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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  幕間5 「人類は宇宙人に含まれるのか?」

IS学園警備主任室。そこのソファに一組の男女が座り込んでいた。片方はこの学園の生徒会長である楯無であり、現在ソファ正面にあるゲームを夢中になってプレイしている。というのも、彼女は現在あることを待っており、その間の暇つぶしにここへゲームをやりに来たのだ。この部屋にあるゲーム機の持ち主は勿論彼女の隣に座る学園主任のクラースが買った物だが、ソフトの殆どは楯無が持ち込んだ物である。

というのも楯無は何とか簪と話題作りを出来る様になろうと躍起になって簪のプレイしたゲームを買いまくっていた時期があり、ソフト自体はその時にため込んだ物なのだが。元はちゃんとゲーム機も所持していたのだが、当時の担任だった言葉先生に「学業に専念せんかぁぁーーッ!!」と粉砕されて困っていたときに、クラースの部屋にゲーム機があることを知ってここに持ち込んだという経緯がある。
元々彼とは学園の警備関連で話をすることが多かったため今ではこうして自分の部屋であるかのようにゲームすることもある訳だ。なお、ラウラとは鉢合わせしないように時間調整に苦心しているとか。出くわして変な嫉妬をされては仕事に支障をきたす。

かちゃかちゃとコントローラーを弄る音だけが響いていた部屋に、電子音が響く。クラースがテーブルの上に無造作に投げ出していたタブレットにデータが受信された合図だ。便利な世の中になったもんだ、とクラースは内心で呟いた。昔は書類なんてすべて紙媒体だったのに、時代は変わるものだ。

「・・・来たか。例のアンノウン・・・フィリピンのも含めてドゥエンデって呼称するんだっけか?とにかくあれについての報告が今上がって来たぜ。と言っても、内容は“ほぼ分からなかった”って事らしいがな」
「んー正直予想通りかなぁ・・・まさか都市区画まるまる1つ分に干渉してくるとはやることが大胆よね・・・っと、射程足りないかぁ。加速使えば間に合うかな?」
「戦艦収容で1マス稼いだ方がポイント節約になると思うね」

特別落胆した風でもなく呟く。あのハッキング攻撃は最上だけに行なわれたわけではない。いったいどんなトリックを使ったのやら、あの時間帯にあの地域に存在する全ての録画、録音機器がぴったり止まっていたことが判明した。実行犯2人のうち、“捕縛された1名”の話によると、2人はそれぞれ全く違う組織の人間であり互いに面識はなく、ただ上の命令で同時期に行動を起こせとだけ伝えられていたという。そしてジャミング関連はそのもう一人の受け持ちであると供述した。

「信用できるの、その証言?」
「俺のちょっとした教え子だったから直ぐに白状したよ。前に会った時は日本の公安に居た筈だが、いつの間にか亡霊に飼い慣らされてたらしい」
「私としては貴方が日本で仕事してたことについても訊きたいけど・・・随分あっさり吐いたのね?組織への義理立てとか無かったの?」

敵に攻撃を仕掛けるも僅かにHPが残ったことにがっくりしながらの疑問だったが、クラースは気にする様子も見せずにニヤッと笑う。ゲームをする脳と会話をする脳が分離しているから気にする必要が無いとも言うが。

「別に、『尋問の仕方についてマンツーマンで補講してやろうか?』って聞いたら勝手に喋ってくれたよ。流石教え子、先生の教えたことをよーく解ってるぜ」
「・・・ちなみに、言う事聞かなかったらどうする気だったのかしら?」
「ちょっとずつ削ぎ落とすけど?」

何を、とは言わないのがこの男の怖い所だと楯無は思う。少なくとも小指では済まないんだろうな、と言う事だけは伝わってきた。移動させたユニットを距離と地形効果のどちらを優先させて配置するかに悩む楯無を尻目にクラースの報告は続く。

「それはさておき。肝心のもう1人だが・・・絶妙なタイミングで乱入した“謎の3人目”のせいで顔が特定できなかった。風花の映像データを洗いざらい調べたが、シルエット以外はなぁんにもわかっちゃいない。性別と背丈、あとは事件当時の服装くらいか」
「3人目の事は、やはり知らなかったの?」
「それとなく鎌をかけてみたが本気で知らないみたいだな・・・恐らく2人目の協力者か同じ組織のメンバーだろうが・・・つくづく通信断絶が痛いな。マシンそのものは破壊されてたから情報さえあれば包囲網くらい張れたんだが・・・あ、そいつまだ気力足りないぞ?」
「んー、雑魚倒してあげる分にはちょっと厳しいかな。激励持ってる子は・・・っと」

事件当初、最上重工の異常事態は暫く外に伝わらなかった。それも単に通信類がすべて遮断されたのではない。どんな魔法を使ってか、異常がないかの定期通信にも“異常なし”、通常勤務内容での伝達も“特に問題はなかった”・・・つまり、偽の情報発信で内部を攪乱(かくらん)させたのだ。

「“兎さん”の手口じゃねえ。織斑も同意みてぇだ」
「それは重畳、あれを相手にするのはご勘弁よ。・・・ちょーっと凌ぐの難しいなぁ?奮発してかく乱発動させちゃおっかな?」
「いや、援護防御持ちと陣形固めりゃ凌げるね。後ろに指揮能力持ちをはべらせりゃなお確実だろ」

“兎”ならこんな回りくどい真似はしない。今までの手口でも単純な通信断絶はやったがこの手の攪乱は行ったことが無い。そして何よりあれが亡霊と共同戦線を張るメリットが無い。あれはそんなことをするほど打算的で計画的で組織的で協調性のある存在じゃあない。

「それと・・・これはかなり見逃せない情報だな。結構敵の核心に迫ってる」

楯無の手が止まる。それほど重要な情報が上がって来たと言うのは朗報だった。だが、同時にそれほど重要ならば何故最初に報告しなかったのかと疑問にも思う。つまり、重要ではあるが頭痛のタネにもなる情報の可能性が高い。

「へぇ?そんな重要な情報があるのに『殆ど分からなかった』って答えが出てくるのね・・・何だか聞きたくないわ」
「まぁ聞けよ。承章がへし折ったドゥエンデの1号の破片(ブレード)の材質と今回出て来たアンノウンのブレードの材質が一致した。これで晴れてあれが一号から三号と同系列の装備を持っていることが判明した訳だ」
「成程、つまりあれを作った、若しくは運用した組織は同一とみて良さそうね・・・」

ISのハイパーセンサーすら騙す高度な迷彩を搭載した機体なのだ、ハッキングや電子攻撃もお手の物だろう。何故戦闘に際してステルスを使わなかったのかは不明だが、ひょっとすれば機種や役割のようなものがあり、それに応じて装備や機能も変わっているのかもしれない。

「で、その材質は?形状や成分から何か特定できることは?」
「それなんだよ・・・色々調べた所これは特殊な複合金属材料で、電流を通すことで高周波ブレードに適した刃から他の用途に向いた性質へ変容させられるらしい。そしてそんな技術はどこの国でも実用に至ってない」

ふむ、と楯無は顎に親指を引っかける。イタリアで似たようなISを開発しているという話は聞いたことがあるが、あれは確か液体金属だったはずだ。技術の方向性が違う。戦闘データではブレードに固定していたが実際にはもっと別の形状にも変更できた可能性があるようだ。
それほど高度な技術となると国家レベルか大企業、もしくはどこぞの天災でもないと極秘裏に完成させるのは難しい筈だ。思考にふける楯無の耳に、続く報告が飛び込む。

「・・・また、化け学専門の連中曰く、この金属は“地球圏内では製造できない”と言う結論に達したそうだ。そして、“低重力若しくは無重力環境下ならば製造できる可能性がある”だとよ」
「低重力若しくは無重力環境下・・・?確かに重力の関係で物質の性質が変化するって言うのはどこかで・・・・・・待ちなさい」

今、自分とクラースは何と言った?低重力若しくは無重力環境下だと?
では、そこはどこだ?低重力になるほどの高度を誇る建造物が地球上に存在するか?それほどの高さを飛べる場所は?重力異常地帯などある訳がないし、超巨大反重力装置を搭載した生産プラントがあるとでも?―――ノーだ。

「それじゃ、地球の何所に行ったって精製できないじゃない!!」

じゃあ、どこだ?重力が無くて、生産プラントを作れて、楯無の目が届かない場所など―――まさか。楯無が思い至ったことを察してか、クラースが極めてリラックスした声色で天井を指さす。いや、正確には天井ではなく青天井、もっと言えばさらにその先。

「そういう事。こりゃ、敵は『宇宙人』だな」

空の更に上、あの暗黒が広がる死の世界しか―――宇宙しかないではないか。

楯無は思わず黙った。今現在敵の猛攻を辛うじて躱しているロボットを見つめるが、物理攻撃を弱める装備のおかげで持ちこたえている。HPが減ることで発動する底力もあって、戦いはまだこれからと言った所か。報告結果を可笑しそうにけらけら笑うクラースだったが、楯無は全くそんな気分にはならない。

「・・・洒落にならないわよ、それ。その手の研究は表も裏もISSの実験設備くらいでしか出来ないでしょ?」

ISSとは国際宇宙ステーションの事だ。この手の実験には人と設備と、長期間宇宙空間に滞在できるステーションが必要不可欠である。だが、楯無の知る限りISの登場で宇宙開発が遅れ始めて以降、そんなものが宇宙に上がったという話は聞いていない。

「ああ。8月の下旬に連合王国が新型ステーション打ち上げを予定しているが、逆を言えばあるのはそれだけだ。世界じゃ宇宙への関心は薄まっているがISがある以上最終的には宇宙進出に繋がる。今のうちにアドバンテージを取っておこうって腹だな」
「問題はそこじゃないでしょ!宇宙でしか生産できないなら、ドゥエンデ達は宇宙で生産されたってことじゃない!そしてあれを使っている組織は『すでに宇宙に上がってドゥエンデを作っている』って事!?冗談じゃないわ・・・!!」

現在の人類の技術力では、例えISによる発展があったところでそれを実現させるのは難しい。資源の運び込みはどうする?人員は?情報の伝達は?どうやって運ぶ?その問題を全て解決した場所が自分たちの手の届かない所に建造するなど。
そんな真似、更識含む全世界の諜報機関に気付かれずに実行できる訳が無い。IS委員会で衛星兵器を作る案が挙がったことはあるそうだが、実現不可能として直ぐに却下された。資金、技術、人材、どれをとっても大規模過ぎて必ず足がつくはずなのだ。しかし、現実としてそれは存在の可能性が指摘された。
その通り、とでも言うかのようにタブレットをテーブルに戻したクラースはさも可笑しそうに笑いながらソファに背を預けた。

「だから言ったろ?『宇宙人』だってな」
「ドゥエンデの中身がリトルグレイだったとでも言うの?敵は―――

―――“宇宙にいる”っていうの!?」

地上の監視に人工衛星は欠かせない。だが極秘で打ち上げられた人工衛星を監視する事など想定されていない。見張りを見張ることを失念しているからだ。そして、ISが実際の宇宙でもスーツとして運用可能であることは、先に挙げた連合王国が数年前に実証済みである。ステルス技術で姿を隠せば、発見されずに漂っていても誰も気付きはしない。
だとしたら―――宇宙を動き回る相手を、果たしてどうやって捕まえろと言うのか。宇宙に敵がいるから(そら)に上がって探します、とでも?

「まぁそれは、俺達も宇宙に行くしかないわな」
「滅茶苦茶よ・・・オジサマってば何でそんなに余裕なの?」

丁度ターン経過による敵の異星人が増援で現れている戦略シュミレーションゲームの画面をバックに、楯無は理不尽なものを感じずにはいられないのであった。



= = =



『奴等め、何のつもりだ』
『こちらに対する牽制のつもりやもしれぬ』
『浅はかなり。計画は揺るがぬ』
『しかしあの人形は予想を超える』
『奴らでは間に合わぬ。鍵は我らが握っている』
『箱舟に乗って選ばれしもの気取りか』
『マジンは?』
『掌握の準備は出来ている』
『奴の空席はどうする?』
『適任がいる。そのための予備だ。神子は我らが頂く』
『大いなる炎は動きを見せぬか。アレは必ず邪魔をする』
『いざとなれば”化物鰐”を回す。それでよい』
『祭壇が活性化している。またぞろ、虚ろなるものが再び現れる』
『あの技術屋はどう動くかな』
『成就の時は近い』

世界はくるくると廻る。だが、廻り損ねた人間は、ただそこにあるだけで流れを乱す。

『そのためにも、神子の隣にいるあの異端者が邪魔だ』
『我等と同じく運命に逆らうもの。しもべだけならばどうとでもなるが』
『剣であることを自覚されては計画に支障をきたす』
『すべては一つにならねばならぬ』
『ヒトにとこしえの安寧を』
『ヒトにとこしえの安寧を』
『ヒトにとこしえの安寧を』



ふと、前触れもなく意識が現世に浮上する。

「・・・また、変な夢・・・?」

自室のベッドから身体を起こした簪は、少しばかり寝癖で乱れた髪の毛を触りながら欠伸をする。確かツーマンセルトーナメントの後もこんな夢を見た気がする。内容はよく覚えていないが、とにかく男がずっと会話を続ける夢だ。
今回も内容が全く分からず、結局あの人たちは人の頭の中で何を話し合っていたのか理解に苦しんだ。

だが。

「化物鰐・・・」

昔、更識の裏仕事関連でその言葉を聞いた気がする。が、簪はそれよりも大事なことを思い出して、急いでベッドを飛び出る。今日は親友であるユウとそのおまけ達と一緒に映画を見に行くのだった。さっさと寝癖を直しておめかししなければ、遅刻しては笑いものだ。
こうして、簪は再びその夢の事をすっかり忘却し、その日の準備を大慌てで済ませていった。
 
 

 
後書き
可愛い猫に突如顔面タックルを喰らい「ふわぁぁ!?」ってなったら、実際はただの夢でした。 
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