魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Last Episode:
輝ける未来への道標
彼の選んだ決別の仕方
時空管理局と次元世界を未曾有の混乱に陥れた“テスタメント事件”が終結して約9ヵ月。
管理局の隠蔽してきた不祥事による犠牲者の遺族と、“ロストロギア・ディオサの魔道書”によって引き起こされた今回の事件は、管理局と次元世界を大きく揺るがした。
本事件の首謀者であった【セレス・カローラ元一等空佐(故)】の本宅より発見された手記より、本事件を起こした動機、管理局の在り方の危険性などが公表され、さらに世界を揺るがした。
その事から各管理世界からの管理局へのパッシングは物凄く、その対応に追われた職員の中にはストレスで長期休暇・辞職する者も続出。しかし、不祥事を働いた局員の送検、これまで以上の誠意を以っての事件・事故の解決に心血を注いだ管理局の信用も徐々に回復している兆しも見てとれる。
そんな対応に追われ慌ただしかった時空管理局の本局にも少しずつ静けさが戻りつつあった。
時空管理局本局内にいくつか存在するとある施設。今、その施設で一組による戦闘が行われていた。多くの閃光が入り乱れ、互いを撃墜しようと施設内を奔る。
「レイジングハート!」
≪All right. Accel Shooter≫
一人はエースオブエースと称される空戦魔導師、高町なのは。彼女の白のバリアジャケットは完全な戦闘形態であるエクシードモード。その事から相手は一筋縄ではいかないようだ。
なのははバスターモードの“レイジングハート”を大きく振り、誘導射撃魔法アクセルシューターを二十基と放った。シューターは複雑の軌道を取り、なのはと相対する相手を包囲するように周囲を高速で飛翔する。
「さすが・・・!」
膝下まである前開き黒長衣・スラックス・編み上げブーツを身に纏うその相手は苦笑し、様々なマニューバでシューターの包囲から逃れようとする。しかし、「手強い・・・!」シューターも同様に追いかけてくるため、それは包囲し続ける牢獄となっていた。相手がシューターに対処している最中、なのはが静かに動く。
「これで・・・!」
≪Excellion≫
なのはは“レイジングハート”の先端を複雑な機動を取る漆黒の相手に向け、
「どう!? ルシル君!」
≪Buster≫
高威力の誘導制御、反応炸裂型中距離砲撃であるエクセリオンバスターを放った。
漆黒の相手、なのはに【ルシル】という愛称で呼ばれたルシリオンは「くっ」と漏らし、シューターのダメージとエクセリオンバスターのダメージを天秤に掛ける。答えは考えるまでもない。ルシリオンはバスターよりシューターによる被ダメージを選択。
バスターが着弾するより早くシューターの包囲へ突貫、いくつか着弾したがシューターの包囲より離脱。バスターの直撃も回避。そして、ルシリオンはなのはへとキッとした視線を向ける。
「魔力が増大・・・ルシルの大技!?」
「クラールヴィント! 結界の出力をアップ!」
≪Ja≫
そんなルシリオンを見たこの施設・模擬戦専用トレーニングルームの二階部分に設置された見学室に居るユーノとシャマルが、訓練場内に展開した結界のレベルを上げる。二人は模擬戦することとなったルシリオンとなのはの馬鹿みたいな魔力で施設を破壊されないように、結界を張ることとなっていた。
もちろんトレーニングルームにも結界を張れるシステムがあるが、それだけでは心許ないということで、サポートのエキスパートであるユーノとシャマルが駆りだされたのだ。
「防御をお勧めするぞ、なのは!」
――天壌よ哭け、汝の剛雷――
ルシリオンの背後に蒼雷の球体(成人の頭部大)が七基生み出された。それらは、ルシリオンに言われた通りいつでも防御が出来るように警戒しているなのはを包囲するかのようにゆっくりと飛んでいく。
そして、
「爆滅粛清!」
ルシリオンの号令によって、七基の蒼の雷球エネディエルが一斉に炸裂。エネディエルは雷撃を纏う球状の衝撃波となって拡大していく。
「これは・・・! レイジングハート! お願い!」
≪Oval Protection≫
“レイジングハート”がカートリッジを二発ロードしたあと、なのはを包み込むように展開された球状の魔法障壁。仲間の保護や状況確認、防御に専念せざるを得ない時に使用される全方位防御だ。炸裂した七基のエネディエルの衝撃波に呑まれたなのは。この模擬戦を見学室で見学しているフェイトと八神家が固唾を飲んで見守る。
(あれ・・・? 思っていた以上に威力が無い・・・?)
プロテクション内でふと疑問を浮かべるなのは。確かに魔力の増大を感じ、危険度の高い攻撃魔法と判断。しかし防御に回ってみれば、大して威力が無いことが判った。それでもAAA-ランクの魔力はあるだろうが。なら、この魔法は何のために? ルシリオンの警告は何のために? なのはの顔色が変わる。それはミスをしてしまったという焦りの色だ。
「第二波、たぶん本命が来る! カートリッジロード!」
≪All right. Load cartridge≫
尚も治まらない衝撃波の中で、なのはは“レイジングハート”にカートリッジのロードを命じる。なのはは悟った。エネディエルは布石だ、と。防御を誘う警告。魔力増大を見せることで信憑性を高め、なのははつい乗ってしまった。
ルシリオンは神秘を失い魔術を扱えなくなった。が、魔法となってもその脅威は無くならない。だからこそなのはは過剰に構えてしまった。
(リンカーコアはやはり出力に問題ありだな。魔力炉で出来ていた事が全く出来ない・・・。特に書庫を失ったのが一番痛いな)
衝撃波に呑まれたなのはを見詰めながら、ルシリオンは魔術師と魔導師の違いである魔力炉とリンカーコアの差を確認して、かなりのレベル低下に肩を落とした。
(とりあえずは予定通りなのはとの模擬戦を決着させないとな)
ルシリオンは衝撃波が次第に治まっていくのを見て、急いで本命の一撃をスタンバイ。ルシリオンの前面に蒼光の円環が展開。彼は左腕を大きく引いて、左拳に蒼光を纏わせる。
「浄壊なせ・・・・」
円環の中央に蒼光の球体が生まれる。ルシリオンは引いていた蒼光を纏わせた左拳で、前方にある大きく膨れ上がった光球を殴りつけた
「汝の光輝・・・!(ん?・・・何だこれは・・・!?)」
円環より放たれる直径4mと蒼の光球。ザグザゲルはなのはの元へ一直線に飛来していく。しかし、エネディエルの衝撃波がギリギリ治まったことで、なのははプロテクションを解除、すぐさま射線上より離脱する。直後、ザグザゲルが床に着弾。拳大に収縮した後、一気に半球状に炸裂拡大。
――プロテクション・パワード――
なのははカートリッジを一発ロード。左手を迫るザグザゲルに翳し、バリアを展開させた。
†††Sideなのは†††
ルシル君の魔法ザグザゲルをカートリッジ分の魔力で強化したプロテクションで防ぐ。
でも、
(さっきのエネディエルよりずっと威力が高い・・・!)
押され始めるけど、何とかその場に踏ん張って耐える。少しずつ威力が治まっていって、何とか耐えきることが出来た。そしてすぐに私はルシル君の姿を探す。ルシル君はすぐに見つかった。見つかったんだけど・・・・
「・・・って、ルシル君? えっと、ルシル君・・・?」
ルシル君は床に倒れてた。私はどうしてルシル君がそんな事になっているのかが判らず、モニター越しに居る、一部始終を見ていたと思うフェイトちゃん達に首を傾げなら視線を移す。するとフェイトちゃん達もよく見えなかったのか首を傾げる。
「セインテスト君、大丈夫?」
シャマル先生がルシル君に駆け寄って、私のところにはユーノ君が来た。
「大丈夫? どこか痛めてない? なのは」
「うん、どこも痛くないよ。それにしてもルシル君は?」
ユーノ君の心配にそう返して、シャマル先生に診てもらっているルシル君を見る。フェイトちゃんは一度私を見る。私は心配ないよっ、て頷きで応えて、フェイトちゃんを心置きなくルシル君のところに向かわせる。
フェイトちゃんは「ごめんね」って口パクで謝って、ルシル君とシャマル先生に歩いていった。遅れてはやてちゃんたち八神家がトレーニングルームに降りてきて、私のところに向かって来た。
「どやった、なのはちゃん。ルシル君との模擬戦は?」
はやてちゃんがルシル君を見ながら私に訊いてきた。
「うん、その、言い難いんだけど、やっぱり弱くなってるのかな・・・? 最後のザグザゲルには焦っちゃったけど、全体的に何かぎこちないっていうか・・・」
ルシル君が最後に戦ったのは“テスタメント事件”の最終決戦。ルシル君とシャルちゃんの因縁の相手だったアグスティン何とかヨツンヘイム(覚えられない)が最後だ。事件終結後は聴取とか裁判とか色々あって、今日まで体を動かすなんてことはなかった。だからかもしれない。ルシル君がどこかおかしかったのは。
「ふむ。私もおまえと同じ感想だな。セインテストの魔導師としての初陣はアグスティン王だったが、あの時は魔術師時と同じように戦っていた。しかし先程のなのはとの模擬戦にはあの時のような鋭さが全くない。早い話が弱い」
「ぶっちゃけんなぁ、シグナム」
腕を組んでウンと頷いたシグナムさんにヴィータちゃんが苦笑を返す。と「はは、否定は出来ないな」と声が。私たちは一斉に声の主であるルシル君へと視線を移す。そこにはフェイトちゃんに支えられて佇んでいるルシル君。
「大丈夫? ルシル君」
「ああ、大丈夫だ。模擬戦の相手を受けてくれてありがとう、なのは」
「うん。どういたしまして♪」
ルシル君のお礼に笑顔で返す。でもルシル君の表情は晴れてない。このままお話しと行きたかったけど、トレーニングルームの使用時間が終わりが近づいたから、私たちはトレーニングルームを後にする。向かうは食堂。お昼が近いし、早い内に席を確保する事も出来るし、ちょうどいい。
無限書庫で仕事が出来たと連絡が来たユーノ君と別れた私たちは、まだガラリとしてるシッティング・ビュッフェ方式の食堂に着いて、みんなそれぞれ食べたいご飯を用意して一番奥の席に座る。で、早速フェイトちゃんがルシル君に質問。
「でもルシル。一体どうして気絶なんて・・・?」
ルシル君がピシッと硬直。それでみんなも食べるのを中止して硬直。
「ルシリオン、言いたいくないのなら言わなくともいいんだぞ? 無理に訊き出すような事を私はしたくないしな」
ルシル君の右隣に陣取ったリエイスさんが、ルシル君の左隣を陣取ったフェイトちゃんをチラリと見て微笑んだ。フェイトちゃんの口元とこめかみがヒクッてなったような気がする。
「でももし原因が体調にあるなら大変だし、ここはちゃんと訊かないと。私、ルシルのことが心配だから」
今度はリエイスさんの口元とこめかみがヒクッてなった。表情は微笑みだけど目が笑ってないよ。ルシル君たちの向かいに座る、はやてちゃんとリインとアギトが目に見えて嫌な汗を流してる。
「そうね~。さっき診たときは異常はなかったのだけど・・・。セインテスト君。本当に体は大丈夫? 私は医者だから何でも言ってね♪」
「そ、そうやで、ルシル君。みんな心配しとるんや。原因が体調やないんならええんやけど・・・」
シャマル先生とはやてちゃんにそう言われたルシル君は、「ふぅ」と小さく溜息を吐いた。高い天井を見上げて、ルシル君は喋り出した。
「・・・・・かった」
「え?」
ルシル君がボソッと何か言ったけど、聞こえなかったから訊き返してしまった。ルシル君は少し黙って、恥ずかしいのかそっぽを向いてまた口を開く。
「間に合わなかったんだ。障壁を展開するのが」
「あ?・・・・つうことは、だ。セインテスト、お前・・・ひょっとしてアレか」
ヴィータちゃんが口に運ぼうとしていた肉団子をポロっと落とした。ルシル君が何を言いたかったのか解った私たちは絶句。だってそれはルシル君の真実を知る私たちにとって信じられない現実。
「そうだよヴィータ。なのはを撃墜する前にザグザゲルによって自滅したんだよ、私は」
誰も反応を示さない所為かルシル君の頬が少し赤くなっていくのが判る。男の人なのにとても綺麗な白い肌と銀の髪だから余計に赤みが目立つ。
「えっと、その、ね。落ち込んじゃダメだよ? ルシル」
「そうだぞ。元は魔術師というものだったのが急に魔導師となったのだ。こういうことが起きてもおかしくはない・・・・と思う」
「別に落ち込んでなんか・・・いない」
落ち込んでる。絶対落ち込んでる。ガックリ肩落としてるし。フェイトちゃんとリエイスさんに頭撫でられても何も言わないし。というか二人とも。ルシル君の頭を撫でると、かえってルシル君、表情が暗くなって・・・。
「ぷっ・・・くくく、あははははははは! あの! あのセインテストが自爆!? ありえねぇ! あははははははは!」
「おい、ヴィータ。笑っては、くく」
「ちょっ、ヴィータちゃん! シグナム! 笑っちゃルシルさんが可哀想ですよ!」
ヴィータちゃんはテーブルをバシバシ叩いて涙を流しながら爆笑。シグナムさんもルシル君から目を逸らしてヴィータちゃんを窘めるけど、どう見ても肩を震わして笑いを我慢してる。リインが気遣わし気にルシル君をチラチラ見ながらヴィータちゃんとシグナムさんを窘める。そしてさらに沈むルシル君。もう見てられないよ(涙)。
「ルシルさん。あたしのハンバーグあげるよ」
「あ、じゃあわたしもあげるですよ♪」
リインとアギトが、自分の皿からハンバーグをルシル君の皿に移した。ヴィータちゃんがリインに「いいのかよ、好物だろ?」と訊くと、リインは、「いいのですよ。ルシルさんが喜んで元気にってくれるなら♪」すっごく可愛い笑顔で答える。
だけど目が、視線がルシル君の皿に移ったハンバーグから離れない。やっぱり食べたいんだろうなぁ。アギトも「あたしもいいんだ。相棒の非礼の謝罪だから」とシグナムを視線で射貫く。ヴィータちゃんとシグナムさんが「うっ」とすまなさそうに顔を伏せる。
「リイン、アギト・・・優しいな、ありがとう。本当にありがとうだが、その優しさが今は・・・辛いんだあああああっ!!!!」
えええええええええ!?
ルシル君が勢いよく立ち上がって、食堂から走り去って行ってしまった。それはもう私たちはそれを止めることが出来ないほどの速さで。硬直する私たちの中で一番最初に動いたのは、
「ルシル! ごめん、お昼は先に済ませておいて!」
フェイトちゃんだった。フェイトちゃんも長い髪を揺らしながら走って食堂を後にする。リエイスさんもフェイトちゃんに続こうとしたけど、思い直したみたいで静かに席に座る。
「あれ? あたし、ルシルさんに何か酷いことやったのか・・・?」
「わたしも何かしたのでしょうか・・・?」
アギトとリインが困惑してる。そこにザフィーラが「お前たちの所為ではない」と二人を安心させる。
「問題があるのはシグナムとヴィータだ。今までのセインテストからすれば信じられぬ事だろうが、それをああも笑うのは失礼だぞ。仮にも我々より長く存在し、その存在を懸けて戦ってきた、本来なら敬意を払うべき男だ」
狼形態のザフィーラに窘められたヴィータちゃんとシグナムさんは反省したようで、ルシル君に謝ろうと席を立つんだけど、
「ヴィータ、シグナム、ちょお待ち。今はフェイトちゃんに任せた方がええ」
はやてちゃんに待ったをかけられる。フェイトちゃんとルシル君、二人を想っての事なんだろうなぁって思った。だけど、「お昼ごはん残すんはアカンよ? ちゃんと食べやな勿体ない」違った。ご飯を残す方がはやてちゃんには問題らしい。
ヴィータちゃんとシグナムさんは黙って「はい」と頷いて座り直した。フェイトちゃん。ルシル君の事をお願いします。私たちはお昼ご飯を残さないように、フェイトちゃんとルシル君の分までしっかり食べる所存です(涙)。
「お残しは許しまへんで~♪」
「はやて・・・ソレ、忍○まの食堂のおば――」
「おば・・・? 続きはなんやろなぁ? なぁ、ヴィータ」
「な、何でもないです(怯)」
目の笑ってない笑顔なはやてちゃんに戦慄しつつ、私たちは黙々と箸を進めた。
††† Sideなのは⇒フェイト †††
食堂を飛びだしたルシルを捜して本局内を駆ける。時折立ち止まって、目を瞑ってルシルの存在を探査する。ルシルをこの世界に留まらせるために行った“対人契約”。その恩恵なのか、目を瞑ってルシルの事に集中すると、ルシルがどこに居るのかアバウトながら判るようになった。
「・・・・・見つけた」
ルシルの存在を確認。私はそこに向かってまた走りだす。そして辿り着いたのが、ずっと前にルシルとシャルから管理局を辞めるとその口から聞いた時の公園。噴水近くのベンチに座っているルシルを発見した。
「バカだよな、私は。今さらプライドなどあるわけもないのに」
ルシルは私に気付いていたのか、そっと歩み寄っていた私に視線を向けてきた。私は何も言わずにルシルの隣に座って、ルシルがもっと弱音を――弱音じゃなくても今の気持ちを話してくれるように無言で待つ。
「シャルの結界内で戦った時、魔導師となっても十分戦えると信じていた。しかしどうだ。久しぶりに戦ってみれば全部にタイムラグが生まれていた」
ルシルは俯いて話を始める。私は「うん」と相槌を打つ。今はまだ何も言わない。言うべきところじゃない。
「リンカーコアの魔力生成速度、魔術と魔法では異なる術式発動のタイムラグ・・・。ザグザゲルの時、私は炸裂する魔力波に対する障壁を展開しようとした。だが間に合わなかった。魔術師としてなら余裕だったのが、魔導師ではギリギリどころか・・・。情けない。頭に体が追い付いていない。魔力値が高くとも使いこなせないのなら意味がない。これじゃあ君を守ることが出来ない。私は何のために・・・」
そこでルシルは深い溜息を吐いた。私はまた相槌を打って、ルシルの頭にゴツンと拳骨を一発振り下ろす。
「痛っ? いきなり何をするんだ、フェイ・・・っ」
私に殴られたことでルシルがようやく私を見る。それで気付いたみたい。今の私がちょっと不機嫌だということに。口を噤んだルシルの目をじっと見て、私も自分の気持ちを話す。
「ルシル。私はいつまでも守られてるつもりはないよ。私だってもう大人だし、守られてばっかりじゃないんだよ? それに私は本気のルシルとだって戦って勝ったんだし」
“テスタメント事件”の決戦。そこで私は、セレスの延命の為に“力”が制限されていたルシル(それでも十分強かった)と一対一で戦って勝利をおさめた。だからこそルシルは今こうして私の隣に存在している。そう、私だってルシルに守られてるばかりじゃない。
「私だって守りたい、支えたい。何のために私はルシルをこの世界に留まらせたと思うの? ルシルに私を守らせるためじゃない。一緒に生きていくためだよ。だから、そうやって自分を卑下しないで。私と一緒にこれから強くなっていけばいいんだよ」
「フェイト・・・・」
「ね? だから気にするなとまでは言わないよ。でも焦ることはないと思う。まだまだこれからだよ、ルシル」
ルシルは「そうか」とだけ言って喋らなくなった。話し声がしなくなった公園。だけど少しずつ局員がお弁当を食べるために集まってくる。そこで、きゅ~~~、と私のお腹が鳴る音。ルシルが私を見る。聞かれた。一気に顔が熱くなる。ルシルから見れば今の私はそれはもう真っ赤な顔をしてるだろう。
「・・・・お腹空いたな。食堂へ戻ろう、フェイト。昼食の再開だ」
ルシルがベンチから立ち上がって、私に右手を差し出してきた。私はその手を掴んで、ルシルに引っ張ってもらうような形でベンチから立つ。繋いだ手は離さない。ルシルは離そうとしたけど私が阻止。そのまま公園を後にして食堂を目指す。たぶんなのは達の事だから、私たちを待っているかもしれない。
「いいのか? こんな堂々と手を繋いで局内を歩くなんて・・・」
「ん? 私は全然気にしないけど(ホントはかなり照れる)。ルシルは気にする? 恥ずかしい?」
「いや、まぁ・・・いいか」
「じゃあこのままで」
私が半ばルシルを引っ張るようにして前を歩く。私たちに向けられる局員の視線が何だ。見たい人は見ればいい(ホントは見ないで)。そして戻ってきた食堂。思った通りなのは達がさっきと同じ席で私たちを待っていてくれた。
「あのよ、セインテスト。さっきは、その、悪かった」
「私も謝ろう。すまなかった」
ヴィータとシグナムがわざわざ席を立ってルシルに頭を上げて謝った。さすがのルシルも当惑してるみたい。ポカンってしてるし。でもすぐにいつものキリッとして、でも優しい表情に戻ると、
「いや、いいんだ。怒っていないから頭を上げてくれヴィータ、シグナム。それにこっちも落ち込み過ぎた。もう私は大丈夫だ。な? フェイト」
二人の肩をそっと優しく掴んで頭を上げさせて、自分にも非があったと謝った。そして私に振り向いた。私はさっきの会話を思い出して「うん♪」と頷く。するとなのはとはやてが、
「え? なになに? 二人で何かお話したんだよね?」
「その二人の間にだけ解るアイコンタクトみたいなんがめっちゃ気になるんやけど?」
興味深々と言った風に目を輝かせて私にだけ詰め寄ってきた。私はルシルにヘルプを求めようとしたけど、ルシルはすでにリインとアギトを連れて、好きなデザートを奢るつもりなのか選ばせてた。ならば、とシグナムとヴィータを見るけど、ふいっと視線を逸らされた。じゃあ次はシャマル先生。だけどシャマル先生はなのはとはやて側だった。
ザフィーラは耳をピンと立てると、はやてに「少し席を外します」と告げて、ルシル達の元へ歩いていった。最後にリエイスを見るけど、私を助けるつもりは元からないようで、始めから視線を逸らしてた。
「テスタロッサちゃん。一体どんな話をしたの?」
「気になるなぁ~♪」
「フェイトちゃん、私ら友達やろ? ちょこっとでもええで、聞きたいなぁ~♪」
どうして女の子はこういう手の話が好きなんだろう。もう仕方なしにさっきの公園の事を話そうかと思った時、
「はやてちゃん! ルシルさんにクレープ奢ってもらいました☆」
「あたしもあたしも! さっきのハンバーグのお礼だって! 気持ちだけで十分嬉しかったからって、奢ってもらった♪」
リインとアギトが豪華なトッピングのクレープを両手に戻ってきて、すごく喜んでる。そこにルシルも戻ってきた。
「みんなの分も貰って来た。トッピングはこっちで適当に決めたがよかったか?」
ルシルの手には二つ、人間形態になっているザフィーラの手にも二つのクレープが。なのは達は「え?」と差し出されたクレープを見詰める。リインは片方のクレープをはやてに。アギトも片方をシグナムに差出し、ザフィーラはヴィータとシャマル先生、そしてルシルがなのはとリエイスにクレープを差し出す。
「えっと、ルシル君? 私らにもええの?」
「ああ、ザフィーラに君たちはデザートがまだって聞いてな。だったらリインとアギトへのお礼ついでにと思ったんだが・・・余計な事をしたか?」
「あ、ううん。ありがとうルシル君。いただきます」
「おおきにな。いただきます」
「あたしとシグナムにもいいのかよ・・・?」
「どうぞ遠慮なく」
「・・・そんじゃいただくわ。ありがとな」
「む、ならばその厚意は受け取らねばならんな。いただきます」
「ありがとうセインテスト君♪ いただきま~す☆」
「私にもか。・・・ありがとう、ルシリオン。いただきます」
なのは達はそれぞれクレープを受けとって、満面の笑みでクレープを頬張る。というか、私には何も無いの? あれ? どうしてかなぁ~・・・?(泣)
「私とフェイトはまだ昼を済ませてないから、食後に一緒に食べよう、フェイト」
「あ、そっか。食前のデザートはおかしいもんね」
私とルシルはお昼ご飯を二口くらいしか食べてない。そして私たちは買い直した(代金はヴィータとシグナム持ち)お昼ご飯を食べた。
†††Sideフェイト⇒はやて†††
フェイトちゃんとルシル君もようやく昼を済ませた。そんでフェイトちゃんも私らと同じようにクレープを頬張ってて、ルシル君はそんなフェイトちゃんを優しげな眼差しで見守っとる。そんだけで「ごちそうさま」と言いたいんやけど、まぁ今は目を瞑ろか。
「ルシル君。さっきの話の続き、いいかな?」
なのはちゃんが話しを切りだす。私らはフェイトちゃんとルシル君が居らん時にちょっと話し合った。ルシル君の不調の原因を。まぁ結局は判らん、というんが私らの答えやったけど。ルシル君は「ああ」と答えて、「そうだな、まずは体調不良による発動ミスじゃないと言っておく」切り出した。
「やはり魔術と魔法における発動時間と魔力生成速度のタイムラグが原因だ。魔導師の体なのに魔術師として戦おうとした。その感覚のズレだな。アグスティン戦では感覚が研ぎ澄まされて、そのズレを無意識に修復していたようだ。
しかしなのはとの模擬戦。多少の違和感はあったが問題ないだろうと判断して戦い、ザグザゲルを発動。そこで強烈なズレとなっていることに気付き、そのズレを修復しようとしたが間に合わず、防ぐことが出来ずに自滅した、ということなんだ」
「そう言えば昔から言うとったなぁ、そんなこと。まぁ原因は、魔術師と魔導師の性能差ゆうことやな。で? 何か解決策とかあるん?」
私はルシル君を見詰めながら訊ねる。ルシル君は一週間後から管理局の仕事に参加することになっとる(もちろんリエイスも)。それまでにルシル君を何とかせなアカン。ルシル君のためにも。私らは黙ってルシル君が口を開くんを待つ。そしてルシル君は閉じていたまぶたを開けて、その解決策を私らに話した。
――六日後:時空管理局本局・第二特別トレーニングルーム
見学室に居る私らはモニターを眺める。モニターに移ってるんは、トレーニングルームに投影された海上に浮かぶ廃墟街。その廃墟街の中央に立つルシル君と、ルシル君の模擬戦の相手を買って出たフェイトちゃんの二人。これから始まるルシル君とフェイトちゃんの模擬戦の見学者は六日前と同じメンバー。
「DSAA公式試合用のタグによるライフポイントがゼロになったら負け。それでいいよね? フェイトちゃん。ルシル君」
『うん、問題ないよ。ね? ルシル』
『えっと、このタグに表示されている数字がライフポイントで、これがゼロになったら負け、でいいんだよな・・・?』
モニターに映るルシル君はタグを見詰めてちょお困惑顔。フェイトちゃんがルシル君に歩み寄って色々と説明。何や微笑ましいなぁ。ルシル君も大体理解したようで、フェイトちゃんにお礼を言って、
『すまない。こっちの準備は万端だ、いつでも始めてくれていい』
モニター越しでなのはちゃんを見るルシル君。フェイトちゃんはルシル君から離れて“バルディッシュ”を起動、執務官の制服からインパルスフォームのバリアジャケットになる。
『付き合わせてすまないな、フェイト』
『ううん。私がやりたかっただけから』
ルシル君が右手をフェイトちゃんに向けて翳す。“三つの蒼銀の指輪”が右手の人差指、中指、薬指にはめられとる。アレがルシル君の言うとった解決策や。
『ラインゴルト・・・セットアップ』
ルシル君が一瞬だけ光に包まれて管理局員の制服から、魔術師としての戦闘甲冑――ううん、今はバリアジャケットとなっとる服へと変身。
「アレがルシル君のデバイス・・・ラインゴルト」
「双銃剣か。セインテストが得意にしてるレンジ、ミドルとロング対応だな」
なのはちゃんとヴィータが、ルシル君の両手に持つ白銀の銃剣を見て感想を言う。ルシル君の言うとった解決策。それはデバイスを持つことや。魔術師としての演算能力についていけない魔導師のリンカーコア。
それがルシル君の動きを悪くする。なら、デバイスの演算能力をしばらく主として、徐々にルシル君自身の演算能力を魔導師感覚として慣れさせていけばええ。魔術師としての自分と完全に決別する。それがルシル君の出した答えやった。
「おそらく双銃剣だけではないな。人差し指の指環がそうだろうが、残り二つの指環が残ったままだ」
「そうやろね。にしても、まさか一週間もせんうちに三つもデバイスを作るなんて、さすがと言うかなんというか」
私もシグナムに同意。そしてルシルの凄さに改めて舌を巻く。モニターに映るフェイトちゃんの顔にも警戒の色が強く見える。静まり返る訓練場と見学室。
「それでは・・・・始め!!」
なのはちゃんから試合開始が告げられる。
†††Sideはやて⇒ルシル†††
『それでは・・・・始め!!』
試合開始だ。私はすぐに“ラインゴルト・フロースヒルデ”二挺をフェイトに向ける。トリガーを引き、手始めに直射魔力弾をそれぞれ五発、計十発放つ。当然フェイトは、
「バルディッシュ!」
――ブリッツアクション――
陸戦用の高速移動魔法ブリッツアクションによる回避。フェイトが私に突っ込まずに距離を置いたのは、私がデバイス制御に慣れるまでは攻勢に出ないつもりだからだろう。仕方がないとはいえ、やはりショックだ。フェイトに手加減されている。だが、フェイトと共に強くなる。その誓いがある限り、そのショックもすぐに薄れ消える。
「この模擬戦で私はどこまで魔導師になれるだろうな・・・?」
――コード・アトゥニェル――
――コード・アブドゥクスエル――
左の“フロースヒルデ”からは炎弾アトゥニェルを。右からは元閃光系の魔力弾アブドゥクスエルをそれぞれ二十発放つ。中級魔術は全て魔法の術式へと変換した。しかしあまりに術式が複雑になってしまうモノもあったため、その元となる魔術は捨てた。
まぁその捨てた魔術の大半は、管理局法に則れば黒も黒、真っ黒だからどの道使えない。とはいえ、大戦から今日まで共に歩んできた魔術だ。失うというのは寂しいものだ。それに属性にも変化が生じた。閃光(どうしても無属性に変換される)と闇黒(複雑すぎて諦めた)、無属性の中(毒とか音波・重力など)からもいくつか失った。
≪Haken form≫
フェイトは“バルディッシュ”をアサルトからハーケンへと変形させ、迫る炎弾を回避、魔力弾を切断していく。まだまだフェイトは余裕のようだ。ここで私は、
――コード・アンピエル――
背に十二枚の剣翼を作り出す。やはり私は空で戦う者。陸戦より空戦の方がもっといい動きが出来る。そう思いたい。一気に空へと上る。フェイトも続いて空に上がり、いつでも私の攻撃に対応出来るように“バルディッシュ”を構える。
右の“フロースヒルデ”だけをフェイトに向け、「コード・・・」銃口の前面に、サファイアブルーに光り輝く小さなミッド魔法陣を展開。
「バラキエル!」
トリガーを引き、撃ち放つのは蒼雷の砲撃。フェイトが回避に移ろうとしたのを察して、すぐさま左の“フロースヒルデ”の銃口を、フェイトの回避先を予測して向ける。
――コード・アルダエル――
トリガーを引く。しかしすぐには発動せずに約1秒のタイムラグのあと炎熱砲撃が放射。
「くっ・・・!」
やってしまった。また魔術としてのタイミングで発動しようとした。1秒など、フェイトの速さを持ってすれば余裕で回避できる。当然アルダエルは回避された。
「プラズマ・・・スマッシャァァァーーーーッッ!」
ここでフェイトが攻勢に出てきた。私も回避を選択。その場から離れ、すぐに反撃のための術式を・・・
(って! また私自身の術式演算による術式発動をしようとした!)
デバイスの処理速度に合わせていかなければ私は魔導師として二流となってしまう。でも私は数千年と魔術師だった。たった数日・数週間で魔導師になれ、というのも土台ムチャな話・・・。ああもう、なに弱音を吐いているルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。今日一日で変わる必要はない。この模擬戦で少し形になればいいだけだ。焦るな。
「プラズマランサー、ファイア!」
フェイトのランサーが七基。全弾直撃コースで飛んできた。
――コード・ピュリキエル――
前面に対魔力障壁を展開。ランサーを防ぐ。しっかりとデバイスに処理させて、右の“フロースヒルデ”から、
――コード・フトリエル――
反撃の無属性砲撃フトリエルを放つ。その間に左に“フロースヒルデ”に別の術式をスタンバイさせる。
「コード・ザグザゲル」
放つのは、私がデバイスを持つに至る事になった要因であるザグザゲル。六日前の魔術師感覚で発動した術式ではなく、今日は完全に魔導師としての発動した術式だ。前回のようなミスは犯さない。
≪Sonic Move≫
フェイトは炸裂範囲から急速離脱。私も高度を上げて、設定してある炸裂範囲外に退避。ザグザゲルをフェイトに向けて連射する。フェイトは知らない。すぐに気付くだろうが、炸裂範囲は発射前にその都度設定できるようにしてある。たとえ気付いたとしても常に変化するため、的確な炸裂範囲が判らず、範囲以上に距離を取らないといけない。
だからフェイトは、
――ブリッツアクション――
無駄に魔力を使って逃げ回らなければならない。防御に回っても同じこと。回った時点で防御に専念しないといけなくなる。そこを別の魔法で追撃すれば、おそらくフェイトに勝てる・・・はずだ。右の“フロースヒルデ”でザグザゲルを放ちフェイトを動かし続け、
「コード・アルダエル!」
左の“フロースヒルデ”で炎熱砲撃アルダエルを放つ。フェイトの動きを止めてはいけない。プラズマスマッシャーやトライデントスマッシャーのような砲撃を撃たせないために。フェイトの主力砲撃は必ず立ち止まっての発動だ。射撃のバレットやランサーはおそらく迎撃・回避すれば対処しきれる。問題なのは・・・・
(接近戦に持ち込まれたら、おそらくアウトだな)
一応“ラインゴルト”には接近戦用のデバイスがある。“ラインゴルト”というのは三つあるデバイスの総称だ。“フロースヒルデ”は射砲撃戦用、ミドル&ロングのデバイス。他の二つは近距離クロスと中距離ミドル対応となっている。
しかし“フロースヒルデ”以外はまだ調整中だ。さすがに六日で全機完成とはいかなかった。まぁ基本的に“フロースヒルデ”を主とするつもりだから問題はないが。
(接近を許さないためにも、ここで手を抜くわけにはいかない)
だから弾幕を張って、フェイトが私に接近するのを困難にする。ここまで来た以上は勝っておきたい。すまない、フェイト。少しギアを上げていくぞ。
†††Sideルシル⇒フェイト†††
――コード・ザグザゲル――
戦闘開始すぐは動きが硬かったルシルだけど、デバイスやリンカーコアに慣れてきたのか徐々に良い動きをしてくるようになった。そんなルシルは私を接近させないように、そして砲撃を撃たせないように炸裂弾ザグザゲルを連射してくる。
炸裂範囲にバラつきがあるザグザゲル。たぶんだけどデバイス“ラインゴルト”で設定しているんだ。これは厄介だ。大きく距離を取ったら全然範囲が狭くて、ならばと小さく距離を取ったらとんでもなく広い範囲になって呑み込まれる。だから動きを止めずに常に距離を大きく取らないといけなくなる。
「しかも炎熱変換の砲撃も連射してくるし・・・!」
――コード・アルダエル――
ザグザゲルを回避している最中に砲撃で追撃。ルシル、ちょっとタチが悪いよ?
「プラズマランサー・・・!」
≪Get set≫
スフィアを周囲に展開させたまま回避行動を続ける。
(少しでも隙があればいいんだけど・・・)
その隙と言うのはすぐにやってきた。ザグザゲルが突然止んだ。ルシルが右手に握る“ラインゴルト”のグリップ下から蒸気が噴き出している。“ラインゴルト”の不調? ルシルの表情も、しまった、ってものになってるし。それなら今、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「ファイア!」
待機させておいたプラズマランサーを全弾射出。ルシルは蒸気を噴いている“ラインゴルト”を消して、左手に持つ“ラインゴルト”から放つ炎熱砲撃でランサーを迎撃。ここで一気に攻めないと。持久戦になったら、私より魔力が多いルシルが有利だ。
―― ハーケンセイバー ――
“バルディッシュ”を振るって雷光の魔力刃を放つ。ルシルは砲撃による迎撃じゃなくてラウンドシールドで防御した。私は一気に接近する。ルシルはそんな私に銃口を向けて、
――コード・アブドゥクスエル――
また砲撃じゃなくて魔力弾を三十発くらい撃ってきた。私はハーケンで斬り裂きながら直進。デバイスに何かしらの問題が起きたんだと確信。罠の可能性もあるけど、ここで接近しておかないとまたザグザゲルで距離を取らされる。
「はああああああッ!」
――ハーケンスラッシュ――
ハーケンフォームの“バルディッシュ”による直接斬撃。ルシルは“ラインゴルト”の銃身下の刃で受け止める。
≪Plasma Lancer≫
ルシルの背後にランサーのスフィアを八基展開。ルシルはすぐに気付くけど、対処されるより先に「ファイア!」ランサーを射出。でも着弾直前にラウンドシールドが展開、ランサーを防御される。だけど、このままクロスで押し切ればいいだけだ。“ラインゴルト”をハーケンで捌いて、切り返しでルシルに斬撃を叩きこむ。
「っぐ・・・!」
今回はお互いにフロントアタッカーと言うことで、ライフポイントは3000。今の斬撃は直撃。だから400も削った。このまま連撃を繰り出す。距離を取ろうとするルシルを追撃。“エヘモニアの天柱”での決戦を思い出す。あの時は本当に苦労したけど、今は・・・簡単に接近できる。
何度かルシルの防御を掻い潜って斬撃を叩きこんでいく。こっちも反撃されて800ほど削られたけど。でもルシルの方が圧倒的にダメージを負ってる。そしてルシルのライフポイントが1000を切った時、
「づっ・・! やはりクロスだともうフェイトの方が強いな・・・!」
――コード・バラキエル――
「ゼロ距離!?」
ルシルのオウンダメージ覚悟の雷撃砲。視界が蒼い雷光で潰されて、私自身もダメージを負った。爆発によって吹き飛ばされるけど、何とか体勢を整える。
「けほっけほっ、・・・今ので900削られちゃった」
残り1300ポイント。でもルシルだって相応のダメージを被ってるはず。ルシルを探して、ルシルを見つけた私は自分の甘さを呪った。
――コード・ラファエル――
「治癒術式・・・!」
そうだった。ルシルには治癒魔法があるんだ。だから多少の無茶は出来る。そしてルシルの両手には“ラインゴルト”があった。今度はこっちが、しまった、だ。千載一遇のチャンスを逃した。
――コード・ザグザゲル――
――コード・バラキエル――
炸裂弾ザグザゲルと雷撃砲バラキエルの連射。また回避に移らないと。でも、ここで引いたら次のチャンスに来るまでに負けるかもしれない。だったらもう・・・・
「突っっ貫ッ!!」
突撃。降り注ぐザグザゲルとバラキエルの合間を縫ってルシルへと接近を試みる。ルシルは後ろに飛び引いて距離を取りながら二種の魔法を放ち続ける。私もランサーを何度も展開して真っ向から反撃。ここでルシルはザグザゲルをやめて、炎熱砲撃アルダエルを撃ってきた。ザグザゲルは何かに当たらないと炸裂しない。すでに当たるモノが近くにない以上、ザグザゲルは無意味と思ったみたい。
(直線的な砲撃ならもっと避けやすいよ、ルシル!)
――ソニックムーブ――
ある程度接近出来たから、ソニックムーブでルシルの背後へと高速移動。すぐに私へと振り向くルシルは、振り向きざまに銃口を向けてきた。射砲撃が撃たれる前に“バルディッシュ”で左の“ラインゴルト”を弾き飛ばす。
――リングバインド――
ルシルの両手足を拘束した――と思った。だけどもう一挺の“ラインゴルト”を持つ右腕の拘束に失敗。その銃口はすでに私のお腹へと向けられていて、対処しようとする前にルシルはトリガーを引いた。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
「お疲れ様、フェイトちゃん、ルシル君」
模擬戦を終えた二人に労いの言葉を掛ける。フェイトちゃんは「ありがとう、なのは」って返してくれて、ルシル君は溜息を吐いてから「ありがとう」だった。まぁ仕方ないよね。最後の最後で“不発”なんて。ルシル君の右腕はフェイトちゃんのバインドをギリギリ逃れて、そのまま至近距離での一撃を放とうとした。
でも魔法は発動しなかった。原因はもちろんルシル君しか判らない。あとはどうなるか。もちろんフェイトちゃんのずっとターン。ルシル君は健闘むなしくポイントをゼロにされた。見てて酷かった。あれってリンチ?
「どやったルシル君。自作とはいえ本格的なデバイスでの戦闘は?」
「そうだな・・・魔導師としての感覚も少し掴めてきたし、よかったよ」
俯いていた顔を上げてはやてちゃんに答えるルシル君。はやてちゃんは「そっか。それはよかった」と安心したように笑った。私たちはトレーニングルームを後にして、それぞれの職場に戻るまでの間ずっと話し続ける。他愛もないけど楽しくて、とても素敵な時間だった。
「そう言えば、私はどこに配属されるんだ?」
ルシル君が思い出したかのように私たちに訊いてきた。この中で知らないのはルシル君だけだ。まぁ意図的に黙ってたし。ニヤニヤするはやてちゃんを不審に思ったのかルシル君は「なにを企んだ?」って一歩後ずさった。
「ルシル君は、フェイト執務官付きになる予定や」
「は?・・・・フェイト執務官付きって、執務官補佐の事か? ちょっと待った。私はそんな資格を持ってないぞ」
喜ぶんじゃなくてうろたえるルシル君。
「予定、言うたやろ。今から執務官補佐の試験を受けることになっとるで、よろしくな」
さらにルシル君はポカンとした。少しフリーズしてから「今から!?」と大声を上げる。驚くのも無理ないよね。あまりに突然過ぎるし。
「そうだよルシル。午後は予定開けておいてって母さんに言われてたでしょ?」
「それはそうだが、まさか執務官補佐の試験なんて・・・突然過ぎないか?」
「ルシルは私の補佐になるの嫌?」
「え? いや・・・」
「もしかしてはやての海上警備部に行きたかった? リエイスも居るし」
「ち、違っ・・・!」
「それともなのはかなぁ? 教導隊にでも行くの?」
「お、おお落ち着けフェイト。誰も嫌なんて言ってないぞ!」
「じゃあ行こう♪ サクッと行こう♫ 合格しに行こう♬」
「はい? わっと、腕を引っ張らなくても自分で歩け・・・ちょっ、フェイトさぁ~~~~~ん・・・!?」
フェイトちゃんに連行されていくルシル君に手を振って見送るはやてちゃん。
「えっと、頑張って。ルシル君」
私はとりあえず応援する。その後、ルシル君は見事執務官補佐の試験をパスして、後日、晴れてルシル君はフェイトちゃんの補佐になった。
「フェイトに連行されている間ずっと、落ちたら許さないって無言で、しかも満面の笑顔でプレッシャーを掛けらてたんだ。絶対に落ちられない状況だったんだよ・・・(泣)」
「うん。頑張ったね、ルシル君(涙)」
†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†
レヴィ
「は~い、ラストエピソード第一話のあとがきでの登場です♪」
ルーテシア
「やったね☆ でもわたし達って本編での出番はあるの?」
レヴィ
「それは判りません!」
ルーテシア
「あ~だから出番があとがきなんだ」
レヴィ
「でも待ってれば、いつかきっと本編でも出番が!」
ルーテシア
「期待しない方が良いかも。それで? 今から何するの、レヴィ」
レヴィ
「何もすることがないからゲストを呼んでます。ANSURの主人公ルシリオン・S・F・シュゼルヴァロードです!」
ルシル
「また訳の解らない事になっているな。しかもレヴィとルーテシアがMCか。あーそれとな、以前のサイトでは確かにあとがきのコーナーだったが、本サイトでは本編後のミニコーナーに昇格したんだ」
レヴィルー
「うそっ!?」
ルシル
「いや本当。あとがきの文字数制限の問題でな。よかったな、本編だぞ」
レヴィ
「記載されてる場所が本文でも、実際はミニコーナーじゃん」
ルーテシア
「まぁまぁ。このコーナーが無くならなかっただけマシだよ。ルシルさん、こんにちは~☆」
レヴィ
「むぅ、まぁそうか。ん、じゃあいいや」
ルシル
「まぁ納得してくれたなら、それでいい」
レヴィ
「うん。さて、じゃあ早速本題。よかったね、ルシリオン。シャルロッテが居ないから、実質的な主役に返り咲きじゃないの?」
ルシル
「それはどうだろうな。シャルが居ないからと言って私が主役とは限らないんじゃないか?」
ルーテシア
「う~ん、そうかなぁ。1st~5thは、シャルロッテとなのはさん達との出逢いと別れを描いた物語ってことになってるけど?」
ルシル
「まぁ確かにそう言う想いで連載してきたらしいからな」
レヴィ
「だったらこのLastはルシリオンとフェイトさんの、みたいなヤツになるんじゃないの?」
ルシル
「・・・どうだろうな」
レヴィルー
(メッチャ目が泳いでる)
ルシル
「とりあえずこのエピソードは、前エピソードのアグスティン戦とエピローグの空白期を描いた物語だ!」
レヴィ
「エピローグ後の話もあるようだけど?」
ルシル
「ぅく・・・あくまで予定に過ぎないらしいじゃないか」
ルーテシア
「はぁ。じゃあその話はここまで。ルシルさん、今回、魔術師としての自分と決別したってことになったど、術名がカタカナだけになったのはその所為?」
ルシル
「(やっとまともな内容に)ああ。漢字にルビを振っていたが、魔法となったことで漢字を排除した」
レヴィ
「じゃあウリエルはどうするの? 閃光砲・炎熱砲・雷撃斬と三つあったけど」
ルシル
「ウリエルは雷撃斬だけに絞った。閃光系が無くなった以上は意味はないし、炎熱砲は今回使ったアルダエルという名に変えた」
ルーテシア
「そうなんだ。じゃあ属性を失ったって話だけど、どれだけの魔術を失ったの?」
ルシル
「ここで言うにはスペースに問題があるな。まぁ幾つかの殺害目的な術式を失ったとだけ覚えておいてくれるだけでいい」
レヴィ
「へぇ~。おっと、もう時間だね。それじゃ今回はここまで♪」
ルーテシア
「次回でまたお会いしましょう♪」
レヴィルー
「バイバ~イ☆」
ルシル
「何か疲れた・・・」
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