真犯人
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第二章
「恨みを持つ相手が多い」
「憎んでいる相手、敵対する相手がな」
「次から次に出て来るな」
「元々ボルジア家は敵ばかりだしな」
「疑わしい人間が多いっていうのもな」
「困るな」
「全くだ」
彼等も困った、ローマどころかイタリア中に容疑者がいた、それだけボルジア家と公爵に敵が多いということだ。
それでもだ、彼等は捜査を続けてだった。
容疑者を次々と取り調べた、しかし。
「またシロか」
「ああ、あの人もな」
「前の伯爵様もそうでか」
「今度の枢機卿様もだ」
「あの人も犯人じゃなかったのか」
「ああ、違った」
容疑者がだ、次次に白だったのだ。
「ボルジア家に敵対している人間は多いがな」
「流石に公爵様に手を出す奴はいないか」
「何しろ教皇様のお気に入りだからな」
「ましてや力があるのはヴァレンティーノ枢機卿だ」
教皇の第一の側近でもある彼の方がというのだ。公爵は教皇軍の司令官だったが権限は兄である枢機卿の方が上回っているのだ。
「あの方を暗殺するならともかく」
「馬鹿、あの方と教皇様をどうして暗殺するんだ」
それは無理だとだ、すぐに否定された。
「むしろあの方々は暗殺を行われる方だ」
「確かにな、あの方々はな」
「用心深いうえに頭が大層切れられる」
「暗殺は出来ない」
教皇と枢機卿への暗殺はだ、不可能だという結論だった。
「あのお二人こそがボルジア家の実権を握っておられるがな」
「暗殺される様な方々ではない」
「確かに公爵様こそが狙いめだが」
「それでもな」
自ら教皇の逆鱗に触れる愚か者はいなかった、ましてや敵が多くとも家の中ではさして権限の大きくない彼を暗殺することは。
幾らボルジア家と敵対していてもだ、それでだった。
容疑者達は取り調べを受けてもだ、全くだった。
ガンディア公暗殺については潔白だった、そうして大勢の容疑者が次々と潔白となっていく中において。
事件は迷宮入りになろうとしていた、このことについてもボルジア家の者達もっと言えば彼等に仕える者達は言うのだった。
「見付かると思ったがな」
「虱潰しに調べていってな」
「それが中々な」
「ああ、見付からないな」
「思った以上に難航しているな」
「絶対に犯人は見付かると思ったんだがな」
それがだ、どうしてもだった。
見付からなかった、それで事件は遂にだった。
迷宮入りになろうとしていた、そうしてだった。
遂にだ、教皇は彼等に自ら命じたのだった。
「ガンディア公暗殺事件についての捜査を打ち切る」
「えっ、捜査をですか」
「これで」
「そうだ、今より行わないものとする」
実際にこう言う教皇だった。
「わかったな」
「しかし教皇様、犯人は」
「何としても」
「よいのだ」
教皇は彼等を見据えたまま言うのだった、その右手には普段通りヴァレンティーノ枢機卿が控えている。
「このことはな」
「左様ですか」
「では我々は」
「今までご苦労だった」
教皇は彼等に労いの言葉もかけた、だが。
その声も顔も普段より遥かに険しく硬い、そして。
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