魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos22-Aなお深き闇に染まれ、聖夜の天(ソラ)~Nacht Wahr~
前書き
Nacht Wahr/ナハトヴァール/真なる闇夜
劇場公式では『Nacht Wal/ナハトヴァール(夜の鯨←なんでだろう? 別の訳し方がある?)』となっていますが、私的には同じヴァールなら、真の、の方が良いなぁと思いましたので、本作では私オリジナルの『Nacht Wahr/ナハトヴァール/真なる闇夜』を使わせていただきます。
†††Sideなのは†††
終業式が終わった後、私とフェイトちゃん、アリサちゃんにすずかちゃん、そしてアリアシアちゃんは、友達のはやてちゃんの家の前にまでやって来ていた。でも私たちの心の中は晴れない、友達の家なのに。それもこれもここへ訪れた理由の所為だ。
終業式が終わるのを待っていたというようにクロノ君から通信が入った。その内容というのは、“闇の書”――正式名称を“夜天の魔導書”の主と守護騎士の正体が判ったというものだった。そしてクロノ君から伝えられたその正体を聴いたとき、私たちは信じることが出来なかった。
◦―◦―◦回想です◦―◦―◦
『――以上がイリスからもたらされた情報だ。八神はやて、八神シグナム、八神ヴィータ、八神シャマル、八神ザフィーラこそが、闇の書の主とその守護騎士。八神シュリエルリートはおそらく闇の書の管制プログラム。
そして八神ルシリオンが、事件の発端を開いたランサーだと判明した。そういうわけで、君たちは今から八神邸へと向かってくれ。僕が行くよりは友人である君たちが赴いた方が警戒されにくいからな』
小学校の校門から出てすぐ、クロノ君から通信が来た。内容はすぐには信じられない、信じたくないもので。私たちを一度は襲ってきたパラディース・ヴェヒター、そして昨日戦った守護騎士たちを従えているのが『はやてちゃんが、闇の書の主・・・!?』だなんて。
『シグナムさん達が守護騎士・・・、そんなまさか・・・』
『私たちを襲ったランサーが・・・ルシル・・・?』
『いやいやいや。それ嘘でしょ? はやてたち八神家がそんな・・・』
『信じたくないって気持ちも解らないわけじゃない。しかし、この画像を見てくれ』
そうして私たちの携帯電話すべてに転送されてきた写メール。写っているのは1枚の絵画。描かれているのは見間違いようのないヴィータちゃん達と、知らない小さな女の子が2人、そして「ルシル君・・?」をそのまま大人にしたような男の人。
『それは今から数百年も昔、今は滅びし世界ベルカで描かれた絵画だ。かつてグラオベン・オルデンという騎士隊が存在していた。いま君たちが見ている絵画に描かれている者たちのことだ。オーディン、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、シュリエルリート、アギト、アイリ。この8人だ』
外見だけじゃなくて名前までもが一緒。それを聴いたフェイトちゃんが『歳を取らない守護騎士ならあり得る・・・』ってポツリと漏らした。
『この絵画に写る彼女たちが闇の書の守護騎士だという記録は残っていないようだが、十中八九間違いない』
『ねぇ、クロノ。じゃあこのオーディンとルシルの関係ってやっぱり・・・』
『事実関係はまだ判明していないが、オーディンの血筋で間違いないだろう』
『ルシルの先祖であるオーディンもかつては闇の書の主として守護騎士を従えて、時代を越えて今度は将として守護騎士を従えていたってこと・・・?』
『そうなるな。主であるはやては足が不自由で、そのうえ魔導師でも騎士でもなかったからそうなったとも言えるが』
アリシアちゃんとクロノ君のやり取りを携帯電話のモニターに表示されっぱなしの画像を眺めながら聞いて、そして『はやてちゃんも逮捕しちゃうの?』クロノ君にそう訊ねた。せっかく友達になれたのに。こんな形でお別れなんてしたくない。
チラッとフェイトちゃんを見る。と、フェイトちゃんと目が合った。フェイトちゃんもかつてはお母さんの為に罪を犯したけど、無罪となって今はこうして一緒に過ごすことが出来てる。でもはやてちゃんやルシル君、ヴィータちゃん達は・・・。
『もし本当に闇の書を破壊せずに済み、主や守護騎士たちが無事に残れた場合、これまでの彼女たちの功績を鑑みれば、明確な罪に問われずに保護観察処分になるだろう。しかし。管理局員であるフェイトやその使い魔のアルフ、民間人であるなのは達への傷害の件があるからな』
『じゃ、じゃあ被害届を出さなかったらはやてちゃん達は・・・』
『確実とは言えないが、これまで通りの生活が出来るだろう』
それを聴いた私は『アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん。私・・・』そう言って立ち止まる。遅れてフェイトちゃん達も立ち止まって私へ振り返った。
『あたしは出すつもりはないわよ』
『私もー。はやてちゃん達の事を責めたくないし』
『私も、被害届は出さないよ。私だってはやてやシグナム達、ルシルの今の生活を壊したくないから』
『・・・みんながそうならわたしも出っさな~いっと』
みんなもはやてちゃん達の今を壊したくないって思ってくれている。これならはやてちゃん達の説得も難しくないかもしれない。
『にしても。ルシルって結構謎よね。魔法を扱える騎士っていうことは異世界人でしょ? なんのために地球に来て、どうやってはやてと会って、今のように一緒に暮らすことになったわけ?』
アリサちゃんのそんな疑問に私たちは一斉に黙り込んだ。確かにそうだ。地球に訪れた理由が解らない。クロノ君は『やはりルシリオンからは話を聴く必要があるな。とにかく。第一目標は八神はやて。そして八神ルシリオンだ』って言った。
『もちろん戦闘しないことに越したことはない。だから君たちだけで向かってもらい、話し合いが出来るようセッティングしてほしい』
◦―◦―◦回想終わりです◦―◦―◦
そういうわけで、私たちははやてちゃんのお家へとやって来た。クロノ君とアルフさん、リンディさんはハラオウン家でモニターしていて、シャルちゃんは未だに管理局から戻って来ていない。シャルちゃんが居ないのはちょっと不安だけど、やるしかない。
一度みんなで顔を見合わせてから、「じゃあ私が」フェイトちゃんが代表してインターホンを鳴らした。玄関扉の奥から「はい、いま出ます!」女の人の――シュリエルさんの声で応答があった。居る。留守じゃない。心臓がバクバクと早鐘を打ち始める。そして・・・。
「はい、どちら様でしょ――っ、お前たちは・・・」
出迎えてくれたシュリエルさんに「こんにちは」ってみんなで挨拶して、「あ、ああ、こんにちは」挨拶を返してくれたシュリエルさんに「はやてちゃん、居ますか?」って私は訊ねた。
「・・・はやては定期検診の為、今は病院だ。ヴィータとシャマルはその付き添い。私とザフィーラは留守番、シグナムとルシルはその・・・買い物だ」
「じゃあ、はやて達が帰ってくるまで待たせてもらってもいいかしら?」
アリサちゃんがそう切り出すと、「え・・・? いや、しかし・・・」シュリエルさんが少し困ったように言い淀んだ。そこに追い打ちをかけるのが「友達だからいいよね?」アリシアちゃんだ。それでもシュリエルさんは「それは・・・」って言い淀むばかりで。
もしかしたら気付かれているのかもしれない。私たちがはやてちゃんのお家へやって来たその理由に。とここで、「上がってもらえ」奥から声が。シュリエルさんの後ろ、玄関から出て来たのはザフィーラさんだった。
「・・・そう、だな。はやてやルシルの居ない中での訪問だったゆえ、居候の身である私がお前たちを招き入れていいのか迷ったのだ。許してほしい」
シュリエルさんが笑顔になってくれたからホッと安心した。そして私たちはリビングに通されて、ソファに座っていく。そこでシュリエルさんが淹れてくれたお茶をみんなで飲みながらはやてちゃん達の帰りを待っていたその時、ガシャンと陶器が割れたような音がして、「シュリエル!?」遅れてザフィーラさんの声が聞こえてきた。
「「「「シュリエルさん!?」」」」
「え、どうしたんですか!?」
振り向いてソファの背もたれ越しにダイニングの方を見ると、シュリエルさんが両手で胸を押さえて倒れていて、ザフィーラさんが抱え起こすところだった。私たちも慌ててシュリエルさんの元へ。
「あっ、そうだ、私、はやてに電話してみます!」
フェイトちゃんがそう言って携帯電話を鞄の中から取り出して、はやてちゃんの携帯電話にコールしようとしたんだけど、「ダメ、フェイト!」アリサちゃんがそれを止めた。
「はやてはいま病院でしょ。だったらたぶん出れないわ。ルシルに連絡しましょ。買い物に行っているんならすぐに帰って来られるでしょ」
「あ、そっか。うん、じゃあルシルに・・・」
フェイトちゃんが改めて携帯電話を操作してルシル君の持つ携帯電話にコールをし始めた。その間に私たちは、「すごい汗・・!」シュリエルさんの看病?だ。まずはシュリエルさんを横に寝かせるためにソファへザフィーラさんに運んでもらって、それからお湯で濡らしたタオルをお願いする。
「あ、もしもし、ルシル? フェイトです! 今――」
フェイトちゃんの方もルシル君と連絡が取れたみたいだ。シュリエルさんは“闇の書”の管制プログラムさんだから、病院に運ぶのはきっとダメ。だから今はルシル君に頼るしかない。
ザフィーラさんが持って来てくれたお湯の張った洗面器とタオルを受け取った私は、「ちょっと失礼します」シュリエルさんのおでこの汗を拭うために濡れタオルを持って行こうとした時、「あぐっ!? く、来るな・・・!」シュリエルさんから強力な魔力が放出されたことで視界が真っ黒に染まって、遅れて襲ってきた衝撃波で「きゃぁぁぁ!?」私たちは大きく弾き飛ばされちゃった。
「いたた・・・。っ、みんな、大丈夫!?」
体を起こしてみんなに声を掛ける。今の衝撃波で室内がメチャクチャで、壁にもたれるように座るアリサちゃんからは「なんとかー」、横倒しになってるソファに干されてるようなすずかちゃんからは「大丈夫だよ」、床に仰向けで倒れてるアリシアちゃんからは「いったぁ~い、お尻打った~。というか、フェイト、おも~い!」、アリシアちゃんの上にうつ伏せで倒れてるフェイトちゃんからは「えっ? 私そんなに重くないよね!?」ショックを隠し切れない悲鳴が。
「あれ? シュリエルさんとザフィーラさんが居ない・・・?」
リビングのどこにも姿の見えない2人。つまりこれって「シュリエルとザフィーラが逃げた・・・!」と言うことに。
「ルシルとの電話も切れちゃってる!・・・しかも電源まで!」
「ああもう! 少しは人の話を聴けってぇのよ、アイツら!」
アリサちゃんがついにプッツンした。それを「まあまあ」すずかちゃんが落ち着かせようと頑張る。とにかく今は「クロノ君に連絡を!」ということで。早速クロノ君に通信を入れる。モニターが展開されて、そこにクロノ君が映し出される。
「ごめん、クロノ! 逃げられた!」
『ああ、こちらでも確認した』
「私たちはこれからどうすればいいの、クロノ」
『決まっている。追ってくれ。僕とアルフもそちらに向かう。後ほど現場にて合流しよう!』
クロノ君の指示に頷いて応えた後、「あの、シャルちゃんは・・・?」そう訊いてみる。するとクロノ君は『彼女はまだ帰らない。僕たちで何とかするしかないだろう』って答えた。シャルちゃん、何かあったのかな。“キルシュブリューテ”の修理に苦労しているのかも。
「了解。それじゃあなのは、アリサ、すずか。私たちも行こう。アリシアは帰った方が良いと思う。たぶんここからはきっと・・・」
「危ないかも、だよね。・・うん、判った。ここからはわたしひとりで帰れるから。フェイト達ははやて達をお願い」
「「「うんっ」」」「ええ!」
アリシアちゃんに見送られながら私たちははやてちゃんの家を出て、どこへ向かえばいいのか訊いてみる。
『シュリエルリートとザフィーラは現在、はやての通院している大学病院の在る方角へと向かって飛んでいる。エイミィが現場までナビゲートしてくれる。おそらくこれが最後の戦いになるだろう。各自、覚悟を決めてくれ』
やっぱり話し合いは出来ないのかな。ちょっと落ち込んじゃう。でも私たちがやらないといけないんだよね? クロノ君からの通信が切れたと同時に私たちは駆けだした。はやてちゃん達を止めるために、助けるために、救うために。エイミィさんのナビに従って途中バスに乗って現場に向かう。そんな中・・・
――王の御座す銀に輝きし聖宮――
ゾワッと総毛立った。何かすごい気配を感じた気がした。みんなもそのようで辺りをキョロキョロと見回してみて・・・「あ、アレ!」見つけた。
「ちょっ、なによアレ・・・!」
「アレってもしかして・・・結界・・・!?」
「あんな結界、見たことない・・・」
「まるでお城・・・」
バスの窓から見えたのは蒼く輝くお城の形をした結界。パッと見は、1階部分は六角形で、各角には円柱の塔がそびえ立ってる。2階部分は1階部分をちょっと小さくしたような建物、3階部分はさらに小さくしたような建物、その上に六角柱の塔が1つそびえ立ってる。魔導師である私たちにしか見えない結界だ。
「あの中にはやてちゃん達が居るんだね・・・」
「次で降りるわよ。みんな、準備して」
アリサちゃんに頷き返した私たちは次のバス停で降りて、徒歩でお城型の結界へと進む。バス停から近かったこともあってすぐに到着。とそこで「結界・・・」お城の結界をも閉じ込めるほどの大きな半球結界が展開された。
「フェイトー!」
頭上からフェイトちゃんを呼ぶ声が聞こえてきた。見上げればこちらに向かって飛んで来るクロノ君たちが見えた。結界があるなら「みんな、変身しよう!」首から提げてる待機モードの“レイジングハート”を手に取ると、みんなも「うんっ」頷き応えてくれた。
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
「フレイムアイズ!」
「スノーホワイト!」
「「「「セーットアップ!!」」」」
変身を終えて、クロノ君とアルフさんと合流。クロノ君がお城の結界を「この中だな、八神家は」仰ぎ見てデバイスの“S2U”をギュッと握りしめた。その間にアルフさんが結界を調べるようにジッと眺めたりギリギリまで手を近づけたりしてる。
「こりゃ厄介かもね。本局に居る時にユーノからある程度結界の知識を貰ったからよく判るよ。コイツはミッドでも古代・近代ベルカ式でもない術式だ。破るにはたぶん力づくで・・・」
アルフさんがフェイトちゃんとアリサちゃんのデバイスを見た。2人も自分の持ってるデバイスに目をやって、「やるっきゃないわよね、フェイト」アリサちゃんが“フレイムアイズ”を正眼に構えてそう言うと、「うん、やろう、アリサ」フェイトちゃんがそう返して、アリサちゃんの隣に立って同じように“バルディッシュ”を正眼に構えた。
「バルディッシュ!」「フレイムアイズ!」
「「フルドライブ!!」」
2人のデバイスが同時にカートリッジを2発ロードして変形した。どちらとも大きな魔力の刃を持った大剣。フェイトちゃんのものは黄金でバチバチと帯電、アリサちゃんのものは茜色で炎が燻ってる。“バルディッシュ・アサルト・ザンバー”と“フレイムアイズ・イグニカーンス・クレイモア”。どちらも攻撃・破壊力特化で、無詠唱・魔法発動無しで結界も破壊できるっていう、すごい力を持ってるモードだ。
「アリサ!」「フェイト!」
≪≪Load cartridge≫≫
さらにカートリッジをロードした“バルディッシュ”の刀身に強烈な雷光が生まれて、“フレイムアイズ”の刀身には強大な火炎が生まれた。
「「デュプルブレイズ・シオンズクリーバー!!」」
正眼から水平へとデバイスを構え直して、フェイトちゃんは右から横薙ぎ、アリサちゃんは左から横薙ぎ。雷と炎の2つの刃が鋏のように結界を切り裂こうとする。そしてガキィンと甲高い音を立てて2つの刃は結界に当たった。
「この・・・!」
「硬い・・・!」
アリサちゃんとフェイトちゃんが苦悶の声を漏らした。クロノ君が「結界破壊効果を有する斬撃を耐えるのか・・・!?」驚きを見せた。でもどうしてだろう。私、こうなる弧とをどこかで判ってた気がする。
「ぅぐ・・・弾かれそうだわ!」
「耐えよう、アリサ! まだいける!」
「判ってるわ!」
「「斬り・・・裂けぇぇぇーーーーッッ!!」」
気合を入れ直したアリサちゃんとフェイトちゃんがデバイスを振り抜こうとさらに力を入れる。そのおかげもあってか、ルシル君が展開したらしいお城の結界にヒビが入りだした。
「「なのは!!」」
「えっ? あ、うんっ! レイジングハート!」
≪Buster mode≫
“レイジングハート”をアクセルモードからバスターモードへ変形させて、先端をヒビの中心に向けて「ディバイィィン・・・」魔力をチャージ。そして「バスタァァァーーーーッッ!」トリガーを引いて砲撃を発射。
それと同時。“バルディッシュ”と“フレイムアイズ”の魔力刃が弾かれた。2つの刃によってひび割れていた結界の壁が修復され始めたけど、それよりも早く私の砲撃がヒビの中心点を撃ち抜いて大穴を開けた。
「「「「「やった!!」」」」」
「っ、・・・修復される!? 急いで中に入るんだ!」
大穴が少しずつ、でも確実に塞がり始めたから私たちは急いでお城結界の中に入った。そのすぐ後に私たちが開けた大穴は塞がった。逃げ道は無し。元より逃げるつもりもないから問題は無いと思うけど。
「エイミィ。聞こえるか?」
『はいはーい、聞こえるよ~。通信妨害はされてないみたい。でも侵入も脱出も難しいようだよ、気を付けて』
「問題ないんじゃない? もう中に入っちゃってるんだし」
「出る時も、だよね。その時ははやてちゃん達も一緒だから」
「アリサとすずかの言う通りだ。ではエイミィ。八神家は今どこに居る?」
『うん。はやてちゃん達は今――』
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
俺たちは今、はやての掛かり付けである海鳴大学病院より離れたビル街、そのうちの一棟の屋上に居る。はやての付き添いだったヴィータとシャマル、倒れたシュリエルと彼女を運んできたザフィーラ、そしてザフィーラから連絡を貰って急いで帰って来た私とシグナム。八神家が勢揃いだ。
「どういうことだよ、もうこんなに侵食が進んでんじゃねぇか!」
気を失い横に寝かされているはやてとシュリエルを見るヴィータは涙を浮かべながら叫んだ。はやての服の袖口や襟からはナハトヴァール――蛇の痣が飛び出している。俺の魔法でも隠し切れない程に、だ。シュリエルもそう。ナハトヴァールの痣は首筋から両頬に掛けて伸びている。この娘の白く綺麗な肌が台無しだ。
「ルシリオン、お前はどれだけのリンカーコアを回収できた?」
シグナムの問いに「・・・1つだ」と答えた。俺やグレアム提督たちの情報を以ってしても捉えることの出来ない犯罪者が増えてきた。隠れるのが上手いんじゃない、標的に出来る犯罪者が生まれていないんだ。こうなる前に完成させたかったんだが、名を上げるのが早過ぎてしまったようだ。
「皆には申し訳ないが私は1つとして回収できなかった」
「おまっ、何やってんだよ、シグナム!」
「すまない」
シグナムに詰め寄ろうとしたヴィータに「落ち着け」と制止するが、「これが落ち着けられっか!」ヴィータはさらに激情するばかり。俺とて今すぐにでも“夜天の書”を完成させたいが、魔力が足りない。残り37ページ。それを埋めるにはAAAランクの魔力持ちが2人必要だ。だが今、俺が手に入れたリンカーコア程度ではせいぜい4ページほどだろう。
「っ!」
いま俺が展開している防性術式(結界のように見えるが歴とした防御の魔術――今は魔法だな)、ヴァーラスキャールヴが傷つけられたことが判った。ザフィーラに「どうした?」と訊かれたため、「管理局が侵入してきた」と答えた。空間モニターを展開。映し出されているのはなのは、フェイト、アリサ、すずか、クロノ、アルフ。シャルは居ないようだ。もしかして前回の戦いで負傷させてしまったか?
「管理局・・・なのはちゃん達・・・!」
「くそっ、こんな一大事の時に限って――いや、待て。コイツ、まだ蒐集してねぇよな」
ヴィータが指を差すのはクロノだった。シャマルが「いくら何でもそれだけはダメよ、ヴィータちゃん!」と窘める。シグナムも「犯罪者ではない者からの蒐集はやめておくべきだ」と反対意見を出す。
「じゃあ! じゃあどうするってんだよ! 見ろよ、なあ! はやてもシュリエルもあそこまで侵食されて! もう限界なんだよ! このままじゃ闇の書ははやての残り少ない魔力まで蒐集して・・・はやてを、はやてをーーー! う、うう、うぅぅ・・・!」
ついに本格的に泣き出したヴィータ。シャマルも釣られて「うぅ、うう、うわぁぁぁん!」泣き崩れてしまった。
「最終手段は、我々のリンカーコアを蒐集させることだ」
とここで今まで黙っていたザフィーラがポツリと漏らす。それを聴いたヴィータとシャマルの泣き声が止まった。確かに最終手段だな。しかし「却下だ」俺がそう下す。はやては“夜天の書”の全システムを掌握した後に守護騎士プログラムも再起動させる。それで彼女たちは戻って来る。しかしだからと言ってここで犠牲にしていいわけがない。
「ならばどうする。これ以上は本当に危険だ。今すぐにでも――っ!」
「「「っ!」」」
シグナム達が空を見上げ、俺も遅れて見上げる。俺たちの視線の先、そこには「来たな」なのは達がこちらに向かって飛んで来ている姿。そして俺たちの立つ屋上へと降り立った。
「っ!?・・・はやてちゃん、シュリエルさん!?」
「ちょっ、なによその痣・・・!」
「まるで蛇に絡み付かれてるみたい・・・!」
「それ、どう見ても危険な状態だよね・・・!」
なのは達の視線ははやてとシュリエルに注がれているが、「闇の書の主とその守護騎士、それとランサー」クロノだけは俺たちから目を逸らさない。袖で涙を拭ったヴィータとシャマルははやてとシュリエルを庇うように移動し、俺とシグナムとザフィーラはヴィータ達を護るように陣取る。
「いいや。今は八神家、と言った方が良いか? 八神シグナム、八神ザフィーラ、八神ルシリオン、それに八神ヴィータ、八神シャマル・・・!」
素顔を晒している今、最早隠す必要も無い。左中指にはめている“エヴェストルム”を起動しようとしたところで、
――チェーンバインド――
――レストリクトロック――
――リングバインド――
――フープバインド――
――アイシクルアイヴィ――
私にはなのはのレストリクトロック、シグナムにはクロノのチェーンバインド、ヴィータにはアルフのフープバインド、シャマルにはすずかの氷製の茨、ザフィーラにはクロノのチェーンバインドにフェイトのリングバインドが掛けられた。
「全員動かないでもらおう。・・・見たところ、はやてとシュリエルリートは危険域に達しているようだ。身柄を預からせてもらう」
「ふっざけんな! 判ってんなら邪魔すんなよ! 闇の書がいつはやてのリンカーコアを喰うか判んねぇんだぞ! はやてを、あたしらを救う手段もねぇくせに、邪魔すんじゃねぇよ! なぁ、なにょは! フェイト、アリサ、すずか! お前ら、はやてのなんなんだよ! 友達じゃねぇのかよ! 頼むよ! もうちょっと、あとちょっとで、はやてを救えそうなんだよ!」
「「ヴィータちゃん・・」」「「ヴィータ・・」」
ヴィータの悲痛な叫びになのは達が本当に辛そうに顔を歪ませた。クロノもまた僅かに顔を曇らせたが「なら話してくれ。君たちはどうやって闇の書を救うんだ? 本当に世界を犠牲にしないのか?」それでも気丈に管理局員として問うてきた。なのは達が何も言わないことで、ヴィータの表情は睨みだけで人を殺せそうなほどの憎悪一色へと変わった。そして「悪魔め・・・!」そう一言。
「「「「「っ!!」」」」」
剥き出しの敵意を受けたなのは達がヨロヨロと後退した。クロノが「それでも僕たちは、次元世界を守らなければならないんだ」と呻くように返した。様子見はここまでだな。
――捕縛断ち――
「「「「「「っ!」」」」」」
俺を含めヴィータ達を拘束している全てのバインドを破壊した。驚きに目を見開いているなのは達に向け間髪入れずに「マカティエル、ジャッジメント!」閃光系魔力で創られた魔力槍50基を頭上から一斉射出。
――舞い降るは、汝の煌閃――
あらゆる角度から打ち込んで、なのは達の体を柵状にしたマカティエルで拘束する。自由になったヴィータが真っ先に変身して「もう邪魔すんじゃねぇよ!」“グラーフアイゼン”をなのは達に突き付けた。
「あの、私たちは必ず被害を出さずに闇の書を、はやてちゃんを救います! ですからあと少しだけ、少しだけでいいの! 猶予をちょうだい!」
シャマルも騎士甲冑姿へと変身。
「頼む。もうしばらくでいいのだ。我らに時間を与えてほしい」
シグナムもまた騎士甲冑姿へと変身し、“レヴァンティン”を鞘に収めた状態で起動。
「それでもなお邪魔をするというのであれば・・・!」
――狼王の鋼鎧――
ザフィーラも騎士甲冑姿へと変身し、全身に魔力付加して攻撃力と防御力を上げる強化魔法を発動。
「そういうわけだ。悪いけど今は大人しく見ていてくれ」
――チェーンバインド――
俺も騎士甲冑姿へと変身(魔力消費削減の為に大人形態にはもうならない)して“エヴェストルム”を起動。チェーンバインドでなのは達を拘束した後でマカティエルを解除、さらに「レストリクトロック」なのはの捕縛魔法でさらに拘束してやる。
「「ルシル君!」」「「ルシル!」」
「ルシリオン! 今すぐ僕たちの拘束を解け!」
簀巻き状態で屋上に転がるなのは達が喚く。特にクロノがうるさい。とりあえず全てが終わるまでは「静かにしてもらうよ」と指を鳴らす。
――あなたに沈黙の贈り物を――
対象から声や念話などの通信手段の一切を奪う無音結界を発動。なのはたち個人個人に掛ける。パクパクと口を開閉し、声が出ないと判るや否や諦めたかのように口を閉ざした。
「却下。君たちは闇の書を救う方法を見つけてくることが出来なかった。だから話し合いの余地なんてものは始めからない。言葉で俺たちを止めたいのなら、まずはその救う方法を見つけて来るべきだったんだ」
なのは達に背を向け、「シグナムとザフィーラはその子たちの監視を頼む」と言い、2人が首肯したのを確認した俺は、ヴィータとシャマルを連れてはやてとシュリエルの側へと向かう。
シュリエルの側に落ちている“夜天の書”を手に取り、ペラペラとページを開く。と、「ん?」何か違和感を覚えた。最後から順にページを捲って行き、「どういうことだ・・・!?」ある事実に気付いた。シャマルに「どうしたの?」と訊かれ、俺は答えた。
「空白ページが増えてる。今朝確認した時は確かに残り37ページだった。しかし今は・・・70ページも・・・!」
「はあ!? 数え間違いでもしてんじゃねぇのか!?」
「・・・っ! ううん、本当に空白ページが増えてる! どういうこと!?」
俺とヴィータとシャマルで一度顔を見合わせ、首を横に振る。背後に居るシグナムとザフィーラへと振り向く。振り向きの意味を察してくれたシグナムとザフィーラは首を横に振った。何故増えたのか。この場に居る俺たち騎士の誰もが知らないという。
「シュリエルが何かした・・・?」
「いいや、それはありえん。今朝からシュリエルと共に居たから判る。シュリエルは闇の書を使用していない」
留守番組であるザフィーラがそう言うんだから間違いないだろう。ではどうして増えている。目を閉じあらゆる可能性を思案しているところで聞こえてきた「あ、おい、シュリエル!?」ヴィータのその声に思考を一時中断して目を開けた。
「シュリエル、良かった、目を覚ましたのね!」
シャマルが俯きつつもちゃんと両脚で立っているシュリエルへと近寄ろうとした時、「っ!?」ゾワッと悪寒が走った。俺は急いでシュリエルに近寄ろうとしたシャマルの腕を取ったその時、シュリエルのセーターの左袖が弾け飛び、左前腕部に絡みつく十何匹という蛇――ナハトヴァールの実体化した姿が現れた。
そのうちの3匹が口を大きく開けた状態で俺とシャマルへと高速で伸びて来た。左手に携える“エヴェストルム”を振るいナハトヴァールを迎撃しようとしたが、「チッ!」うねる事で俺の斬撃をかわし、その牙を俺とシャマルに突き立てようとしてきた。
(このままじゃシャマルが真っ先に噛まれる・・・!)
ナハトヴァール。先の次元世界とは違う“闇の書”の闇。守護騎士であるシャマルが噛まれることで起きる障害が予想できない。ならば。シャマルの腕を強く引き、俺との立ち位置を変えた。それでシャマルは救えた。その代わり「ぐっ、あっぐぅぅぅ!」1匹が俺の左手首に絡みつき、ボキッとへし折ってきた。力を失った左手から離れた“エヴェストルム”が音を立てて屋上に転がった。
もう1匹は俺の魔力炉を狙っているのか胸部に噛み付いてきて、もう1匹は俺の右目に牙を突き立てようとしたために首を逸らすことで直撃は回避した。が、右目のすぐ側を通過して行き、「がああああああ!!」皮膚や肉を削られてしまった。
「ルシル!!」「「ルシリオン!!」」「ルシル君!!」
「「「「「「っ!!!!」」」」」」
堪らず両膝をついて右目を右手で押さえる。手と頬、指の隙間からボタボタと血が流れ落ちて屋上に血溜まりを作っていく。左手首を折られ、右目を潰され、今もなお俺の胸部にナハトヴァールが噛み付いている。だが、エイルを使えばまだ治せるダメージだ。
『恐ろしく強い魔力を持っているのね、お前』
「っ!?」
頭の中に聞こえてきたのは女性の声。声の出所は信じがたいことにナハトヴァールからだった。
『守護騎士どもから最後の魔力を頂戴しようとしたけれど、お前から頂くことにするわ』
『誰だ!?』
『私は、アウグスタ・マリー・カタリーナ・ルイーゼ。闇の書を手に覇道を歩み、世界を手に入れる者よ!』
ナハトヴァールに人格があるとは聞いていないぞ、シュリエル。念話が切れると同時に、「ぐぅぅ・・・!」俺の胸から魔力炉が浮かび上がり、シュリエルの左腕に絡みつく残りのナハトヴァールが一斉に魔力炉に群がった。突き立てられる牙。それと同時に魔力を蒐集されるのが判った。
「あ・・が、あああ、ぐあああああああああ!!」
蒐集時の苦痛が先の時とは違って桁違いに強い。
「テメェ、離れやがれ!」
――テートリヒ・シュラーク――
「「離れろ!」」
揺れる視界の中でヴィータとシグナム、ザフィーラがナハトヴァールに攻撃を加えているのが見えたが、全て弾き返されている。シュリエルの側に浮く“夜天の書”を見れば次々とページが埋まっていっている。
――天使ルシリオン。僕はやっぱり・・・悪魔を選ぶ!!――
――貴方様は他の天使とは違う。貴方様のような高位天使にも人間を好きでいてくれる御方がいらしたことが、わたしたち人類の希望です――
(神無、花湖・・・)
2人の少年少女が脳裏に過ぎって、すぐに消えた。あぁ、この喪失感。また、何かしらの記憶を失ったんだな・・・。
(シグナム達がはやての目の前で消滅されるよりかはマシなシナリオか・・・)
横目ではやての方を見て、「っ!」気づいた。はやては上半身を起こし、目を大きく見開いて俺やシグナム達をショックからか揺れる瞳で見ていた。いつの間にか目を覚ましてしまっていたようだ。
「あ、あああ、ああ、ああああ、あああああ、ルシ、ルく、ん・・・ルシル、くん・・右目が・・・左手も折れ・・・いや、いやや、いやぁぁぁーーーー!!!」
はやてを侵食していたナハトヴァールの痣が、はやての絶叫を合図としたように顔全体にまで広がった。
「はやて!?」「はやてちゃん!?」
≪蒐集完了≫
“夜天の書”から発せられた言葉。それと同時に俺の魔力炉に群がっていたナハトヴァールが離れて行き、シュリエルの左前腕部に戻った。
≪闇の書の全頁の蒐集を完了しました。これより全システムの使用が可能となります。闇の書の完全稼働を承認しますか?≫
「・・・する」
“夜天の書”の問いに、はやては簡潔に一言そう答えた。
「っ! はや――(目に光が無い・・・、操られているのか!)・・・くそ・・!」
虚ろな目をしているはやての足元にベルカ魔法陣が展開され、魔法陣より溢れ出る深紫色の魔力の柱がはやてを覆い包んだ。
「はやてぇぇぇーーーー!!」
「はやてちゃん!!」
「「主はやて!」」
ヴィータ達が魔力の柱に向かってはやての名を呼び、「はやて・・はやてぇぇーーー!」俺も彼女の名を呼んだ。それからすぐ。魔力の柱は消え失せ、「シュリエル・・・!?」ひとりだけがその姿を現した。左前腕には蛇のナハトヴァールではない、籠手のような物が装着されている。おそらくアレが本来の姿。
「ふふ、あはは、ふはははは! 私は戻って来たわ!!」
シュリエルから発せられた声は彼女のものではなく、「アウグスタ・・・!」のものだった。
「さぁ、再びここより始めましょう。我が覇道を!」
後書き
ブエノス・ディアス。ブエナス・タルデス。ブエナス・ノーチェス。
今作の闇の書事件におけるラスボス、ナハトヴァール・アウグスタの謀略によって、ルシルのシナリオはガッタガタに崩れ去りました。その上ボッコボコにされ、魔力も蒐集される始末。そしてなのは達は空気という悲劇。
頑張れ、ルシル。頑張れ、八神家。頑張れ、なのは達。終幕まであと少しだ。1つ残念なのは、アニメ原作に在った感動が無い、というもの。ああ、本当に無念です。どうしてこんなシナリオになった?
おはようございます、ラステスです。時間はともかくとして月曜日に投稿することが出来ました。仕事の件ですが、すでに面接を受け、採用もされています。本日より就業です。無職期間はまさかの1週間でした。
ですが、仕事に慣れるまではやはりこれまで通りとはいかないかもしれません。申し訳ありません。投稿曜日や時間に変更がある場合は、つぶやきにてお伝えします。
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