魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ~Ⅹ~
前書き
VS????筆頭アンスール戦イメージBGM
魔法少女リリカルなのはA's GOD『SILENT BIBLE ARR.』
http://youtu.be/DBTRDRq0atI
†††Sideリイン†††
フェイトさんたち黄チームが無事に戻ってきました。わたし達のすぐ側に居るシェフィリスさんが何も言わないところを見ますと、お題をクリアしたのは間違いないようです。
「なのはちゃん達に続いてフェイトちゃん達もクリアかぁ。これは私らも頑張らなアカンなっ♪」
はやてちゃんがダブルガッツポーズで意気込んでいます。二連続でお題をクリアという良い流れを、わたし達で止めないようにしないといけませんね。シェフィリスさんに「じゃあ次をどうぞ」とサイコロを手渡されたはやてちゃん。
「よっしゃっ。どんなお題でもアンスールの誰でもどんと掛かって来いっ!」
さすがにアンスールの誰でもというのは勘弁です。あと、お題もどんなものでもというのもちょっと嫌ですね~。サイコロが綺麗な音を立てて転がって、わたし達の向かうマス目の数字を出しました。みんなで「13」と漏らす。青チームと黄チームに続いて二ケタの数字。かなり絶好調かもです。
「ほんなら行こか。私らの戦場へ」
はやてちゃんがそうビシッと螺旋状のマス目の道に指差すと、「はやてさん、カッコいいですね」とイクスが惚れ惚れしたようなうっとり顔を見せる。
「うむ。確かに戦場になるかもしれんな。お題によっては」
「もう本気でアンスールの人と戦いたくないんだけどな~」
シグナムはアンスールの魔術師と戦う事にやる気を見せて、アギトは隣でがっくり肩を落とす。同感ですよ、アギト。わたしだってもう本気だとか全力でのバトルは御免です。ルールーとレヴィは「次はどんなお題か楽しみだね」「楽しければ何でもいいよ」って緊張感のないやり取りをするだけ。もしアンスールと戦うようなお題だった場合、最前線に立てコイツぅ~、です。
「あ、はやてちゃん、シグナムさん達も。どんなお題が出ても頑張ってね」
「アンスールのメンバーの半数はもう出てきているが、まだ出て来ていないメンバーは厄介な魔術師ばかりだ」
「お気を付け下さい、主はやて。ルシリオンの言う通り、未だ姿を見せないアンスールは強い魔術師ばかりです。白焔の花嫁ステア。雷皇ジークヘルグ。呪侵大使フォルテシア。そして人類史上最強の魔道王フノス」
それと氷雪系最強のシェフィリスさんですね。戦闘のお題でなくても戦うような事になるという話を聞いて、わたしはもう心が折れそうです。なのはさん達と少しお喋りして、13マス目を再び目指す。前方のマス目に居るフェイトさん達と軽く頷き合ってから、13マス目の上へと足を乗せる。
『世界最強のチームとドッジボール対決ぅ~~ッ♪ ドンドンパフパフ♪ 相手チームを全滅させて、最強という栄光の座を勝利と共に掴み獲れッ! 』
ドッジボール。それはまだ良いとして・・・、最強の“チーム”!? この時点で最悪なお題だという事がビシバシ伝わってきて・・・。ぐるりと周囲を見回せば、わたしたち赤チームも、なのはさんたち青チームも、フェイトさんたち黄チームも、あ~あ、みたいな諦めムード。足元から光が漏れだす。お題を行うフィールドへと転送される合図。
「なんと言うか・・・頑張ってくれ」
転送が始まっている中、ルシルさんだけがわたし達から目を逸らして声援を送ってくれたんですけど、目を見て言ってほしいですっ。未だに姿を現さないというアンスールのみなさんが一斉に相手として出て来たら・・・。
もう考えるのも憂鬱で。「はぁ~」と大きな溜息しか口から出ません。視界が一度白に染まって、次にクリアになるとそこはもう別世界。スタジアムのような場所で、足元に広がるコートは、普通の球技コートの三倍くらいはあります。
「とゆうか、何でなのはちゃん達やフェイトちゃん達も居るん?」
「「さあ?」」
はやてちゃんの視線の先には、青チームと黄チームの面々。チームを代表して、なのはさんとフェイトさんが同時に首を傾げてそう一言。チーム毎でお題をする時、他のチームは待機のはずです。それが一緒に転送されるという事は、全員でお題を行うという事・・・?
他のみなさんも一緒に転送されて来て当惑気味。
「お、来た来た。いらっしゃぁ~い♪」
スタジアムの入場ゲートから聞こえてきた陽気な女性の声。一斉にそっちに向き直って、全員が絶句しました。わたしもあまりの光景に目が飛び出るかと。
「フノスとシェフィ以外が揃い踏みか」
ルシルさんが呻く。ルシルさんの言う通り、そこにはフノスさんとシェフィリスさんを除いたアンスールのメンバーが居ました。す、すすすすごい現場ですぅ。もしここにフノスさんが居れば、わたし、絶対に気を失います・・・。わたし達を迎える声を出した主――ステアさんが先程から大きく右腕を振りながら、アンスールのメンバーを引き連れて歩いてきました。
†††Sideリイン⇒ルシル†††
今、私はちょっとした同窓会気分を味わっている。シェフィとフノスが居ないとはいえ、それでも揃ってしまっている“アンスール”メンバー。今まで逢ってきたシエルとイヴ義姉様とカノンとアリス、カーネルとセシリスとレンは後方を歩く。
その前方に居るのが、前髪以外が僅かに逆立ったオレンジ色の髪、光を移さないバイオレットの双眸。白の長衣にスラックス、そしてロングコートを着込んでいる、雷皇ジークヘルグ。
「ど、どうすればええかなルシル君?」
「とりあえず話を聞かないと判断がつかないな」
ウィスタリアのセミロングの髪に、眠たそうなトロンとしたオレンジ色の双眸。紫色の長衣にスラックス、黒の肩掛けにオーバースカートの呪侵大使フォルテシア。
そんな“アンスール”メンバーを引き連れ先頭を歩くのが、カーディナルレッドのインテーク、長い後髪を背中で結い、頭頂部から二本のアホ毛を伸ばしている、白焔の花嫁ステア。厚手の黒ブラウス・赤リボン・ロングの黒プリーツスカート、ムスペルヘイム軍将軍としての階級章が襟に付いた真紅のロングコートを着ている。
「私、ステア・ヴィエルジェ・ムスペルヘイムが今回のお題の総責任者よ。もうゼフィ様のアナウンスで知っていると思うけど、お題はドッジボール。内野に居る私とジークとフォルテをアウトにしたらそっちの勝ち。で、逆にそっちの内野が全滅したら私たちの勝ち。制限時間は十分。時間切れの場合、アウトになった人数で勝敗を決める。それと、念話などの通信は禁止。これが基本ルールね」
ステアがルール説明をし、どこからともなくボールを取り出して右人差し指でクルクル回しだす。そして「ジーク。お願い」とルール説明をジークに引き継がせる。ジークは嫌そうな顔一つせずに「判った」とルールの説明をしていく。
「このドッジボール、まず顔面はセーフとなる事は憶えておいてください。それと、ただのドッジボールでは面白みがないという事で、そちらは魔法、こちらは魔術の使用をアリとします。アウトの判断基準は・・・、そうですね、実際に見てもらった方が良いかもしれない。カーネル、レン、セシリス、フォルテシア、シエル。手伝ってください」
ジークに名を呼ばれたシエル達が三人一組となって別れる。ステアがジークにボールを放り投げ、受け取ったジークが「見ていてくださいね」と私たちに向け微笑を浮かべた。なのは達からほわぁ~❤とした空気が流れてくる。ジークは格好いいからな、解る。
(フェイトは・・・よかった。ジークの微笑にヤられてない)
ジークは左手に、黄金に輝く柄の短い鉄槌“天槌ミョルニル”を出現させる。
カーネルも刀身が雷のような大剣“剛覇剣フロッティ”を。
レンはケルト十字の様な穂を持つ十字槍“葬槍ミスティルテイン”を。
セシリスは刀身が二つある大剣“煉星剣レーヴァテイン”を。
フォルテは2m弱ある深紫色の柄、その上下にある刃渡り1mの曲線を描く刃を持つ大鎌“宵鎌レギンレイヴ”を。
シエルは両腕に白銀の籠手“月狼ハティと陽狼スコール”を。
「ステア。その子たちから何かしらの質問があったならちゃんと答えてあげてください」
「了解っす~、ジーク」
「シエルさんのような神器なら解るけど・・・、ドッジボールなのに武器を・・・?」
「ま、見てれば解るよ。それじゃあゲームスタート!」
なのはの何気ない独り言にステアが耳聡く答え、ジーク達にゲーム開始を促した。そして始まるドッジボールの説明試合。先行はジーク、フォルテ、レンのチーム。ジークがボールを高く放り投げ、「いきますっ」と落ちてきたところを“ミョルニル”で打ち放った。この時点でもうドッジボールじゃないな。シエル、セシリス、カーネルのコートへと高速で飛んでいくボール。
「来いやっ!」
カーネルが“フロッティ”をバットのように構え、飛来したボールを打ち返した。それを見たアンスールを除く全員の心の声はきっと、えええーーーーっ!?だろう。実際、私がそうだ。ボールをキャッチせずに相手コートへ打ち返す。普通なら打ち返した当人がアウトだ。だがアウトではないらしく、ボールの応酬は続く。そこにステアが「これからアウトを見せるね」と私たちに告げた。ステアの視線を受けたシエル達が一斉に頷く。
「レン、あなたがアウトねっ!」
シエルがそう宣告して、飛来したボールを全力で殴り返した。ボールはレンの左肩にドガンッ!と当たった後、コート外へと飛んで行った。ステアが「レン、アウト!」と告げる。だがレンはそれどころじゃない。レンはシエルの強烈な一撃を受けた肩を押さえて蹲っていた。しかし誰もがスルー。哀れ。
「ということで、ボールが顔や頭以外にぶつかってコート内や外に落ちればアウト。それ以外は基本セーフです。返ってきたボールをキャッチせずに打ち返したとしてもアウトにはなりません。ぶつかり、味方か自分が取ることが出来た場合もセーフという事になります」
「そういうことね。体に当てられて、ボールが下に落ちたらアウト。あと武器に当たって、相手コートに返す事が出来なくてもアウトね。ま、これだけに注意していてくれれば良いってわけ。だから、こんな事も出来る」
シエル達のチームにある動きが生まれる。シエルが一人コートに残り、セシリスとカーネルは外野へ移動した。
その隊形は三角形だ。三角形の中心に、ジークとフォルテ、未だ復活していないレンが。まずは内野のシエルがボールを殴り、外野のセシリスへと飛ばす。飛んできたボールを“レーヴァテイン”で打ち、カーネルへと送球。今度はカーネルが“フロッティ”でシエルへとボールを再び打ち返す。そしてシエルがまたセシリスへ、セシリスからカーネルへ。あぁなるほど。
「キャッチして投球体勢に入って投げる。この工程が省けるから・・・」
「そーゆうこと。あーいう風に超高速のパス回しが出来る。これでかなりの確率で相手チームを翻弄出来るってわけ」
フェイトの呟きにステアはそう返す。確かに上手く繋げる事が出来れば翻弄出来るな。私たちがそのメリット、デメリット両方あるルールに唸っていると、ドゴン!と鈍く大きな音が聞こえた。ハッとしてコートへと目を向けると、シエルのボールがレンの顔面を捉えていた。痛っっっったぁぁ~~~。あれは痛い。ボールがレンの顔面にめり込んでいるぞ。ヴィータとアギトが「ひでぇ」と戦慄している。というか全員がドン引きだ。
「顔面セ~~フ!」
「いや、セーフも何も完全に再起不能だろう」
ステアへ冷静にツッコミを入れるリエイス。私たち全員がうんうんと頷き同意を示す。しかしステアは大した問題でもないと言いたげにニコリと笑い、「じゃあ魔術・魔法を使ってのプレイを説明するから」とレンの身に起きた大惨事をスルー。
コートの中心でバタリと倒れたレンへと駆け寄るステア以外のアンスールメンバー。ジークに「ルシル。緊急です。治癒術式をお願いします」と頼まれ、私は「ああ」と二つ返事で答え、レンのぶっ倒れているコートへ駆け寄る。
「・・・・おい、生きてるか?」
ボールのラインがクッキリと顔面に刻まれたレンの顔を見ての第一声。シエルが隣で「顔に当てるつもりはなかったんだよ? ホントだよ?」と私に何度も言い訳を繰り返す。わざとぶつけたと言うなら兄として怒らないといけないが。目は本当にわざとじゃないと訴えている。
「ああ、解ってる。シエルは良い子だからな。偶然当たったんだもんな」
――傷つきし者に、汝の癒しを――
「うんっ。ありがと兄様。やっぱり兄様はシエルを信じてくれるんだね❤」
レンの顔だけでなく全身にラファエルを掛けつつ「当たり前じゃないか」とシエルの頭を優しくポンポンと叩く。シエルは気持ちよさそうに目を細めて「嬉しいなぁ」と破顔する。とそこに、
「おいコラ。人の顔面に殺人ボールを直撃させといてニコニコしてんなよ」
ラファエルの甲斐もあり、レンが見事に復活。そしてギラッとシエルを睨みつける。シエルが「なんかごめんね~。痛かった?」とそれは軽い口調で謝った。レンの額にクッキリ浮かぶ青筋。私はシエルに「ほら、ちゃんと謝れ」と軽く頭を小突いてやる。
「あたっ? むぅ、顔にボールぶつけてごめんなさい」
「ということで、レン、すまないがこれで許してやってくれ」
シエルに続いて私も頭を下げる。兄として妹の不始末にも付き合わないとな。レンはそれで渋々だが許してくれた。ふぅ、シエルとレンのケンカ一歩手前の仲裁なんてすごい久しぶりだな。とりあえずこれで問題は解決だ。「それじゃ戻るな」とシエル達に言ってからフェイト達のところへ戻る。
「お疲れ、ルシル。シエルのお転婆っぷりにも困ったもんだね」
「お前がそれを言うかステア」
すれ違いざまにそう言われ、ステアの方がお転婆だったと言い返す。フェイト達に迎え入れられ、「ステア。続きを頼む」とルール説明の先を促した。ステアは「了解。それじゃジーク。魔術・魔法使用時のプレイの説明ね」と告げ、再開される説明試合。
先行は再びジークチームから。ジークがボールを上に放り投げ、“ミョルニル”を構える。そして足元にジョンブリアンに輝くニダヴェリール魔法陣を展開。
――ジェネラツィオーネ・ディ・エネルジーア・エレットリカ――
ジークの身体から稲妻が放電。「アックームロ」と告げ、稲妻は“ミョルニル”へと集束していく。ボールが良い高さにまで落ちてきて、“ミョルニル”が振るわれる。
「アッサルト・ステッラ・・・!」
術式名が告げられたと同時に“ミョルニル”がボールを捉える。ボールがジョンブリアンの雷光を纏い、高速でシエル達のコートへ飛来。受けに回るのはシエルだ。ギンッと鈍い音が耳に届く。両拳を打ち付け合い、
「圧壊拳!!」
雷塊となっているボールを重力の拳打で打ち返した。ボールは再びジーク達のコートへ。今度はフォルテが受けに回るようだ。“レギンレイヴ”をクルクルと回し、足元にスヴァルトア―ヴヘイム魔法陣を展開、上下の刃にベルフラワーの影を纏わせる。
――復讐者の黒閃――
自分の体を軸として“レギンレイヴ”をクルリと回し、ボールに☓十字の二連撃を打ち込む。一撃目でボールの威力を激減させ、二撃目で頭上に跳ね上げる。フォルテが下がり、落ちてきたボールの真下に“ミスティルテイン”を頭上に掲げたレンが待ち構える。
「喰らいなシエルッ!」
――野郎どもブチ壊しちまいな――
やはり根に持っていたのか、レン。レンは“ミスティルテイン”でボールを打ち、幾体もの亡霊をボールへと纏わせシエルへと返す。ヴィヴィオ達から軽い悲鳴が上がる。当然か。ボールには苦しげな人間の顔が幾つも纏わりついているのだから(しかも呻き声付き)。なのは達も引いている。レンのお題に参加したはやて達はというと、
「プフ、アカン。シグナムのレアな姿を思い出してもうた」
「主はやて!? 決して口外しないという約束です!」
「シグナムさんシグナムさん。ギャップ萌って知ってます?」
「知らんっ!!・・・む、そう言うレヴィ、お前も散々な目に遭っていたな」
「ぅく。止めましょう。お互いの身を滅ぼしかねません」
レヴィとシグナムが握手を交わした。君たちは苦労したんだな。レンが従える亡霊の付加効果はいずれも厄介で、亡霊の攻撃を受けたらドジにされるわ憂鬱にされるわ精神を子供にされるわと大変な目に遭う。レヴィとシグナムはおそらくその類にやられたんだろう。
「はい、シエル、アウト!」
「おっしゃぁぁああああっ!」
コートへと目を向ければ、シエルが女の子座りでペタンとコートに座り込んでいた。そしてレンは何度もガッツポーズを決めている。大人げないなぁ、お前。シエルは仰向けに寝転がって「あ~んもう、やられた~」と悔しそうにジタバタ。
「見てもらったように魔術・魔法を使う事によってボールの威力や球速が変わるし、使った術式によっては効果がボールに現れるって憶えておいてね。それと、魔法術を使ったボールは魔法術じゃないと返せないしキャッチ出来ないんだけど、味方の魔法術ボールなら魔法術無しでキャッチも出来るし返せる。
じゃあここまでで何か質問ある子、手を挙げてね~♪」
「あ、はい」となのはが手を挙げる。ステアに「はい、どうぞ」と指され促されたなのはは、「このお題、もしかして私たちも参加ですか?」と訊ねる。その疑問はもっとも。このお題を出したのは、はやてたち赤チームだ。それなのに私たち青チームとフェイトたち黄チームまで召喚されている。それはつまり・・・・
「そうだよ。赤チームのメンバーだけだと辛いでしょ?」
みんなの視線がはやてたち赤チームに向けられる。はやて、リイン、シグナム、アギト、ルーテシア、レヴィ、そしてイクス。むぅ、確かにこのメンバーでステア達を相手にドッジボールはキツイな。ルーテシアが「か、勝てないですよね?」と、はやてとシグナムに遠慮したかのように小声で呟く。そこにレヴィが「絶対ムリ」とバッサリ言った。
「レヴィの言う通りやな。そや、ルシル君。ルシル君から見てどうやろ?」
「はやて達には悪いが、赤チームだけでは勝てないな。ここは他のチームから誰かを入れた方が良いだろう」
私の意見はすんなり通ることになった。ステアから「内野に五人、外野に三人、計八人チームね」と説明され、私達は誰が参加するか作戦会議に入る。
まず最初に出てきたのが、
「近接型と中遠距離型。バランス良く入れるか、それとも近接型だけで攻めるか」
赤チーム・リーダーとして今回のお題の総指揮を執るはやてが全員を見回す。それにヴィータが「近接型の方がまぁ打撃のモーションも少なねぇし隙もない、と思う」と意見を出す。
「向こうのチームの内野って全員が近接型だし、こっちも内野を近接型で固めた方が良いんじゃないかな・・・?」
フェイトがそう纏めとも言える意見を出した。その意見に反対はなく、私たちのチームの内野は近接型で固めることとなった。問題は、誰が内野に入るかになってくる。内野には五人ということだが。そこにリエイスが挙手して、「私の意見を述べるなら、内野には基本、武器を持たない者が入るのが良いと思う」と意見を出した。
「私もリエイスの賛成だ。いくらコートが広いとはいえ、やはり武器を持つと身動きが制限されやすい。それに高速弾が来た時、咄嗟に周りを気にせずに迎撃が出来るのは・・・」
「武器を持たない者、か。我もリエイスの意見に賛成しよう」
シグナムとザフィーラはリエイスの意見に同意を示す。はやてが「みんなもそれでええか?」と同意をみんなに求め、少しの間の後、リエイスの意見にそれぞれ賛成していった。最後に私も「それで良いと思う」と言っておく。それからの話し合いの結果、
「内野は、ヴィータとリインのユニゾン、ザフィーラ、リエイス、スバル、レヴィ。そんで外野は、私、ヴィヴィオ、アインハルト。このメンバーで行こう」
はやてが参加するメンバーの名を挙げていく。何故このお題に不利な感じのはやてが参加しているのかと言うと、「このお題を出したんは私やし、なんもせんのはアカンやろ」ということだ。まぁ内外ともにかなりの実力者ぞろい。ヴィヴィオとアインハルトも十分やれるだろう。
「ステア!」
「ん? 誰がやるのか決まったみたいね」
私の呼び掛けに応え、ステア一人が歩いてきた。私もステアへと歩み寄っていき、「ああ。彼女たちが、お前たちに勝つ子達だ」と自信満々に言ってやる。背後から「やめてルシル君」とか「挑発しないでルシルパパ」とか「ルシルさん、ハードル上げないでくださいよ」とか、弱気な発言が聞こえてきた。ステアがニヤニヤする。そのツラ、あとで悔しげなものにしてやるよ。
「ステア。お前には吠え面をプレゼントしてやる」
「お? ほほぉ。面白いじゃん。私に負けっぱなしのルシルちゃんが大きく言ったわ。いいよ、私に勝ったら、キスでも何でもしてあげちゃう❤」
「馬鹿を言え。お前のキスなんぞ要らん。あとちゃん付けするな」
両腕で胸を寄せて上げるようなポーズを取ったステアに嘆息。私にはフェイトが居る。あ、だからと言ってフェイトにキスされたいとかじゃないぞ。ダメだ、馬鹿な思考の流れだ。コホン、と咳払い。
「少しはテレてよ。ふぅ、どんなに時間が経っても頭が固いんだから。ま、私に勝ったらちゃん付けをやめてあげるよ。とりあえずそのメンバーで練習を十五分くらいやって、チームワークを・・・って必要ないって顔ね」
ステアのニヤリとした笑みと言葉に、私は後ろに居るはやて達へと振り返る。はやてたち参加チームはすでにコートに入っていて、ステア達を待ち構えていた。
「連合のクズ共を一匹一匹焼き殺していく時以上の高揚感♪ 楽しい楽しい十分間になりそっ♪」
「はぁ、お前なぁ。そういう血生臭い話を、ヴィヴィオたち子供に聞かれるようなミスだけは絶対にするなよ」
「解ってるってば。・・・さてと。見るからにデキそうなのが揃ってるし。フフ、フフフフ。ダメ、にやけちゃう。コホン。アンスールが白焔の花嫁ステア・ヴィエルジェ・ムスペルヘイム――」
――奥義・白焔の花嫁――
「さぁ、いざ戦場へ参ろうぞ・・・!」
ステアが純白の炎で構成されたウェディングドレスを纏った。当然と言えば当然かもしれないが、黄金の三叉槍“劫火顕槍シンマラ”を携えた。というか、初っ端から花嫁モードとは馬鹿か、お前はっ!
私の非難の視線を受け流し、白焔のヴェールの奥にあるオリエンタルブルーの瞳をギラリと光らせる。ステアの変わりように、何も知らないヴィヴィオ達が驚きの声を上げている。ステアに続き、ジークとフォルテ、外野組のシエルとレンとカーネルもコートへ向かった。
「ルシル! こっちで見学しよう!」
「あ、ああっ。頑張れ、はやて、みんな」
イヴ義姉様とセシリスとカノンとアリスは待機か。まぁ当たり前か。カノンとアリスの身体能力は、お世辞にもあまり良くない。セシリスの炎熱魔術は、ステアの炎熱操作の影響を諸に受ける。そう、炎がステアに流れる。
だから戦場ではステアと同じエリアには立たない。セシリスとて炎熱最強だが、やはりステアの方が一枚上なのだ。イヴ義姉様の場合、ステアの馬鹿みたいな炎が嵐に巻き込まれ、周囲に要らぬ被害をもたらす場合がある。というかあった。今回に限ってそんな心配は要らないだろうが、念のためだと判断しての事だろう。
「ルシル。ステアさんのアレ、やっぱりまずいよね・・・?」
「だな。だが、はやて達はきっと勝つ」
フェイトにそう答えると、フェイトは「そうだよね」と強く頷いた。アップを始めたはやて達とステア達を見る。と、背筋に言い知れない悪寒が奔る。まずい。ステアのあの笑み、何か馬鹿な企みを考えている笑みだ、アレは。その予感は的中。内野と外野に居るはやて達がステアの純白の炎に包まれた。なのは達から悲鳴が上がる。特にシグナム達ヴォルケンリッターの反応が一番速く。
「待て、シグナム!」
「退けセインテスト! いくら何でもあのような不意打ちを――」
「なんやコレぇぇーーーーーーっっ!」
完全にキレているシグナムの前に立ちはだかり行く手を拒む。そんな時、突然ここスタジアムに響き渡るのははやての悲鳴だった。シグナムがハッとしてコートへと向き直る。そして「は?」と間抜けな声を漏らす。はやて達の無事を確認した全員が目を点にして呆然。私ひとり額に手をやり大きく溜息を吐いた。
「ブ、ブルマ・・・?」
シャマルが力なく呟く。そう、はやて達の衣服がガラリと変わっていた、騎士服からブルマという体操服に。もちろんザフィーラやジーク、レンとカーネルら男たちはブルマじゃない、ハーフパンツだ。もし男もブルマだったら直視できない。哀れ過ぎて。ステアに多少の情けがあって助かる。
(私が参加していたら絶対にブルマにされているな)
そしてステア達も体操服姿だった。両手を腰に当てて仁王立ちのステア、胡乱な瞳とやる気の見えない無表情を崩さないフォルテ、シエルは嘆息。もう泣きたいくらいに頭が痛い。
「はやてちゃんには悪いけど、よかった。私、出なくて」
「うん。さすがにこの歳でブルマはちょっと・・・」
なのはとフェイトが本気で安堵している。はやてはさっきから「二十六歳でブルマってアカンやろ!? 恥ずかし過ぎやっ!」とシャツをグイグイ下に引っ張る。ちなみに、全員のシャツにはゼッケンがあり、それぞれ名前が丸い字で書かれている(すてあ、とか、れう゛ぃ、とか、じーく、とか)。
「ちょ、はやて!? あんまり下に引っ張ると胸が! ってコラぁーーーっ! 野郎どもはこっち見んじゃねぇぇーーーっ!!」
――シュワルべフリーゲン――
ヴィータも、う゛ぃーた、と書かれたゼッケン付きのシャツとブルマ姿に顔を赤くしていたが、はやての行動に顔を青くし、私たち男全員(ザフィーラ除く)にフリーゲンを撃ってきた。
ジークとレンとカーネルは余裕で迎撃。私もラウンドシールドで防御。エリオだけがはやてから目を逸らし、フリーゲンも律義に受けて・・・倒れた。エリオ。律義を貫くのもいいが、時と場合を考えなければ酷い目に遭うぞ?
「エリオ君っ!?」
目を回しているエリオへキャロとイクス、遅れてルーテシアが駆け寄る。ん? フェイトはエリオの様子を・・・? っ! 悪寒パート2。しかも僅かに殺気。ポンと肩に手を置かれ、グイッと体の向きを変えられる。目の前にはニコニコ笑顔のフェイトさん。
「ルシル。はやてに、はやて達に対して何か言う事は?」
「はい。ごめんなさい」
「もしはやて達を変な目で見たら・・・抉るよ?」
「(何をだぁぁぁーーーーーーッ!?)すいませんでしたっ!」
キッチリ腰を折って、恥ずかしい格好をさせられ赤面しているはやてとヴィータとスバルに全力で謝罪。とまぁこんな騒動も終わり、最終的に全員が体操服姿のままでのゲーム開始となった。
『はい。時空管理局とアンスールによるドッジボールの開始が迫ってきました』
ゼフィ姉様の綺麗な声がスタジアム内に流れた。何事だ?と思って辺りを見回していると、ティアナが「ルシルさん、あそこですっ!」と指を差し教えてくれた。そこで、私は今回のお題の中で一番の驚愕。フェイト達も「あ・・・!」と驚きの声を漏らす。
『今回のゲームの実況を担当する、神壁の乙女ゼフィランサス・セインテスト・アースガルドですっ♪』
実況席には、ゼフィ姉様を含めて三人。
『えっと、みなさんの試合を観戦することになりました、魔道王フノス・クルセイド・アースガルドです』
アンスールの創設者・クルセイド王家の女王・アースガルド四王族の頂点に立つ真王・そして魔術師史上最強の魔術師、魔道王フノス・クルセイド・アースガルドが、ゼフィ姉様の左隣に座っていた。
フノスが私に向けて小さく右手を振り、誰もが見惚れる笑顔を浮かべ、口パクで「ルシル」と名前を呼んでくれている。
私もフノスに応えて右手を小さく振り、口パクで「フノス」と名前を呼んでやる。フノスはニコニコと心が温かくなる優しい笑顔を浮かべる。本当に可愛い妹分だなぁ~。
『同じく、蒼雪姫シェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイムです。ルシル。恋人の前で他の女の子にデレデレするのは感心しないよ』
シェフィはゼフィ姉様の右隣りに座って、少し不機嫌気味な溜息を吐いた。
『ちょっ、シェフィ!? 別にそんなのじゃないよっ!? ルシルの恋人さん! ルシルにそんな気は絶対にないから、責めないであげてっ!』
『あはははははっ! ひぃひぃ、面白過ぎよあなた達! ぶふっ、あはははははっ!』
これは一体何という名前の拷問なんだ? あと、どうしてそこまで笑えるのかが私には解らないんですが、ゼフィ姉様。フノスの説得に、フェイトは「えっと、えーと、うん、気にしてないよ」と苦笑。頭痛の次は腹痛が。いや胃痛がしてきた。
「審判は私、神狼フェンリルがやらせてもらうから、ズルは出来ないって事を忘れないでね」
足元まで伸びる艶やかな黒髪を翻して現れるフェンリルなんだが、審判が体操服である必要性を感じない。精神疲労で倒れないことを祈っていると、「ア、アンスールが全員揃っちゃった・・・」となのはが恐縮してしまっている。正直今さらだぞ。そもそも私からしてみれば、なのは達は現代での英雄だ。過去か現代かの違いでしかない。
「ゼフィ様! フノス様! シェフィ! そろそろ始めたいのでお願いしますっ!」
『りょーかぁ~~い。では管理局のみんなにアンスール側の選手の紹介をしましょう。アンスールチームを率いるのは、煉生世界ムスペルヘイムの女王にして将軍、そしてアンスールの参謀役、炎熱系最強の大魔術師、白焔の花嫁ステア・ヴィエルジェ・ムスペルヘイム!』
「どうもどうもぉ~~♪」
ゼフィ姉様の紹介を受け、ステアがコート内野で右腕を大きく振って、ヴィータたち内野や外野のはやて達に笑顔を振りまく。
『続いて、闇庭世界スヴァルトアールヴヘイムの王女、他人を呪わせたら右に出る者はいない、闇黒系最強の魔術師、呪侵大使フォルテシア・アウリアス・スヴァルトアールヴヘイム!』
「よろしく。お互いに、手加減無用、でやろう」
フノスに紹介されたフォルテは僅かに頭を下げてから、ヴィータ達に左拳を突き出す。ヴィータがそれに「おう」と同じように左拳を突き出し、コツンと合わせた。
『続いては、無圏世界ニダヴェリール皇帝、アンスールの先槍、雷撃系最強の魔術師、雷皇ジークヘルグ・フォスト・ニダヴェリール!』
「正々堂々、よろしくお願いしますね」
ジークはヴィータへと歩み寄り、わざわざ片膝をついて身長を合わせて(それでもまだ合わないが)握手を求め、ヴィータは僅かに頬を染めて差し出されたジークの握手に応えた。とそこに「セインテスト君。ちょっといいかしら」とシャマルに声を掛けられた。
「ジークヘルグさんの目の事なんだけど・・・。あれは見えていないのよね」
「ああ。ジークは目が見えない。それでもハッキリと行動できるのは、魔術による能力だ。大気中の僅かな電気を感じ取って、最大半径500m内に何が在るか誰が居るか全て把握できる。それに聴覚も優れているから、ジークには絶対に奇襲は通用しないんだ」
ゼフィ姉様たちによるシエルの紹介の最中に、シャマルの質問に答える。千里眼。それがあるからジークは強い。アンスールの紹介も終わって、ようやくゲーム開始。
『それでは、時空管理局選抜チームとアンスールチームによる、制限時間10分間のドッジボール!』
『試合・・・、せぇの』
『『『開始っ!!』』』
VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦✛
白焔の花嫁ステア筆頭アンスールチーム
✛◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS
◦―◦―◦―◦―◦―◦
審判であるフェンリルがコートの中央に立ち、両サイドに立つステアとリエイスを交互に見る。その手には白いボール。ジャンプボールをするためで、ステアとリエイスはジャンパーという事だ。
フェンリルがボールを高く放り投げ、二人のジャンパーは勢いよく跳び上がった。ステアとリエイスの身長にほとんど差はない。単純、ジャンプ力による勝負となる。バシッとボールを叩く音。ボールが一直線にスバルへと吸い込まれていく。そう、リエイスが一歩の差で勝ったのだ。スバルの“リボルバーナックル”のナックルスピナーが高速回転しだし、
「リボルバー・・・・キャノンッ!」
スピナーで発生する衝撃波を拳に纏わせたまま殴りつける魔法がボールへ。ゲーム初っ端から魔法によるボールの威力と速度強化。スバルの一撃がボールを捉え、一直線にフォルテシアへと向かって行く。
『おおっとぉっ! 初っ端から攻めに出た管理局チーム! 拳打に打ち放たれたボールは、アンスールコートへ一直線!』
超高速弾。フォルテシアが右手に握っていた大鎌“レギンレイヴ”の柄が分かれ、フォルテシアは大鎌の二刀流となる。二つの“レギンレイヴ”の刃にベルフラワーの影が纏わりつく。
――復讐者の黒閃――
左の“レギンレイヴ”がボールを止め、跳ね返る前に右の“レギンレイヴ”が一撃が入る。ボールに円状の刃の影が幾つも纏わりつき、高速でヴィータ達へ――いや、外野へ向かう。影を纏うボールの行く先、そこにはシエルが待ち構えていた。
『シエルの重力は凄いですから、管理局のみなさんは気をつけないと大変ですね』
フノスが管理局チームに注意を促す。シエルも「フノス義姉の言う通りだよっ」と笑う。そのシエルの右腕に装着された白銀の籠手“月狼ハティ”の拳部分に重力が纏わされた。
「まずは一人!」
――圧壊拳――
ドゴンッ!という轟音。ボールに纏わりついていた影が根こそぎ吹き飛び、代わりに重力がボールを覆う。重力を纏うボールが一直線にザフィーラへ向かう。距離的にはリエイスの方が近かったが、シエルはシュヴァルツェ・ヴィルクングという重力を無効化する術を有しているリエイスに警戒していた。
――牙狼鋼破陣――
ザフィーラは両拳の先端から上腕まで削岩機のような螺旋状の魔力を纏わせた。ズドンッ!と轟音。ザフィーラはボールを両腕だけでなく体を使って受け止めていた。コートには二本の轍。ザフィーラがボールの勢いを殺すまでに作ったものだ。
「うげぇっ!? 止められたっ!?」
「馬鹿なっ! いくら何でもシエルの重力を力づくで押さえるなんて!」
『これはすごいっ! 犬耳さんがシエルの重力球を受け止めたぁぁーーーっ!!』
『これは、本当に驚きましたね』
シエルとステア、ゼフィランサスとフノスが本気で驚いている。いや、ルシリオンを除くアンスール全員が驚愕の表情を浮かべていた。魔導師のレベルに合わせて魔力出力や身体能力が約60%制限されているとはいえ、シエルの重力と真っ向からぶつかり勝つことの出来たザフィーラ。ルシリオンだけが「さすがだな、守護獣ザフィーラ」と満足げに笑みを浮かべた。
『確かに。でも、無傷とはいかなかったようですね』
「おい、ザフィーラ大丈夫かよ・・・? おーい、意識あるか?」
「・・・む・・? ん? あ・・・あぁ問題ない」
「問題無いという顔ではないな。顔が青いぞ、ザフィーラ」
ヴィータとリエイスがザフィーラに歩み寄って、気遣いの声をかけていく。外野に居るはやても「ザフィーラ、大丈夫か?」と声をかける。
「問題ありません、主はやて。それに、ヴィータ、リエイス。心配をかけたな」
「無茶はアカンでなー」
「おーい、ゲームを再開するよー?」
「すまぬ。我らからのボールということで構わないのだな?」
「ええ。 管理局チームからスタートです」
フェンリルがゲームをし切り直す。ザフィーラは頷き、投擲体勢に入ろうとした。が、それを止めるのがヴィータだ。「少し休んでろ。あたしから始める」とボールを受け取ろうとして、ピタッと動きを止める。チラッとフェンリルに視線を送る。これはセーフなのか?と。
「内野内でのボール受け渡しは・・・まぁいいか。でも同じ人にばかり渡すのはダメだからね」
ヴィータは「すまねぇ」と一言謝ってから、ザフィーラからボールを受け取る。ヴィータの携える“グラーフアイゼン”はギガントフォルム。ヘッドが大きい形態だ。内野に居るチームメイトを見回し、頷き合う。次に外野に居るはやてとヴィヴィオとアインハルトを見、また頷き合う。
「行くぜ、オラッ!」
ポーンとボールを頭上に放り投げ、落ちてきたところを“グラーフアイゼン”で打つ。魔法弾ではなく通常弾だ。しかし速度はとんでもない。受けに回るのは、「私が行きましょう」と“ミョルニル”を構えて待ち構えるジークヘルグ。飛来したボールを魔術無しの“ミョルニル”で打ち返す。
向かう先は、レヴィだ。レヴィもまたヴィータ同様に魔法を使わず、ただの拳打で自軍の外野に居るアインハルトへと打ち返す。アインハルトもまた魔法を使わず、対面に居るヴィヴィオへと打つ。
速度は確かに速い。が、内野のステア、フォルテシア、ジークヘルグにとっては受け止められる速度。だが取らない。余裕でもあるが、何より見てみたいのだ。魔法と言うものを。ヴィヴィオは右拳に虹色の魔力を纏わせる。
「はぁぁぁああああああああッ!!」
ヴィヴィオの咆哮。さらに高密度となる魔力。“アンスール”チームの内野に居るステアとフォルテシアとジークヘルグが身構える。そして放たれる右拳打――ではなく、魔力を纏っていない左拳打。
『フェイントだぁぁーーーっ!』
ボールは緩やかな弧を描いて管理局チームの内野へと向かって行く。警戒の身構えの必要が無くなったことで、少し力を抜いた“アンスール”チーム。その僅かな気の緩みを見逃さなかった管理局チーム。動いたのはリエイスとレヴィだ。
「シュヴァルツェ・・・!」「瞬閃・・・!」
同時にボールへと最接近。“アンスール”チームはどちらがボールを打つのか判断がついていない。リエイスとレヴィが横に並んで同時に拳打体勢に入る。リエイスの左拳には黒色、レヴィの右拳にはすみれ色の魔力が。
「ヴィルクング!」「牙衝撃!」
放たれる二人の異色の拳打。ボールを捉えたのはその内に一つ。ボールが纏っているのはすみれ色の魔力。一撃を入れたのはレヴィだった。コートの境界線に一番近かったステアのふとももへ向かって高速で飛んで行く。
ステアは“シンマラ”で弾こうとする。が、“シンマラ”の石突きがコートをガリガリ削る。その一瞬のタイムロスがステアの動きを鈍らせた。バシッとボールが当たる。もしこれで内野の誰もがボールをキャッチ出来ず、地面に落ちればステアのアウトとなる。
しかしステアに当たって跳ねたボールは運良くフォルテシアの頭上。フォルテシアは“レギンレイヴ”を魔力へと還元し消滅させ、落ちてきたボールを両腕でしっかりとキャッチした。
「残念。私が、キャッチした。ステアは、アウトじゃない」
『おっと! 管理局チーム残念! フォルテがステアをアウトから救った!』
『わぁ、惜しかったですね。でも凄いです、管理局チームのみなさん』
両手を胸の前で合わせて、心の底から管理局チームを称賛するフノス。ステアがフォルテシアへと歩み寄り、「ありがとねフォルテ。あっさりアウトになるとこだった」とハイタッチを求めながら感謝を述べる。フォルテシアは「しっかりして、リーダー」とハイタッチに応えた。
「よぉしっ! 今度はこっちがアウトにするぞ!」
ステアは純白の炎によって構成されたウェディングドレスとヴェールを解除した。白い火の粉となって消滅していくドレス。ステアは思った。ドレスとヴェールは邪魔だと。本気で戦う事を決めての奥義発動だったが、それがかえって邪魔になっていた事が今のピンチで判った。
『ステアが花嫁を解除した・・・?』
『たぶんやり辛いと思ったんだと思います。花嫁は本来の戦闘中にこそ効果を発揮する形態ですから、さすがにドッジボールで使う術式じゃないかと』
ゼフィランサスが疑問に首を傾げ、シェフィリスがそう答えを示す。ステアも「そうなんだよね。完全に空回りだった」と自分自身に呆れていた。
「時間も無いしさっさとゲームを再開してね」
フェンリルに急かされ、ステア達はそれぞれ構えを取る。ボールを持つのはフォルテシア。そして無手。“レギンレイヴ”はどこにも無い。フォルテシアも選択したのだ。神器ではなく小回りの利く徒手空拳で行こう、と。続いてステアも“シンマラ”を消し、空いた両手を握って拳にし、打ちつけ合わせる。
『お? アンスールチームも管理局チームのように無手でゲームをするみたいね』
「むぅ。ステアさんとフォルテシアさんは神器が無くても強いんやろか、やっぱり・・・?」
「おそらく強いかと。神器?というのは武器の事ですよね・・・? 武器を持つ人は、必ずと言っていいほど徒手空拳にも長けてますから」
はやてにそう答えるアインハルト。ヴィヴィオも「見るからに、ですよね」とステアとフォルテシアを注意深く眺める。フォルテシアははやて達の視線をやり過ごし、投擲体勢に入る。内野に居るヴィータ達がグッと腰を低くし、フォルテシアのボールに最大警戒。
「行く」
ボソッと一言。その直後にフォルテシアはボールを投擲。通常弾だ。受けるのはスバル。“リボルバーナックル”で殴り返す。これもまた通常弾。スバルもただ単に強烈なストレートをボールに打ち込むだけ。だがそれでも十分な攻撃力。迎え撃つはジークヘルグ。光を映さないオレンジ色の双眸がハッキリとボールを捉え、
――ジェネラツィオーネ・ディ・エネルジーア・エレットリカ――
発電、という意味のニダヴェリール語の雷撃系補助術式。ジークヘルグの身体から、ジョンブリアンの強烈な稲妻が放電される。そして「アックームロ」と告げる。蓄電、という意味だ。放電されていた稲妻が“天槌ミョルニル”のヘッドに集束されていく。
「アッサルト・ステッラ!」
ボールを捉える、雷撃系の頂点に立つ王と神器による一撃。突撃する星、という意味の攻性術式。本来は、ジークヘルグが生み出した雷球を撃ち出す術式だ。雷光を纏い、超高速でリエイスへと迫る。威力は説明試合の時とは桁違いに強い。だがそれでも外野に居るシエルが「ダメ!」と言う。が、もうすでに手遅れ。
リエイスは腰を低くし構えを取る。「シュヴァルツェ・・・!」と呟き、右拳に黒い魔力を纏わせる。こちらも今まで以上の黒の魔力を纏い、その黒の魔力は拳だけに収まりきらないとでも言うように周囲にまで伸びている。
「ヴィルクング!!」
真っ向から雷光纏うボールを殴りつける。ボールと拳の衝突点から周囲へ雷撃が拡散していく。リエイスから「ぅぐっ」と苦悶の呻きが漏れる。勢いを止められず、ジリジリと後退していく。そこに、「踏ん張れリエイス!」とザフィーラがリエイスの両肩に手を置き、支えとして踏ん張る。ヴィータ達も手伝おうと駆け寄ろうとしたが、ザフィーラの制止の視線を受け・・・次の行動のために構える。信じたのだ。リエイスを、ザフィーラを。
「一撃で止まらないなら・・・!」
――シュヴァルツェ・ヴィルクング――
リエイスの左拳にも黒の魔力が纏う。間髪入れずに一撃。それでようやく雷光が消し飛び、ただのボールへと戻った。リエイスは止めたのだ、雷撃の英雄の一撃を。しかし、ボールはそのままアンスールコートへと戻っていく。管理局チーム、観戦しているなのは達も「あっ」と目を見開く。ボールの向かう先、そこには・・・
「いらっしゃ~~~いっ♪」
ステアだ。ゆるいスピードで向かってくるボールを待ち構えている。ステアの右腕に純白の炎が纏わりつき、彼女はそのままボールへと拳を突き出した。
「火煉爆焔焼打♪」
半球状の炎の壁を前面に押し出す様に纏った拳打がボールを捉えた。ヘキエィン・インフェルノ。地獄の鎮魂曲、という意味のムスペルヘイム語。先のお題で、炎帝セシリスが使ったムスペルヘイム王家式・炎熱系攻性術式。
純白の炎を纏ったボールが、備えが何一つとして出来ないリエイスとザフィーラへ向かって行く。管理局組全員には諦めの空気が。そして“アンスール”チームもリエイスのアウトを確信。しかし、
――ブーストレベル3・瞬走壱式――
「やらせないよっ♪」
火炎球がリエイスへ到着するより早く、リエイスとボールの間に割って入る一人の少女。管理局組全員が「レヴィ!」とその少女の名前を口にする。
黒のノースリーブのセーラー服。セーラー服特有の大きな襟は前後共に燕尾。裾もまた襟と同様に前後共に燕尾となっていて、後ろ側の裾は膝裏までの長さ。捲かれている黒いネクタイにはスミレが描かれている。
インナーは立て襟の白いノースリーブのブラウス。ファスナー仕立ての前立ては黒のラインで、うっすらと模様が描かれていて、首元には小さな黄金に輝く南京錠が付いている。下は黒いプリーツスカート。そしてスカートの裾から少し出るくらいの長さの黒のスパッツ、黒のブーツ。
それが、割って入った少女レヴィ・アルピーノが動きやすさを追求した近接格闘用の防護服“モード・コンバット”だ。
「いっっっくよぉぉーーーーーっ!」
レヴィは火炎球に何の恐れも抱かず、それどころかニッコニコな笑みを浮かべ、「斬裂爪閃・断絶ぅっ❤」と十指の先から魔力爪を作り出し、左の爪で炎を斬り裂き、右の爪でボールを弾き返した。斬裂爪閃・断絶。魔法効果を斬り裂くという能力を持つ、魔力斬撃魔法だ。ステアの目が驚愕に見開かれた。意図も容易く返されたことに。
「ボサッとしないで下さい、ステア!」
ジークヘルグがステアの前に躍り出て、雷光纏う“ミョルニル”でボールを跳ね返す。向かう先はレヴィ。レヴィの笑顔は崩れない。しかし動かない。動けない。ステアの火炎球を難なく返したかのように見えたが、実際には両腕がまともに動かせないほどにマヒしていた。
「避けてレヴィ!」
スバルの声に反応したレヴィは横っ跳びして、雷光纏うボールをやり過ごす。雷球はレヴィの背後に居たスバルへと突き進む。そのスバルはすでに迎撃態勢に入っていた。“リボルバーナックル”を振りかぶり、「ナックルダスタァァーーーッ!!」と突き出す。
“リボルバーナックル”で魔力を圧縮し全身や拳を強化、そんな強化された拳で打撃を放つのがナックルダスターと呼ばれる打撃魔法だ。雷球と“リボルバーナックル”が衝突する。
「ああああああああああああああああああッッ!!!」
スバルが咆哮する。“マッハキャリバー”のホイールが空転、火花を散らしながらも押されまいとコートを噛みしめる。しばらくの拮抗。そして終わりは必ず訪れる。スバルは耐えきれず、ボールを頭上へ大きく打ち上げた。
内野の誰かがキャッチ、もしくはアンスールコートに返せなければ、スバルはアウトとなる。だが運命のイタズラか。ボールが徐々に内野から離れていく。風だ。上空は地上より風が強く吹いている。そして・・・・ボールは観客席に落下した。
「管理局チーム、スバル・ナカジマ・・・アウトッ!」
『ついにゲームが動いた! 管理局チームより初のアウト! しかし、スバル選手の頑張りは凄いものでした。みなさん、温かい拍手を!』
フェンリルによるスバルのアウト宣告。ゼフィランサスがスバルの雄姿を褒め、この場に居る全員に拍手を求める。
「ごめんなさい。あたし、アウトになっちゃいました」
「いや。ゼフィランサスさんの言う通り、よくやったよ」
「そうや。よぉやったよスバル。あとは私らに任せとき!」
はやて達に優しい言葉を掛けられながら、スバルはコートを後にした。フェンリルはスバルが退場したのを確認して、「それじゃあゲーム再開するね~」と告げ、右手にボールを出現させた。
「ボールはアンスールチームからになるよ」
ポーンと放り投げられたボールがフォルテシアの腕に収まる。管理局チームが一斉に身構える。フォルテシアは魔術を使用せずにボールを外野のシエルへと回した。シエルは「ナイスパス」と左手でキャッチし、重力操作が行われた際に発生するギンッという鈍い音が全員の耳に届いた。管理局チームの視線がキッと細まる。シエルの一挙一動に警戒する。
「外野で一度回すよ。まずはカーネルから行く」
わざわざ宣告するシエルに、管理局チームはもちろん“アンスール”チームも唖然となる。しかしそれが虚言である可能性もあると判断できる。故にこそ管理局チームの表情に焦りや緊張が浮かぶ。頭上にボールを放り投げ、シエルは重力を纏わせた“ハティ”を振りかぶる。
「圧壊拳!!」
重力によって速度・威力が増加されたボールが・・・・ドガンッ!と轟音を立ててレンの鳩尾に直撃した。「ぶべらぼはっ!?」と珍妙な断末魔を漏らし、レンは重力ボールの勢いのままに吹っ飛び、キラン☆とお空の星となった。スタジアムに静寂が訪れる。遅れて「ええええええーーーーーっ!?」という大合唱。シエルを除く全員が驚愕に目を飛び出させていた。
『ど、どいうことシエル!? これも事故なわけ!?』
『レン・・・飛んで行っちゃいました。あ、ボールだけが戻ってきた』
ゼフィランサスは実妹シエルに問いただし、フノスは呑気にプレンセレリウスが消えた空を仰ぎ見るだけだ。シエルは「事故、うん、事故だから・・・気にしないで、ねっ!」ともう一度“ハティ”に重力を纏わせる。落ちてきたボールの落下地点を読んでダッシュ。落下地点に到着し、
――重力加速門――
シエルの前面に球体状の重力場が発生。さらに前面に円盤状の重力場が連なる壁のような状態で発生、それが十二と横に伸びて一種の砲塔となる。落下してきたボールが球体状重力場に呑み込まれ、フワリと浮かぶ。
「天誅ぅぅーーーーっっ!!」
重力を纏わせた左の籠手“スコール”の拳打がボールを打った。
――すべて粉砕滅せし重力加速圧壊砲――
ボールが球体状重力場より出、重力場砲塔を通過していく。加速加速加速加速。一枚の縦重力場を通るたびに加速され、威力を上げていく。だが砲口はカーネルに向けられているまま。管理局チームではなく味方を狙っている。
最後の重力場を通過し、目にも留まらぬ速度で射出されたボール。一直線にカーネルへと突き進み・・・直撃。カーネルは断末魔どころか声すら出せずに吹っ飛び、プレンセレリウス同様、キラン☆とお空の星となった。
「シエル! さすがにもう事故とは言わせない!」
ステアが怒鳴る。だが完全に怒っているようではなく、どこか笑うのを我慢しているかのように口端がヒクヒクと歪んでいる。どうやら味方だったプレンセレリウスとカーネルが面白いほど吹っ飛んだのがツボにはまったようだ。
『シエル。一体どうしたの? レンとカーネルが何かした?』
シェフィリスが優しく語りかける。実兄ルシリオンと結婚し、いずれ自分の義姉となるはずだったシェフィリスに問われて、シエルも渋々だが答える。曰く、プレンセレリウスとカーネルはコソコソ話していた。ドッジボールをプレイするたびに揺れる女子プレイヤー達の胸の事を。
管理局チームはもちろん、チームメイトであるステアやフォルテシアの胸についても、だ。戦闘甲冑や防護服や騎士服ならばさほど揺れる云々はなかったのだろうが、女子プレイヤーは全員体操服。どうしても緩い体操服だから、揺れてしまうのは必然。
シエルとて、しょうがないよね綺麗だし大きいし、と思って何も言わなかった。ただ、最後の最後にプレンセレリウスとカーネルはシエルへと視線を移し、溜息を吐いた。「どうして子供の頃の姿?」だとか「十九歳のシエルは凄い美人だったのにな」という言葉と一緒に憐れみと失望の視線を向けられた。ここでプッツンとキレた、ということだった。
「それならしょうがないな、うん。レンとカーネルは退場という事で」
「はぁ。我が弟ながら何を考えているのか。申し訳ない、管理局チームの女性のみなさん」
「うちの、アホな弟が、馬鹿をして、すいません」
ステアとジークヘルグとフォルテシアが、内外に居る管理局チームプレイヤー達に頭を下げた。フェンリルも「ホント馬鹿。マスターやジークの事を少しは見習えば良いのに」と嘆息。いきなり話を振られ、女性陣の視線を一斉に受けるルシリオンが一歩二歩と後退。ジークヘルグは目が見えないことが幸いして難を逃れていて、彼は誰にも気付かれぬように小さく安堵の溜息を吐き、「頑張ってください、ルシル」とかつての親友に声援を送った。
「ルシルは、そうだよね、変な目で友達を見ないよね・・・? そういう約束したもんね・・・?」
『ルシル。エッチな人になっちゃったの・・・? 嘘だよね・・・? ルシルはいつだって紳士だもんね・・・?』
現恋人のフェイトと旧恋人のシェフィリスからの強烈なプレッシャーに、ルシリオンは同情してしまうほどにたじろぐ。そして一言。「あ、当たり前だ」と気丈に振る舞いつつ告げた。ルシリオンはしばらく女性陣からの視線に耐えていると、フェンリルの「再開するよ~」との声が上がり、ようやく視線から解放された彼の額には大粒の汗があった。
「あ、でもメンバーが足りなくなっちゃったなぁ」
“アンスール”チームの外野に居るのは、満足そうに佇んでいるシエル一人のみ。シエルは「一人でも十分なんだけど」と、ピョンピョンと跳ねては横移動を繰り返し、瞬発力を見せつけている。だが外野全面をカバーは出来ない。それほどまでにコートは広い。
「だったらさ。ルシルを入れちゃおうよ」
「はぁ!?」
ステアの提案にルシリオンが、何言っているんだお前?みたいな顔をする。これには管理局組から猛反発。一番最初に反対を申し出たのはフェイトだった。
「ちょっ、ルシルは私たちの仲間だから、そっちのメンバーに入れるのはおかしいと思いますっ!」
「あら? ルシルだって元はアンスールなのよ? 別におかしくないと思うけど」
「ステア。この世界での私はもうアンスールじゃなく管理局員なんだ。だから――」
「ルシル。こっち来て。でないと、呪う」
「判った。すまないな、フェイト、みんな。今回だけは私はアンスールだ」
フォルテシアの呪う発言に、意図も容易く意思を覆すルシリオン。そのあまりのアッサリさに管理局組は最初は呆然。
言葉の意味が浸透し始めて「ええええーーーーーっ!!?」と大合唱、パート2。フェイトが管理局組を代表してルシリオンへと駆け寄り、「ルシル、どうして!?」と問い質す。
「フォルテの脅しには逆らえないんだ。許してくれ」
『おお? 我が弟ルシルが、フォルテの脅しに情けなく屈し、敵であるアンスールチームに寝返った!』
『フォルテ。その脅し方はどうかと思いますけど・・・』
「大丈夫。フノス。そんなに酷い、呪いは、かけないから」
ルシリオンにとって、いや、“アンスール”の誰もが恐れるフォルテシアの呪い。
余程の対魔力(最低XXランク)が無ければ抵抗することも出来ずに一方的に呪われ、その果てに一体どのような酷い目に遭うか判らない。
現在のルシリオンの最大魔力はSSSランク。フォルテシアの呪いから逃れる事が出来ない。
ルシリオンは思い出す。大戦時、フォルテシアの逆鱗に触れ、呪われたヨツンヘイム連合軍の魔術師達が辿った悲惨な末路を。
「えっ!? なに!? どうかしたルシル!」
「セ、セインテスト君!? どうしたの顔が真っ青だし震えてるわ!」
「ルシル君の顔が酷い事に!?」
フェイト、シャマル、なのはの三人が、ガクガクブルブルと震えだすルシリオンに戸惑う。冷静なシグナムですら「むぅ。フォルテシア殿は一体どれだけ恐ろしいのだ?」と、フォルテシアを僅かに怯えた色を浮かべる双眸で見詰め唸る。
「ということですまない。フォルテに呪われ、フェイト達に痴態を晒すような事だけはしたくないんだ」
ルシリオンはそう言って、コートへと向かって行った。そこまで真剣な表情、そして痴態という単語に、なのは達は見送るしかなかった。外野に居るシエルの下へ歩いて行くルシリオンへ、“アンスール”チームの内野組が声を掛ける。
「おかえり、ルシル。また同じ戦場で、味方同士として戦えるなんてね」
「うん。嬉しい。ルシルを、呪わなくて、よかった」
「すいません、ルシル。本当なら止めるべきでしたが・・・」
「いや。ステア、私は外野で良いんだな? というか外野しかやらないがな」
「それで結構。キリキリ働けぇ♪」
「了解。戦場の策略姫・ステアのお言葉のままに、か」
ルシリオンはステアの二つ名の一つ、支配する指揮者という意味のヘヴェンチ・ドミナールと口にし、彼女に振り返ることなく手を振り返しながら、実妹シエルの待つ外野へ向かう。とそこに、「ルシルパパ」と声を掛けるヴィヴィオ。ヴィヴィオの側に歩み寄ったアインハルトも「ルシリオンお父様・・・」とおずおずとルシリオンを呼んだ。はやても「ルシル君が相手かぁ。いややな~」と苦笑しながら、ルシリオンを見る。
「ごめんな、ヴィヴィオ。はやてもアインハルトも」
「ルシルパパ・・・。うん・・・」
ヴィヴィオの寂しげな表情を見、ルシリオンは決意した。このゲームに参加した本当の理由を実行に移す決意を。
「兄様っ❤」
トテトテと駆け寄ってきて抱きついてきたシエルを、「おぅ」と抱き止めるルシリオン。ルシリオンは、自分の胸に顔を埋め頬擦りを繰り返すシエルの頭を優しく撫でる。兄と妹の触れ合い。ルシリオンはシエルの耳元に口を近づけ、「頼みがあるんだ」と囁いた。
†††Sideルシル†††
シエルの協力を取り付け、私は作戦を実行に移す。ここから先、管理局チームから誰もアウトを出さずに、ステアとフォルテをアウトにする。ジークもアウトにして完全勝利と行きたいが、おそらくジークをアウトにするのは無理だ。そんな考えを持ち、実行に移すとなるとこれは完全な裏切り行為だ。だがな。フォルテ、たとえお前に呪われてしまうとしても、私は管理局チームを勝たせる。
「それじゃあ・・・管理局チームからのボールだね」
フェンリルがヴィータへとボールを放り投げる。ボールをキャッチしたヴィータが私へと振り向き、「セインテスト。てめぇが内野だったらぶつけられたのにな」と不機嫌そうに漏らした。私は何も言わず、ただウォームアップする。ヴィータの不機嫌な視線が逸らされるのを感じ、ホッと一息。本気で怒っているな、ヴィータは。リエイスやレヴィからも非難の視線を今だ感じるが、まぁヴィータよりはマシだ。
「チッ。しゃあねぇ。どうにでもなれってんだっ!」
――ギガントハンマー――
ギガントフォルムの“グラーフアイゼン”に打たれるボール。それにしてもヴィータの攻撃は通常か魔法かの区別がつきにくいな。打ち出されたボールは内野に居るステア達でなく、外野コート奥に居るヴィヴィオへと向かう。
外野から攻めさせる気か・・・?
「アクセル・・・スマッシュ!」
虹色の魔力光を引きながら放たれるヴィヴィオの拳打。ボールは外野コード右サイドに居るはやてへ。はやては先端が白い魔力の覆われた“シュベルトクロイツ”をバットのように振りかぶり、
「クロイツ・・・シュラークッ!」
全力でボールを打った。白い魔力を纏ったボールは一直線にステアへ。ステアの両手に白焔が纏わりつく。グッと腰を落とし、キャッチ体勢に入る。ズンッ、と衝突音。ステアが両腕と上半身全体を使ってボールをキャッチ。僅かに足が浮いたように見えたが・・・それほどの威力だったか。
「いっったぁぁ~~~い。胸がヒリヒリするぅ(涙)」
ステアはボールを右わきに抱え、左手の人差し指で涙を拭う仕草をする。だがすぐにボールを放り投げようと投擲体勢に入る。私へと向けて、だ。そうか。私に友を討て、と。上等だ。ならば早速、お前をアウトにさせてもらおうかステア。アインハルトに視線を送る。
(頼む。察してくれ、アインハルト。君の使う覇王流。それが・・・!)
アインハルトが私の視線に気づき、目だけを動かして私を見詰め返してきた。・・・違う。頬を赤くしてほしいわけじゃないんだ。いや、見詰められても困ります、みたいに目を逸らしてほしいわけでなくて。
(気付いてくれ、おーい)
だが私の真剣な眼差しにようやくアインハルトは何かしらの意図があると読んでくれたようで、もう一度視線を向けてくれた。私は頷くことで応える。ハッとしたアインハルトはすぐに意識的に無表情にし、私の意図を図ろうとしてくれる。
「(アインハルトの覇王流。私の水流系。この二つでステアを落とせる)行くぞっ、ステア!」
アインハルトへの合図として、アインハルトからステアへと勢いよく視線を動かす。気付いてくれ。まずはステアからアウトにする。君の力、覇王流で。ステアが「おっ? おお、ハハハ。やる気じゃん、ルシル♪」と超満悦な笑みを浮かべる。気付いていないな。ステアの演技力は涙を誘うほどに下手。だから、気付いていない、という嘘を吐いていないのが判る。
「てめっ、セインテスト! なんでやる気になってんだ!」
「ルシリオン。お前は、本当に・・・?」
リエイスの悲しげな表情には心が痛むが、今は、今だけは・・・。白焔の花嫁。戦場の策略姫。戦地見下ろす悪魔。・・・ステア。策略において一度も勝つことの出来なかったお前を・・・裏切るという形で潰してみせる。足元にアースガルド魔法陣を展開。使用術式は明確なモノじゃないが・・・。
「そんじゃ行くよっ♪」
私へと放り投げられるボール。左腕に水流系魔力を纏わせる。さぁ行くぞアインハルト。飛んできたボールへ向け、拳打を打ち込む。と同時に水流系魔力と目に見えないほどの透明度を持った水膜をボールに纏わせる。
その対ステア用ボールはアインハルトではなく・・・
「わたしを狙ったの!?」
ブースト3が解け、冷静に戻っているレヴィが驚きの声を上げ、迫ってくるボールへの対処に悩みだす。頼むから受けに回るなレヴィ。君に当てるつもりはない。だからそこを動かないでくれ。このボールは、ステア、お前のためだけの攻撃だ。
レヴィがボールへの対処を迷っている間に、ボールはカーブを描いてアインハルトの下へ向かう。そうなるように拳打を打ち込んだ。始めからアインハルトへ飛ばすと疑われるからな。アインハルトが動く。どうか私の意図を察していてくれ、アインハルト。
「覇王流・・・!」
――旋衝破――
勝った。賭けに勝ったぞ、私は。アインハルトは見事に使った、旋衝破を。旋衝破は、射撃魔法を反射でもなく吸収放射でもない、弾核を破壊せずに受け止め投げ返すという技術。これなら私の魔力を弾かずにそのまま攻撃に転用出来る。ステアの唯一苦手とする属性・水流系のままで。アインハルトがボールをステアへと向け放つ。さぁステア。受けるか、避けるか、どっちだ?
(避けないだろう? お前は。自分の能力を信じているのだからなっ!)
案の定、ステアは右拳に白焔を纏わせた。拳打を打つ体勢に入る。そして・・・放った! 炎と水が衝突する。それで起きるのは必然の現象。ドォンッ!という爆発。水蒸気爆発だ。コート全体が爆煙で覆われる。
『これは事故かっ!? ルシルの放ったボールを利用したアインハルト選手の攻撃を迎え撃ったステア! だけどどういうわけか大爆発! 一体何が起こったのーーーーーっ!?』
ステアはもう気付いているだろうな。と、足元にボールが転がって来た。さようならステア。私の・・・「勝ちだ」と、笑みが浮かぶのを抑えられない。煙が晴れていき、状況をようやく確認できた。アンスールコートから目を離さない。
「ぅく・・・やられた・・・! ルシル! 謀ったわね!?」
ステアは右手首を押さえて、コートに座り込んでいた。アイツの怒りに対して「偶然だよ、ステア。悪かったな」と私は知らん振りを決め込む。そんな私に「絶対嘘だっ。嘘に決まってるっ」と噛みついて来るが、知らないものは知らないなぁ(笑)
「すごいよアインハルトさん! ステアさんをアウトにするなんて!」
「え? あ、はい。本当に、その、奇跡みたいですね」
アインハルトはギクシャクした態度でヴィヴィオに応じる。私へと視線を送ろうとしていたのを察して、私はヴィヴィオとアインハルトからシエルへと向き直り、シエルへ歩み寄る。そしてシエルを抱き上げて、頭を撫で、さらに額にキスをする。これが報酬ということらしい。私が“アンスール”を裏切るのを黙って見過ごすことへの。
「ありがとう、シエル」
「ううん。どういたしまして兄様」
「ああーーっ! シエルも裏切ったなぁぁーーーーっ!」
シエルもまた私の背に両手を回し、ギュッと抱きしめ返してくれた。たとえ本物のシエルじゃなくても。この温もりも、この香りも・・・確かにシエルなんだ。負け犬の遠吠え状態のステアはもう完全無視。シエルは「ごめんね~」と軽い口調で謝った。
『ルシル。あなた、わざと水流系のボールをアインハルトさんに向くようにしたでしょ?』
「・・・そうだよ、シェフィ。君には嘘を吐きたくないから答えよう。私がこのゲームに参加したのはフォルテの脅しに屈したからじゃない。管理局チームの一員として参加し、アンスールチームに勝とうと考えたからだ」
本当なら黙っておきたかったが、たとえ幻だとしてもシェフィに嘘を吐きたくない。だからそう言うと、ステアが「裏切り者ぉぉーーーっ!」と吼え、シェフィは『やっぱり』と、ヴィータは「なんだよ、そういうことか」と不機嫌そうに呟き、リエイスは「信じていたぞルシリオン」と少し疑わしい事を言ってきた。
リエイス、君は思いっきり非難の視線を向けていたよな私に。
「ありがとう、アインハルト。私の意図を読み取ってくれて。おかげでステアをアウトに出来たよ」
「えっ? その・・・いえ、ルシリオンお父様の考え通りに出来て良かったです」
礼を言うと、アインハルトはホッと安心したように微笑みを返してくれた。
「フェンリル。ゲーム再開だ。それとも、私を外すか? ステア、フォルテ、ジーク」
確認を取る。敵として認識された私をゲームに残しておくわけがない。せめてフォルテをアウトにしてからの退場と行きたかったが。シェフィ・・・。いや、彼女を責めるのは筋違いだ。嘘を吐けずに明かした私が悪い。
「ううん。ルシルには、そのまま、残ってもらおう」
「お? ほう、良いのかフォルテ? 私は敵だぞ。シエルも協力してくれる。つまり味方はジーク一人だけ。お前とジークの二人だけで、この子たち管理局チームに勝てると?」
「勝てる。だって、私と、ジークには・・・真技が、ある」
くっ、その手段を取られる前に勝負を決めておきたかったんだが。管理局チームに緊張が奔る。フォルテの真技はまだしもジークの真技はマズ過ぎる。そこにステアが「憶えてろ~」と捨てゼリフと共にイヴ義姉様に連れられて退場。はっはっはっは、ザマァ。ちゃんとすぐに忘れてやるから安心しろよ。
「フェンリル。ボールは管理局チームからでも構いません。試合再開と行きましょう」
「あ、はい。それじゃあ管理局チームからのボールという事で」
フェンリルからリエイスへと渡るボール。リエイスがキャッチして、私へ縋るような視線を向けてきた。この中で、私と同じくらい“アンスール”に理解があるのはリエイスだ。フェイト達に見せた記憶。もちろん見せなかった記憶もある。というかそちらの方が多い。
だがリエイスは全てを知っている。私が人間だった時、これまでどういった契約をしてきたかまで。だからこそフォルテの真技発動宣告が必要以上に効いている。私は何も言えず、ただコクリと頷くしか出来ない。
「出来る事をやるしない、ということか」
――シュヴァルツェ・ヴィルクング――
黒い魔力を纏わせて右拳打をボールに打ち込み、フォルテへと飛ばす。
「復讐者は踊り護る」
対するフォルテはそう告げ、幾条もの踊る影を右拳に纏わせたのち、飛来するボールに影纏う手の平を翳した。すると影は手の平の前で幾層も折り重なって盾となり、その直後にボールが衝突。効果破壊の魔力を纏ったボールは、少しずつ影の盾にヒビを入れていきながら直進。
「やる。でも・・・・私の、影は、それ以上」
ついにはボールの勢いは止まり落下を始める。と、フォルテが落下するボールを蹴り上げてキャッチ。セーフだ。これでボールは“アンスール”チームの物となる。フォルテがボールをいじりながら「ジーク。真技、いける?」とジークに訊いた。緊張は最高潮へ。ジークの返答は・・・?
「ええ、いつでもいけますよ」
お・・・終わった。“ミョルニル”のヘッドの装飾に刻まれた敵の撃滅、力、強化、勝利、魔力、超越のルーンが輝きだす。耳を無意識にでも手で閉じざるを得ないほどの爆音。目を開けているのか閉じているかも判らないほどの閃光。視聴覚が通常に戻って、誰もが絶望を抱かざるを得ない状況がそこにはあった。
「この一撃で、必ず、一人が、アウトになる。誰から先に、アウトに、なる?」
全員の視線はそう告げたフォルテじゃなく、もはや雷そのものとなっている“ミョルニル”を持つジークに向けられている。“ミョルニル”のあの形態。ジークは二つの真技の内の一つ、雷神放つ破滅の雷を使う気だ。いくら制限されているとはいえ、神造兵装の六位の“天槌ミョルニル”による一撃。威力は抑えられているだろうが、それでもやはり危険だ。
「なぁ、ジーク。真技を使うのはやめないか?」
「いいえ。そちらにシエルが居る以上、こちらも手加減は出来ません」
「・・・いいのか? シエルの重力は正しく空間を歪めるものだ。いくらあなたの真技とて下手をすれば落とされる。それは解っているよな・・・?」
「無論ですよ、ルシル。ですが・・・もう引けません。ミョルニルをこの形態にした以上は」
確かに。もう後戻りはできない、か。すでに臨界点だ。こうなれば。私は「私に指揮をさせてもらえないか? はやて」と管理局チームのリーダーであるはやてに訊ねる。
「そうやなぁ。・・・・みんなはどうや?」
「ルシルパパはアンスールの事に詳しいし、手伝ってくれたら心強い、です」
「あたしは・・・しゃあねぇか。セインテストの奴のおかげで一人アウトに出来たし」
ヴィヴィオとリエイスに続いてザフィーラ、レヴィ、アインハルトも認めてくれた。最後にはやてが「決まりやな。というわけで頼むわ、ルシル君。シエルさんも」と頬笑みをくれた。
「シエル。手伝ってくれるか?」
「うんっ。わたしはいつまででもどこまででも兄様と一緒に」
「ありがとう。ザフィーラ。鋼の軛をコート境界へ展開。何十と重ねて盾としてくれ」
「承知した。鋼の・・・軛!」
アンスールチームと管理局チームのコートを隔てる中央ラインから管理局チームコートの3分の1辺りまでの範囲で鋼の軛が発生。何重にも重ねられた鋼の軛は城壁と化す。にしても本当に便利だな、鋼の軛は。
「シエル。あの壁の後ろに重力障壁を」
「了解です、兄様」
――歪曲せし空間多層障壁――
鋼の軛の壁に寄り添うように展開される壁状の重力場。これで鋼を突破されたとしても、そう易々とリエイス達へは届かない。
「リエイス、ザフィーラ、レヴィ。君たちは外野ギリギリまで来てくれ。ヴィータとザフィーラは中央、リエイスはザフィーラの隣り、レヴィはヴィータの隣で待機。重力場を突破してきたボールはおそらくさほど威力が無いはずだ。だからキャッチが出来ればしてくれ。とは言え、もちろん無理はしないでほしい。何せ外野にはシエルや私が居るのだから」
「了解した」「承知した」「判った」「オッケー」
さぁ準備は整った。「来いッ、ジークッ!」と鋼の軛の向こう側に居るジークに告げる。
「良いでしょう。あなたの策が勝つか、私の真技が勝つか・・・」
「「勝負っ!」」
「真技・・・・、雷神放つ破滅の雷!!!」
爆音と強烈な閃光がスタジアムに満ちる。“ミョルニル”でボールを打っただけでこれだ。次に鋼の軛からミシミシと嫌な音が漏れてくる。突破されている音だ。鋼の軛が保ったのは二秒。二秒でボールは鋼の軛を突破し、シエルの重力障壁へ突入。まずいな、これは。予想より威力が衰えていない。隣に居るシエルに「キャッチ用意」と告げる。
「判った。んんー、やっぱりジークの真技には敵わないな~」
真技に対して通常の防御障壁だ。完全に封殺出来るなんて甘い考えは持ってない。せいぜい少しは威力を衰えさせることが出来て良し、程度だ。雷球を徐々に重力場を突破しようと直進してくる。
「すまない、みんな。キャッチはシエルと私で何とかする。みんなはボールの射線上からどいてくれ」
リエイス達にそう指示を出す。リエイス達も雷球の威力が衰えていないのを察し、文句ひとつ言わずに言う事を聞いてくれた。シエルに相談もせずに指示を出したんだが、シエルは「あは。兄様に頼られるとやっぱり嬉しいな❤」と右腕に抱きついてきた。
「ありがとう。それじゃあシエル。頼めるか?」
「もちろんっ。任せてっ」
シエルは重力場を突破しようとしているボールの前に飛び出して、立ちはだかる。その直後、雷光を撒き散らしながら重力場を突破してきたボールの対処に動くシエル。
「真技!!」
シエルの四肢に今まで以上の重力が付加される。グッと腰を落とし、目の前にまで迫って来ていた雷球へと・・・
――天壌蹂躙するは神なる拳――
重力によって、最早肉眼じゃ捉えられない程に加速された拳打・蹴打が連続で打ち続けられる。この真技の本来は型は、地上での連撃後に相手を空に打ち上げて、空でさらに連打、ルイン・トリガーで対象を地面に墜落させ、そして最後にシエル自らに重力を掛け、地上に叩きつけられた相手に高速・超重量で落下してトドメの一撃を与えるというものだ。
トドメの一撃はその都度変わるが、どんな一撃であっても必殺だ。
「そぉぉおぉぉらぁぁぁーーーーーーっ!!!」
シエルの咆哮と同時に放たれるアッパー。それでボールに纏わりついていた雷光が完全に弾かれた。
ボールは空高く舞い・・・・・
「クロイツ・・・シュラァァーーークッ!!」
“シュベルトクロイツ”を振り被って跳んでいたはやての下へ。フォルテが勢いよく振りかえる。フォルテがアウトラインのギリギリに立っていた。ジークの真技に巻き込まれないようにするためだ。そして放った後もその場から動かなかった。誰も、シエルにすらジークの真技を止められるなんて思わなかったからだ。フォルテは完全に振り返ることなく、その場から全力で飛び退く。少しでもはやてから距離を取りたいからだろう。
「この・・・!」
――復讐者の・・・・――
フォルテの右腕に影が纏い、折り重なって盾となろうとしていたが途中で止まる。ボールがフォルテを素通りしたからだ。そう当てるつもりはなかった。フォルテが身構えて拍子抜け、そこから体勢を整えてボールへと振り向くその僅かな隙。さぁそこを突け、レヴィ。
――瞬閃 牙衝撃――
ジークがフォローに回ろうと動く。が、ジークはコートの中央、若干左寄り。だがレヴィはジークの反対であるコート右端に居て、しかもすでに拳打を放っている。ボールが打たれ放たれた。ここでようやくフォルテが管理局チームコートへと振り返る。しかしフォルテもまた幾度と死線を越えてきた英雄。反応しきることが出来た。
ボールを紙一重で避けようとする。迎撃ではなく回避に回ったのは、迎撃に必要な動きが出来ないほどにまでボールが接近していたから。そして、たとえ外野に居るはやて達から高速追撃が来ようとも迎撃できる体勢を整えられると判断したからだろう。だが・・・
「っ!!?」
ボールの軌道が変わる。野球で言うスライダーだ。ボールが回避行動を取ったフォルテを追いかけるように軌道を変え、バスッと音を立ててフォルテの足の甲に直撃。ボールは跳ねる。はやて達の居る外野へと。フォルテが手を伸ばす。ここでボールをキャッチ出来なければフォルテのアウト。
制限時間はもう残り少ない。ジークは残るが、逃げに徹すれば・・・・「勝てるぞ」。フォルテの指がボールに触れた――かのように見えたが、無情にもボールはフォルテを嫌うようにそのまま直進。
「わっとっ!」
バシンッとボールが両腕に収まる。そう、ヴィヴィオの両腕の中に。
「・・・・・・あ、フォ、フォルテ、アウト!」
フェンリルの宣告。フォルテシアは「やられた」と無表情のようで実際は悔しそうな表情を浮かべ、コートを出ていった。
「ヴィヴィオ! もうボールをジークに向けなくていいっ。味方同士でのキャッチボールだっ」
「あ、うんっ! アインハルトさん、パス行きますっ」
「はいっ、どうぞっ」
「ルシルッ! 君は・・・!」
「すまないな、ジーク。下手にあなたをアウトしようと欲張るより、無難に逃げさせてもらう」
ジークにボールが回れば負ける可能性もある。それほどまでに手強いんだ、ジークは。それに千里眼の精確さも。パス回しを1分弱続けた。途中で「なぁ、セインテスト。完全勝利やりてぇ」と不平を漏らすヴィータや、「セインテスト。これは卑怯なのではないか?」と渋るザフィーラから非難を受けたが、私は即切り捨てた。この状況を打破する力を持つのがジークなのだから。そして・・・
「ゲーム終了~~~~~~!! 管理局チームの勝利ぃーーーーーっ!」
フェンリルがゲーム終了を告げ、管理局チームの勝利を宣告。コート内に居るはやて達、コート脇で観戦していたフェイト達から歓喜の声が上がる。そんな中、シエルが「兄様、兄様♪ 報酬ちょーだい❤」と勢いよく抱きついてきた。
両腕でシエルを抱き上げて、頭を撫で、そして額にキス。シエルは「勝たせたんだから、頬にも」と追加注文。仕方ないな。両頬に一回ずつ軽く触れるだけのキスをする。
「大好き兄様ぁ~❤」
シエルを抱っこしたままでいると転送が始まった・・・・・・私以外が。フェイト達は色んな意味で世話になった“アンスール”へと「ありがとうございましたっ」と礼を告げ、私より先に転送された。居残りか。まぁ嫌じゃないが。シエルを降ろすと、「ルシル」と私を呼ぶシェフィ。
「ん、どうした?」
「外界での問題がもう終わりそうなんだ。たぶん、次のお題で終わり、だと思う」
「外界の問題? ちょっと待て。私の記憶から抽出されたんだよな、みんな・・・? だったら外界だとかそんな事が判るのか? カーネルは知らないと言っていたぞ。それに、確かに私の記憶から抽出したとも・・・・、あぁ、そうか。そういうことか」
カーネルとの会話を思い出す。カーネルは言った。「ルシルから抽出された」と。目の前に私が居たというのに、お前から、じゃなく、ルシルから。ルシル。その名が表す存在は何も一つじゃない。一つは私。そしてもう一つは・・・
「4th・テスタメント・ルシリオン。そうか。スンベルのマスターは・・・守護神の私か」
テスタメント・ルシリオンが次元世界に来ている。なら、グロリアが“絶対殲滅対象アポリュオン”なわけがない。グロリアはきっとシャルの・・・・か。私の推測はいよいよ真に迫ったな。にしても私とグロリアの二柱が召喚されるような“アポリュオン”か。一体誰だ? 判らないが、天使アンジェラスと現・終極テルミナスのどちらが出なければいい。
「話し終わったルゥ~~シルゥゥ~~~~~❤」
「わぷっ? ゼフィ姉様・・・!」
シェフィと話している間、ずっとそわそわしていたゼフィ姉様がついに痺れを切らして抱きついてきた。ゼフィ姉様の両腕に頭をロックされ、ゼフィ姉様のふくよかな胸に顔を押さえつけられる。ゼフィ姉様の香りだ。子供の頃にもこうやって抱きしめてくれた。でも。あの、ゼフィ姉様。く、苦しくなってきたんですが。その・・・。
「ゼフィ義姉さま。ルシルが窒息してしまいます」
助け船を出してくれたのはフノスだ。ゼフィ姉様も「わっ? ごめんルシル」とようやく解放してくれた。プハッ。と息を吐き、「大丈夫です、ゼフィ姉様。ありがとう、フノス」とフノスに礼を言う。フノスは「いいえ。その、お久しぶりです、ルシル」と頬を朱に染めながら微笑んでくれた。今、目の前に居るフノス達に、久しぶり、という時間的概念があるのかどうかは不明だが、そう挨拶してくれたのなら応えなければな。
「ああ、久しぶり、フノス」
そわそわしているフノス。あ、そうか。フノスの頭に右手を置いて、優しく撫でる。フノスも好きだったよな。私やゼフィ姉様、イヴ義姉様に撫でられるのが。フノスの顔がふにゃっと破顔。あはは、可愛いなぁ。とここで、私の足元に光。転送が開始される。もっと話したかったな。
「えへへ❤ また遊べたらいいね、兄様っ」
「ルシル! 憶えとけっ! どっかのお題で会ったら、コテンパンのフルボッコにしてやるんだから!」
「上等っ。返り討ちにしてくれるっ!」
ステアの捨てゼリフにそう返してやる。
「ありがとう、シェフィ。貴重な情報、助かった!」
シェフィは「うん」と右手を小さく振って見送ってくれた。私は転送されている最中でも大きく左腕を振って返した。みんなと逢うのがこれで最後だとしたら、自然と、な。
†◦―◦―◦↓レヴィルーのコーナー↓◦―◦―◦†
レヴィ
「っっしゃぁぁっ!! 見たか、このヤローッ!」
ルーテシア
「うわっ!? 急にどうしたのレヴィ・・・?」
レヴィ
「活躍したよ、今回のわたし! しかも決勝ボール! 変化球による奇襲。フォルテシアさんのビックリした表情を思い出すだけで・・・・ぅぅおぉぉりゃぁぁぁあああああああっ!」
ルーテシア
「(フォルテシアさんの表情、あんまり変わって無かったような気がするけど)はいはい。嬉しかったんだね~♪」
レヴィ
「えへへ。嬉しかったぁ~♪ よぉしっ! この調子で最終エリアは完勝でクリアだ!」
シャル
「ちょぉぉーーーっと待ったぁぁーーーーーーっっ!!」
レヴィ
「え? えええーーーーーーっ!?」
ルーテシア
「シャルロッテ!?」
シャル
「Ja ! みんなのシャルロッテ・フライハイトですっ! まずは、一言物申す!!」
レヴィルー
「ど、どうぞ・・・」
シャル
「今回、私も出るはずだったんだよ! カーネルとプレンセレリウスが退場したあと、颯爽登場! 銀河一美少女シャルちゃんが!」
レヴィ
「美少女って歳じゃ・・・」
ルーテシア
「レヴィ、しぃー」
シャル
「ルシルとシエルと共闘して何やらかんやらかくかくしかじか云々かんぬん、って」
レヴィ
「そ、そうだったんだぁ・・・」
ルーテシア
「何で没になっちゃったんでしょうね?」
シャル
「こっちが聞きたいよぉ~~(泣)。なんかさ他にも、フォン・シュゼルヴァロード姉妹が出たり、とか」
ルーテシア
「フォン・シュゼルヴァロード? ルシリオンさんの御親戚?」
シャル
「ううん。生粋の魔族。ルシルにフォン・シュゼルヴァロードのファミリーネームを与えた姉妹なんだけどね。
もしあの二人が出てきて、私が出なかったら猛抗議していたね。てか結局私も姉妹も出てないわけ。
くそぉ。出番があるって聞いて、やっほーーい気分だったのにぃ。あ、他にもあってね――」
レヴィルー
(長くなりそう・・・・)
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