンセリングやレポートの提出が求められる。

とは言え卒業できれば大学への進学権利がもらえるというのだからなかなかに便利だ。

それに通常高校とは違い、その学習は大学に近く、専門的な知識を付けることも可能。

ちなみに某黒の剣士さんは俺と同じくメカトロニクスコースという機械を扱うコースに通っている。

「……まあ、こんなところか」

レポートに一区切りいれるとパソコンの画面から視線を外し大きく伸びをする。続いて軽くストレッチ。パキパキと小気味のいい音とともに強張っていた筋肉が緩んでいく気がした。

「お疲れ様。あともう少しだね」

「ああ、ユウキもありがとな」

画面上にいるデフォルメされたミニサイズのユウキが口を動かすとパソコンのスピーカーからユウキの声が流れた。

このデフォルメミニユウキを設定したのは実はキリアス夫婦だ。俺が留守の間に忍び込んで勝手に改造したらしく、初めて画面上に現れた時は心底驚いた。……相変わらずのポーカーフェイスだったのでユウキはむくれていたが。

後で二人を〆たのは言うまでもない。

「大分慣れたか?」

「うん、もうバッチリだよ。あ、そういえばあの人(菊岡)がね、ALOでのボクのデータを復活させてくれるんだって!」

全身を使って喜びを示すユウキを微笑ましく思いながらベッドの側に置いてあるアミュスフィアを見る。

「やつがそんな殊勝なことをするなんてなぁ……」

本人が聞いたら確実に泣き真似をするであろうことを考えながらスマホを手に取る。

「明日奈には言ったか?」

「まだ言ってないからお願いしてもいい?」

「……そのパソコンからメールを送らないのか?ユウキにも使えるはずだが……」

「あ……てへぺろ?」

今気づいたように驚いた後、ごまかすように舌を出してウインクをするユウキ。慣れてないのかぎこちない。

「……まあ、ユウキのうっかりはもう慣れたから別にいいが……」

何だかんだでユウキがパソコン内に拠点を移してから約二ヶ月間が経過したし、常に一緒にいるわけではないが、かなりの時間一緒にいるからユウキの性格その他は大体把握している。

「ちょっと、うっかりってなに!?ボク、そんなにうっかりじゃないよ!?」

「今は否定できんだろう」

「うー……」

言葉に詰まって威嚇するように唸るユウキ。

心なしか涙目になってるように見える。

「そんなユウキもユウキの魅力だろう。恥ずかしがることはない。まあ、わざとやってるなら改めるべきだが」

「……これは後でしののんに報告かな。この調子だと絶対にもう何人か撃墜しちゃう気がする」

「俺がタラシみたいに言うな。こういう言い方をするのは特定の人に限られるから安心しろ」

キリトのような博愛主義というかフラグ職人でもなし、さすがに何度もこんなことがあってたまるか。

「……一番新参者のボクが言う権利はないかも知れないけど三人もいるじゃん……」

「……すまん」

「まあ、みんないい人だしボクは気にしないけどね。ふふっ、こんな都合のいい女たちは他にはいないよ?」

ユウキはこちらを誘惑するようにポーズをとるが、ユウキは美人と言うより美少女なため全く似合ってない。

「俺が悪かったからもう言うのはやめてくれ」

直葉が増えた時点で詩乃への罪悪感が凄まじいんだから。

「……言われなくとも責任はちゃんと取る。全員平等に愛せるように努力するさ」

「……そんなんだから都合のいい女になっちゃうんだけどねー……」

ユウキは顔を赤らめながら俺の聴こえないような小さな声でなにやら呟くと頬をかいて照れていた。

「おーい、燐。いるか?」

とその時、いきなり扉が開くと和人が顔を出す。そしてユウキの様子を見て首を傾げた。

「ん?なにやってんだ?」

「……キリトのバカ」

するとユウキの雰囲気が一転。パソコンの画面から瘴気が立ち上っている……ような気がした。

呟きにも怨念が篭ってる。

しかし……

「ユウキ、どうかしたのか?」

……この鈍い男には届かない。

「……なんでもないよ」

恨めしそうな目で和人を睨んでいるユウキだが、肝心の和人は頭の上に疑問符を浮かべるばかりで少しも察することはできない。

やがて諦めたのかため息をついてユウキはいじけだした。……が、残念ながらユウキには役者の才能はないのかフリをしてるのが丸わかりである。

「……で、何のようだ?」

とりあえずユウキを意識の外へ追いやると未だ首を傾げている和人に話しかけた。

「あ、ああ……実は学校でユイのために俺達の研究班が試行錯誤しているものがあってな。簡単に説明するとネットワークを通して現実世界の視覚や聴覚を仮想空間へオーバーライトしてリアルタイムで追体験……といっても追体験の対象はカメラだけど……させる……というものなんだ」

「ああ……視聴覚双方向通信プローブってやつか」

各班の研究内容を発表する際に小耳に挟んだ覚えがある。

「そうそう、それそれ。今日のことなんだが大体の原型が固まってだな。よかったらユウキにもって思って」

「そうだな……ユウキやってみ……聞くまでもないか」

目をこれでもかと言わんばかりにキラキラ(エフェクト的に)させてこちらを見ているユウキに俺は質問を引っ込めた。

「ボク、もう一度学校に通いたい!」

「お、おう。任せとけ!」

ユウキの勢いにちょっと引き気味の和人だったが、親指を立ててニヤリと笑った。

「じゃあ燐。明日の放課後に電算機室に来てくれ」

そう言って部屋を出て行こうとする和人の肩を掴んで引き止める。

「ん?どうした、燐。用件は済んだんだけど……」

「親しき仲にも礼儀ありという諺がある。他人の部屋に入る時はノックしろとあれだけ言っただろうが」

「あ……やべ……」

引き止められたことでなった和人の訝しげな表情がみるみるうちに青くなっていく。

「和人……次はないからな?」

「わ、わかりましたぁ!!」

滅多に使わない敬語と共に敬礼をすると和人は逃げ出した。

……次やったらどうしようか。そろそろ肉体に叩き込まないと覚えないと判断した方がいい気がする。

「ふふっ、学校かー……」

まあ、プローブが正常に作動し、許可が得られればの話なのだが……。

とは言えトリップしている今のユウキにそういうツッコミを入れるのはさすがに無粋だろう。 
 

 
後書き
アリシゼーション編じゃないという。

俗に言う間章ですね。リハビリがてら通信プローブの話を拾って来ました。つまりユウキ回。

リンもメカトロニクスコースです、はい。キリトとは別の班ですけどね。

研究テーマは考えてません。出てこない予定なので。

しばらく糖分控えめなのでご了承ください。 
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