ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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コラボ
~Cross world~
cross world:交誼
「レ――――!」
「待って!カグラ!!」
駆け寄ろうとした巫女の腕を、細っこい真っ白な腕が引きとめた。
訝しげな視線を向けてくる闇妖精に軽く頷きかけ、マイという名の真っ白で純白な少女は《ソレ》と対峙した。
あの少年とそっくりな容姿を持つ生物と。
「………………あなたは……何?」
『…………………………』
黙り込むソレに対し、カグラと呼ばれた女性は、少女が何を言っているのか分からないとでも言うように肩をすくめながら口を開いた。
「な、何を言ってるんですか、マイ。あれはレン以外の誰に見えるというのですか」
「形だけは、ね。中身がぜんぜん違うんだよ」
その容姿に似つかわしくなく、吐き捨てるように言う少女に、さすがのカグラも優美な眉丘を不審げに寄せる。
「中身?」
「魂を――――感じない」
「なっ!!?」
「…………?ふらく――――なんだって?」
黒衣を纏った少年が首を傾げるが、しかしそれに答えることなく女性陣は話を進める。
「そんな………。では、アレはいったい…………」
「わかんないんだよ。AIとも違う感じだし」
紅衣の少年は、死んだように活動を停止している。
漆黒のロングマフラーと長めの前髪に隠された幼い顔は、窺い知れない闇に包まれている。
「友好的………とはとてもじゃないが思えないんだが……」
「ソレイユ……」
「二人とも、下がっておいたほうがいい。巻き込まない自信は―――」
カグラとマイの姿をその瞳に移さず、ソレイユは落ち着いた声で告げた。
「ないからな」
じゃりん!と音高く腰に挿した太刀を抜刀し、大気が震えるような轟音とともに黒衣の姿は煙るように掻き消えた。
あえてソードスキルは使用しない。
ソードスキルの場合、相手にその太刀筋を覚えられているというリスクが常に存在している。無論、ソレイユだけが持つ独自のユニークスキル《剣聖》までは敵も知ってはいないと思うが、しかしこのイレギュラーな状況だ。用心に越したことはないだろう。
まぁ、ソレイユやベガならソードスキルを使わなくとも、それと同じかそれ以上の効果は望めるのだが 、いくら非友好的だからといって、警告もなしにいきなりHP全損なんて事は避けたかった。
今現在、自分たちが陥っている状況のことを、少しでも確認しておきたかったのだ。
つまり。
相手が一撃で絶命しない、かつ戦闘続行不能に至らしめる箇所。
狙うは――――右肩。
左利きだった場合、ちょっとアンラッキーな事になるかもしれないが、しかし蹴りを主体に戦うとかの超珍しい戦闘スタイルをこの紅衣の少年が確立してさえいなければ、この攻め方は間違っていない………はずだ。
刃が空気を叩く音に鼓膜を震わせながら、黒衣の少年は躊躇いなく腕を振り下ろす。
だが――――
ギッイイイィィィィーンンン!!!!
耳障りな金属質の音が響き渡り、少年の息を止めた。
「………ほう」
紅衣の少年は、ソレイユが突進を開始した瞬間から体を一ミリたりとも動かさなかった。そしてそれは、太刀が振り下ろされた今でも言える。
少年は、動いていなかった。
ソレイユの一撃が、まるで風に乗って飛んできた埃のように、初めから相手をしていなかった。
だがそれでも、紅衣の少年はこちらに首を巡らせた。
鎌首を、もたげた。
『……ajchk排除bdh除去dfcf,.tvn』
その瞳がコートと同じ血の色に輝くのを見、ゾクリとした戦慄が黒衣の少年の背筋に走る。
――――と。
「せ……ああああァァァァァッッッ!!!」
一・五メートルは超えよう大太刀が真下から跳ね上がってきて、ちょうどこちらを向いていた少年の顎をアッパーカットのように吹き飛ばした。
ソレイユでも唸るほどのその一撃でも、あたりに響き渡ったのは切断音ではなく硬質な金属音だった。まるで鉄と鉄をぶつけ合ったような、そんな音。
「………硬いですね」
そう言いながら軽やかに着地したのは、目に鮮やかな純白と緋色から成る巫女装束の闇妖精。
「……悪いね。しかし、見た目とは裏腹に結構アクティブなのね」
思わず礼を言いながら、ソレイユは思ったことをそのまま口に出す。
「外見で戦闘パターンを割り出せると思っているならば、その癖は即刻直さないと痛い目を見ますよ」
まるっきり、厳しい女教師といった体のつれない言葉にそりゃそうだ、と同意して少年は目前の存在に向き直る。
着地した体勢のままで、闇妖精の女性は言葉を紡ぐ。
「しかし弱りましたね。先の一撃が通らないほどの外殻強度ですか。私の心意では、通らない可能性が出てきますね」
「シンイ……?おいおいまたかよ。意味不明な単語を連発すんなって。頼むから、俺にも解かるように説明してくれないか?」
「それはいいですが、アレはそんな悠長な事を言っている場合ではないようですよ」
カグラの言葉に、離しがちだった紅衣の少年に視線を戻した。
少年は、カグラの一撃によって被っていたフードが剥ぎ取られていた。その下から映え出るのは、髪の色とまったく同色の真っ黒な三角形の耳。
猫妖精の証であるネコミミだ。
しかし、ピクピク動くそのユーモラスな耳とは真反対で、前髪の奥からこちらを睨みつける二つの眼光は、自分を射殺さんとするかのような、どこまでも敵意に満ち溢れていた。
「………本領発揮、ってとこか?」
「おそらくは」
ズズ、と少年の体格が一回りも二回りも大きくなったような気がした。同時に、背後の空間が、真夏のアスファルトの上に出現する陽炎のように捻じ曲がっていくのを、ソレイユは口をあんぐり開けながら見ていた。
『as排除……jslvm;排除sdf……dkmgbjl排vfa除vfsadmjdlvoretonivyti!!』
ゴウッッ!!と少年を中心に得体の知れない力が噴き出した。それは黒い煙のような形をとって、周囲を覆い尽くしていく。
「な、なにあれッ!?」
裏返ったマイの声が背後から聞こえる。
「レンの過剰光に、似てはいますが……」
―――おーばー………何だって?
またも飛び出した意味不明単語に頭がハテナマークで埋め尽くされそうになるが、それを脇にブッ飛ばし、ソレイユは怒鳴るように女性陣二人に向かって口を開いた。
「……もう説明は後でいいよ。それより、あれの対処法は?できるだけ簡単なやつ教えてくれるとうれしいんだけど」
「では一つですね!」
即答で返された答えに面食らうソレイユの横で、巫女装束の女性は鞘に納めていた大太刀を涼やかな音とともに抜刀し、正眼に構えた。
赤みがかった黒を宿す瞳は閉じられていて、全身からはピリピリと帯電したような空気を放っている。
それを感じ取ったのか、対する紅衣の少年も無言でゆらりと両手を広げた。
「…………おい……」
「ソレイユ」
「なんだ?」
「――――幻惑魔法は、得意ですか?」
「………たしなみ程度だ」
黒衣の少年の、見え透いた謙遜が面白かったのか、クスリと闇妖精の女性は微笑んで言った。
「では、私の合図とともに、周辺一帯に特大の煙幕を。上下左右の方向感覚が分からなくなるほどだと、なお良いです」
「そりゃいいが、アイツ相手に生半可な逃げ足だと捕まると思うぞ」
「ええ、わかっています」
ソレイユが発した真正直な疑問に、カグラは静かに肯定した。その後ろから、違うんだよ、と幼くて真っ白な声が投げ掛けられる。
「マイ………」
「だったら、一生懸命逃げるだけかも」
そう言い切って、真っ白な幼女は薄っぺらな胸を張った。
人は塵に、塵は灰に。全てを、灰塵と化せ。
冬を越せ、冬桜。
《繚炎火乱》
呟くように流れたカグラの一言とともに、空気の根源的な質が変わったのを、俺は如実に感じた。
端的にはとても言い表せられないのだが、あえて言うならば《痛い》だろうか。
肌が、関節が、空気が、空間が痛い。
のどが張り付いて、呼吸をする事さえも困難になってくる。
その痛みの根源は、カグラの手元にあった。
一・五メートル強は余裕であろう巨大な大太刀。その鋼色の刀身から、突如として大量の炎が噴出し、巫女の右腕ごと覆い尽くしたのだ。
悲鳴を上げる間さえなかった。
しかし、当の本人はまったく熱がる様子もなく、また傍らに立つマイの表情も涼しげだった。
数瞬の後、炎は出てきたときの同じくらいの唐突さで消え、後に残ったのは恒星を思わせる、純白の刀身と化した一振りの大太刀だった。
システム的にありえない現象。
それを見ても、おれは驚くことはなかった。
まぁ、この不可思議な現象を理解しているわけではない。脳がマヒしているというわけでもない。ただ、この程度のことで心を揺るがしているようでは、あの場所には行けない。
そんなことを思いながら、おれは目の前の化け物と向き直った。
不思議と、これだけの強敵を目前にしても、あの世界で何度か感じたような高揚感のようなものは湧き上がってこなかった。
それは、敵があまりにも人間離れしているからか、それとも――――
大事なのは仕組みじゃない。結果だ。
そう自分に言い聞かせ、俺は腰に加わった新たな重みに意識を移した。
対近接戦闘用スキル構成《幻夜》
二振りの漆黒の刀を操るこのスキル構成は、近距離~中距離を相手にするのに特化したものだ。
味方に多大な損害を与える可能性がある幻夜は、本来集団対集団はおろか、集団対個人(敵)にははっきり言って向いていない。
しかし、敵もまたこれまでの尺度では図る事ができない。ここはカグラの言う通り、全力で行ったほうが得策だろう。
カグラがこちらに、チラリと視線を向けてきた。
交錯する視線。
俺はこくりと、しっかりと頷いた。
しゃりん、という涼やかな音とともに二刀の黒剣《エクリシス》と《ザ・ネームレス》を抜刀する。
「――――ッ!!」
ドウ!!と腹に響くような音とともに全身の力を両足に集め、ソレイユという名が与えられた仮想体が黒き弾丸となって加速した。
まずは右のエクリシス。
真下から振り上げるような軌道で相手を強制的に空中へ踊らせ、一時的な行動不能状態に貶めるカタナスキル《浮舟》。
黒い刀身が血のような残光を残しつつ、紅衣の少年へ向かう。
しかし――――
ガイイィィィーンン!!
硬質な手応えとともに、刀身が強制的に停止させられる。
確かに、《浮舟》はカタナスキルの基本技として君臨しているにもかかわらず、かなり優秀な技といえる。単発技かつ基本技ゆえの技後硬直時間の短さ、相手を浮かすという可能性の広がり。
しかし、それでも。
この少年には効かない。
カグラ曰く、外殻強度がものすごい事になっているらしいが、詳しい事は分からない。いや、今は分からなくてもいい。
「おらよッ!!」
左のザ・ネームレス。
眩くばかりの青い光を放つ。それが誰かの手に引かれたように加速するのを、黒眼の猫妖精は無機質な瞳でじっと見ていた。
そして。
轟音が響き渡り、ニィと少年は笑う。
黒衣の少年は、勝ち誇ったように笑う。
「防いだな?」
『……………………』
袈裟斬りに振り下ろされてきた凶刃を、しかし己には絶対的に安全であるはずの刃を。
彼は、右手で防いでいた。
先のカグラの一撃。顎を強打したアッパーカット。
あれは実は、確実に目前の存在に明確なダメージを与えていたのだ。その証拠が――――
「おいおい。アゴのヒビ割れ、庇わなくていいのかい?」
『―――――――――――dl;nslnrveipッッッ!!』
俺と少年のちょうど中間。
刀と腕が交錯するそこに、何の前触れもなく突如として真っ黒な煙が噴出した。
それはまるで意思を持っているかのように両者の姿を覆い尽くし、視界をまったくのゼロに貶める。
そんな二人の死角。
足元。
そこから、ヌルリと煙を割って入る一つの影。
緋袴の裾をたなびかせる闇妖精。
闇妖精、インプに限らず、アルヴヘイム・オンラインに住まう妖精九種族には、それぞれ種族だけの特徴というものがある。
そしてその中でも闇妖精に当てはまるのが、《暗視能力》である。暗闇の中でも真昼のように見えるという、比較的九つある種族特徴の中でも便利な能力。
闇妖精の巫女は真昼のように見える煙の中で、大太刀を跳ね上げた。
アゴを目掛けて。
『!!――――jsml;klv失策!』
人外の速度で腕を防御に回す少年だが、ソレイユ達の目的はそこではない。
太刀と腕が交差する一歩手前。
白く白熱する刀身が、眩くばかりの光を放った。
「光よ!!」
咆哮が轟く。
「なぁ、これからどこに行くんだ?」
と。
闇妖精の特徴である紫色の、コウモリの翼に似たような翅を震わせながら、黒衣の少年は言った。
「ん~、ひとまずはマイ達のプレイヤーホームかも。そこでいった休んだらいいんだよ」
返ってきたのは、同じ闇妖精の女性に抱えられた、真っ白な髪を持つ少女の声。透き通ったその空気の震えが、優しく空間内に響き渡っていく。
「って言ってもなぁ」
黒衣の少年は、今しがた自分達が飛び立った地に視線を向ける。
優美なその街は、大半が壊滅していた。
その中心にいるのは、血色のコートと真っ黒なマフラーを巻いた少年…………に見えるナニカ。
彼は、暴れていた。
光で潰れた眼を押さえて絶叫しながら、暴れていた。
「……………………………………」
スタングレネード、またはフラッシュバン。
日本語だと、閃光発音筒だろうか。いや、しかしこの場合音は発していないので別物なのだろう。
そう、原理はものすごく単純。
真っ暗な部屋の中でいきなり蛍光灯をつけた時に、目眩が起こるようなものだ。
そのための黒い煙であり、真っ白な炎だった。
ヒビが割れているという嘘も効いたのであろうが、何よりあの至近距離でブチこまれたら、対策を取れというのが酷な話であろう。
「あれ、そのうち見えてくるぞ」
「休むといっても、態勢を整えるだけです」
涼やかに、巫女装束の闇妖精は言う。
「この騒乱の現況を正しく見据えるための」
後書き
久しぶりの更新です。
どうも、なべさんです。
前回の更新から、忘れられても文句は言えない間隔が開いてしまいました。モチベーションの低下もありますが、実際に忙しかったのです。いやホント。
サボってる間にアニメSAOⅡのほうも本格的になっちゃってますね!シノンさんマジかっけー!
こっちの方ではGGO編はまだまだ先ですが、できる限り突っ走って行きたいと思ってますので、どうかお忘れにならないようにお願いします(笑)
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