外から来た邪
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第六章
「一体」
「そうなりますか」
「なるよ、実際に今だって美味しいお酒があるから一緒に飲もうって言って」
そう言って連れて来たのだ、この辺りがフェリペのやり方だ。
「来てみたらだったじゃないか」
「本当のことを最初に言ったら来てくれました?」
「来る人間はいないと思うよ」
「そういうことです、だからですよ」
「最初から私をペテンにかける気じゃないか、だからだよ」
「俺は信頼出来ないんですか」
「仕事ぶりと人間性は信頼出来るけれどその口車は信頼出来なくなったよ」
まんまと騙されたからこその言葉である、語る表情もむっとしている。
「全く」
「やれやれですね」
「やれやれじゃないよ、とにかく美味しいお酒はね」
「はい、仕事が終わった後で」
「たっぷり飲ませてもらうからね」
このことを約束させてからだった、役人は囮役をすることに決めたのだった。
そのうえで真夜中に事件現場の一つ、繁華街のすぐ傍にある橋のところまで来た。十七世紀のスペイン風のその橋のところに来てだ。
役人がだ、こう三人に言った。
「この橋の中央でだよ」
「三十五歳の飲み屋で飲んでいたおっさんがですね」
「帰路についたところでね」
まさにその時代にだ、橋の上を通った時にだというのだ。
「ばったりと」
「発見された時は」
「そう、検死の最中もね」
「影がなかったんだよ」
「実に怪しい事件ですね」
「そう、まさに怪事件だよ」
今回の連続殺人事件の一つだというのだ。
「君達に依頼していたね」
「そうですね。お役人さんも協力してくれる」
「お酒は頼むよ」
「わかってますよ、じゃあ俺達は物陰に隠れてますんで」
十字架と聖書で身を護っている三人はというのだ。
「橋の上を適当に歩いていて下さい」
「そしてそれが出て来た時には」
神父はフェリペと違い真剣な表情である。
「私達が出てきますので」
「うん、頼むよ」
「そういうことで」
話を決めてだ、そのうえでだった。
三人は橋の近くの木の陰に隠れた、役人は心なし千鳥足を演じてそのうえで橋の上を行ったり来たりをはじめた。その彼を観ながらだ。
エンリコは共にいるフェリペと神父にだ、こう問うたのだった。
「大丈夫ですか?」
「妖怪が出て来るか、か」
「そのことが」
「はい、どうでしょうか」
問うたのはこのことだった。
「出て来るでしょうか」
「出て来るよ」
その問いには叔父である親父が答えた。
「安心していいよ、そのことについては」
「絶対に出て来るんですね」
「餌があるとね」
それでだというのだ。
「相手は出て来るよ」
「その辺りは獣と同じですか」
「そうだよ、だからお役人さんが餌でね」
「あとは獣が出て来たら」
「獣よりも遥かに厄介だけれど」
それでもだというのだ。
「出て来たら私の合図でね」
「ええ、俺達も出てですね」
「その化けものを」
「倒すよ」
神父は二人にも言った、そうしてだった。
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