シャンヴリルの黒猫
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58話「幼き日の色」
前書き
お久しぶりです…生きてますよ…
わたくし浪人することに致しました。……。長々と喋ってもつまらないので、報告だけにさせて頂きます。何が言いたいかって、再開までもう1年かかるということです。申し訳ありません。
今後の方針ですが、兎に角2章は終わらせます。ハイ。
そうしたら次、実は私、この話加筆修正したくて仕方ないんですよね笑。もういろいろ、設定とか穴ありすぎて。前々から色々な方に指摘は受けていたのですが、いつもその場しのぎばっかりだったのです。申し訳ありません。いっそ根本から練り直そうと思いました。
まあ、それもこれもすべては2章が終わってからなんですがね!! 長文申し訳ありません! 連絡は以上です! それでは最新話、どうかお楽しみくださいませ。……あまりにも本文書くのが久々過ぎて、なんか色々ようわからんくなった。
「えー、ごほん。それでは、アッシュの準決勝進出を祝って! 乾杯!」
Cheers!
グラスの当たる涼やかな音と共に、一行の笑顔がはじけた。
「それにしても、大した怪我が無くて良かったわ。ま、アッシュのことだし、どうせ心配するだけ無駄な労力だったかしら」
「ふふ。ロボさんが獣化した時に血相変えて叫んでいたの、誰でしたっけ?」
「ちょ、クオリ!! わ、私は明日の準決に支障を来したら大変だから、それがちょっと気になっただけで、だから、私は――!」
「はいはい。そういうことにしておきましょうか」
「クオリぃ~!」
いつになく情けない声で叫ぶユーゼリア。その頬が赤いのは、果たして手に持っている蜂蜜酒の力だけか、否か。
甘味の強い酒をちびちび口に入れていた銀髪の少女は、今日一番の功労者と目が合わないよう音を立ててグラスを置くや、その白い腕をすっとあげてボーイを呼んだ。
「ハニーエールをジョッキでもう1杯、あとアボカドとツナのチーズ焼きと、イカとネギのバター醤油炒めと、手羽先のピリ辛照り焼き!」
「……そんなに食えるのか」
「いーの! 余ったら手伝ってもらうから!」
グイッと残りの酒を飲み干して、だんだん据わってきた目でアシュレイをにらむ。
誰に、なんて尋ねても詮無きことだろう。言わずもがな、この場合手伝って“あげる”人物は、彼の他にない。
追加オーダーを出した時点ですでに6人掛けテーブル一杯に乗っている料理を見下ろして、アシュレイは恨めし気にクオリを見た。日頃の優雅さをどこへ追いやったとばかりにガツガツとかきこむユーゼリアへ、「沢山食べますねぇ、お金は大丈夫ですか?」などと呑気に聞いている。白々しい。
「そういえばアッシュさん、腕は治りましたか?」
「…ああ、もう完璧。他の傷も完全に塞がってるし、流石に一流の魔道士を置いているものだな」
【狼王】の名を戴くAランカー、ロボ・グレイハーゲンとの戦いで負った一番の重傷が右腕に走った10㎝ほどの裂傷だったのだが、試合から4時間経った今ではすっかり治ってしまっていた。身体中についた細かい傷も完治している。
「ふふー、お医者さまびっくりしてたわよねぇ。『【おおかみおう】とたたかってこれだけの傷ですんだなんて!』って!」
だいぶ酔いが回ってきたユーゼリアが、その鈴の鳴るような声を精一杯低くして真似をする。全然似てはいないが、クオリが便乗しておだてたのが功を奏したというべきか、どんどん饒舌になっていった。
今彼らが席についているのと同じようなテーブルが20個近く、加えてカウンター席まで客で一杯になった料理店では、ひっきりなしに笑い声、怒鳴り声、ガラスの鳴る音や、酔っぱらいの歌であふれる。この時期の話題は武闘大会一色だ。今日の試合の誰それがどうだっただの、賭けの結果はどう出るに違い無いだの。
常人より耳の良いアシュレイもはじめはこの喧騒に耳が潰れるかと思ったが、慣れてしまえばまあ我慢できないことも無い。
「あしたとあさってはチーム戦をかんせんして~、そうしたらもう次かぁー! 早いわねぇ~……うふふふふ!」
「あら、リアさん、なんだか嬉しそうですねえ。どうかしましたか~?」
「だぁって、3日後にはもう準けっしょうでしょう? そうしたら次の日にはもうけっしょうなんだからぁ! うふふふふ、そうしたら1000万リールと……」
「299万……うふふふふ~!」
「「うふふふふふふふ…」」
捕らぬ狸のなんとやら、と最早呆れを交えつつアシュレイが2人の不気味な笑いを聞き流していると、不意に耳に心地よいテノールが響いた。
「楽しそうなお話をしているね、お嬢さん方。僕も混ぜてくれませんか?」
「だぁれ? あなた」
とろんと濡れた眼で銀の少女が問いかけるのは、どこかで見たような金髪の美青年。珍しくもその特徴的な長いエルフの耳を隠そうとせず、碧色の瞳は甘く弧を描いている。自分の美貌を知り尽くした上で浮かべたその微笑はあらゆる女性を虜にしてしまうだろう。
「申し遅れてすまない。僕はフラウ・クレイオ・エウテルペ。貴女の楽しそうな笑い声につられて声をかけてしまったのです。お名前をいただけませんか、美しい人」
流石エルフとしか言いようのない美貌でそのような歯の浮くセリフを言われれば、どんな女性だって悪い気はしない。普段そういった言葉は歯牙にもかけないユーゼリアも、酒の力もあってか「あらやだー」と瞳を輝かせていた。
「彼女に何か用でもあるのか」
「お前には言ってない。僕がお話してるのはこのお嬢さんだ。黙っていたまえ」
なんとなく気に入らないアシュレイが割って入ると、同じ人物から発せられた声とは思えないほど冷たい声が青年――フラウから発せられる。
あまりの言い草にカチンと来たアシュレイが拳をプルプルさせつつ耐えているのを尻目に、再びフラウが同じ質問を繰り返す。素面なら兎も角、酒気を帯びたユーゼリアはそんな水面下どころか水面上にも表れた攻防には全く気付かず、ほわほわとした心地のままにっこり答えた。
「ユーゼリアよ」
「凛とした響き、清廉な貴女に相応しい名だ。どうぞお見知り置きを、レディ」
「ねえアッシュきいた? せいれんだってー!」
「……良かったな」
「うんー! えへへ」
頬に照り焼きのタレをつけたまま嬉しそうに笑うユーゼリア。いつもは大人びて見せている彼女の、珍しく年相応な反応に、アシュレイはむかつく青年のことも全てどうでもよくなってきてしまった。彼女が楽しいなら、まあ、いいか。
「なんかお腹いっぱいになっちゃったー…。アッシュ、ごめーん……」
だから案の定、頼んだ料理の半分を手伝う破目になっても、やれやれと溜息をつきつつ、この穏やかな日常に静かに笑みをうかべるのだ。
「………フラ、ウ…?」
今まで黙っていたクオリが、絞り出すように青年の名を呼んだ。その目は信じられないものを目にするかのように見開かれている。
そういえば、とアシュレイも手羽先を噛み千切りながら頭の片隅で思い出す。このナンパ小僧(意図せずとも1000歳を超えてしまった彼にとっては、相手がエルフだろうと“小僧”同然である)は、ユーゼリアにはちょっかいを出してきた癖に、彼女と同じかそれ以上に目立つであろう同族のクオリには一言も話しかけなかったな、と。
「うん、そうだよ。久しぶり。50年ぶりかな? …クオリ」
ふわりと浮かんだその笑みは、今までユーゼリアに向けたものとも、武闘大会で浮かべていた笑顔とも異なる、優しく自然なもので。
「フラウ……!! 会いたかった……!!」
クオリの固まっていた黄金色の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
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