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戦国異伝

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第百六十話 四人の男達その六

「合わせて十一万」
「多いですな」
「だからじゃ、本陣が来るまでに勝てぬとな」
 それではだというのだ。
「一旦下がるぞ」
「紀伊まで」
「そうしますか」
「うむ」
 まさにそうするというのだ、これが百地の考えだった。
「そうしようぞ」
「では、ですな」
「勝てぬならば」
「紀伊まで下がりあの国で戦いじゃ」
 そうしてだと、百地は三人に己の考えを述べていく。
「紀伊をくれてやってもな」
「織田家には疲れてもらいますな」
 音羽もここで言ってきた。
「石山を攻められぬまでに」
「長老のお考え通りに進める」
 百地はまた長老と呼ばれる何者かの名前を出した。
「そうしようぞ」
「では、ですな」
「ここは」
「勝つに越したことはない」
 だが、というのだ。
「勝てぬのならな」
「勝てぬなりの戦の仕方がありますな」
「そういうことですな」
「そうじゃ、我等は最後に勝てばよい」
 最後、その時にだというのだ。
「まつろわぬ者達はな」
「長い間待ちましたしな」
「天下が乱れに乱れ疲れきる時を」
「表の者達がそうなる時を」
「その通りじゃ、神武に退けられ」
 最初の帝のお名前からだった。
「それからもじゃったな」
「歴代の帝に高僧共」
「そして鎌倉幕府と室町幕府にもですな」
「我等は退けられてきました」
 三人も忌々しげに述べていく。
「そして今度はです」
「織田家ですから」
「織田信長はまだ我等に気付いてはおらぬ」
 百地はこのことは確かだと見ていた、そして実際に信長もまた彼等の存在は全く気付いていない。本願寺の中に怪しい者達がいると思っているだけだ。
「しかしあ奴は日輪じゃ」
「ですな、確かに」
「あの者は日輪です」
「しかも色を持っています」
 その色の話も出た。
「青です」
「空や海の色です」
「東、木、春ですな」
 五行思想のこともここで話に出た。
「その青ですな」
「織田家は」
「左様、日輪と青じゃ」
 それが信長と織田家だというのだ。
「だからこそな」
「織田信長だけは」
「何としても」
「倒しておく」
 是非にというのだ。
「是非にな」
「ですな、それでは」
「何としてもここは本願寺を残し」
「そのうえで」
「織田信長への次の手じゃ」
 それを打つというのだ。
「それはもう長老がお考えになっておられる」
「既にですか」
「あの方が」
「うむ、将軍じゃ」
 次の一手は義昭、彼が関わっているというのだ。 
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