少年と女神の物語
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『???』編
第六十八話
あの後、結局梅先輩達三人は足手まといになるからと言ったので、安全であろうところまで送っていった。
といっても、立夏と氷柱に来てもらって飛翔術を使ってもらったんだけど。さすがに、普通に移動するんじゃあ時間がかかりすぎる。
「で、そこからどうしてこうなった・・・」
「間違いなく、武双が面白そうだから行きたい、と言い出したせいだな」
俺の呟きに対して、何もしていないリズ姉が返事を返した。
そして、俺はといえば・・・神獣を片っ端から潰していた。理由は簡単、テキトーに来てみたら襲われたからだ。
「にしても・・・孫悟空が呼び出したにしては弱かったな」
「いや、そうでもないだろう。アレは恐らく、竜をも相手に出来る神獣だ」
「じゃあ、何でこんなにあっさりと?」
「武双が規格外だから」
もうそろそろ言われなれたもんだ。
「で、これからどうするんだ?とりあえず来てみたまではいいが、何かアテはあるのか?」
「無いんだよなぁ、これが・・・仕方ない。とりあえず、護堂たちに合流するか」
「場所は?」
「誰かの頭の中でも覗き込めば分かるだろ」
「それもそうか」
そして、俺はテキトーに調べて場所を知り、リズ姉を抱えて跳躍の術を使った。
◇◆◇◆◇
で、霧降高原のキャンプ場付近に来たんだが・・・
「何をやってるんだ、おまえたちは・・・」
なんとも、あきれ果てるような状況になっていた。
内容としては、護堂に治癒の術をかける役目の奪い合い。
「あ、武双!助けてくれ!!」
「助けてくれ、って・・・今のお前の状況、うらやむ男子はこの世に五万といると思うぞ?」
「そうよ、護堂。さあ、早く誰か選びなさい」
そして、エリカが護堂に迫るのと同時に残りの二人も迫っていく。
なんだ、この状況・・・
「なんだ、武双。あんなのがお望みか?それならそうと言ってくれればいいのに」
「何のことだよ」
「いや、立夏やらマリーやら氷柱やら・・・とにかく人数を集めて、」
「アホ言ってんな」
俺はそう言いながらリズ姉に軽くチョップを入れ、護堂たちに近づく。
「さて、護堂。お前に選択肢をくれてやる。ただし、内容によっては貸しだからな」
「なんだ!?」
「一つ、さっさとその三人の中から選ぶ」
まあ、それが一番平和的な解決方法だと思う。
個人的にも、それをお勧めしたい。
「で、二つ。俺の権能で治す。ただし、酒を飲んでもらうことになるけどな」
で、これが二つ目。
誰も得をしない方法ではあるが、その代わり平等ではある。
「で、どうする?未成年でも酒を飲むことがイヤなら、さっさとその三人から選ぶんだな」
「・・・分かった。分かったから酒をくれ!」
「はいよ。・・・民よ、甘美なる酒に酔いしでろ!」
とりあえず、頼まれたとおりに権能を使う。
「我は酒を持って薬を為し、薬を持って酒とする!今一度命ず。民よ、甘美なる酒に酔いしでろ!」
その瞬間に、今まで出一番でかい酒樽が出てきた。
この権能で出てくる酒樽・・・治したい対象の格によって大きさが変わるのかな?
「ほれ、酒だ。ついでに、薬だ」
「どうしたらいいんだ?」
「経口摂取以外では俺たちには効かないからな。飲めばいいだろ。ほれ、ぐいっと一杯」
「そんなでかさじゃないだろ、これ・・・」
護堂はそう言いながらも三人から抜け出し、酒樽から酒を飲んでいく。
「国づくりに参加した神・・・医薬、温泉、禁厭、穀物、知識、酒造などを司り、鬼を退治することで英雄、鋼の神格も得る・・・」
「お、これだけで霊視できたのか。さすがは祐理だな」
俺は酒樽から口を離した護堂を見て酒樽を消し、祐理に問いかける。
「で?この権能がどの神から簒奪したものなのか、分かったか?」
「はい・・・申し上げます。今の権能は、スクナビコナ神から簒奪したものですね」
祐理の目の色が戻り、そう言ってきた。
流石は日本でも屈指の霊視能力者。
「武双さんがスクナビコナ神を殺したことは梅さんから報告がありましたが、どんな権能を簒奪していたのかまでは存じ上げておりませんでしたので・・・」
「あぁ、報告してなかったんだ、梅先輩」
「はい。梅さんから報告されているのは、あなたがどんな神を殺したのか、までですから」
確か、俺梅先輩にはどんな権能を簒奪したのか全部報告してたはずなんだけどな・・・
「じゃあ、正史編纂委員会は俺についてどこまで把握してるんだ?」
「えっと、ですね・・・神代家から報告された六つのみだったと思います」
となると、隠してたのとそれ以降に簒奪した権能・・・『火の知恵者の仕掛け』、『豊穣王』、『破壊者』、『医薬の酒』、『舞台袖の大役者』については知らないってことか。
最後の一個とか、掌握したの今さっきだし。
「で、祐理が把握してるのはそれにプロメテウスとスクナビコナを加えた分、ってところかな?」
「そう、なりますね」
祐理がそう答えたところで、エリカが何か気になったようだ。
「そういえば、武双。あなたはいったいどれだけの神を殺したのかしら?」
「おいエリカ!王に対してなんと言う口調を、」
「いいんだよ。同級生から畏まった言葉遣いとか、色々と変に目立つし」
俺はそう言いながら、頭の中で数えていく。
「えっと・・・従属神は除外してもいいか?」
「ええ、構わないわ」
「それなら、十三柱、かな」
「どれだけ神と戦ってるんだよ!?」
護堂に突っ込みを入れられた。
そんなこと言われてもなぁ・・・実際、それだけの神と戦ってるし。
「ってか、従属神ってのを含めたらどれだけになるんだ・・・」
「さあ?この間なんて、まつろわぬ神二柱に従属神三柱と殺しあったしな」
そう言うと、リズ姉以外の顔が引きつった。
誰に話してもこんな反応が返ってくるんだよな。結構面白い。
「・・・じゃあ、武双は今、十三個もの権能を持ってるのか?」
「まあ、そうなるな。掌握できてないのが二つくらいあるけど」
「マジかよ・・・俺は勘弁だな」
「そうなのか?」
俺が聞き返すと、護堂は大きく頷いた。
「こんな力、一つで十分だよ。俺は平和に暮らしたいんだ」
「そうか。なら、カンピオーネの先輩として一つアドバイスをくれてやる」
「・・・なんだ?」
「無理だ。あきらめろ」
俺の言葉に対して、エリカに祐理、リリアナの三人が大きく頷いた。
「なんでだよ!?」
「俺たちカンピオーネは、争いごとに首を突っ込んだり、争いごとを引き起こす運命なんだよ」
「そんなの、分からないだろ!」
「いや、分かるよ。お前だって経験あるだろ?行く先行く先で面倒ごとに巻き込まれたりとか。具体的には、まつろわぬ神と戦ったり、同族と戦ったり」
「そ、それは・・・」
思ったとおり、心当たりはあるようだ。
やっぱり、俺たちカンピオーネは皆そうなんだよな。他のやつらもそうみたいだし。
「そ、そういえば、お前は何をしに来たんだ?」
「ん、ああ。そうだった。忘れるところだったよ」
そう言いながら俺は護堂たちが泊まるであろうログハウスの方を見て、その横にもう一個空いているのを発見する。
とりあえず、寝泊りするのはあそこでいいか。
「今回の面倒ごと、俺にも一口かませろ。面白そうだし」
俺はそう言いながら、ここに来る前にいろいろな手段を使って集めておいた食料を、召喚の術で出し、見えるようにする。
ちなみに、リズ姉は俺にチョップを入れられてからずっと、護堂たちが泊まっているのであろうログハウスに勝手に入り、ぐっすりと寝ていた。
本当に、だらけ癖がついてるよなあの人は・・・
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