魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ここは海鳴、始まりの街 ~喫茶翠屋の喜劇編~
†††Sideフェイト†††
「え? 海鳴に里帰り?」
モニターに映るなのはに訊き返す。担当していた事件も終わって、三日間の休暇に入る前日。エリオとキャロが同じ期間に休暇が取れないと判って、本当に落ち込んでいた時になのはから通信が来た。その内容というのが、「里帰りしてみない?」というものだった。
『うん。テスタメント事件以前から今日まで一度も帰ってなかったでしょ。だから近い内にでも顔を出そうかなぁって思ってたんだ。私もちょうど明日から三日間だけ休暇入ってるし、フェイトちゃんのオフシフトを思い出して誘ってみたんだけど・・・どうかな?』
そっか。もうそんなに海鳴に帰ってないんだ。あまりに慌ただしかったから、そこまで気が回らなかった。でも、うん。ちょうどいいかもしれない。
「うん、私も帰るよ。そうだ、はやても誘おうよ、なのは」
『それについては確認済みだよ。はやてちゃん達も私と同じ三日間の休暇だって。どうやらリンディさんやクロノ君が帳尻合わせしてくれたみたい』
「そっか。母さんとクロノが・・・。いつも私たちに黙って頑張ってくれて・・・」
『だね~。特にクロノ君なんてホントに何も言わないから困るよね』
お礼を言われるのがあんまり好きじゃないクロノは、私たちの知らないところで私たちの事に頑張ってくれている。休暇を合わせてくれたり、でも私たちはそれを知らずに楽しんで。でもどうせだったらエリオとキャロの方も何とかしてほしかったかも・・・。
『ホント、フェイトちゃんのお兄ちゃんは困ったものだよね。っと、話を戻すけど。今回の里帰りは私とフェイトちゃんとヴィヴィオ。はやてちゃんたち八神家。そして・・・』
「ルシル、だね」
なのはは『うん。でも・・・』と頷いて口を噤んだ。私もそう。ルシルを連れていって、ルシルは大丈夫なのかなって考える。“テルミナス”との戦いを終える前に発覚したことを思うと。
『海鳴のみんなは、ルシル君やシャルちゃんの事を憶えてない。一緒に撮った写真やビデオからも消えてて、全てが無かったことになってて・・・』
ルシルとシャルはそれについては何も言わなかった。それが当たり前の事なんだって。きっとそう言うことを何度も繰り返してるからなんだろうけど、私たちはやっぱり辛い。ルシルはみんなを覚えているのに、みんなはルシルを知らない。
その時のギャップを想像するだけで、胸が苦しい。もし私がルシルやシャルの立場で、久しぶりに親しかった人たちと逢って、はじめまして、とか、どなたですか?って言われたらしばらく落ち込むかも。
『ルシル君の事だからそんなの問題無いよって言いそうだけど・・・』
「うん。きっとこう言うだろうね。“たとえ今までの私のことが忘れられていたとしても、これからまた友達になって思い出を作っていけばいい”って」
なのはに同意して、ルシルの口調と声色を真似て言う。するとなのはは『似てる似てる♪』って笑い始めた。ウケた。私はなんだか調子に乗ってしまったようで。
「そう? それじゃあ、“私と夜景の綺麗なレストランで食事をしないか?”」
ビシッと流し目でなのはを見詰めそう言って、ファサッと前髪を払う動作をする。
『あははっ、ないっ、それはないよフェイトちゃん! ルシル君がそんなキザな事するわけが、あははははは!』
どうしよう。何か楽しくなってきた。私はデスクに片肘をついて頬杖、右手にシャンパングラスを幻視して、
「“フッ、君の瞳に乾杯”」
シャンパングラスを揺らす。そしてウィンク。
『ぷはっ! あははっ、やだそんなルシル君っ、あははははっ! あと古過ぎだよ、そのネタ、あはははははっ!』
なのはがデスクに突っ伏してお腹を押さえて悶える。それからルシルの口調と声色を使った“ルシルが言わないこと語録”でなのはを笑わせていた。
『ひぃひぃ、く、苦ひい・・・も、もうやめて・・・フェイトちゃん・・・!』
笑い過ぎたせいでなのはの顔は真っ赤、涙まで浮かべてる。まさか私にこんな笑いの才能があったなんて・・・。私はさらに調子に乗って、ルシルのモノマネを再開しようとした。とそこに、
「随分と楽しそうだな?」
「『っ!?』」
いきなり声を掛けられてビクッとなった私となのは。振り返ってみると、ルシルがマグカップ片手にジト目で私とモニター越しに居るなのはを眺めていた。私は「い、いつから見てたの?」って声を振り絞って訊いてみた。ルシルの肩が少し揺れてる。もしかして、怒ってる・・・?
「君が、“たとえ今までの私のことが忘れられていたとしても、これからまた友達になって思い出を作っていけばいい”、ってところ」
ギャァァァァァァァァァッ! ものすごく最悪なタイミングで私の恥ずかしいところを全部見られてたぁぁぁぁっ!
恥ずかしさのあまりに私の顔が赤くなったのを見たルシルは大笑い。ルシルの肩が揺れていた原因は怒っているんじゃなくて、笑うのを我慢していたからだった。
『ぷはっ! ダ、ダメ・・・ルシル君の顔見てると、さっきのフェイトちゃんのモノマネが、ぷっ、くく、あははははははっ!』
なのは・・・。ごめん、今は笑わないで。ダメージが全部私に来るから。冷静になってみれば、私はすごく馬鹿なことやってました。ルシルはなのはに「笑い過ぎだぞ、聞いてたこっちにもダメージが来るんだからな」って嘆息。調子に乗っていた自分が本当に恥ずかしい・・・(泣)
「それにしても随分言われていたな。なんだっけ? 君の瞳に乾杯?」
今の私にはグサリとくるよ、ルシル。なのはの笑い声がどこか遠くになっていく気がする。
『はぁはぁはぁ・・・笑った笑った。こんなに笑ったのって久しぶりかも』
「ここまでヘコんだのも久しぶりだよ・・・orz」
なのはが一頻り笑って、そして私は大恥をかいて、ようやく話は本題へと。ルシルに海鳴への里帰りを提案すると、ルシルは少し考えて口を開いた。
「久しぶりに海鳴へ行くのもいいな」
そこに憂いの感情はなかった。
『本当に大丈夫? すずかにアリサ、エイミィ、なのはの家族にだって忘れられているんだよ?』
でも心配で、念話でそう訊いてみる。ルシルは小さく笑うと私の頭の上に手を置いて、そっと撫でてきた。
『たとえ今までの私のことが忘れられていたとしても、これからまた友達になって思い出を作っていけばいい』
『むっ、ルシルのいじわる』
ルシルは私がモノマネで言ったセリフをそっくりそのまま返してきた。
『はいはい、ごちそうさま~♪ それじゃこれで決まりってことで。詳しい話は今夜にでもはやてちゃんを交えて決めよう』
こうして私たちは一年以上ぶりに海鳴市へ帰省することになった。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
第97管理外世界。そこには私たちの育った地球がある。管理外。それはつまりミッドを始めとした管理世界が、その世界に不干渉を貫かなければならないっていう証。だから管理世界間を繋ぐ次元航行船が通ってるわけでもなく。
「私用で転送ポート使用って、前々から思っていたけど軽く職権乱用だな」
「セインテスト、それダジャレか?」
「アカンよルシル君。10点にも満たへんよ?」
ルシル君が呟く。ヴィータちゃんがすかさずツッコミを入れる。そしてはやてちゃんが採点。点数は一ケタ台らしかった。
(んー、私からしてみればマイナス、かな)
わざとじゃないにしても、今のはいただけないよルシル君。私たちは本局の転送ポート施設から海鳴市・高町家道場に到着。以前まではすずかちゃんの家の庭に設置してもらっていたけど、すずかちゃんも今では社会人。
当然家を空けている事が多い。だからいつまでもお世話になって迷惑はかけられない。ということで、お兄ちゃんがすずかちゃんのお姉さんである忍さんとドイツに行ったことで使う人が居なくなった道場に転送ポートを移した。
「久しぶりの海鳴の街、セインテスト君の今のお気持ちは?」
シャマル先生がマイクを持っているかのようにルシル君へ右手を伸ばす。ルシル君は「悪くない」って微笑んだ。そして次にシャマル先生はリエイスさんに右手を伸ばした。
「リエイスにとっては本当に久しぶりよね。何か思うことはある?」
「そう・・・だな。当時はほとんど魔導書として活動していたから、八神家宅以外の思い出はそう無い。しかし、主はやてと出逢うことのできた世界だ。感慨深い、と思っている」
リエイスさんは大きく深呼吸して、「また来ることが出来てよかった」って微笑んだ。私たちは道場を出て、まずは高町家が経営してる喫茶翠屋へ向かうことになる。翠屋に向かう途中、
「視線が痛いんだけど・・・」
ルシルが悲痛に満ちた声でそう呟いた。当然私たちは原因を知ってる。ルシル君以外はみんな女性。ザフィーラは子犬フォームになってるから除外。自分で言うのも何だけど、今ルシル君の周りに居る私たちは結構な美人だと思う。
そこにたった一人だけ男性のルシル君が居る。以前はそういうのに鈍感だった私だけど、今なら判る。ルシル君は周囲の男の人からものすごい嫉妬に満ちた視線を受けている。
「大丈夫? ルシルパパ」
「あ、ああ。ありがとうヴィヴィオ。私は大丈夫だ」
ヴィヴィオの何気ない、ルシル君を思っての優しい一言。それが周囲にどう捉えられるか。ザワッと周囲の空気が妙な方向に変わったのが肌で判った。ヴィヴィオもすでに実戦を経験済みだから、周囲の空気が変化したことに気付いたみたい。私の左手を握る右手に力が込められた。
「おいおい、何か殺気だってんぞ周囲の男共」
ヴィータちゃんが頭の後ろで手を組みながら、呆れたように周囲を見回した。シグナムさんの「追い払うか?」っていう言葉に、「ダメですよシグナム」って止めに入るリイン。
そこにルシル君が「仕方ない」と嘆息して、見てんじゃんねぇよって視線を怨嗟の声を呟いてる男の人たちに向けた。ルシル君の本気の視線を受けて、逃げ出さない人はそうはいない。私たちを変な視線で見ていた男の人たちは一目散に逃げ出した。
「ルシル君、さすがに素人さんにあんな殺気をぶつけちゃダメだよ・・・」
私はルシル君をそう窘める。さっきまでの状況なら仕方ないかもだけど、でも今のは本気入り過ぎ。そんなこんなで男性を追加しようということでザフィーラに人間形態になってもらって、私たちは翠屋を目指す。
その道中、ルシル君は「あ、あの古本屋はもうないんだな」「公園だったのに今はマンションか」「お、懐かしい」って一喜一憂、ちょっと子供っぽかった。そして一年以上ぶりの翠屋に到着。私を先頭として翠屋に入る。
「お、なのは。おかえりっ」
「うん、ただいま、お父さん」
出迎えてくれたのはお父さんだ。昨日帰ることを連絡しておいたから、私たちに驚くことはなかった。フェイトちゃん達はそれぞれお父さんと挨拶を交わして、店の奥の席に向かう。ここで問題が発生。フェイトちゃんが行って、一番最後になった私とヴィヴィオとルシル君。
お父さんの視線がルシル君に向く。この時、私はつい忘れてしまっていた。お父さんもルシル君のことを憶えてないってことに。あれだけフェイトちゃんと心配していたのに・・・。
「こんにちは、士郎おじさん♪」
まずはヴィヴィオがお父さんに挨拶。お父さんも「いらっしゃい、ヴィヴィオちゃん」とにこやか。前にヴィヴィオを連れて来た時、お父さんのことをお祖父ちゃんと呼ばせるかどうかって議論になった。
その時はまだお父さんは若かった(今でも十分見た目が若いから、娘としてもかなり驚いてるんだけど)から、おじさんということになった。ヴィヴィオはお父さんとお母さんの作った料理が大好きで、海鳴に戻ったら絶対に食べたいって言うほど。
「はじめまして。私はルシリオン・セインテ――」
「なのはママ、ルシル“パパ”、早くっ」
ルシル君が初対面らしくお父さんに自己紹介をしようとしたところで、ヴィヴィオの一切の悪気の無い爆弾が投下された。ピシリと全てが止まる感覚。お父さんの顔が笑みのまま固まってる。ここでルシル君の表情が凍りついたのが見て取れた。私もきっとそう。これはまずい状況だってすぐに察した。
「あ、あのねお父さんっ、まずは話を――」
「パパだとぉぉぉぉーーーーーーーーッッ!!!?」
お父さんは私が説明する前に絶叫した。今日の翠屋は私たちのために貸し切ってくれていたおかげでお客さんに迷惑はかからない。かからないけど、ヴィヴィオがビクッとして、ルシル君が冷や汗を流してる。
「な、ななななのはっ!? パ、パパパパ、パパって何のことだっ?」
お父さんがルシル君の両肩をガシッと鷲掴んで、私を見ることなく訊いてきた。私がちゃんと説明する前に厨房から「あら、どうしたの?」とお母さんが現れた。よかった。お母さんが居てくれればお父さんの暴走を止めやすくなる。そう思っていたところに、
「誰が妹の旦那だってぇぇぇぇーーーーッ!?」
「お兄ちゃんっ!?」
ドイツに居るはずのお兄ちゃんが扉を破壊しそうな勢いで入ってきた。私を始めとしてフェイトちゃん達をぐるりと見回して、お父さんに捕まってるルシル君をロックオン。そのままルシル君のところにまでズカズカと歩み寄っていった。
「いつからだっ? いつから妹とそう言う関係になったんだっ?」
「いや、まずは話を――」
「ダメだぞ、恭也。ここはきちんと男同士腹を割って話さないとな」
「痛っ? あの、すいません。指が肩にめり込んでいるんですけど?」
お父さんとお兄ちゃんに揉みくちゃにされていくルシル君。そこにフェイトちゃんから『なのは。なのはとルシルとヴィヴィオの関係を、士郎さん達に話さなかったの?』っていう念話が。私は『すっかり忘れてたよぉ』とちょっと泣きが入った返事をした。先にテーブルに座っているフェイトちゃんが、あちゃあ、とでもいう風に頭を押さえた。
「士郎さんっ、恭也っ。少しは落ち着いてっ」
お母さんが割って入って、ルシル君を二人から解放。さすが頼りになる。ルシル君もお母さんに「助かりました、ありがとうございます」って頭を下げた。
「いいえ、どういたしまして。えっと・・・」
「あ、遅れて申し訳ありません。私はルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードといいます。いつもなのはさんにお世話になっています」
うわっ、ルシル君に“なのはさん”って呼ばれるの機動六課以来、すっごい久しぶりだ。
「まぁご丁寧に。私はなのはの母、桃子です。そして、夫の」
「士郎だ」
「そして息子の」
「恭也だ」
あれよあれよとお母さんに仕切られて自己紹介が済んだ。そしてそのまま私とヴィヴィオとルシル君の関係を説明。するとお父さんとお兄ちゃんも「そうだったのか」ってそれはもう嬉しそうだった。いつまでも娘・妹離れ出来ないなぁ、二人とも。ちょっと引くよ?
「それじゃあルシリオン君。念のためにもう一度訊くが、本当になのはとはそう言った関係じゃないんだね?」
「しつこいよっお父さん! ルシル君は私じゃなくてフェイトちゃんの恋人なのっ!」
「ぶはっ!?」
あまりにもお父さんがしつこくてそう言ったら、対面に座るフェイトちゃんが飲んでいた水を吹いた。すぐさまフェイトちゃんの隣に座っているルシル君が布巾でテーブルを拭く。謝るフェイトちゃん、それを受け止めるルシル君。お父さんとお兄ちゃんも二人の間に流れる空気を察して、ようやく私とルシル君に何も無い事を信じてくれた。
「もう。ごめんね、ルシル君、フェイトちゃん」
厨房とカウンター席に退却していったお父さんとお兄ちゃんを横目に、二人に謝っておく。私がここに来る前にきちんと説明しておけばこんな面倒なことにならなかった。
「気にしないでくれ。ある程度は覚悟の上だった」
ルシル君は寂しそうに微笑んで、
「私も気にしてないよ。まぁいきなりの恋人発言には驚いたけど」
フェイトちゃんは頬を赤く染めて微笑んだ。そしてお父さんとお母さん力作の昼食とデザートを頂いた。私の隣に座るヴィヴィオも凄く嬉しそうで、ルシル君も「この味、懐かしいな」って笑った。昼食も終わって隣のテーブルに座るはやてちゃん達とお喋りしていると、
「さっきは本当にすまなかったね、セインテスト君」
食器を片付け終えたお父さんがルシル君に謝りながら歩いてきた。お兄ちゃんはカウンター席からこっちを窺ってる。
「いえ、お気になさらず。あとルシルと呼んでもらっても構いません。あぁそうだ。一言だけ言わせてもらっても?」
お父さんは「ああ」とだけ言って聴く姿勢になった。ルシル君は頷いて、
「士郎さん、そして恭也さんも。娘であり妹であるなのはが大切なのは解ります。ですが、だからと言ってなのはの近くに居る男性にそう突っかかるのはどうかと思います。なのはも十分大人です。恋愛だってするでしょう。いつか特定の男性と一緒になるかと思います」
その言葉にお父さんとおい兄ちゃんの顔が引きつった。私の顔は少し赤くなってるかもしれない。
「それなのにあなた達二人は、気に入らないからと言ってなのはの選んだ男性に攻撃を? もう一度言わせてもらいましょうか。娘を、妹を大切に思うなら、なのはを信じてあげてください。それが、父として兄としての務めなのではないですか?」
キッパリと言われたお父さんとお兄ちゃんは俯いて、しばらく黙った。そこにパチパチって拍手の音が。厨房から出てきたお母さんだ。
「良い事を言ってくれたわぁ。ありがとう、えっと、ルシル君。実は困ってたのよ。未だに結婚しないなのはが心配だって言ったら、士郎さんは、なのはは嫁に行かなくてもいい!なんて言うし。恭也も士郎さんに同意するし。やっぱり同じ男性からの言葉の方が効くのよね」
お母さんは沈んだ二人の背中を優しく叩いた。でも、ここで折れないのがお父さんとお兄ちゃんだった。
「だがな、桃子さん。やっぱり男親っていうのは娘がとても大切なんだよ」
「可愛がった妹の幸せは確かに願うけど、それでもやっぱり嫌なんだよ」
もう、えええーーーー、だよ。私、どういった反応を示せばいいのか判らないよ? 助けが欲しくてみんなを見回すけど、目が合いそうになったら逸らされた。むぅ、薄情者ぉ。
「ル、ルシル君っ。君にも俺たちの気持ちが解るはずだっ。そ、そうだなぁ・・・君には妹とか居ないのか?」
「「「「「「「「っ!」」」」」」」」
みんなが息を呑む。ルシル君の事情を知るみんなだからだ。もちろんルシル君のことを何も憶えてない、何も知らないお父さん達は今のが失言だって判らない、ルシル君に残酷な事を訊いたなんて知る由もない。
ルシル君は小さく「居ます」って答えた。居ました、じゃなくて、居ます。そう答えたルシル君の心情は判らない。だけど・・・辛いに決まってる。これ以上、ルシル君の心を傷つけさせないために止めに入ろうとしたけど、
『いいんだ。なのは、フェイト、みんな。このままで』
ルシル君から念話が来た。フェイトちゃんは『でもっ』と返すけど、ルシル君は何も言わなかった。私たちは仕方なくお父さんに話を続けさせた。
「そうか。じゃあその妹さんで想像してみてくれ。とても大切で可愛がっていた妹が突然、好きな人が出来た、結婚します、なんて言ってきたら君はどうするっ?」
「こう言う場合、ヴィヴィオちゃんの事についても想像してみてくれ」
「え? わたし、ですか?」
ウチの親バカとシスコン兄が大変御迷惑をおかけしております。どうしようもない二人ですが、もうしばらくお付き合いください。ヴィヴィオが自分を指差して、いきなり自分が話に出てきた事に困惑する。私はヴィヴィオに「気にしないでいいからね」と言っておいた。
「ルシル・・・?」
フェイトちゃんが俯いたままブツブツ言ってるルシル君を心配そうに覗きこむ。私も聞き耳を立てて、ルシル君の呟きを耳に入れる。聞こえてきたのは、「シエルが結婚? ヴィヴィオに彼氏?」といった呪詛のような暗い呟き。そして、
「ふざけるなぁぁぁぁぁッ!」
この日一番の絶叫を聞きました。ビクッとしたヴィヴィオとリインとアギトが可哀想。
「シエルが結婚だとっ? おいおいおい、私が許すとでも思っているのかぁ? それにヴィヴィオが彼氏を連れてくる? おーっとっと、それは許せんっ! どこのどいつだ? 可愛い妹と娘をたぶらかすクソ野郎はっ!?」
あのルシル君が残念なことに壊れてしまいました。急に立ち上がってそう叫び、お父さんとお兄ちゃんに向き直って、
「今なら解りますっ! お二人の気持ちがっ! 大事な妹を、大切な娘を嫁にやるぅ? 冗談じゃないっ! どこの馬の骨ともしれない野郎に任せられるかって話です!」
「「おお、同志よ!」」
ガシッと握手を交わした。お父さんとお兄ちゃんの言葉によって壊れてしまったルシル君に、私たちは呆然とするしかなく・・・。お母さんがボソッと「もう。男ってみんなそうなのかしらね」と溜息を吐いた。そこにヴィータちゃんが勇気ある参戦。
「じゃあさ、セインテスト。お前にとって娘同然のキャロはどうなんだよ?」
「フッ。キャロについては何も心配していない。何せすでに息子同然のエリオという相手が居るんだからなッ! あの二人ならいつまでも応援して、いつでも祝福しようじゃないか!」
エリオとキャロが聞いたら卒倒するかもしれないなぁ、恥ずかしさで。
「そんじゃあさ。仮にお前とテスタロッサの間に仮にだが娘が出来て、その娘が成長して彼氏が出来たら?」
フェイトちゃんの顔が今までにないくらいに真っ赤になって、「バカ、もう知らない」ってテーブルに突っ伏した。どうしよう。今のフェイトちゃん、すっごく可愛い、ていうか可愛過ぎだよ。そして話に出てきたもう一人のルシル君は、
「そんなの認めるかああああああッ! 娘が欲しかったらこの私を倒して、どれだけ娘を大切に想っているか見せてみろぉぉぉーーーーーッ!」
「なぁセインテスト。今のお前、マジでヤバいぞ」
「はやてちゃーん、ルシルさんが怖いですぅ(泣)」
「ルシルさん、どうしちゃったのかなぁ? 何かおかしなものでも食べたのかなぁ(泣)」
リインとアギトがはやてちゃんにしがみ付いて、暴走したルシル君に涙目で引いてる。シェフィリスさん、ガブリエラさん、見てますか? お二人が愛したルシル君が物凄い勢いで壊れていってます。私にはもうどうする事も出来そうにありません。ごめんなさい。
「よしっ。・・・・クロノっ! 訊きたい事があるんだがっ」
えええええええええええッ!?
ルシル君が何のつもりかクロノ君に通信を繋げた。貸し切り状態だから良かったものの、もしお客さんが居たらと思うとぞっとしない。ルシル君のあまりに突然の行動に全員が唖然となる。
『いきなりどうしたんだ、ルシル。君が僕に通信してくるなんて初めてじゃないか?』
「そうか? あぁそうかもな。早速本題に入らせてもらう。クロノ、君の娘のリエラ。彼女が大きく成長して彼氏、最悪結婚相手を紹介してきたらどうするっ?」
クロノ君もまさかルシル君からの初めての通信で、そんなバカなことを訊かれるとは思いもしなかったに違いない。だって目を点にして、何を言ってるんだ?、みたいな顔してるし。
『はぁ、ルシル。そんなバカな事を訊くな。当然、僕は・・・』
クロノ君は大きく溜息を吐いて、
『その相手をブッ殺す!!』
物騒な事をほざいた。何気に“デュランダル”を起動してるし。冗談じゃなくて真剣だ。あの目は本当に実行に移しそうだ。
「やはりそうか! そうだよな!」
『そうとも! 僕の可愛い娘をどこぞの男に渡してなるものかッ!』
「まったくもってその通りだ! 娘は永遠に俺の娘だっ!」
「俺だって忍との娘に彼氏とか紹介されたら、その相手をぶった斬る!」
そこにお父さんとお兄ちゃんも賛同して、男だけのバカ騒ぎに発展。
「でもお父さん。お姉ちゃんが彼氏を連れてきた時、ここまで暴走しなかったよね?」
「あはは、何を言ってるんだ? 美由紀は美由紀、なのははなのはだ」
今お父さんはさらりと最低な事を言っちゃったよ。お姉ちゃんが誰かと付き合おうが結婚しようが、私に比べればそれがどうでもいみたいなことだよ、今の発言。さすがにお兄ちゃんも今のお父さんの失言に引いたのか「それはどうかと思うぞ、父さん」って嘆息。
お母さんが「士郎さん、少しお話をしましょうか」って笑顔でお父さんの襟首を掴んだ。お父さんがハッとして「待ってくれ」って怯えを見せるけど、もう手遅れだ。厨房の方に連行されていくお父さん。午後からの通常営業に差し支えない程度でお願いするよ、お母さん。
『ハラオウン提督! 仕事中に何をしてるんですかっ!?』
クロノ君との通信も、クロノ君の副官らしき人の声でプツリと切れた。そしてルシル君は「よしっ、今度はナカジマ三佐に!」とか言い出したから、
「もうやめんか、馬鹿者っ!」
シグナムさんの手刀で一時的に黙らされた。お兄ちゃんは、連行されたお父さん、撃墜されたルシル君を見て妙な汗をかいてる。兵どもが夢の跡、ならぬ親バカシスコン共が夢の跡、だ。
「ぅく、な、なのはっ、ヴィヴィオに彼氏が出来て、そして結婚するとか言い出したら君も反対だろう!?」
「ええええ!? ここで私を無理矢理参加させるって、ルシル君は鬼なの!?」
ルシル君が即復活して、私に話を振ってきた。どうしたものかとルシル君の暴走に心底困惑してるヴィヴィオを見ながら、ヴィヴィオがもっと大きくなった姿を幻視。そして家に男の子を連れてきて恋人宣言、そして将来の結婚の・・・。
――なのはママ。わたし、この人と結婚したいです――
もしそう言われたら私は・・・・うん。
「私は応援するよ。娘の事が本当に可愛いからこそ祝福する」
「「え~~~~~」」
ルシル君とお兄ちゃんの残念そうな声がシンクロ。私の意見が信じられないと言った風の二人に、「娘離れが出来ないのは男親だけだよきっと」って言う。そこに、
「ルシル君、恭也さん、私も解るよっ!」
「はやて!?」「「はやてちゃん!?」」「「主はやて!?」」「マイスター!?」
本来私たち女子派であるべきはやてちゃんの突然の裏切り。
「やっぱり嫌や。大好きな家族が、娘が誰かと一緒になるんはっ!」
「ほら見ろっ、なのはっ。女親でもあるはやてが私たちと同意見だぞっ」
「なんでそんなに嬉しそうかなぁ?」
もうルシル君は哀れを通り越して残念な人になってます。はやてちゃんもはやてちゃんで握り拳で力説してるし。ねぇ、見てよはやてちゃん。はやてちゃんの娘たちが目を点にしてるよ?
「そやからルシル君っ。リエイスは渡さへんよっ!」
「そこでどうしてリエイスが出てくるんだ?」
ルシル君が訊き返すと、はやてちゃんの顔から表情が消えた。かなり怖い。はやてちゃんは「ルシル君のアホぉぉぉーーーーッッ!」と叫んで、
――シュヴァルツェ・ヴィルクング(仮)――
「おぐっ!?」
魔力を纏わせた鉄拳をルシル君の鳩尾に叩きこんだ。それからしばらくルシル君は起きなかった。
†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†
ルシル
「いっその事、私を殺してくれぇぇぇぇぇーーーーッ!」
ルーテシア
「はい、初っ端から絶叫してるルシルさんだけど、気にしないでね。でも・・・うんうん、そう叫んでしまいたいのも解らないでもないよ」
ルシル
「今回の私はどうかしていたんだっ! アレは私じゃない! 私の偽者に違いない!」
ルーテシア
「はいはい。現実をしっかりと受け止めないと、もっと残念なことになりますよ?」
ルシル
「くっそっ、恥ずかしすぎる・・・! ここまで暴走したこと、そうそう無いのに・・・」
ルーテシア
「今回のアレがルシルさんの素なら、これからのお付き合い、少し考えたいかも」
ルシル
「私も第三者の立場なら、ルーテシアと同じ意見だ・・・。だからこそヘコむ」
ルーテシア
「はぁ・・・。レヴィはレヴィで閉じこもっちゃったし。今のルシルさんとはあんまり話たくないし・・・・。というわけで、今回はここまでっ!」
ルシル
「今の私はそれだけダメ男なんだろうか・・・orz」
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