| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

万華鏡

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十二話 快勝その四

「打たれなくてね」
「そうよね、流石に最初から打たれるとね」
「まずいから」
 シリーズの第一戦の一回表でだというのだ。
「よかったわ」
「そうよね、本当にね」
 こう二人で話すのだった。そしてだった。
 彩夏はここでだ、こうも言うのだった。
「ロッテは本当にシリーズ強いから」
「無茶苦茶強いわよね」
「七十年までは弱かったらしいけれど」
 昭和四十五年、その時まではというのだ。
「シリーズには」
「確かね」
 琴乃はここでこう言った。
「あれよね、毎日とか大毎の時は」
「シリーズは負けてたのよね」
「それで巨人とやり合った時も」
 昭和四十五年だ、その時はというのだ。
「負けたのよね」
「そうそう、シリーズは三連敗だったのよ」
 毎日時代から含めてだ、実はロッテはシリーズは三連続で苦杯を喫していたのだ。
 しかし過去は過去だ、今はというと。
「今は無茶苦茶強いから」
「クライマックスでもね」
 洒落にならない勝率を誇っている。
「神懸かり的なまでにね」
「強いわよね」
「本当にね、だからね」
「一回表から」
 不安で仕方なかったというのだ。ここぞという時に異常なまでに強くなるチームが相手だから当然と言えば当然だ。
 だがだ、三者凡退で抑えてだというのだ。
「よかったわ」
「そうよね、じゃあ次は」
「最初が肝心よ」
 琴乃にだ、固唾を飲んだ様な顔で答えた。
「ここはね」
「最初よね」
「そう、最初よ」
 即ちだ、一回裏の攻撃にだというのだ。
「それがあるのよ」
「ここで派手に攻めれば」
 どうなるかとだ、琴乃も言う。
「勢いに乗れるわね」
「そう、ここでね」
 こう話しながら二人だけでなく他のメンバーもその一回裏の攻撃を見守る、しかしトップバッターはあえなくショートゴロに倒れた。
 二番バッターもだ、ボール球を詰まらせてファーストへのファールフライだ。景子はそれを見てこう言った。
「硬くなってない?」
「うん、ちょっとね」
 里香が首を傾げさせつつ答えた。
「そんな感じがするわね」
「緊張してるのかしら」
「よくないわね」
 里香は顔も曇らせている、そのうえでの言葉だった。
「これは」
「一点でも入れば」
「そこで緊張がほぐれるから」
 気持ちが楽になるというのだ、先制点を入れて。
「いいけれど」
「けれどこの流れは」
「よくないわね」
 二人のバッターがそれぞれ凡打に終わったのはというのだ。
「もっとほぐれて欲しいけれど」
「どうしたものかしら」
「ヒットの一本でも出たら」
「違うのね」
「まずはランナーが出ないとはじまらないわ」
 里香は今の強張った阪神の攻撃を見つつ言った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧