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つまらないもの

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第七章


第七章

「そこに行くわよね」
「行くよ。どんな患者さんでもね」
 行く。患者に一切分け隔てはしない、これは彼の信条だ。
 その信条の元にだ。妻から連絡を受けた一軒家に向かった。その日は妻も一緒だった。彼女が道案内をしているのである。
 その彼女がだ。夫に話すのだった。
「その家の人はね」
「名前は何ていうの?」
「池田さんっていうのよ」
「池田さんねえ」
「知ってるかしら」
「知らない。最近引っ越してきた人かな」
「そうみたいなの」
 まさにそうだとだ。妻は話すのだった。
「どうやらね」
「そうなんだ。その人なの」
「誰なんだろ」
 連は妻の言葉に首を捻った。
「一体」
「わからないのね」
「全くね。君もだよね」
「ちょっとね」
 それは妻もなのだった。
「本当に誰なのかな」
「とりあえず行ってみましょう」
「そうだね」
 こんな話をしてだった。二人は。
 その家に向かった。家はというと。
 非常に古くだ。まるで廃屋だった。それを見てだ。
 連はだ。横にいる妻に問うた。
「あのさ」
「ここよね」
「ここって人いるよね」
「人の気配がしないわね」
「けれど表札はあるし」
 それはだ。確かにあった。
「それじゃあいるんだよね」
「そうね。その池田さんって人はいるのよね」
「間違いなくね」
 そのことを話すのだった。
「それじゃあ。中に入ろうか」
「そうしましょう」
 こうして二人はその古い家の中に入った。するとだ。
 そこは中も酷いものだった。ゴミだけでなくだ。埃が積もりしかも蜘蛛の巣まであった。そうしたものを見ていてだ。連はこう妻に言った。
「ちょっと。これは」
「そうよね」
 妻もだ。眉を顰めさせて夫に話す。
「普通じゃないわね」
「ええと、人いるんだよね」
「間違いないわ」
 それはだ。出ているというのだ。
「ちゃんと連絡も受けたしね」
「じゃあここなんだね」
「そう、ここよ」
 まさにだ。この家にだというのだ。
「ここにおられる筈よ」
「その患者さんがだね」
「ええ。池田さんね」
 妻は患者の名前を話した。
「ここにおられるわ」
「じゃあ何処かな」
 その廃屋にしか思えない家の中を歩き回りながらだ。連は言うのだった。
「何処におられるのかな」
「ええと?」
 妻はここで耳を済ませた。するとだ。
 家の奥から音が聞こえた。それを聞いてだ。
 夫に対してだ。こう話すのだった。
「あっちみたいよ」
「あっちなんだ」
「そう、あっちね」
 そこにだ。その患者がいるというのだ。
「あっちにおられるみたいよ」
「そう。それじゃあね」
「うん、じゃあ行きましょう」
 妻に言われてだ。二人でその家の奥に向かう。やはり家はゴミに埃、それと蜘蛛の巣で汚れきっている。まさに廃屋であった。
 その廃屋の中を進みだ。遂にだった。
 二人はその患者がいる場所に来た。そこは。
 寝室だった。だが鬱蒼とした異様な匂いが立ち込めしかもベッドもだ。白い筈なのに埃で灰色になっていてだ。やはりあちこちに蜘蛛の巣が張っている。
 その部屋の隅だ。彼がいた。
 そこに蹲りそのうえでぶつぶつと呟いている。その彼は。
「えっ、この人って」
「そうだね」
 連はまた妻の言葉に頷いた。
「あの人だよ」
「そうよね。あの人よね」
「管君じゃないか」
 高校時代の呼び名でだ。彼は言った。
 
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