【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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闖入劇場
第八一幕 「友達のラインはどこにあるの?」
あの襲撃事件の後、事情聴取などで丸1日時間を潰されたユウとつららは取り敢えず目的を果たして学園に帰ってきていた。とんだ一泊二日にフラフラになりながら学園に戻ってきたユウと、同じく疲れた表情を見せるつららを迎えたのは・・・むくれてご機嫌斜めであることを全力アピールする簪だった。そんな彼女の態度にユウは戸惑いを隠せない。今日は彼女とな内かしら約束をしていたわけじゃないし、予め今日は本社へ行くと伝えてあった筈だ。
何で怒ってるの?と疑問を呈すよりも先に、開口一番簪が発したのはユウにとってさらに予想外の言葉。
「―――ずるい!」
「・・・はい??」
「ずるい!私を除け者にして、『合体』なんて・・・!私も、生で見たかったし『合体』したかった!!」
「え、あ・・・ああ!風花のことか。って、アレ?もう知ってるの?」
「お姉ちゃんに聞いた・・・」
事件についてはまだごく一部の関係者しか知らないのだが、更識の名を名乗る彼女なら当然の如く報告が言っていてもおかしくない。
事件当初、最上重工一帯に何らかのジャミングがかけられていたのが原因で政府は初動が遅れ、マシントラブルもあって到着したのはずいぶん遅かった。それからドゥエンデの情報を提供したり、破片を回収したり・・・大変だったのだ。詳しい調査結果までは知らないが、とにかく学園に戻らせた方がいいという判断で解放された2人は護衛団に引き連れられながら学園に辿り着き、漸く校舎内に入った・・・そのタイミングでのこれである。
なお、2人を出迎えに来た人間は他にも十数名おり・・・
「合体!?」
「合体(意味深)したの!?」
「夜のベッドでがった・・・」
「言わせる訳あるかサマーソルトキィィックッ!!」
「ウーワ ウーワ ウーワ・・・」
「なんと美しいサマーソルト・・・貴方、米軍に来ない?」
「くにへかえるんだな・・・おまえにもかぞくがいるだろう」
「もう駄目だこの人たち・・・」
・・・ピンク色の妄想力で脳内に疑似空間を生成していた。これ以上妄想癖の激しい皆さんに話を聞かれるのは精神衛生上悪い。この話をあまり長引かせたくないことは明白だったため、何とか機嫌を取るためにぐらつく頭のタービンを無理やり回転させる。
「ま、まぁまぁ。一応学園でも出来るから今度やろう、ね?」
「初めてが、良かった・・・!なんで、知らない女の子と・・・!」
「む、シツレーですよその言い方は!知り合った時期なら私の方が断然早いです!」
「一緒に過ごした時間なら、負けないもん・・・!」
(・・・あれ?何か更に悪化してない?)
外野の黄色い声が色々と盛り上がりを増して、ちょっと地上波で流せないワードがちらほら出てき始めている。如何に逆境をバネにするユウと言えどこういう苦難は全く欲しくないのだが、生憎既に回避の道は閉ざされている。
ロボットものに欠かせない合体に居合わせることが出来なかったことが本気でショックだったらしい簪はぽかぽかと人の胸を拳で叩いてくるし、つららちゃんも変な所で張り合わなくていいのに何故そこで抗議をするのやら。
(おかしい、急いで終わらせようと説得したのにどうして余計にややこしくなってるんだ・・・!?)
既に何が正しいのか、そもそも正しいとはどういう定義なのかという哲学へと思考が飛び始めるほどに混乱しているユウは何か打開策が無いか、味方はいないのかと周囲を見渡した。尤もそこにはもっと見たくない物しかなく、目を逸らした先に楽園などありはしなかったのだが。
「学園でも出来るだなんて・・・ふ、不潔ですユウさん!!アナタがそんな奴だとは思わなかった!このケダモノぉ~!!」
「男はみんな狼なのね!」
「これが幻の3角関係・・・!?」
「いや三身合体に発展する可能性も・・・!」
「あーもう、アンタら全員逮捕されてしまえッ!!」
その後、自称弟子の癒子が参戦して更なる昏迷に陥れられたユウは、最終的に簪、つらら、癒子の3人の買い物に付き合うことで手を打ってもらった。災難な男と同情すべきか羨ましい男と嫉妬すべきか微妙なラインである。
さっきまでの対立はどこへやら、少女たちは既に明日の楽しいショッピングなどに思いをはせてユウの事情や意見など全く聞いていない。
「折角だからお姉さまも行きましょうよ!ね、ね!」
「・・・貴方、もう少し殿方の方に興味を持つべきですわ」
「ネット予約で、『劇場版・超英雄作戦』のチケットは、確保してある・・・一緒に観る、よね?」
「やたっ!水着代が浮く~♪ゴチになります、ししょー!」
(どこから湧いてくるんだ君たちのバイタリティは・・・」
何とも自由な連中である。一番まともっぽい簪がユウの事を未だ異性として見ていない辺り、本当に何なのだろうかこの集団は。女子高ってこうなのか?と考えないでもないが、多分この学校の子の生徒達が特殊なだけなんだろうと思う事にした。
というかそろそろ簪は自分との接し方が“友達”として行き過ぎていることに気付くべきだ。ユウは口には出さず騒動の引金を引いた少女をちょっぴり恨んだ。
= = =
「・・・という訳でユウ達のデートもどき追いかけようぜシャル」
「あのさぁ・・・いや、やっぱりいい。ツッコむだけ時間の無駄だし・・・」
先ほどユウから『もうそろそろ学園に着くから出迎えには来るなクソ兄貴』というメールが届いた直後にこの発言である。何がどうとかそういった類の問答もなく、実際にユウの身に何が起きているのかも一切考慮していないにもかかわらず何が「という訳で」なのかを突っ込もうと思ったシャルだったが、そういえばジョウがユウ関連の事柄で謎の予知能力を外したことはなかったので彼の脳内ではすべてが決まってしまった事象なのだろう。ひょっとして未来日記でも持っているんじゃないだろうか?名前はきっと「結章日記」に違いない。
「そうと決まれば映画のチケット予約しておくか。超英雄作戦はそこまで人気じゃないとはいえ念を押してな・・・」
「はぁ・・・分かったよ。超英雄作戦もミサイルには拘ってるシリーズだったはずだし、付き合ってあげるよ」
「お前は本当にいい友達だ!」
「その代り代金全部そっち持ちね?」
問題ないと言わんばかりにニヤッと笑うジョウに呆れてしまう。ユウ関連ではこんな馬鹿ばかりやっているのに日常ではそれなりに真面目なのが何とも・・・と肩を竦めたシャルはそこでふとある疑問をジョウにぶつけた。
「あれ?簪ちゃんも行くんなら楯無さんも一緒に追いかけそうなものだけど・・・」
「ああ、それはな・・・アイツはこれから暫く遊ぶ余裕は無いからな」
少し気の毒そうにジョウは遠い目をした。
というのも、これから暫く楯無は最上重工襲撃事件の捜査とユウの身辺警備強化などの激務をこなす毎日が待っているのだ。
今回の襲撃は今までにも増して規模が大きく、またそれまで確認されていたISテロリストの手口と大きく違う部分があった。学園暗部すら聞いた事のない特殊ジャミングに、監視カメラの映像の類もひとつ残らず改竄が施され、結局変態の魔手に掛かった一匹の“ネズミ”が捕まっただけの現状では休む暇もないだろう。
「おかげで簪お嬢の記録も任されちまったぜ」
「・・・流石教務補助生、もうそこまで情報を受け取ってるんだ・・・父さんに一応伝えておこっかな?」
「学園にばれるようなヘマするなよ?一応まだ極秘事項だからな、日本政府でもまだ一部しか知らん」
極秘事項喋っちゃうんだ、という問いに、喋っちゃうのさ、とおどけるジョウ。まぁ確かに“学園とは別にそれなりに長い付き合い”だし、信頼もあるからそれほど疑問に思う事でもない。周囲にそのことを黙っている所為で変な勘繰りをされることもあるが、今更気にするほどでもない。
「・・・さーて、それじゃデートコースにどんな店があるか教えてよ!先に奢ってもらうモノ決めておきたいし?」
「何をデートに行く女の子みたいな・・・って、そういえばユウ達の監視を除けばまんまデートだな?」
「そゆコト♪」
納得して笑うジョウ。シャルだって一端の女の子だ。デートと訊けばそれなりに心躍るものがある。何せ故郷では年頃の男の子と接する機会は殆ど無かったし、例え=恋愛でなくとも憧れは抱くもの。ジョウには普段から色々付き合ってあげてるし、たまにはお返ししてもらわないとね、とシャルは悪戯っぽく微笑んだ。
「いいなぁ。美男美女のカップルって絵になるし・・・」
「祭典ちゃんもデートとか憧れたりするんだ?」
「そりゃそうだよ・・・女の子だもん」
やはりというか、傍から訊いているとカップルにしか見えない二人なのであった。男女間の友情は成立するのか・・・その答えを見出すには、2組の女の子たちはまだ幼すぎたのだろう。
= = =
現在時刻は夜の6時半。場所は学園内の食堂。その端で数人の生徒達が一緒に食事をとっていた。うち1名は正面に座った少女―――鈴に対して睨みを利かせている。鈴は心底うんざりしていることから、彼女―――春々が食堂に入る前からこの視線を浴びていたことは想像に難くない。
「もう一回!もう一回勝負よ凰!!」
「いや、もう勝負ついてるから」
「おの~れ~!本気出せば私があんたなんかに負ける訳ないのよ!さっきのはちょっと体が痒かったから隙が出来ただけで、地力じゃこっちが勝ってるんだからね~!?」
「まいったな・・・まさかあそこで箒が爆雷落っことしてくるなんて・・・」
さて、皆さんの中には「何の話だ?」と疑問に思う方もいるかもしれないので説明をしておこう。
実は、ユウとつららが最上重工へ向かったのは、鈴たちが『BHM団』を設立してベルとも会に決闘を申し込む前日であったのだ。つまり、現在彼女たちが言っているのは決闘の結果についての不服申し立てである。当然ながら却下にされているが。
つまりこのやり取りから察するに・・・ベルとも会破れたり、ということらしい。
「アレは凄まじかったな。途中で本人を巻き込んでたのが間抜けだが」
「言うな!仕方ないだろ!?行けると思ったらブーストゲージが切れたんだから!」
「岩地帯ごと吹き飛ばされたぁ~・・・」
「まぁ何はともあれ勝ちは勝ち!リーダーの一夏はアタシの罰ゲームは受けてもらうわよ~!」
両手をにぎにぎさせながら迫る鈴に思わず腰を引く一夏だが、背後に回り込んだラウラにあっさりと通せんぼされて逃げ場を失う。助けを求める様にの頃二人に目線を送るが、のほほんは見送りをするようににこやかな笑顔でハンカチを振り、はるるは鈴への恨み節でそれどころではないようだ。最早命運尽きたか―――と静かに逃げられない事を悟った一夏は、判決を待つ被告人の様な表情で鈴の言葉を待った。
「いい!?それじゃ言うわよ!アンタの罰ゲームは・・・」
―――何故罰ゲームなのかって?それはね、鈴音さん?罰ゲームならば行き過ぎない限り大抵の事は許されるんだ。つまり勝った際に「罰としてショッピングの荷物持ちしろ」といえば合法的にデートも出来るし、逆に憂さを晴らすのもある程度は許容される。何故ならばそう、罰ゲームだから!――― ・・・佐藤さんの企画書より抜粋
なお、企画書にはいくつかのデートコースまで示されていたとか。
後書き
こんなこと自分で言ったら・・・とも思うんですが、最近ちょっとこの小説を続ける意義を見失いつつありました。でも・・・アクセス解析を見ると、更新してない日も20~30人くらいの人がここに来ているんです。
面白いと思って見に来ているのかは分かりません。
更新待ちなのかもしれない。こんなのもあったなと久しぶりに読みに来たのかもしれない。暇を持て余して読んでいる人かもしれない。前々からどんな話なのか気になっていて、覗きに来た人かもしれない。私の書いた別の作品を見て辿ってきた人かもしれない。或いは今日初めて発見して、最初の数話だけ読んで「つまんない」と帰ってしまった人かもしれない。
でも、読んでいる人がいるんです。だから・・・頑張る。私なりに、頑張ります。
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