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万華鏡

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第六十八話 秋深しその十四

「それはね」
「駄目よね」
「流石に」
「そこはロシア人と違うよ」
 そうだというのだ。
「酒は普段は夜に飲むよ」
「とにかくよね」
「そこまで完全武装してなのね」
「冬を凌ぐのね」
「神戸の冬を」
「そうなんだよ、その冬だな」
 いよいよという口調だった、美優は冬を恐れる顔で語る。
「いよいよだな」
「今もかなり寒くなってきてるけれどね」
「十二月はもう完全に冬だからね」
「二月まではね」
「それまでは」
「だろ?冬は苦手だよ」
 神戸のそれは特にというのだ。
「というか今からセーターとかマフラーとか色々出してるよ」
「静電気大丈夫?」
 景子は真顔でこのことを問うた。
「そっちは」
「ああ、それな」
 美優も既に把握している声で景子に答えた、静電気のことを。
「あたしも注意しててさ」
「スプレーしてるわよね」
「静電気用のな」
「やっぱりあれはしていないとね」
「そうそう、静電気って嫌なんだよな」
 実際に嫌そうな顔になっての言葉だった。
「鬱陶しいっていうかうっ、ってなってな」
「そうよね、冬はね」
「しかもパソコンとかによくないんだろ」
「そう言われてるわね」
 真相はよくわからないが、という感じで答えた景子だった。
「実際のところどうなのかしら」
「まあそうでなくてもさ」
「静電気は美優ちゃんも気になってるのね」
「そうなんだよ、気をつけてるよあたしも」
「それならいいわ、とにかく美優ちゃん冬は苦手なのね」
「かなりな」
 沖縄生まれだからだった、何につけても。
「就職したら沖縄に戻りたいよ」
「そこまで言うのね」
「それか神戸じゃなくて大阪だよな」
 隣のその街でもいいとも言うのだった。
「あそこあったかいからな」
「その代わり夏暑いわよ」
 彩夏は大阪のことをこう言った。
「あそこは」
「いや、暑いのは大丈夫だからさあたし」
「それはいいのね」
「神戸も嫌いじゃないけれどさ」
 それでもだというのだ。
「冬の寒さがさ」
「だから大阪なのね」
「大阪のどの辺りがいいかは知らないけれどさ」
「じゃあ住吉とかどう?」
 彩夏は大社で有名なこの場所を出した。
「あそこね」
「住吉区か」
「西成とかだと天下茶屋、東だと東成とかね」
「あの辺りもいいのかよ」
「淀川の辺りもね」
 そこもいいというのだ。
「此花も悪くないって聞いたわ」
「大阪っていっても結構あるんだな」
「大体が下町よ」
 大阪の雰囲気はそうだというのだ。
「漫画に出るみたいな」
「東京のとはまた違うよな」
「東京の下町が大阪の大抵の場所で」
 葛飾だのその辺りが、というのだ。東京に比べて大阪の方が下町の雰囲気は濃いであろうか、街全体として。
「工場があってお店があって」
「そんな場所か、大阪は」
「住吉とかもね」
 その工場も町工場だ。
「減ってもね、まだそんな雰囲気よ」
「結構面白そうだな」
「面白いでしょ、大阪は」
「実際にな」
 遊びに行ったから美優も知っている、このことは。
「じゃあ就職したらあっちに部屋借りて住むか」
「それで暖かく過ごすのね」
「夏は暑くてもいいんだよ」
 美優の場合はそうだった、やはり沖縄生まれであるからそうしたことについては全く平気だというのである。
「冬だよ、あたしの場合は」
「私は夏なのよね」
 秋田生まれの彩夏はこちらが気にあるのだった。
「大阪の夏なんて耐えられないわ」
「神戸だからか」
「そう、大丈夫なのよ」
「彩夏ちゃん胸も大きいしな」
 何故かここでこのことについても言った美優だった。
「大変だよな、夏は」
「胸と夏関係あるの?」
「あるだろ、胸が大きいとそれだけ肉があるってことだろ」
「そのお肉の分なのね」
「ああ、熱くないか?」
「別に」
 そうは感じないとだ、彩夏はやや首を傾げさせて美優に答えた。
「そうは感じないわ」
「胸は関係ないのかよ」
「というか夏自体がね」
「彩夏ちゃんにとっては辛いんだな」
「そうなの」
 こう話すのだった。
「だから今は有り難いわ」
「神戸の冬もか」
「というか今過ごしやすいわ」 
 彩夏は微笑んでさえいた、神戸の冬を前にして。
「これ位がいいわ」
「そうか、人それぞれだな」
「沖縄と秋田でね」
 こうした話もした五人だった、何はともあれ今度は冬になろうとしていた。秋は深くなり次の季節が訪れようとしていた。


第六十八話   完


                          2014・2・6 
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