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万華鏡

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第六十四話 甲子園での胴上げその十四

「あと二人!」
「あと二人!」
 このコールを聴いてだ、琴乃も思わず言いそうになった。
 しかしすんでのところで踏みとどまってだ、こう四人に言った。
「いよいよね」
「うん、あと二人」
「あと二人でね」
 まさにだ、彼岸成就と四人も応える。
「本当にね」
「あと二人でね」
「阪神日本一」
「いよいよ」
「この瞬間って」
 あと二人、それがだとだ。
「普段は普通なのに」
「今日はね」
「今日の試合だけはね」
「凄く長いわ」
 そう感じるというのだ。
「何か異様に」
「日本一だからね」
 それがかかっているからだとだ、彩夏が言ってきた。
「それになれるから」
「だからよね、やっぱり」
「うん、普段はただの一勝だけれど」
「今の一勝はね」
「日本一の一勝よ」
 勝てればそうなる、それがかかっている運命の戦争であるからどうしても時間も長く感じる様になっているというのだ。
 その話をしてだった、琴乃は次のバッターを押しているのを観た。それは一球を投げてもその間もだった。
 やはり長い、その長さにだ。
 琴乃はたまりかねた顔になって四人にまた言ったのだった。
「目を瞑ってたら」
「その間に日本一になってたら」
「いいっていうのね」
「それが」
「ええ、なってたら」
 目を瞑ってそして開いて日本一になっていたらというのだ、琴乃はそう言いながら時間の流れに辛いものを感じていた。
 また一球投げる、しかしその一球がなのだ。
「長いわね、普段の倍以上に感じるわ」
「倍以上っていうか」
「一球投げるのってそんなに時間かからないのに」
「今はね」
「どうしてもな」
「長く感じ過ぎて」
 それでだというのだ。
「本当に目を瞑って開いて終わってたら」
「いいわよね」
「それで終わればね」
「それで日本一になってれば」
「最高だよな」
「優勝の時の試合は」
 その時の試合、クライマックスで勝った試合はというのだ。尚これまでの阪神はクライマックスシリーズでは驚異の敗戦確率を誇っていた。
「こんなに長く感じなかったのに」
「今はね」
「その時と違って」
「異様に進むのが遅いわね」
「嫌になってくるよ」
「やっとよ」
 ここでだ、琴乃はやれやれといった顔でテレビを観つつ言った。見ればバッターがセカンドに凡ゴロを打ってアウトになっていた。
「あと一人!」
「あと一人!」
 甲子園の観客のボルテージはさらに上がる、だが。
 琴乃はここでも踏み止まってからだ、こう言うのだった。 
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