牙狼~はぐれ騎士~
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第十一話 黎明
第十一話 黎明
闘真の山小屋に傷つき倒れた闘真の姿があった。
あの後何者かの号竜により闘真は山小屋に運ばれるとすぐさま若葉と礼羅により闘真の治療が施された。
何とか峠は越えたのだが闘真の傷は深い。
闘真の身体に括り付けられていた書状に今までの経緯が書かれ眠る闘真を中心に礼羅に事情を聞こうと若葉と斬十郎が待っている。
「どういう事なの?・・・礼羅・・・闘真の鎧・・・偽物の鎧だったなんて」
『ああ・・・俺もそんな鎧があったなんて知らなかったぜ』
若葉とイルバの問いかけに礼羅は考え事をする為だけ何も入っていないキセルを口に銜えると深呼吸し今までの事を離す決意をし、闘真の魔戒刀を手に取った。
「あたしが何でこんな嫌味ったらしい剣作ったんだと思う?」
「ああ・・・これ?」
礼羅が製作した魔戒刀は人の心に非常に素直な剣である為並の心の持ち主では抜刀すらできない。
まるで人を試すような剣であった。
「けど・・・私は抜けたよ?」
「それは・・・あんたが純粋な心の持ち主だから」
礼羅が発した『純粋な心』それだった。
かつて、魔戒騎士の鎧を受け継ぐとき兄弟同士の争いが絶えなかったという。
礼羅の祖先である魔戒法師はその問題を解消するべく魔戒騎士の鎧には劣るが誰でも装着ができる偽の鎧を生み出したのだ。
アストラル界と呼ばれる異世界の技術を駆使し人の心を力に返る鎧。
何より誰でも装着する事が出来るという事が多くの騎士を鎧の争いから救った。
かに見えたが
誰でも装着できるという事が必ずしも良い事ではなかった。
誰でも装着できる。
ゆえに心なき者達が手にしてしまい騎士と争い・・・多くの血が流れた。
礼羅の祖先は悔いても悔い切れない出来事に最後に全ての力を注ぎこんだ最高傑作の鎧を自身たちへの戒めとして残し、その技術を永久に封印した。
鎧を生み出す術は無くなったが最後に残った鎧。
それが旋風騎士・風狼の鎧だった。
時は流れ礼羅の代まで言い伝えと共にずっと封印されてきた。
だが礼羅は違った。
自分たちの決めつけられた運命・・・それが礼羅は気に入らなかった。
真の心の持ち主であれば鎧を間違った使い方をしない。
そして探し続けた。
本当に高潔な心の持ち主をその為に人の心に素直な剣・魔戒刀を作り上げた。
魔戒騎士への修行の地へと向かい、数々の魔戒騎士見習いに魔戒刀を渡してみたのだが誰一人として魔戒刀を抜ける者はいなかった。
その中にはあの豪真の姿もあった。
怒りに任せ豪真は魔戒刀を粉々に砕いてしまい去って行った。
その後ろ姿に礼羅は・・・
「この世界に純粋で高潔な心の持ち主などいない」
そう言って運命に流されようと諦めようとした時だった。
「せい!や!!」
闘真に出会ったのだ。魔戒騎士の修行の地であるのにも拘らず一人溢れだが諦めずに黙々と修行に励む闘真の姿が・・・
(これでダメなら諦める)
そう思い礼羅は闘真の元へ歩み寄った。
「精が出ますね・・・騎士さん」
「魔戒・・・法師?」
振り返る闘真は礼羅の姿に違和感を覚える。礼羅は闘真に今までの騎士には無かった者を感じ取り一つの質問をしてみた。
「あんた・・・ホラーを斬りたいから魔戒騎士になったの?」
「え?」
「どうなの?」
闘真の答えは・・・
「・・・分からない・・・憑依された人間だって斬りたくない・・・だが誰かが泣くのを見たくない!」
その言葉に礼羅はにやりとすると自身が創り上げた最高の魔戒刀を闘真に渡してみた。
「これは?」
「抜いてみな」
礼羅に言われるがままに魔戒刀を抜刀する闘真。
「何だよ・・・簡単に抜けるじゃないか」
その時礼羅の心に温かい風が吹いた。
運命を変えてくれる男が現れた。
そう確信しながら・・・
その話を聞いた若葉はとても重たい物を感じ取った。
イルバも同じだ。
「あたしの我儘がこいつをこんなにした・・・あたしのせいだ・・・あんな鎧・・・さっさと壊しちまえばよかった」
闘真に対して後悔する礼羅だがその言葉を若葉が遮った。
「ううん・・・闘真は感謝してるよ」
「え?」
「自分は鎧を貰うスタート地点にすら居なかった・・・けど礼羅がチャンスを与えてくれた・・・あいつのおかげで泣く人の為に戦えるって」
若葉のその言葉にいく分か救われた気になる礼羅。
すると
「・・・そうか」
斬十郎が立ち上がった。
「斬十郎・・・え?」
礼羅が見つめると斬十郎の手に闘真に充てられた指令書が握られていた。魔導火にかけると魔戒文字が浮かび上がった。
「闇に染まりし騎士・・・黎明の森より闇を広げ・・・陰我を断ち切れ」
かつて闘真と決闘をした黎明の森・終焉騎士・滅はその場を拠点とし闇を広げ力を蓄えている。
その者を闘真に斬れと言う指令だった。
だが闘真は未だに意識が戻らない。すると斬十郎は魔戒剣を持って立ち上がった。
「斬十郎?」
「俺が行く・・・こいつに借りがある」
斬十郎が代わりに行くと言う。その言葉に礼羅も・・・
「待った・・・あたしも行く・・・あたしがまいた種だ・・・」
礼羅も準備をし斬十郎と一緒に行くことを告げると若葉が立ち上がった。
「ちょっと二人とも!?」
「俺はこいつが居なかったら闇に堕ちていた・・・だからその借りを返そうと思ってな」
「あたしは運命に決着を付けに行く」
二人の決意に押された若葉。礼羅は若葉の肩に手をかけると呟いた。
「闘真を宜しく頼むよ・・・嫁」
「へ?」
いつもの軽口ではない。明らかに決意の籠った言葉に止める事が出来なくなった若葉。
そんな若葉を背に斬十郎と礼羅は終焉騎士と決着をつけるべく山小屋を後にするのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
わずかに動いた闘真の拳に気付かずに・・・
黎明の森
『コォォォォォ・・・』
森全体を不気味に変化させながら豪真・・・いや滅は全てを終わらせるべく力を蓄え続けているとある気配を感じ取り振り返った。
斬十郎と礼羅の姿が・・・
『貴様・・・あの時の魔戒法師・・・それに貴様は一体・・・』
斬十郎の姿を見る滅。
「腐れ縁だ・・・闘真のな」
斬十郎は魔戒剣を礼羅は魔導筆を構えると滅は悟った。
『この俺とやろうと言うのか?・・・俺はこの世を無に帰す・・・貴様らが最初だ』
「生憎・・・こっちも負ける訳にはいかないんでね!!」
その言葉に滅が礼羅に詰め寄ろうとすると礼羅は跳躍し魔導筆から光が放たれた。暗黒の鎧に防がれ決定打にならないが牽制にはなる。
すると斬十郎の一閃が滅に当るが浅い。
礼羅は結界を張り戦う空間を作り上げるが滅は自身の魔剣でその結界を破壊してしまう。
礼羅が牽制を試みるが全く通じず滅に殴り飛ばされてしまった。
「がは!!」
あまりの一撃に蹲る礼羅。滅は礼羅には目もくれず斬十郎に斬りかかった。
滅の魔剣を受け止めた斬十郎だがあまりの衝撃に足元が沈む。
「あいつは良いのか?」
「あの魔戒法師は最後だ・・・貴様が先だ!!」
動けなくなった礼羅よりも先に斬十郎に狙いを定める滅。
「そうか・・・なら俺もそれに応えよう!!」
受けて立つ斬十郎は魔戒剣を構え迎えうった。
「は!!」
「!!」
滅の攻撃を魔戒剣で受け止める斬十郎。その衝撃に凄まじい力を感じ取るが臆せず自身の構えをとった。
恐れていないその眼差しに滅はいら立ちを感じ取り蛇腹剣を抜刀し縦横無尽に襲い掛かった。
左右から生き物のように動き回る剣を受けながら斬十郎は間合いを徐々に詰めていくと魔戒剣で斬りかかった。
だが滅は斬十郎の剣を腕で受け止めそのまま殴りつけた。
「く・・・まだまだ・・・」
あまりの力に蹲る斬十郎だが魔戒剣を構えると天に向かって円を描いた。
円から光が差し込むと斬十郎の身体に蒼き鎧が装着された。
黎
明
黎明騎士・狼頑
今まで恥じていた心を拭い去り闘真のために再び鎧を纏う斬十郎が魔戒剣を構え滅に向かって斬りかかった。
通常の時とは違い鎧の力が加わった斬十郎の剣に重みを感じ取り受け続ける滅。
すると斬十郎が力で滅を薙ぎ払った。
打ち付けられる滅にむかい斬十郎は好機と見て魔戒剣を振り下ろす。
だが
「ぐは!」
滅の苦し紛れの突きが斬十郎を貫いた。血を流しながら後ずさる斬十郎は鎧から解放されてしまった。
膝をついてしまった斬十郎の首に滅の魔剣が突き付けられた。
『ふん・・・奴の側についたことを恨むんだな』
闘真の友であれば誰であろうと容赦するつもりの無い滅。
だが斬十郎はにやりと笑った。
「ふ・・・」
『貴様・・・何がおかしい』
「俺が死んだら・・・俺の鎧は奴に受け継がれる・・・そうすれば奴は本物の魔戒騎士となる」
『最初からそれが目的か・・・貴様あああああ!!』
斬十郎の言葉に怒りながら魔剣を振り下ろす滅。
だが
一本の投具がその剣に斬十郎への当り軌道をずらした。
それを投げた者は・・・
「闘真」
傷だらけで若葉に連れられた闘真だった。その手にはしっかりと魔戒刀が握られている。
「お前の相手は・・・俺だ」
『その身体で何ができる・・・貴様は倒れた・・・』
あざ笑うような滅の言葉に闘真は笑って答えた。
「確かにな・・・俺は負けた・・・ズタボロにやられて惨めな自分を思い知った・・・貴様に倒された」
『そうだ・・・』
「だがな・・・倒れたらどうするか・・・子供でも知ってる」
『何?』
「立てばいいんだ・・・倒れたら立てばいい・・・ただそれだけの事だ・・・俺は今・・・受け入れる!・・・弱い俺を・・・その為にお前を・・・倒す!!・・・行くぜ・・・魔戒刀・三日月!!」
若葉から離れると魔戒刀を握り締めながら闘真は滅と対峙した。
後書き
イルバ
『遂に決着する闘真の戦い!真っ直ぐな剣と捻じ曲がった剣!今ぶつかり合う二人の剣・・・どちらが重みを背負っているか・・・そして今解放される真の光
次回!創世!
騎士としての道が今始まる!』
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