魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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それゆけボクらの魔拳少女リリカル☆レヴィたん♪
第一世界ミッドチルダは首都・クラナガンより臨行次元船で約4時間、標準時差7時間の温暖な世界、カルナージ。
そのカルナージに住まうはアルピーノ家。母メガーヌ、娘ルーテシアとレヴィの3人家族。そんな女性だけのアルピーノ家の過ごす家、その屋根の上に十代半ば辺りの少女が仁王立ちしていた。
膝裏まで伸びる紺色の長髪はサイドアップ。優しく吹く風に、髪を結う純白のリボンと共に揺れている瞳は深い翠色。今は閉じられた瞼の奥にあって見えないが、それは綺麗な煌きを放つ。キメ細かな陶器のように白い肌。それを包む、裾や袖口にレースをあしらった水色がかったロングワンピース。
彼女の名はレヴィ・アルピーノ。風に揺らめくスカートを押さえ、ひとり屋根の上に立つ。
†††Sideレヴィ†††
ククク、ウフフフ、ハハハハ・・・
「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」
どうしてか判らないけど、大声で思いっきり笑いたくなった。アルピーノ邸の屋根の上に立って、両手を腰に当てての大笑い。すっごい気分が良い。今まで不遇な対応を喰らってたような気がして仕方なかった。どうしてそんなことを感じていたのか判んないけど。でもね、今この瞬間にそんな気分の悪さが吹っ飛んだ。一体どうしたんだろう、わたし。
「ヒィーッヒッヒッヒッ、ようやく来たのね、このわたしの時代が!(自分で言ってて意味不明だけど)アヒャヒャヒャヒャヒャ――」
パシィーン!
「あいたぁっ?!」
ふとももをパシパシ叩きながら、どうしようもなく笑いが止まらなかった所に、「怖いわっ!」って後頭部をこれでもかってくらいに強く叩かれた。後頭部を両手で押さえながら振り向く。わたしの背後に立っていたのは、
「い、痛いよルーテシア・・・」
ルーテシア・アルピーノ。わたしの大好きなお姉ちゃんだ。ルーテシアの一歩斜め後ろには、ルーテシアの召喚獣のガリューが控えていた。そんなルーテシアが手にしているのは大きなハリセン。アレでわたしの後頭部をブッ叩いたんだ。わたしは「むぅ」って不満を視線に乗せてルーテシアを見詰める。
「こんな早朝から屋根の上でなに気味の悪い笑い方してるの、レヴィ・・・?」
「む、ルーテシアだってよくここでバカ笑いしてるじゃん」
ルーテシアだってバカ笑いをよくしてるくせに。
(どうしてわたしだけ叩かれないといけないんだろ?)
ルーテシアは「わたしはいいの。ほら、そろそろ次元港へ行くよ」なんて、あまりに身勝手な事を言っちゃった。でもそんなことよりもっと大切な事も言った。ここカルナージに訪れる臨行次元船の停泊する、カルナージ唯一の次元港へ行く時刻。
「あや? もうそんな時間?」
今日は、それに乗ってルーテシアと一緒にミッドの首都クラナガンへ出掛ける予定だ。
ここでひとつお知らせ。無人世界であるここカルナージには定期便がない。だからはやてさん達、管理局の友達に船を手配してもらうしか外世界に出られる術がない。そんな超不便な環境に、ちょっとばかし不満があったりする。というわけで、わたし達が乗ろうとしてる便に乗り遅れると、予定が全て吹っ飛ぶ。あらまぁ大変だ。
「そう。もうそんな時間だよ。ガリュー」
ガリューは昔と変わらずにルーテシアを肩に座らせて、トンッと屋根から地面へと飛び降りる。わたしも続いて屋根から地面へとピョンっと飛び降りて、着地と同時に膝を曲げて衝撃吸収。すぐに膝を伸ばして両腕を広げてポーズ。遅れて風圧で捲れていたワンピースの裾がフワリと降りる。
「10.0。お見事。でもパンツ丸見えで減点ね。3.12」
「ええっ? パンツ見えたくらいでそこまで減点されるの!?」
「レディはお淑やかに慎ましく、だよ」
「わたしの名前と淑女を掛けたダジャレ?」
「違う。レヴィったらそういうのに疎いでしょ? バリアジャケットのモード・バスターだって少なからず露出してるし。特に歩くとおへそがすぐ見えるし」
「そうかなぁ~? それを言ったらルーテシアの方が露出してるんじゃないの? ルーテシアのバリアジャケットは完全肩出しのワンピースだから、胸から上は裸じゃん。それに比べたら、わたしのバスターやコンバットは遥かにマシだよ」
遠距離戦用のモード・バスター時のバリアジャケットは、左右と後ろのスリットが足の付け根まである立て襟の蒼いロングコートにしてる。そのコートの前を胸のトップとアンダーのところだけベルトで留めているから、ルーテシアの言うように歩く度にコート下部分が流れてお腹が露わになる。んで、膝が少し隠れる長さの黒のハーフパンツに黒の編上げブーツ。
一応、コートの下に胸を覆う白タンクトップを着てるから、コートを脱いでもポロリとはならない。
(うん、やっぱりルーテシアより断然マシ)
近中距離戦用のモード・コンバット。
黒のノースリーブのセーラー服にしてある。可愛いでしょ?
セーラー服特有の大きな襟は前後共に燕尾になってて、裾もまた襟と同じ様に前後共に燕尾、後ろ側の裾は膝裏までの長さがある。黒いネクタイにはスミレが描いてある。わたしの魔力光がすみれ色だからね。
そして、インナーは立て襟の白いノースリーブのブラウス。ファスナー仕立ての前立ては黒のラインで、首元には黄金に輝く小さな南京錠。下は黒いプリーツスカート。スカートの裾から少し出るくらいの長さの黒のスパッツ、黒の編み上げブーツって感じ。
(ほら、やっぱりルーテシアの方が露出してるよ)
「そう言われると、確かにわたしの方が露出してるかも・・・? でも、レヴィはさっきのようによく動くから見えちゃうんだってば。去年のインターミドル。わたしの応援の時にも足を思いっきり上げてパンツが見えそうになるのを止められてたし」
「あんな場所で、わたしのスカートの中を見ようする人なんていないよ。観客は全員試合に釘付けなんだし。それに、ちょっとくらい――」
「それがダメだって言うの。もう、少しは気にして」
「うい」
これからは気を付けよう。わたしだって好き好んで見せるわけじゃないんだしね。
それから二人一緒に家の中へ戻って階段を二段飛ばしで駆け上がって、私室に赤のボストンバッグを取りに行く。バッグにはミッドに二泊三日するための着替えとか詰め込んである。
宿泊場所は高町家。なのはさんが仕事で空けるって事で、その間わたしとルーテシアが泊まる事になった。わざわざわたし達が行かなくても、ヴィヴィオがコロナ達の家に泊まりに行けばいいんじゃない?って話はなし。
わたしとルーテシアだってたまにはクラナガンのような都会に遊びに行きたいし。それにヴィヴィオが折角誘ってくれたんだから、ここは友達として行かないとね。
「行こうか、アストライア」
デスクの上にある、3cmくらいのスミレ色をした六角柱型クリスタルのネックレスを首に掛ける。ルーテシア特製のブーストデバイス“アストライア”の待機モードだ。“アストライア”は、ルーテシアのブーストデバイス“アスクレピオス”の姉妹機として作られたから、起動時はもちろんグローブ型だ。
「ルーテシア、レヴィ」
一階に降りたところでお母さんに呼ばれる。にしても、わたしはボストンバッグを自分で持ってるのに、ルーテシアはガリューに白のトロリーケースを運ばせていた。ずるい。
「コレお弁当。船の中で食べてね」
「ありがとうママ!」「ありがとうお母さん」
お母さんから青色と黄色のランチ巾着を受けとる。ルーテシアが「わたしのもそこに入れて~」って黄色のランチ巾着を差し出してきた。わたしは「しょうがないなぁ」って愚痴っぽい事を苦笑しながら漏らし、ボストンバッグに自分のとルーテシアのランチ巾着も一緒にしまい込む。
「二人とも。忘れ物とかない?」
「「ないで~す♪」」
「よしっ。それじゃいってらっしゃい」
「「いってきま~すっ♪」」
こうしてわたしとルーテシアは、アルピーノ邸を後にした。というかさルーテシア。最後の最後まで、船に乗り込むまでガリューに荷物持ちさせるのはどうかと思うんだけど。
†††Sideレヴィ⇒ルーテシア†††
四時間の船旅を終えて、わたしとレヴィはミッドの首都クラナガンの次元港に降り立った。どこを見ても人人人。いつもはたったの四人(ガリュー含めてね)しかいないカルナージ暮らしだから、やっぱりこう賑やかだと心が躍る。ヴィヴィオ達と合流するための待ち合わせ場所として選んだ聖王教会にまで送ってくれるはずのディードの姿を探すんだけど・・・・いない?
「ディード、まだ来てないのかな・・?」
「う~ん、道が混んでるのかもね・・?」
ディードが車で迎えに来てくれる手筈だったんだけど、エントランスにその姿がない。とりあえずエントランスの真ん中で突っ立っているのもどうかと思って、待合室へと向かう。待合室に入ったと同時に、ディードからの連絡が入った。
『ルーテシアお嬢様、レヴィお嬢様。ディードです。まずは申し訳ありません。どうも事故があったようで、それに伴う渋滞に引っかかってしまいました』
『ヤッハー、ルーお嬢様、レヴィお嬢様♪』
ディードの映るモニターに割り込むようにセインが顔を覗かせてきて、手の平をヒラヒラと振る。するとディードが『運転の邪魔です、退いてくださいセイン姉様』って、セインをモニターの外にまで押し出した。
「「なんだ、セインもいたんだ」」
『ひどいっ!』
モニターの外側からセインが喚く。
「いやだって何でいるの? ディードと違って、セインはわたしとルーテシアのお迎え頼まれてないでしょ?」
「なんかレヴィお嬢様が冷たい。迎えについて来るのは当たり前。友達が来るって言うんだから、迎えに行きたいって思うのは変じゃないと思うんだけど」
「本心は?」
「・・・・・・サボりの口実に使わせていただきました」
「「アウトッ!」」「セイン姉様、それは・・・」
セインってば、お迎えを仕事サボりのための理由にしたなんて。これはちょっと許しがたいかなぁ。シスターシャッハに報告しないと。ディードは話を戻すためにか『コホン』って咳払いを一度。
『そういうわけですので、もうしばらくお待ちいただけますか?』
モニターの向こうで、ハンドルを握りながら申し訳なさそうに目を伏せるディード。セインは『すぐに行くからもう少しだけ待っててね~』って右手の平だけ出して振ってる。当然それは仕方がない事だって思うわたしとレヴィは、
「ううん、気にしないで。港内のお店とか回って時間潰すから」
「そうそう。だから着いたらまた連絡ちょーだい、ディード」
遅刻くらい気にしないで、って伝える。ディードは『ありがとうございます。では、到着次第連絡しますので、それまでもうしばらくお待ちください』って会釈。セインはまた顔を覗かせて『待っててね~♪』ってニコニコ笑顔を見せて、通信が切れる。
「じゃ、ディード達が来るまでブラリとしますかっ」
レヴィが床に下ろしていたボストンバッグを肩に提げる。わたしも「だね」と、待合室を出るレヴィに続く。
とりあえずは、ママへのお土産の候補探し。買うのはもちろん帰る時。今買うと荷物がかさばるしね~。
「ぅ~、わたしもルーテシアのようなローラー付きにしとけばよかった・・・」
少し見回ると、何度も肩からズレ落ちそうにボストンバッグを上げるレヴィが弱音を吐く。さすがの体力自慢も鬱陶しい事には弱いってことだ。わたしは「ロッカーに預ける?」って訊ねてみるけど、レヴィは「それもメンドー出し」って渋った。だったら文句言わないで、とか思ってたら、レヴィが両手にボストンバッグのベルトを持って差しだしてきた。
「ルーテシア。そのケースと交換しよ?♪」
「や」
「一文字拒否!?」
本気でヘコんでるわけじゃないのに、ガーンって肩をガックリ落とした。「しょうがないなぁ」って、わたしはボストンバッグの二つある持ち手の一つを持つ。
「ルーテシア・・・?」
「お姉ちゃんが妹に頼られたんだから・・・って、そんなに重くないんだけど」
レヴィのボストンバッグは思っていたより軽い。それもそのはず。だって入ってるほとんどが着替えなんだから。
「ただの重いだけだったら問題ないんだけど、軽いからこそズレ落ちてくるんだよね・・・それをいちいち上げるのが激しくメンドい」
「あー判る。うん、それだったら肩に提げないでぇ・・・」
ボストンバッグを受けとってレヴィの後ろに回る。肩に提げるのが鬱陶しいなら、「これでいいんじゃないの?」とボストンバッグを縦にしてレヴィに背負わせる。はい、問題解決。レヴィが「な~る~。ボストンバッグだから背負うなんて考えに至らなかった。さっすが」なんて随分と持ち上げてくる。
そんなやり取りをしながらお土産屋を見て回って時間を潰していると、「キャァァァッ!」って複数の悲鳴が、搭乗ロビーの方から聞こえてきた。そっちの方へ慌てて振り向くと、人波がここエントランスにまで逃げ惑うように押し寄せてきた。
「ここで待っててルーテシア!」
――瞬走壱式――
「へ?・・って、ちょっとレヴ――ってもういない!?」
レヴィは陸戦高速移動魔法を使って、呼び止める暇も無く搭乗ロビーに向かった。「あーもうっ!」と頭を抱える。レヴィの正義感から生まれるその猪突猛進的な行動力には困る。それが嫌ってことじゃないけど、レヴィの身にも危険が降りかかることだってある。それが心配。レヴィはわたしの大切な妹で、一人の女の子なんだから。
「お姉ちゃんだって頑張るんだからね、レヴィ!」
ひしめき合う人波の流れに逆らうようにわたしは搭乗ロビーへと急ぐ。
†††Sideルーテシア⇒レヴィ†††
支柱の陰に身を潜ませて、仕事が出来るって感じの七人のスーツ男の様子を窺う。六人がデバイスらしき銃を所有。一人はジェラルミンケースを大事そうに抱えてる。側にはバインドで拘束された親子一組と男三人女二人。受付カウンターの奥に職員の頭が・・・見えるだけで八人。
(カウンター奥にも銃持ちが一人。銃持ち七人とケース持ちが騒ぎの犯人のようだね。単独じゃ無理、か。なのはさんやティアナさん、ルシリオンのような精密射撃手が居てくれたら楽に瞬殺出来るんだけど・・・)
わたしは精密射撃が苦手な方だ。わたしだって奴らのデバイスに当てるくらいなら出来る。だけど精確に連続かつ反撃できないほどの高速で撃ってデバイス破壊、んでバインドで捕縛するとなると、わたしの集中力じゃ無理。相手が三人くらいならたぶん出来る。けど・・・七人、下手すればまだいるかもしれないから独りじゃ突っ走れない。
「なんということだ。お前たちの所為でとんだ騒ぎになってしまったではないかっ!」
何か良い手が無いかと思案していると、気難しそうな顔をしたケースを抱える男が怒鳴り始めた。会話を聴いていると、どうやら連中は一種の産業スパイと、犯罪組織に武器を流すブローカーのようだ。
“テスタメント事件”で騒ぎになった“ミュンスター・コンツェルン(もう解体されたけど)”の子会社から、“テスタメント”の構成員が装着していたリンカーコアが無くても魔導師撃破できるバトルスーツ、そして戦闘機“アギラス”の開発詳細が記されたデータを盗んだ。で、それの取引現場のここでトラブル。一般人が荷物を取り違えた、と。
(マヌケなことしてくれちゃってさ、もう)
連中がその一般人とトラぶって、キレた連中が人目を無視してデバイスを突きつけた。その結果がこの大騒ぎ。ウキウキ気分でクラナガン到着直後にトラブル遭遇。ギャアギャア騒ぎだす連中には溜息しか出て来ない。
『ちょっとレヴィ! 下手に首突っ込むとまずいって!』
ルーテシアからの念話。
『判ってるけどね。でも・・・・アイツらをこのまま見過ごす事なんて出来ないって』
恐怖から泣き喚く男の子。昔(と言ってもJS事件んとき)の暴走ルーテシアや生前のわたしを見ているようで胸が苦しくなる。お母さんとお父さんが「この子だけでも逃がしてください!」って泣きながら懇願してる。連中が「うるせぇっ!」って怒鳴る。もう見てられない。
その場から瞬走壱式で離れて「アストライア、起きて」と“アストライア”を起動させて、バリアジャケットを装着。モードは近距離戦用のコンバット。近接用射砲撃を撃てるし、何より陸戦機動力が高い。最悪わたしの体を盾にして、人質たちを逃がす事が出来るし。
『レヴィ! あーもう、すっかりコンバット形態になってるし!』
『ごめんて。それより手伝ってくれない? 何とかしてあのおバカさん達を沈めたい』
合流したルーテシアに搭乗ロビーの状況を説明する。
『人質が居て、そこにわたしとレヴィだけって・・・。さすがにしんどいと思うよ。ここは近くの陸士隊の到着を待った方が』
『でも――』
ガシャーンと何かが壊された音と悲鳴が、搭乗ロビーから響いてきた。ダメ、やっぱりのんびり待っててられない。意を決して向かおうとしたところで、
『ヤッハー♪ 困った時のセインちゃん、ただいまとうちゃ~く☆』
『遅れて申し訳ありませんでした。お嬢様、レヴィお嬢様』
セインとディードからの念話。搭乗ロビーへ無音で向かいながらも二人からさらに外の状況を教えてもらう。近くの陸士部隊の到着まであと数分。そして、執務官のフェイトさんとルシリオンも来るらしい。
どうしてかは判る。“テスタメント事件”の関係者だったルシリオン。“テスタメント”として活動していた大半の記憶が無いって言ってもその一味だった。だから、これから有効利用されようとしてる“アギラス”とかの技術を悪用されたくないんだと思う。
『アイツら、魔法で施設破壊ってバカじゃないの!?』
見ればソファやオブジェが壊されてる。泣いてた男の子が泣かないように必死になってる。待っててね。もう少しで助けてあげるから。それに、一人の男の人が頭から血を流してる。たぶんデバイスで殴られたんだ。犯人の一人が「コイツが間違えなきゃこんな事にはならなかったのによ」って愚痴りながらその男の人を蹴る。
『セイン、ディード。これ以上黙っていられない。手伝って』
『オッケー。それじゃそこの状況を教えてレヴィお嬢様』
『判りました。わたしに出来うる事でしたら何でもいたします』
二人からの承諾も得た。見てろよぉおマヌケさんども。わたしのウキウキ気分を害したその罪、100倍返しで償わせてやる。セインとディードに搭乗ロビーの状況を説明。
『犯人たちから離れてる人質は少しずつあたしのディープダイバーで連れだすとして』
『犯人に近い人質の解放はやっぱりこっちが動かないとダメ、だよね』
犯人の意識を全部こっちに向けさせないと親子と男女五人は解放できそうにない。するとルーテシアが『わたしが一般人を装ってアイツらの前に出る』なんて事を言い出した。さすがにこれは全員で止める。だけど、
『わたしももう見てられない。ケガ人が出てるし、これ以上待ってるともっと酷い事が起きるかもしれない』
もう揺るぎそうにないルーテシアの決意に燃える瞳。でもそれはわたしの役目だ。わたしはルーテシアの妹、そして守護者だ(ルーテシアはこの言い方嫌いだけど)。ルーテシアの右肩にポンと手を置いて首を横に振る。
『わたしが行くよ』
わたしのバリアジャケットなら私服に見える。まず疑われない。でもルーテシアのは明らかに浮く。確かにルーテシアのも私服に見えるよ。見えるかもしれないけど、でもやっぱり浮く。わたしはグローブを外してスカートのポケットにしまい込む。
『それに、ルーテシアはインターミドルに出たんだよ? もしアイツらがそれを知っていたら、人質はもちろんルーテシアも危ないんだ』
そう言うとルーテシアは『確かにそうだけど』って渋々折れた。作戦会議はここまで。セインが『いつでもオッケー♪』準備出来たところで行動開始。ボストンバッグを預けたルーテシアを下がらせて、わたしは近くにあるお手洗いの中へ瞬走壱式で入る。そこでわざと大きな音を立てる。するとどうなるか・・・
「おい! そこで何をしている!」
当然女子用のお手洗いにまで入ってきた(この時点で殴ろうかと思った)犯人がわたしに気付く。ソイツは銃型のデバイスを突きつけてきて、わたしは怯える演技をしながら両手を上げる。
「あの、大きな音とか声が怖くって隠れてました・・」
するとソイツは「来い」って乱暴にわたしの腕を引っ張って、親子さん達の近くにまで連れて行こうとする。ここでわたしは「いやっ!」と暴れる。ソイツは「大人しくしねぇか」なんて脅してくる。
あーもう、今すぐにボコりたいけど、人質の安全が第一だ。とりあえず暴れた拍子にソイツの頬を叩いておく。スッキリ。そうすれば、ソイツは怒って意地でもわたしを捕らえようとするだろう。わたしはお手洗いから出て逃げ出そうとする。「待てっ」って呼び止めてくるけど、誰が止まるか、んべぇ。
「おい、ソイツを捕まえろっ。人質にする!」
「足速っ!?」「俺好みの女の子だっ」「何やってんだドジ!」
セインがカウンター奥の犯人を階下に落としたのが見えた。これで銃持ちは七人から六人。そんな六人中四人がわたしを追い始めた。わたしは捕まらないように、受付から離れるように気を付けて逃げ回る。
『レヴィお嬢様、もう少し頑張って!』
セインが受付カウンターの奥に居る職員たちの脱出を進める。職員を“ディープダイバー”で連れだして、ディードが下で受け止めるって流れ作業が階下で続いてるに違いない。
『大丈夫。コイツら全然ダメ。超一流の魔法戦を潜りぬけてきたわたしの敵じゃないよ』
数を利用しないで一纏めになって追いかけてくるから逃げやすい。それにカウンターに居た仲間が消えたことにも気付いてない。馬鹿すぎる。ここでようやくソイツらは銃口をこっちに向けて、魔力弾を撃ってきた。当てるつもりのない威嚇射撃だ。もしこれで泣きも喚きもせず冷静でいたら怪しまれるか。
『レヴィお嬢様! 職員全員の脱出完了!』
「『ありがとセイン!』・・・きゃぁぁぁっ!」
頭を両手で押さえてその場に蹲る。どう? この演技は。犯人たちが「手間取らせやがって」って、わたしの元へと下卑た嗤い声を出しながらゆっくりと歩いて来る。クズ男ども。そのムカつく面をあとで殴るから、今の内に笑ってればいいよ。
「ほ~ら捕まえた」
「言う事聞かないと気持ちいい事しちゃうぞぉ?」
二人の犯人が両肩に手を置いてきた。両腕を掴まれて、力ずくで立たされようとするわたし。最後の抵抗って感じで蹲り続ける。チラッと親子さん達を見る。わたしを心配しているような表情でこっちを見たり、顔を逸らしてる。
その親子さん達近くの銃を持った犯人が、イラついた顔して一歩一歩とこちらへ向かってくる。犯人全員の意識が全部わたしに向いた。バーカバーカ。わたしに踊らされているとも知らずに。
「いい加減にしろよガキ!」
「ぅぐ・・・痛い!」
後ろ髪を乱暴に引っ張り上げられて否応なく顔を上げさせられる。ゴツン。おでこに銃口を当ててきた。さっきからわたしの事が好みだとか気持ち悪い事を言ってる犯人が「殺すなよ、俺が貰うんだから」なんてほざいた。欲しかったらあげるよ。このわたしの強烈な拳打を、ね。
そしてずっとわたしを見てればいい。ほら、人質の親子さんがこのロビーから消えたよ。そこでジェラルミンケースを持った男が「人質が消えた!」って叫んだ。わたしに集まっていた犯人たちが一斉にわたしから視線を逸らす。やっぱ馬鹿だ。
「いってらっしゃいませ~♪」
――瞬閃 牙衝撃――
気持ち悪い男のお腹に拳打を打ち込む。突然の抵抗に、その男は為す術なく食らって吹っ飛ぶ。残りが呆気にとられる。目を大きく見開いてわたしを見た。その隙が命取りだったってことを牢屋で海より深く反省してなさい。
「破・・ッ!」
掌底をわたしの後ろ髪を引っ張った男の胸に入れ、その男を吹っ飛ばす。武装者残り三人。こっちに向かってくる途中だった男が人質に振り返ろうとする。なるほど。この男はなかなかに頭が良い。わたしを止めるための人質にしようってことだ。
――瞬走壱式――
「お帰りくださいませ~お客様♪」
でも残念。高速移動魔法でその男に最接近。男の銃を持つ右腕を掴む。そのまま背負い投げの体勢に持っていく。もちろん普通じゃないよ? 本来は背が先に床に着くけど、わたしのは腹から先に床に着く。つまり、
「ぎゃあああぁぁぁあああ!」
顔面、胸、腹、その・・・えっと、男の人にとってとても大事なところが、勢いよく床に打ち付けられるってこと。投げられたその男が顔や大事なところを押さえながらのたうち回る。ポタポタと顔から流血。
「お帰りはそちらじゃありませ~~ん♪」
――紫光瞬条――
ジェラルミンケースを持った男が逃亡を図ろうとしたから、高速バインドをプレゼント。ミイラ巻きにしてそのまま放置する。残り二人。今さら逃げたって無駄だと言うのに、その二人はわたしに背を向けて逃げようとする。
――瞬走壱式――
先回り。二人の行く手を遮るように仁王立ち。
「お帰りなさいませ~お客様♪」
「ヒッ」って小さく悲鳴を漏らして急停止した二人。咄嗟に銃口を向けてくる。そんな震えた手で当たるわけが・・・
「ないでしょっ!」
二人の間を通るようにダッシュ。すれ違い様に、
――瞬閃牙衝撃・二拳打ち――
一人に右拳打、一人に左拳打をプレゼント・フォー・ユー。呻き声を出しながら吹っ飛ぶ二人を「た~まや~」っと見送る。ミッションコンプリート。念話で『こちらレヴィ。犯人の全滅を確認』とルーテシア達に送る。するとすぐに陸士部隊が突入してきた。小隊長さんらしき人に「君、ケガはないかい?」って訊ねられて、「わたしより犯人の心配した方がいいかもです」と答えておく。
「レヴィーーっ!」「「レヴィお嬢様ーーっ」」
ルーテシアとセインとディードが駆け寄ってきた。わたしも大きく手を振って「おーーいっ」って元気&無傷アピール。わたしを抱き寄せながら「大丈夫? どこか痛くない?」って心配してくれるルーテシア。
それに対して「大丈夫。髪を引っ張られたくらいだし」って苦笑。あんなザコに傷ひとつ付けられ様なわたしじゃないのです。
「人質は全員無傷。犯人グループは壊滅。お手柄ですね、レヴィお嬢様」
「セインとディードが居てくれなかったらこんな簡単に終わらなかったよ。だからありがとう。セイン。ディード」
「いえ、お役にたてて良かったです」
「人質救出。うん、これだけ事件解決に協力しておけば、シスターシャッハからのお説教も無くなるかもだし」
「「動機が不純過ぎる・・・」」
事件解決に気を緩めて笑っていると、「レヴィ」って声を掛けられた。振り向いてみると、そこには執務官の黒い制服のフェイトさんと、本局員の青い制服を着たルシリオンとシャリオさんが居た。フェイトさん達と軽く挨拶を交わし終えると、「聞いたぞレヴィ。たった一人で暴れたんだってな」ってルシリオンが呆れ口調で言ってきた。
「だって小さな子供いたし、殴られてケガした人だっていたんだもん。もしその暴力が子供に向かったら嫌だったから。わたし、間違ったことしてない」
別に注意されたとか怒られたわけじゃないのに、プイッと顔を逸らす。横目で見るルシリオンは本当に驚いた風に目を見開いて、でもすぐに「そうか」って笑った。わしっと頭を掴まれて、そっと優しく撫でられる。
「本当に良い子だな、レヴィは」
「むっ、子供扱いしないでよ。もう子供じゃないし。ていうかもうやめろよぉ~」
口ではそう言うけど、ヴィヴィオが言ってた通りこれは気持ちいい。これはプロだね、ルシリオン。そう、頭を撫でるプロだよ。顔が気持ち良さでとろけそうになるのを自覚してハッとする。ルーテシアとセインとディード、それにフェイトさんとシャリオさんもニヤニヤしてた。
「ベ、別に嬉しくなんかないんだから!」
ガァーって吼えるようにルシリオンの撫で攻撃から離脱。というかさっきから「ツンデレ」言うなセイン。
「えっと、一応事件に関係しちゃったって事で事情聴取したいんだけど。いいかな?」
フェイトさんがわたし達の事を微笑ましく眺める。そこに、「このガキがぁぁぁあああああッ!!」って怒声が響いた。ルシリオンが動く。わたし達を庇うように、わたしが背負い投げ決めた男との間に割り込んだ。
男は顔面から流血してるのもお構いなしに、陸士部隊の制止を振り切って、隠してたデバイスを起動、ゴツイ銃をこっちに向けてた。ザワって体が震えた。ルシリオンから発せられる魔力が原因。男がトリガーを引いて、赤い魔力弾を撃った。フェイトさんがルシリオンに遅れて動く。魔力弾は、蒼い魔力で覆われた左手の平を突き出したルシリオンへ。
――ソニックムーブ――
フェイトさんはソニックムーブで男の取り押さえに。もう何も怖くなんてない。ルシリオンがわたし達の前に立って守ってくれるんだから。グシャ。放たれた魔力弾がルシリオンの左手に握り潰された。
「私が盾となっている時点で、レヴィ達には指一本として触れる事は出来ない」
潰された魔力弾を確認するようにルシリオンは左手の平を開いて振る。蒼い燐光がハラハラと零れて綺麗だった。
「くそっ! 放しやがれ!!」
フェイトさんに取り押さえられた男がまだ足掻くけど、陸士隊からのバインドを何重にも掛けられてようやく沈黙。連行されていく犯人グループを黙って見送って、ようやく終了・・・だったらよかったんだけど。
この後、僅かとはいえ事情聴取をくらったのがメンドーだった。まぁ担当がフェイトさん達だからそれだけで済んだんだけど。ようやく解放されて次元港を後にしようとしたところで、
「ルーテシア、レヴィ。今日から二泊三日、泊まってくれるんだったよね?」
フェイトさんが確認してきた。そのためにクラナガンに来たんだけど。まさか、フェイトさんとルシリオンが帰ってきたからやっぱりいいや、なんてことにならない・・・よね?
「そっか。ありがと。私とルシル、それになのはもまだ帰れそうにないから、ヴィヴィオをよろしくね」
「レヴィ、ルーテシア。何かあったら連絡してくれ。全力で帰ってくるから」
「仕事が残ってるので、どんな手を使っても帰って来れませんよ、ルシリオンさん」
「バカな。もし家事をしていて何かあったらどうする。たとえば火事とか」
「心配し過ぎだよルシル。ヴィヴィオもルーテシアもレヴィも子供じゃないんだから」
「怪しい男が家に侵入して――」
「はいはい。ルシリオンさん、ヴィヴィオちゃん達は強いですから」
少し見ない内にダメな方向に変わったルシリオンに絶句しながら、フェイトさんとシャリオさんに連行されてくルシリオンを見送った。
「ヴィヴィオの言う通りとんでもない親バカになっちゃたね、ルシリオンさん」
「あたしはアリだなぁ。昔のルシリオンさんってどっか近寄りがたい雰囲気出してたし。ああやってどこにでもいそうな親バカなお父さんっていうのは好きだな~。なんていうかシャルロッテ化?」
「それはそれで近寄りがたい感じがしますが・・・」
まぁとりあえず。ルシリオンは徐々におバカな方へと壊れていくだろうって感じ?
†††Sideレヴィ⇒フェイト†††
地上本部へ帰る途中、私の運転する車の助手席に座るルシルが溜息を吐いた。それは落胆じゃなくて安堵から来る溜息だっていう事は判る。産業スパイに盗まれたデータは言わばセレスの遺品だ。“テスタメント”が生み出した“アギラス”やバトルスーツなどのデータ。
それらはこれからの世代に有効的に利用されるべき“力”。セレスもそれを望んだ。それを悪用しようだなんて許せない。だからそのデータが狙われてるかもしれないって情報が来て、私とルシルは動いた。後手に回ってしまったけど、データは無事に取り返す事が出来た。
「今回はレヴィ達に大きな借りが出来ちゃったね」
レヴィ達が動いてくれなかったら、人質にもっと負傷者が出ていたかもしれない。ルシルは「そうだな。フフ」って、私に同意したあと小さく笑い声を零した。後ろの座席に座るシャーリーが「どうしました?」って訊ねた。
「レヴィの事で少しな。JS事件の時の彼女と現在の彼女のギャップが可笑しくて。この世界から離れていて、次に会ったらあんなに良い子になっていた。許されざる嫉妬レヴィヤタンではなく、レヴィ・アルピーノとして生きている。今回はちょっと無茶をしたが、それでも褒めてやりたいと思う」
JS事件の時のレヴィ、それとルーテシアは物静かだった。それが今じゃあんなに明るくて、優しくて、面白くて、可愛らしい女の子になった。シャーリーが「そうですねぇ。あ、でもルシリオンさんも変わったっていう事では同じですよ?」って首を傾げる。
「昔の同僚と会う度よく言われるよ。お前変わったなって。自覚しているから文句はないが。それに良い意味でのセリフだからな。・・・フェイト、シャーリー。私が変わって、二人はどう思う?」
その問いに考える時間なんて要らない。だから私は即答する。
「ルシルはルシル。どれだけ変わっても、その思いはずっと変わらないよ」
「わぁ。ごちそうさまですフェイトさん♪」
バックミラーに映るシャーリーが少し頬を染めて笑う。
し、しししししまったぁぁあああああああああ!
「何をそんなに赤くなってるんだ?」
「もう、ルシルのバカ!」
アクセルを無意識に踏み込む。
「おいフェイト。スピード出し過ぎ。ここはサーキットじゃないぞ」
「フェイトさん、テレて可愛い~♥」
「やぁぁぁあああああっ!」
恥ずかしさのあまり絶叫しながら、私はなくなく車を走らせた。
†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†
レヴィ
「見たっ!? 見た見た見た見た見た見た見た見た見たっ!?」
ルーテシア
「やっと、やっと本編に出られたぁぁぁーーーっ!」
レヴィ
「新エピソード登場を祝して宴会じゃーーーーーっ!
やっほーーーいっ! 見たか、今回のわたしの大活躍を!」
ルーテシア
「見たぁぁーーーーーっ!」
レヴィ
「アーッハッハッハッハッ!」
ルーテシア
「この日をどれだけ待ち望んだか・・。これも前回のおまじないのおかげだね♪
ねぇねぇレヴィ。わたしにもあのおまじないの詳しいやり方教えて♪」
レヴィ
「いいよ☆ ちょこっと耳貸して。ごにょごにょごにょ」
ルーテシア
「ふむふむ」
ルシル
「・・・・なぁレヴィ」
レヴィルー
「「おわっ!? ビックリした!」」
ルシル
「それ、願いを叶えるおまじないじゃなく、相手を呪い殺す呪術だぞ」
レヴィ
「呪い?」
ルシル
「ああ。気を付けた方がいいぞレヴィ。人を呪わば穴二つ、という言葉があってな。
レヴィ、誰を呪ったか知らないが、もしかしたら次回辺りで、それはもう酷い目に遭うんじゃないか?」
ルーテシア
「・・・・ごめん、レヴィ。少しの間、離れて暮らそ?」
レヴィ
「え、うそ? ルーテシアがわたしを見捨てようとしてる?
ね、ねぇルシリオン。助けて・・・って、いない!?
いつの間に――ああああああっ! そそくさと逃げ出してるっ!
ルーテシ――もいない! やだやだやだやだ! わたしを一人にしないでよぉぉ!」
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