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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第六十九話

 結局、俺と護堂は協力体制をとることが決まり、必要になるまでは不干渉、ということになった。
 まあ、最低限参加さえさせてくれればそれでいいんだけど。

「で、リズ姉は調理を手伝う気は?」
「料理は武双に任せるよ。私は、家のほうに連絡を取っておく」
「あー・・・そっか。その必要もあるよな」

 まあ、こっちのことなんて何の心配もしてないだろうけど。

「じゃあ、もし何かあったなら俺も呼んで。すぐにでもここを離れて、家に向かうから」
「ん、分かった。じゃあ、ちょっと連絡をしてくる」

 そう言いながらリズ姉はお盆とペットボトルの水を持って、ログハウスから出て行った。
 ああ・・・携帯を使う気は無いんだ。
 こんなときでも魔術を使うあたりに、リズ姉のこだわりのような何かを感じる。

 ・・・まあ、ただの気分という可能性もあるけど。携帯での連絡も、何度かやってるし。

 リズ姉の持つ術式の才能とは、魔術という概念で表せるすべてのことを意味する。
 そこには、俺でも使える『召喚』『送還』『跳躍』などの術も含まれるし、魔女やそれに似た性質を持つ巫女でしか出来ない『飛翔』の術、エリカやリリアナなどが使える『ダヴィテの言霊』も含まれているし、『ルーン文字』などという、レアすぎるどころか人間がつかえるのかも怪しいものまで使っているのを見たことがある。

 そして、本当に凄いのは・・・リズ姉オリジナルの術を、作り出せることだ。
 例えば、小さなものなら時差ボケを解く術。これは治癒の術をベースに作り変えたものだといっていた。
 同じように治癒の術をベースにしている術では、本来の治癒の術とは違ってかけた瞬間に効果が現れていく術もあるし、他にも思いつきで造ったものがいくつかあったはずだ。

 俺リズ姉に使い方を教えてもらっていくつか使っているが、その中でも一番面白いのは『投函』の術だろう。
 本来、投函の術で指定の位置に送ることが出来るのは紙などの小さいものだけ。なら、何故俺はゼウスとの戦いでリズ姉と立夏の二人から槍を投函の術で送ってもらうことが出来たのか。
 それは、リズ姉がこの術をベースにして、新しい術を作り出したからだ。
 変えた内容は、送れるものについて。紙切れ程度しか送れないはずのところを、生物でなかったらなんでも送れるようになった。

 この術、公開したら結構色んなところが飛びついてきそうだと思うんだけど・・・ま、そんなことは気にしなくていいか。



◇◆◇◆◇



「で、武双は今回どうするつもりなんだ?」
「どうする、というと?」
「武双が孫悟空を倒すのか、という意味だ」

 夕食の場で、リズ姉からそんな話をされた。

「あー・・・まだ未定」
「ふぅん、珍しいな。武双は神を見つけるたんびに喜び勇んで戦いに行くものだと思っていたが」

 まあ、否定できないことを繰り返していることは自覚している。
 とはいえ・・・

「俺、確かアテナのときは手を出してないはずなんだけど」
「そういえばそうだったな。あの時も、アテナほどのビッグネームとの戦いは武双たちからしたら楽しいだろうに、と思ったよ」

 まあ、楽しいだろうなぁ・・・
 ギリシア神話の元主神。戦争を司るような神様が強くないわけが無い。
 主神クラスが、強くないわけが無いんだけど・・・

「武双?」
「ああ、ゴメン。ちょっと考え事してた」

 つい頭に浮かんできた疑念を追い出し、孫悟空のことに思考を戻す。
 あの事については、俺がいくら考えたところで分かるものじゃない。だから、聞く対象はちゃんと考えないと・・・あれ?誰に聞いたんだっけ?

 ・・・考えるのはやめよう。

「まあ・・・今回、孫悟空は護堂に任せるつもりだよ」
「それはどうして?」
「祐理の妹のひかりが、今まさに孫悟空にとりつかれてるから。まあ、気にせず戦ってもいいんだけど・・・」

 俺たちカンピオーネが何人人間を殺したところで誰かに咎められるような事は無い。
 神と戦い、殺すために出て犠牲ならば物理的、人的問わずに問題無しとされるだろう。
 だが、それでも・・・

「そうすると、孫悟空なんてビッグネームな鋼の神と戦った後に、護堂と戦わないといけなくなる」
「イタリアのサルバトーレ・ドニなら、その状況を心から楽しみそうな気もするがな。武双は、そうではないのか?」
「・・・まあ、それはそれで楽しそうだと思ったのは、否定しない」

 うん、考えてみたら確かに楽しそうだ。
 お互いに相手の権能を切り裂いたり壊したりする権能の持ち主、どんな戦いになるのか予想もつかない。
 とはいっても、

「それ以降の、学校での生活が暮らしづらくなる」
「ああ、そういうことか」

 これでも学生の身だから、そうなるのは勘弁願いたいところなのだ。

「まあ一応、妹の部活の先輩の妹、幼馴染の友達。そんな立場のやつを見捨てるのもそれはそれで心が痛むし」
「なら、武双が助け出すのは?」
「多分、無理。ひかりの存在ごと孫悟空を壊すのは出来そうなんだけどね」

 その点、護堂の戦士の権能なら孫悟空のみを切り裂いてひかりを救い出すことが出来るかもしれない。
 そう考えた結果、孫悟空については護堂に任せよう、ということにしたのだ。

「だが、それなら何で手伝おうと思ったんだ?何をするつもりで?」
「ベストなのは、護堂が戦士の権能を使いやすいように孫悟空を抑えること」

 まあ、これがベストだ。
 これが出来れば救い出すのも成功確率が上がるし、俺も孫悟空と戦える。

「ベスト、ということはそれは出来そうに無い、と?」
「まあ、ね。リズ姉はさ、孫悟空・・・西遊記についてどれくらい知ってる?」
「そうだな・・・西遊記は、一通り読んだ。孫悟空については、戦士の権能が使えるだろうくらいだな」

 うん、たまにこの人の知識量が驚きを超えるくらいになる。
 まあ、それについては気にしなくてもいいか。

「なら分かると思うけど、孫悟空が呼び出せてもおかしくない存在は、かなりの量がいるだろ?」
「ああ・・・猪八戒、沙悟浄の弟分に、牛魔王を初めとする天界に喧嘩を売ったときの六人。それと、立場は逆だが三蔵法師も呼び出せる可能性があるな」
「そういうこと。その中の一柱でも呼び出されたら、一気に勝ち目が薄くなる。・・・一人で複数神と戦うとか、本気できつい・・」
「実行したヤツが言うと、説得力があるな。・・・つまり、こういうことか?」

 リズ姉は一度箸をおき、今回の作戦のまとめを語りだした。

「今回、万里谷ひかりの件があって面倒だから、孫悟空との戦いは出来る限り避ける。ただし、草薙護堂に何かあった場合は例外」
「まあ、そうなるな」

 護堂に何かあったなら、孫悟空の相手は俺が引き継ぐ。
 倒れていて何も出来なかったやつになら、何を言われてもなんとも思わない。

「で、他の参戦条件としては孫悟空が他の神を呼んだ、又は関係のない神が顕現してきた場合、ということだな?」
「うん、そうなる。今、日本に自由に動けるカンピオーネは俺と護堂だけだし」

 じきに翠蓮も出てきそうだけど、それまでは二人だけ。
 そうである以上は、今動けるメンバーで動くのがベストだろう。

「そう言うわけだから、戦うことになったら手伝ってもらっても?」
「まあ、出来る範囲で、だがな。私は、家族の中でも中々に武双の手伝いが出来ない類の人間だ」

 そうして夕食を終え、

「あ・・・着信だ」

 俺は、携帯に連絡が入ったのでログハウスを出て電話に出た。
 
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