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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第八三幕 「デート・オア・アライブ」

 
見知ったビル。見知らぬコンビニ。見たことのある商店。いつの間にか無くなったファミレス。
知っている町と知らない街のパッチワークのような錯覚を覚える。一夏と二人っきりで歩いているという昂揚感はあるが、それとは別にどこかこの光景を冷静な視点で眺めている自分がいた。たった数年この地を離れた・・・ただそれだけなのに、自分だけが時間から取り残されたような錯覚が頭を駆け巡る。思えばあの頃から体も殆ど成長していない。伸びたのはせいぜい爪と頭髪くらいだろう。

ふと、自分がこれから向かうショッピングモールが消滅しているのではないかと言う在りもしない妄想が頭に浮かぶ。それで、一夏が「無くなったって言わなかったっけ?」と小首を傾げ、「まぁいいや。これで罰ゲームはチャラだな」と言い残して、鈴をこの町に置き去りにする。そんなことはありえないと思いつつも、一度考えるとなかなか頭から離れないものだ。と、隣を歩いている一夏がふと鈴の方を向く。

「そういえば、臨海学校って一体どんな所でやるんだろうな。鈴は知ってるか?」
「んー・・・生憎行き先はそこまで細かく確認してない。でも学園はお金持ってるからかなりいい場所でやると思うな。毎年ビーチ貸切みたいな噂も聞いたし」
「海かぁ・・・いい思い出が無いな、ジョウさん的な意味で」
「ブフッ!た、確かに・・・」

げっそりした表情に一夏に思わず吹き出す鈴。いつぞや話したジョウの修行の話だ。
パターンはいつもこんな感じ。
夏休みなどのまとまった休みの期間に、突如ジョウが「修行してくる」の書置きと謎の暗号を残して忽然と姿を消す。残されたユウが困り果てて全員を呼び、暗号の解明に当たる。放っておけばいいと思うかもしれないが、一度修行に行ったまま夏休みが終わっても帰って来なかったことがあるので探さない訳にもいかない。丸一日かけて解読した暗号は修行場所ではなく次の謎の在りかが書かれており、それを4,5つクリアした所で初めて修行場所が解明できる。
そしてそこからは完全に捜索隊だ。野営の準備や食料の買い込みを行い、三日三晩かけてジョウを探す。そして、発見されたジョウはユウに捕獲されて実家へ連行されるのである。

鈴の知る限り計8回ほど敢行されたこの修行は、台風が直撃して死ぬような思いをした第一回海辺探索が最も嫌な思い出として一夏の頭にこびりついている。あの時はまだ探索に慣れておらず、鉄砲水で本当に死にかねない危機に見舞われたものだ。偶然通りがかった地元猟師の人がいなければ一夏は今頃水棲生物の栄養源である。

・・・なお、これが原因でジョウと千冬の記念すべき手合せ第一回目が行われたことは、後の千冬自叙伝によって世界に知られることとなったとか。

「・・・まぁ今回は大丈夫でしょ!今回は楽しむ時間がちゃんとあるし、楽しむためにこうやって水着買いに来たんだし!!」
「その代金を俺に払わせる罰ゲームじゃなきゃもう少し気が楽なんだが・・・」
「何言ってんのアンタ。国から金貰ってんだからそれ位安いものでしょ?」
「そりゃそうだけどさぁ・・・えーい、もういいや!こうなったら俺も金使って色々買ってやる!!」

ヤケクソ気味にお金の浪費宣言をした一夏だが、大声を出したせいで周囲に注目されていることに気付いて顔を赤くしながら縮こまる。相も変わらずガキっぽいな・・・まぁそこが可愛くもあるけど、と鈴はニヤニヤしながら一夏を連れて――ちゃんとそこに存在したショッピングモールへ突入していった。



 = =



一夏としては。午前中の内に買うものを全て済ませてコインロッカーにでも放り込み、その後の時間は適当にぶらぶら遊んで気に入ったものを購入位に思っていた。それほど辛い事とは思っていなかった。だが、そこには誤算があったのだ。

「流石日本、子供用でも結構お洒落なのがあるわね・・・」
「・・・なぁ」
「お?こっちのキャミソールのほうが可愛いかな?どっちにしよっかなー・・・」
「・・・なぁ、鈴」
「あ、これも可愛い!ちょっとヒラヒラ多いけど」
「なぁ、鈴ってば」
「あ、一夏~!こっちとこっち、どっちが似合うと思う~?」
「え?えっと、左の方がすっきりしてていいかな・・・じゃなくて!」

じゃあこっち、と買い物かごに服を放り込む鈴に一夏が突っかかった。声を荒げた一夏を鈴は胡乱気な目で見る。

「あによ」
「俺は!いつまで!お前と一緒に子供服売り場に立ってりゃいいんだよ!!」

そう、一夏の誤算。それは――女の買い物は長い、というたった一つの認識を思い出すことが出来なかったことである。しかも子供服売り場。何故子供服売り場かと言うと、鈴の体格が小柄過ぎて女性子供服が最も丁度いいサイズだからである。
子供服と鼻で笑うことなかれ、最近のファッションの発展は子供服売り場でも起こっており、雑誌に載るような洒落た子供服だって多く存在するのだ。中国では手に入れるのに苦労するのか、既に鈴が購入を決めた衣服の量は買い物籠2つ分に達しようとしている。

「なによー!罰ゲームなんだから待つのは当たり前でしょ?」
「う・・・そりゃそうだが」

確かにこれは大した罰ゲームだと一夏は内心納得した。周囲からは「似てないけど兄妹かしら?」とか「やだ、ひょっとしてロリコン?」とかあることない事ひそひそと言われまくり、同じく子供服売り場にいるませた少女たちは鈴が目を離した隙に足元に寄ってくるわで精神的にかなりの疲労だ。今も元気いっぱいの小学生少女たちが一夏のズボンのすそを引っ張っている。

「ねえねえ、お兄ちゃんこの服どう思う~?」
「ねーねーおにーさんアタイの下着選んでよー!」
「コラ、ガキンチョ共!一夏はアタシの服選びに付き合って来てんのよ!さぁカート持って!次はあっち行くわよ!」
「へいへい分かりましたよお嬢様・・・」
「お嬢様・・・・・・『鈴お嬢様、お召し物をお持ちしました』とか言わせて着替えさせてもらったり!?キャー!駄目よ一夏ぁ♪」

ずぱーん!!照れ隠しの鈴ビンタが一夏の頭部に会心の一撃!

「へぐぉッ!?」
「そんなまだ早すぎるわ!えへ、えへ・・・で、でも一夏がそうしたいんならアタシ・・・」
「く・・・お、おまえ、そんな細い腕の何所にそんな・・・ガクッ」

一夏は倒れた!
リザルト・・・経験値+20 羞恥心-5 妄想力+10 世間体-30
ファッション力+5 女子力+10 好感度-50

「あー、完全にトリップしてるねあのお姉さん」
「こりゃお兄ちゃんの将来は大変だねぇ・・・」

悟ったような表情をする少女たちと殺虫剤を喰らって力尽きかけているGのように足を痙攣させて倒れ込む一夏に気付かず、鈴の妄想はその後数分に(わた)って(はかど)ったという。



 = =



映画「超英雄作戦」は原作がテレビゲームであり、簪とユウはともかくつららと癒子はその内容をあまり知らない。そのため現在彼女たちはパンフレットを読んで必死に内容を読解中である。

「ふむふむ。つまり沢山のヒーローと沢山のヒールが集まってのどんちゃん騒ぎですか!」
「参戦元がマニアックすぎて殆ど分かんないんだけど・・・えっと『企業戦士ブラックライド』、『流星の騎士グンダム』、『ウルティマセブン』を中心にいろんなシリーズのキャラが・・・」
「大丈夫・・・分からなくても、最低限説明は・・・してくれる」
「ま、見た方が速いんじゃないかな?現に僕も特撮方面はそこまで詳しくなかったしね」

そう言いつつもユウは一緒に映画を待つ皆を見た。
右に簪。私服を見るのはさり気に今日が初めてである。清潔感のある白いブラウスに青のショートパンツに眺めのブーツ。特別アクセサリの類はつけていない大人し目の格好だが、脚のラインが綺麗に見えるためか割と周囲の注目を集めていた・・・主に道行く女性に嫉妬の目線で。

左には今回何故か簪に対抗意識を燃やすつらら。小さな花柄の入った白ワンピースにオレンジチェック柄のカーディガン。低めのヒールサンダルのかかとを地面につけて足を伸ばしている。青髪より水色の髪が目立つ所為かそこまででもなかったが、それでも結構な注目を浴びていた。・・・理由の半分くらいはつららの声が大きいせいではないかと思うが。

そしてそんなつららとユウの隣を巡ってのじゃんけんに敗れた癒子。白い英文とハートマークがプリントされた黒のキャミソールの上から肩掛けカーディガンに、薄いブラウンのパンツ。足には厚底のシューズを履いている。彼女も・・・というかユウも含め全員注目を浴びていた。仕方ないと言えば仕方ないのだが。

いったいどんな魔法が働いているのかIS学園の生徒は誰も彼も平均以上に容姿の整った子が多い。そんな子ばかり3人でしかも一人の男を囲っているとなると嫌でも悪目立ちするだろう。周囲のひそひそ話や男性からの嫉妬の目線でユウは内心けっこう疲れていた。女性が男性を囲う光景は女性優位の現在では時々見る光景なのだが、やはり物珍しさはあるらしい。
幸い3人はそこそこ楽しそうに会話していてトラブルはないのだが、ユウの事をつららが「先輩」、癒子が「師匠」と呼んでるものだから周囲がユウ達をどんな関係なのか測りかねているのが感じ取れて余計に居心地が悪い。
ちなみにユウはグレーのパーカーに藍色のパンツ、ついでとばかりに伊達眼鏡をかけている。眼鏡の理由は簡単、彼が男性IS操縦者だと分かりにくくするためのつららの作戦だった。

「にしても、伊達眼鏡一つで案外ばれないものだね」
「人間の記憶力なんてそんなものです。そっくりさんというほど似て無くても有名人のふりをして詐欺を行う人もいれば、本物なのに偽物ではないかと勘繰っちゃう人もいます」
「それに、世界的VIPである師匠がこんな映画館に映画を見に来てるなんて普通の人は思いませんしね!」

ふふん、と自慢げに話すつららに癒子が同意を示す。ちなみに癒子の師匠呼ばわりはジョウにも及んでおり、2人で立っているとダブル師匠などと呼ばれることもあったりする。やがて、ビー・・・という音とともに部屋のライトが消え、映画を見る際の注意事項が放送された。そろそろだ。この映画を観終わったら買い物。まず間違いなく女性水着売り場まで引っ張られることになる。

その時までの死刑執行猶予期間に、せめて映画くらいはゆっくり楽しもう。もうそろそろ映画が始まる時間だ。そう気を取り直した所で、右手に暖かいものが触れる。
それは壊れ物のように華奢で白い、人間の手――簪の手だった。きゅっと控えめに握られた掌。突然の行動に驚き思わず簪の方を見やると、スクリーンに反射した光が照らす彼女の顔は微笑んでこちらを見ていた。ドキリ、と心臓が鳴る。

「もうすぐ始まるね・・・」
「う、うん。そだね。なんかちょっと緊張するなぁ」
「私も、昨日は楽しみで、なかなか寝付けなかった」

麻痺していた女性との距離感が、突然実感として押し寄せた。癒子とつららの二人には手が繋がっている所は見えていない。繋がった掌を通して簪の体温がジワリと伝わってくる。そこそこ一緒にいる期間は長いが、簪が自主的にこちらの手を握るなど初めてのことだった。

自分が驚いているのか、恥ずかしがっているのか、それとも嬉しいのか。感情がぐるぐる頭の中で回転する。
手を握られることで、否応なく簪が隣にいることを意識してしまう。同い年の女の子と手を繋いで映画を見る・・・そんなシチュエーションはまるで――。

(僕にとって簪は気の合う友達・・・友達、だよな?簪もそう思ってる・・・はずだよな)

でも、もし自分か簪のどちらかの本心がそうでないなら・・・そう考えると、簪の嬉しそうな横顔が妙に気になってしまった。今が明るい時でなくてよかった。多分自分の顔は赤くなっているけど、今なら見えないから。
説明しがたい感情の高まりを緊張のせいだと心の中で言い張ったユウは、映画の方に集中しようと自分に言い聞かせた。




ちなみに、ユウは知らない。この手を握るというアクションを簪が実行した理由に、彼女が同級生の少女から押し付けられた女性誌の存在があることを。

『ここここ!ここ見て簪さん!』
『えっと・・・「男性は女性向けの映画では退屈のあまり居眠りしてしまうことがあります。よって話しかけたり手を握ったりして意識を引きましょう」・・・ラズィーヤさん、これは?』
『要はカレの掌をそっと握ってニコッと笑えば、男なんて一発撃沈よ!』
『よく分からないけど、男の人(友達)と仲良くなれる?』
『そりゃもう男の人(恋人)と親密になること間違いなしだよ!!』
『ん・・・ちょっと恥ずかしい、けど・・・やってみるっ』

その友人が悪いのか、はたまた勘違いした簪が悪いのかは不明だが、この後もユウはこの見えない敵に随分男心を弄ばれることになる。
 
 

 
後書き
キャラの服装なんか書かなければよかった、とちょっと後悔。面倒な割に楽しくありません。
そしてラズィーヤは(ユウにとっての)諸悪の根源へ・・・ 
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