神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第七十二章 竜神《4》
前書き
迫る竜神。
どうなる天桜長、央信!
緊迫スタート。
距離はみるみる縮まって、央信は一瞬死を覚悟した。
自分はここで死ぬ。
同然の報いだと。
時間の流れが長く感じられ、なんとも言えない感覚に襲われた。
竜神は迷い無く迫って来て、何を思ったのか竜神との距離を取った戦闘艦が加速機を最大限に爆発させ急発進した。
間に合わないと、感じた時だ。一瞬の覚悟を揺さぶるものを見た。
「賭けは成功したようだな」
加速系術によって、何時の間にか竜神の瞳の前に現れた繁真。
既に妖刀・蛆虫の切っ先を竜神の眼を刺すように、真っ直ぐ向けられている。
続くように次の声がして、
「縛れ、右鎖!」
清継が宝具・右鎖による攻撃を竜神に当て、流れを止めずに能力を発動する。
能力は、右鎖による攻撃を食らったものの動きを一瞬完全に止めるというものだ。
ゆえに清継の言葉の後、竜神の動きは秒にも満たないが止まった。機会を逃さず、繁真は黒い刀身を竜神の片目に突き刺した。
硝子が割れるような冷たい音と共に、竜神の目にはひびが入る。
痛みからか竜神は天に向かって吠えた。
ただそれだけでも大気が動きを変え、新たな風を呼び起こす。
起きた風を消し去る者が一人。
魔物のような鋭い右腕を広げ、竜神の眉間辺りをを狙い落下して来た。
「うっせえなあああ――――!」
セーランの右腕。憂いの葬爪が竜神を捕らえた。
三人による見事な連携。
今回の策を行う上で、既に竜神が来るであろう軌道を読み、待機していた。
呼応するかのように見事に繋がった連携は、誰の心にも関心を覚えさせた。
「暴れんなって。じゃねえと乱暴にするしかねえだろうが」
長い身体に波を描くように上下に動かし、かつセーランを振り払おうと宙で乱れる。
平衡感覚がおかしくなるが、流魔線を竜神に繋げて無理にでも引っ付く。
大きな隙だ。
感じた繁真はすぐに清継に指示を飛ばす。
「何時王政が来るか分からない。今のうちに長を遠くの方へと運べ」
「了解!」
不規則な動きを取る竜神から離れていた清継は指示を受けるや、足場を蹴り飛ばして戦闘艦の甲板に見える長、央信の元へと向かった。
指示はしていないが宙にいる戦闘艦は、何時でも応戦出来るように竜神を囲むように陣形を取る。
セーランが竜神といるため、まだ砲撃は出来無いが指示があれば迷い無く行える心構えは準備している。
甲板上からそれを見ていた央信は自分を笑った。
あまりにも無力だと。同時に自身に対する怒りも込み上げ、拳で甲板を強く叩いた。
奥歯を噛み締め、更に一発。
空しく鳴る鈍い音。
認めたくはない。認めたくはなかった。
――だから。
「来い竜神! キサマの力でここに辿り着けるのならばな!」
威勢を放つ。
自分はまだ戦える。誰かに自分の命運を託すなどまだまだ早過ぎる。
神に対する挑発が竜神を央信へと引き付けた。
張り付いているセーランなどお構い無しに、獲物を捕らえる獣の如く竜神は吠えながら行く。
砲撃をするべきか。
各戦闘艦を指揮する隊隊長達は選択を迫られ、気持ちの悪い汗を流す。
咆哮を放つ竜神の影響か、地上の建物や停泊している艦船は微かに揺れている。
顔を上げた央信が見る先。竜神が見えた。
目と目の間には日来の長も見え、必死で離れないように踏ん張っている。
「何処までいけるか分かんねえけどやるしかねえ!」
突き刺した憂いの葬爪の力を、一体何処まで引き出せるのか分からない。だが、やらなければならない。
想像する。
竜神の身体を突き刺す、大きく、太い頑丈な杭を。
天からその杭は落ちてきて、重量と落下の勢いが混じり合い、動きを止めるべく神の身体を貫く様子を。
合計五本の杭。
セーランの脳内に構築される想像という名の図は立体的であり、きめ細かく構築されていく。
形も色彩も、大気の流れさえも想像する。
想像が鮮明なもの程、憂いの葬爪の能力は質を増す。
慣れていなければ難しい。
しかし竜神はゆっくりと時間を掛けてくれる程優しくは無く、進むのを止める気配は無い。
仕方無く不完全なまま急ぎ憂いの葬爪の能力を発動させた。
竜神に刺した憂いの葬爪が淡く光りを放ち、傀神の流魔を元にセーランの想像を具現化させていく。
時間は掛からず、流魔が集結し現実空間内に現れる巨大な杭。
見上げる者達は何故杭が現れたのか分からず混乱するも、杭が竜神の上に現れたことからその後に起こる事態は想像出来た。
始めはゆっくりと。次第に速度を上げていき、重力に引っ張られた巨大な青い杭は吹く大気の風をもろともせずに竜神へと落ちた。
木の板を割ったような音を大きくした感じの音が、連続して五回鳴り響いた。
竜神を貫いた杭はそのまま地上へと刺さる。
広い貿易区域だが、物資を詰めたコンテナや、停泊している艦船。仮設の建物があるが、杭はそれらを無視して押し潰す形で落ちる。と思われたのだが、不思議なことに竜神を貫く杭は竜神以外は貫かなかった。
竜神以外のものが現れた杭に触れると、透き通るように杭が行くのだ。
目を疑うような光景に驚く者は少なくない。対するセーランは浮かない顔で。
「幾らか力の知識は宿り主になると同時に頭に刷り込まれる、つっても感覚がよく分かんねえな」
憂いの葬爪で竜神の流魔を吸収しつつ、現れた杭を見た。
誰の目から見ても杭は竜神に刺さっている。しかし竜神は刺さっていながらも央信を仕留めようと、無理にでも身体を動かし、連動するように杭が揺れ動く。
竜神に深く刺さってはいるものの、杭が壊れないという保証は無い。
「早く長を引き離せ! ――抑えられねえ!!」
感じ取ったセーランは黄森勢に向かって叫んだ。
言葉のまんまの意味で、長く竜神の動きを止めることが出来無いということだ。
行く清継。
自身の最大限の速度で突き進み、落下の速度に加え、加速系術を発動し自身の体重で速度を上げ続ける。
風を切る音が聴こえてきそうな程の速度に達しているも、安心は何処からも来はしなかった。
それもそうだ。
「こんな状態で竜口砲|《ドラゴンブレス》だ!?」
竜神の口のなかが青い光を放つ。
流魔が集結している証拠であり、竜口砲を放つ際の動作である全身の震えをセーランは感じ取った。
央信と竜神の距離は離れている。だが竜口砲ならば楽に届く距離だ。
杭が身体を貫いているのに、関係無く竜神は準備を終えた。
口径を広く、確実に央信を仕留めるために口を開く。
口から漏れる流魔は高濃度直前までに達し、熱を帯びた身体にセーランの肌が炙られる。
吸収を高めることで竜口砲の威力を弱めることは出来る。引き換えに竜口砲を止めることは出来無い。
清継が急ぎ向かっているが、間に合わないと感覚で感じた。当然本人も、背後に感じる異常な流魔
の量に不吉な汗をかく。
「――させぬ!」
竜口砲を放つために標準を定める不動の竜神に、セーランの言葉から数秒遅れて繁真が竜神に向かって妖刀・蛆虫による黒い蝿を放った。
蝿は数百単位にまで及び、黒くうごめくものが竜神へと飛翔した。
この蝿の攻撃を食らうと、食らった箇所には穴が開く。その穴に蝿は卵を産み落とし、卵から孵化した蛆が攻撃を食らった対象を貪り、蝿へと成長する。そして再び攻撃を行う。
無限に続く連鎖に比例し、次第に蝿の数も増えていく。
幾ら巨体な竜神であっても、数百単位から始まる攻撃に微動だしないわけがない。
狙いは竜神の顔。
セーランがいるがそれに構っている暇は無く、それを理解出来無いセーランではなかった。
奏鳴の内部流魔の吸収率はまだ半分も行っていない。暴走し掛けている奏鳴にとって一滴の水に等しい。だが仕方が無い。
思い、竜神から離れようとした瞬間だ。
『馬鹿者……!』
傀神の声が脳内で響いた。
歯と歯と噛み合わせる音が聴こえ、音よりも先に光が空間に放たれた。
時が止まったかのような錯覚にセーランは陥り、覚ますように次に鼓膜を突き破る程の爆音が響いた。
熱い。
感じるセーランの周りを流魔が包み込み、硬化、繭状の盾を産み出した。
地上を走るある甲殻系魔人族は爆音に耳を傾け、一度止まった後に再び速度を上げて走り出した。
●
爆発による風を受け、宙に投げ飛ばされる繁真は緩和系術を使って速度を落とし、幾つもの足場を正方形に表示し、どうにか大きめに造られた足場に着地する。
正常な状態に戻るまで数秒。
急な光による目眩ましに、爆音による身体の震えが止まるまでの時間だ。
後ろに束ねた一本の髪の乱れを直しつつ、自分が放った蝿が一匹たりとも存在していないのを見た。
身に付けている衣服は何処か焦げ臭く、爆発が起きたのだと理解した。
「竜口砲|《ドラゴンブレス》を放つのではなく圧縮して爆発させたのか。なんという荒業だ」
爆風によって飛ばされ数十メートル。
目の先に見える竜神を覆う煙が剥がれていき、次第に姿を見せる竜神。
荒業ゆえの反動か。顔を覆っていた甲殻が幾つか剥がれていたり、ひびが入っているものがある。口の部分が一番損傷しており、閉じていても牙という歯が所々見えている。
周囲を見渡せば日来の長の姿は見えず、央信の元に向かっていた清継は爆風によってか、勢いを付け過ぎて目的の場所よりも大きく逸れた戦闘艦に叩き付けられていた。
甲板上に倒れ込む清継には吐血した後が見られた。
流魔の残光が見えるため、緩和系術を発動した後が見受けられる。だが速度を殺し切れなかったのだ。
この状況では自分が動かなければならない。
映画面|《モニター》を表示し、各戦闘艦へと繋ぎ指示を送った。
「砲撃を叩き込め! 残量が無く、砲撃が行えない場合のみ全乗員の避難を終えてからの竜神への特攻を許す!」
『『――了解!!』』
傷付いた竜神が煙のなかから姿を現した直後。
竜神を囲むようにして陣取っていた黄森の戦闘艦から一斉に、砲撃の雨を浴びた。
爆音は先程以上のもので、やけくそな砲撃とも取れる。
地上から事態を見上げる者達は、いまだに事態の理解も出来ぬまま戦いの行方を見守っていた。
辰ノ大花からの援護は無く、黄森の戦闘艦のみが行動を行っていた。
『目を覚ませ……我が宿り主……』
声がした後にゆっくりと目を開けたセーラン。
彼を包む繭状の盾は、次第に形を崩して無くなっていく。
落下の軌道を感じ取って、
「クッションのような柔らかい足場をイメージ」
想像による具現化。
憂いの葬爪の能力を用い、現れた長方形の立方体にセーランは受け止められた。
弾力のあるものに包まれた後、新たに足場を表示し、着地するセーランが耳にする連続する砲撃の音。
「竜神に砲撃を浴びせてるのか。さっきの爆発は竜神が起こしたんでいいんだよな」
『無駄なことを考えているからこうなるのだ……馬鹿者が……』
耳ではなく、感覚的に直接脳から聞こえる傀神の声。
何処を見て話したらいいのか分からなくて、結局は竜神を見ていることにした。
「流魔の吸収高める方法、何かないのか。このままじゃ埒が明かねえ」
『簡単なことだ……。憂いの葬爪は流魔の操作及び使用者の想像を具現化させる……。他にも幾つかの能力はあるが……想像は直接、我が宿り主の力として現れる……』
「吸収が上手くいってるのを想像しろってか。なんか無いものを掴むような感じで変な感覚なんだよなあ」
『能力事態は宿り主になった時点で知識は得ている筈だが扱うのは初めてだからな……。時期に慣れると言っても……ふん、竜神の分身にこれ程までに時間が掛かっては先が思いやられる……』
無茶言うなよ、と言わんばかりのため息をセーランは吐く。
宿り主と言えどセーランが人族には変わり無く、分身であっても神であることは揺るがない。
安易にやられる程、下位の神であっても柔ではない。
事実、現実空間に現れた本体の意思の一部である竜神にここまで手を焼いている。
「今度こそやらねえと」
『ゆっくりしている時間は無いと思うがな……』
傀神の言葉通りだ。
砲撃を受ける竜神が、身体を貫く杭をもろともせずに円の軌道を描き始めた。
砕け散る杭。貫かれた箇所に流魔が集まり、傷が癒えていく。
周囲が危険を感じたのはここからだ。
竜神の流魔が活性化し、青く身体が光り出していいる。
なおも続く砲撃。直撃しているが効いているようには見えなかった。
そして竜神が遂に潜めていた力を解放した。
一回の咆哮。
ただそれだけで大気を圧し、正面にいた戦闘艦の操縦が効かない程に吹き飛ばした。
咆哮を受けて回転する戦闘艦。まるで枯れ葉が舞うようだ。
何を考えたのか、一艦の戦闘艦が竜神に特攻を行った。
ぶつかる外側の装甲は容易くねじ曲がり、船首は完全に潰れた。
空から落ちる幾つもの人の形をした影。
乗員が宙に身を投げ、脱出したということだ。
身体を捻り、口で戦闘艦を噛み潰した竜神。
無惨に二つに分かれた戦闘艦が黒煙を放ちながら地上に落ちていくなか、残る戦闘艦が取る行動はどれも無意味であることが感じられた。
活性化した神相手に、さすがの黄森も戦力が足りていない。今後のことも考えると下手に戦力を割くわけにもいかず、事態は最悪へと向かいつつある。
見ていたセーランは拳を握り締め、
「日来の独立に加えて奏鳴の救出。更には竜神との戦いとか、どんだけ事態は大きくなってくんだよ」
『世界を渡り歩くのならば……小さなものに我は感じるがな……』
「神が何言ってやがる。てか、これかなりの確率で戦闘艦無視して黄森長に接近するよな」
セーランは交互に竜神と黄森の長がいる戦闘艦の甲板上を見て、確率の高い流れを予測し、次の流れに備える。
ここにいても意味が無い。
黄森の長の元に先回りし、そこで迫ってくるであろう竜神を迎え撃つ。
この場は黄森に任せて先回りをしておく。
足場から身を投げるセーランが風を切りながら落下していく。
離れた場所に足場を表示して、その足場に流魔線を繋げて姿勢を保ちながら進んでいく。
遠目でそれを見ていた繁真は日来の長が無事なのを確認し、自分もやはりこの場にいても無意味なことに気付く。
「取るべき行動か。ん? あれは玄次郎殿ではないか」
視力には自信がある繁真の目が捕らえたものは、貿易区域にて進んでいる九鬼・玄次郎だ。
長である央信の元に向かっているのが見え、こちらに気付いたのか玄次郎が親指を立てながら合図を出した。
映画面|《モニター》を表示してこないのは、単に面倒だからということもあるのだろうか。
彼との付き合いは長い。
親指を立てたのならば、こっちは任せろということだ。
玄次郎といまだ見えぬ王政に央信を任せるとして、自分は傷付いた清継の元へと向かうことにする。
治癒系術は携帯しているが、効くかどうか。
悩んでいても仕方が無い。
「変更だ。竜神への特攻は中止、時間を稼ぐために防御壁を用いて竜神を足止めしろ」
映画面を表示し、各戦闘艦に伝える。
返事を待っている時間も惜しいため、返る言葉も待たずに繁真は行く。
時間を稼ぐのはいいとして、決定打があるかと問われればなんとも言えない。
日来の長に確認を取る必要がありそうだ。
指示が行ったのだろう。戦闘艦は攻撃よりも防御中心の戦い。竜神から距離を離して、砲撃は戦闘艦に注意を向かせるために行う。
先輩方にはすまないと思いつつ、足場を蹴り飛ばして宙を滑空した。
加速系術と緩和系術を繰り返し発動し、宙に表示した足場を起点に方向を変えながら進む。
創作系術ならば一から系術を組み合わせなければならないものの、自分に合ったものが出来上がるため、今後はそれを考えた方がいいか。
考えながら、離れていく竜神に注意しつつ、央信の元へと向かうセーランへと近付いていく。
流魔線を表示した足場に繋げて、落下と公転を行いながら進んでいた。それを見るに、日来の長は加速系術を使い慣れていないのだと繁真は思った。
加速系術を使わない分、やはり繁真の方が早く、セーランの元に辿り着くのに時間は掛からない。
近付いてきた繁真に気付き、減速を行うセーランに合わせて繁真も減速を行った。
適度な距離を置きつつ、二人は宙で再び会った。
足場に流魔線を繋ぎ、ぶら下がっている状態のセーランと今まで通り足場に着地した繁真。
最初に口を開いたのは繁真の方だ。
後書き
あれこれ策を練ってもさすがは神様、なんでもかんでも突っ走りますね。
今回、竜神か竜口砲|《ドラゴンブレス》を噛み、口内で爆発させた時がありましたね。
傀神の助けがなければセーラン君、あそこでバッドエンドでした。
さすがにいきなり殺しはしませんが。
セーラン、繁真、清継の三人だけで神に挑む時点で頭イカれてますが、しかしながら清継は無念の負傷。
彼女は二年生、まだまだ若いのでこれからに期待です。
ちゃっかり玄次郎こと玄次郎がちゃっかり出てきましたが、今章ではただ出てきただけでした。
また出てきますのでおきになさらずに。
では、今回はこの辺で。
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