雑炊
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第一章
第一章
雑炊
その日の夕食はだ。これだった。
米を焚いていてそこに卵、それと鶏肉に人参やキャベツ、それに葱だった。あとは白い野菜も入っている。
その食べ物を見てだ。今田雄策は母に尋ねた。
「お母さん、これ何?」
「大蒜よ」
母はその白い野菜のことかと思いこう答えた。
「匂いがするけれどとても身体にいいのよ」
「違うよ。これ何なの?」
その米を焚いたものを尋ねる雄策だった。
「これってお粥?」
「お粥になるけれどお粥じゃないわ」
「お粥じゃないって?」
「そう。雑炊っていうの」
それだとだ。母は自分の前にすわっているまだ小さい雄策に言うのである。
「これは雑炊っていう食べ物なのよ」
「雑炊って?」
「お粥にね。色々なものを入れたものって言えばいいかしら」
「そういうのなんだ」
「そう。雄ちゃん今風邪ひいてるから」
「それでこの雑炊っていうのを食べるの?」
「身体に凄くいいから」
それでだ。雑炊を食べろというのだ。
「だから食べて」
「風邪だと雑炊食べるんだ」
「身体にいいからね。お父さんだってそうしてるわ」
父は今は仕事だ。だから家にいるのは彼と母だけなのだ。その母がこの炊を作ってだ。雄策に食べさせているのである。
「身体が悪い時や元気を出したい時はね」
「雑炊食べるんだ」
「ええ。じゃあいいわね」
「うん、食べるよ」
雄策は笑顔で答えてスプーンを手に取った。そうしてだった。
その雑炊を食べてみる。すると。
米は柔らかく食べやすい。しかも卵や鶏肉、色々な野菜も混ざってだ。その味はとてもよかった。
それを食べてだ。雄策は母に言った。
「これってとても」
「美味しいでしょ」
「うん、美味しい」
そうだと答える雄策だった。
「こんなに美味しいものなんだ」
「雑炊はね。美味しくて身体にいいの」
母は彼にこうも話した。
「だから食べてそれでね」
「風邪治すんだね」
「ええ、そうしてね」
笑顔で彼に話してだ。母もその雑炊を食べるのだった。これが彼が生まれてはじめて雑炊を食べた時だった。そしてそれからもだった。
風邪をひいたりして身体の調子が悪いといつも雑炊を食べてだ。そうして身体を治した。そうした時に食べるのはそれに決まっていた。
その他にもだ。部活の試合前にも。
「あっ、今日もなんだ」
「明日試合よね」
「うん、バスケの試合なんだ」
こう母に答える。今日の雑炊は味噌を使っていて様々な野菜に鱈を入れている。母はその雑炊を作って彼の前に出したのである。
その雑炊を見てだ。雄策は言うのだった。
「だからなんだね」
「そうよ。この雑炊を食べてね」
「力をつけて」
「そうして頑張って」
こうだ。笑顔で我が子を励ます。
「試合もね」
「うん、じゃあ僕頑張るから」
雄策は母の言葉に笑顔で応える。そうしてだった。
その味噌の雑炊を食べて試合に向かう。彼はその試合で見事な活躍を見せた。それは雑炊のせいだとだ。彼は確信していた。
勿論受験の夜食も前日も雑炊だった。とにかく彼はここぞという時には雑炊を食べて力をつけて勝負に挑んだのだ。そうしたのだ。
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