魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Epos21そうして彼女たちは真実の扉に手を掛けた~Knockin’ on Truth’s Door~
†††Sideはやて†††
いつものようにルシル君とシグナムとヴィータがリンカーコアを回収しに出かけて、わたしとシャマル、ザフィーラ、シュリエルはお留守番。“闇の書”の空白ページも残り60ページほど。今日明日で完成させることが出来るから3人だけで十分や、って。わたし1人で留守番した方がもっと早く完成できると思うんやけど、
――はやてを1人にはさせておけない。最低でもシャマルと、あと1人は常にはやてと一緒に留守番だ。だからはやてと過ごした時間が短いシュリエル。あぁ、それと男避けのザフィーラが適任だ――
ルシル君はそこだけはどうしても譲らへんかった。まぁ、それもわたしのことを想ってくれとるから思えば嬉しいことやけど。ルシル君の心遣いを嬉しく思っとると、キュッと胸が苦しくなった。そして「はぁ」溜息を吐いてしまう。原因は判っとる。ルシル君のことを考えるからや。
シャルちゃんの言葉で気付かされてしもうた。わたしは、ルシル君のことを家族やのうて1人の男の子として好きなんやってことを。気付かされてからとゆうもの毎日が大変やった。出来るだけ意識せえへんようにルシル君と顔を合わすのが特に。
(ルシル君はわたしを女の子やなくて家族として好きでいてくれとる。わたしも家族として好きやった。そやからこれまで楽しく暮らせて来たんや。それを壊したない・・・)
もし告白してフラれたりでもしたらわたし、絶対に立ち直れへん。でも手を拱いてシャルちゃんにルシル君を取られんのも嫌や。唯一の救いは、ルシル君はシャルちゃんの告白を断ったこと。そやけど、それがいつまでも続くって思うのも早計や。
シャルちゃんのアプローチの強さはもう知っとる。その、キ、キ、キキ、キキキ、アレや、うん、アレ。人目も憚らずにあんな堂々と告白してアレするシャルちゃんのアプローチに押されてルシル君が落ちたらと思うと・・・。
――みんなに紹介するね。わたしの彼氏、ルシルで~す❤――
――今までありがとう、はやて。俺、これからシャルと一緒に暮らすよ♪――
「そんなん嫌やーーーっ!」
「「っ!!?」」
思わず叫んでしもうた。それに、あまりに力み過ぎて買ったばかりのレシピ本を引き裂きそうになった。わたしと同じようにソファに座って恋愛小説を読んでたシャマルは「どうしました、はやてちゃん!?」、レシピ本を読んでたシュリエルは「主はやて、何かありましたか!?」ってゆう風に驚かしてしもうた。あと庭で体を動かしとるザフィーラも遅れて「主はやて、何かありましたか・・!?」慌ててリビングに戻って来てくれた。
「コホン。なんでもないよ。ちょおイヤ~な夢を見た・・・かな?」
咳払い1つして誤魔化し。3人は、そうですか、って渋々っぽいけどそれで納得してくれた。それから今日の夕ご飯は何にしようかってザフィーラを除く女子3人で相談しとる時に、「ぐっ・・!?」シュリエルが手にしとるレシピ本をバサッと落として、左腕を押さえ苦しみ始めた。
「「シュリエル!?」」
「っく・・・あ・・うっ・・・!」
ソファから転がり落ちたシュリエルの苦しみようは尋常やなくて。そやから「病院!」救急車を呼ぼうとしたけどすぐに思い留まる。厳密に言うと人やないシュリエルを病院に運んで良いかどうかとなれば、たぶんアカン。それやったら・・・。
「シャマル!」
「はい! クラールヴィント!」
≪Ja≫
「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで!」
――静かなる癒し――
シャマルの足元にベルカの魔法陣が現れて、ここリビング一帯を包むかのように綺麗で温かな光が生まれた。治癒の魔法・静かなる癒し。わたしは“闇の書”の主として、みんなが使える魔法のことを全て聴いておいた。シャマルは癒しと補助の魔法を得意とする騎士。シャマルの魔法ならきっと・・・。
「ダメ! 効果が無い・・・!」
「そんな・・・!」
シャマルが悲鳴じみた声を上げた。シュリエルは「っ! もう大丈夫だ」肩で大きく息をしながらそう言ってくるけど、どう見ても大丈夫なんかやない。左腕を押さえて、大粒の汗を額や顔に張り付かせたまま。
庭に戻ってたザフィーラにシュリエルの汗を拭うための濡れタオルを持って来てもらえるように思念通話で呼び戻して、「シュリエル・・・」ザフィーラから受け取った濡れタオルでシュリエルの顔を拭う。
(そう言えば最近、シュリエルの左腕に妙な痣が有ったけど・・・)
シュリエルとお風呂に入った時に見た黒い痣の事を思い出す。わたしは「シャマル! シュリエルの左腕!」って指を差す。と、目に見えてシュリエルが動揺したのが判った。シャマルはわたしらから顔を逸らしたシュリエルが着とるセーターの左袖を捲り上げた。
「「っ!!?」」
シュリエルの白くて綺麗な左腕が見る影もなく黒く染まっとった。それによく見れば「蛇・・・?」が腕に絡みついて締め付けとるような痣やった。その痣を見たシャマルが「ナハトヴァール・・・!?」って驚きを見せた。
「シャマルはこの痣の事を知ってるん!?」
「え、あ・・・えっと・・・」
口ごもるシャマルの代わりに、「ナハトヴァール。私――闇の書の自動防衛運用システム。言うなればコレが、あなたを蝕んでいる呪いの正体です」シュリエルがそう教えてくれた。ナハトヴァール。聴けばオーディンさんの後の主が勝手に組み込んだシステムらしい。でも無理やり組み込んだ所為で管制プログラムのシュリエルの制御ですら受け付けず、暴走しとるんやって。
「でもどうして急にこんな・・・!?」
シュリエルは少し黙った後、首を横に小さく振った。なんとなくやけど、何かを隠しとるって思えた。わたしは「何か隠しとる事があるんなら話してほしい。それがわたしに関係あるんならなおさら」って言うて、シュリエルの左腕に触れた瞬間。
「っぐ!?」
バチッと静電気のようなものが指先から伝わって全身を回った。暗転する視界、フワリと浮かぶような感覚が襲ってきた。
そして気が付けば、そこは勝手知ったる我が家のリビングやなくて荒廃しとる戦場跡やった。瓦礫が並ぶ廃墟。燃える木々、どす黒い曇り空。これが夢か幻かってゆうのはすぐに判った。まず感覚が無いから。地面を踏みしとるわたしの両足裏から立っとるってゆう感覚が伝わってけぇへん。
(なんでわたしはこんなところに・・・?)
原因はきっとシュリエルの痣――ナハトヴァールに触れた所為や。わたしも“闇の書”の主として繋がってるからな。なんかの本で読んだ意識の共有みたいなやつやって納得してみる。とにかくや。こうなってしまった以上は何かしらの行動を起こさんと戻ることは出来ひんやろうし。ちょう歩いてみようかな、って思うたところで。
(シュリエル・・・!)
瓦礫の陰からシュリエルがフラフラ歩き出て来た。シュリエルの左腕に蛇が何匹と絡み付いて蠢いとる。きっとアレがナハトヴァールの本当の姿やと思う。瓦礫の影から出て来たんはシュリエルだけやなかった。甲冑を着込んで背中に大きな剣を背負った若い女の人。
馬に乗っとるその人がシュリエルに向かって「早く歩きなさい。ノロノロしている暇はないのだから」って乗馬用の鞭みたいな物で叩いた。あんなんで叩かれたら痛いはずやのに、シュリエルは悲鳴を口に出さんかった。とゆうよりは出さんように食いしばっとる。
「ぅく、ですが・・・主アウグ・・・あぅ、スタ。・・・焦りは・・・仲間の死に・・・」
シュリエルは本当に苦しそうで。シュリエルにアウグスタって呼ばれた主さんは「少しでも減らすためにお前にナハトヴァールを組み込んだのよ?」って聞き捨てならへんことを言った。あの女の人が、あんな気味の悪いものをシュリエルに・・・。
「噂に名高い闇の書の守護騎士が、ああもすぐに全滅するなんてね」
「っ!!」
(全滅・・? シグナム達のこと・・!?)
それってつまり、シグナム達はもう・・・。脳裏に過ぎる赤い水溜まりの上で倒れとるシグナム達の姿。
「~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」
わたしは両手で頭を抱えて蹲って声にならへん叫び声をあげた。最悪すぎる想像をしてもうた。そんな時、わたしのすぐ側まで足音が近づいて来てるんが判った。顔を上げると、「っ!?」アウグスタって人が目の前に立っとった。
「闇の書は、私の物よっ! 渡さない、渡さない、渡してなるものですか!」
そう言ってわたしの顔を両手で挟んできた。ギラつくアウグストさんの黄金の瞳に、わたしの怯えた顔が反射しとる。ギリギリで締め付けられてくわたしの顔。恐くなって「離して!」ドンッと強く両手で押す。アウグスタさんはフラフラと後ろに下がっていって、背中に背負ってた剣を手に取って「闇の書の主は、過去も現在も未来も、全てにおいて私だけ!!」そう言って剣をわたしに振り降ろしてきた。
「シュリエルぅぅーーーーッ!!」
キュッと目を強く瞑って、大切な家族の名前を呼ぶ。目を閉じて真っ暗な視界の中、頭上から聞こえてきたんはガキィーンとゆう金属音。恐る恐る目を開けて見上げてみる。アウグスタさんの剣は「シュリエル・・・!」の左腕に装着されとる籠手?のような物で防がれてた。
「アウグスタ。過去の主よ。今の私の――いいや、私たちの主はお前ではない。この幼く、しかし心の大きな少女、八神はやてだ!」
「渡さない、お前は私のものよ。私の覇道がための道具な――」
「ちゃう! シュリエルは道具やない! シュリエルは・・・わたしの家族や!」
シュリエルがアウグスタさんの剣を弾いて後ろに退かせた。その隙にシュリエルはわたしを抱え上げて、「戻りましょう、主はやて。皆が待っています!」って言うて空高く飛んだ。その最中でも、「お前はぁぁぁ・・・私の物だぁぁぁぁーーーー!!!」アウグスタさんの絶叫は止まらへんかった。
†††Sideはやて⇒シュリエル†††
「さぁ、闇の書のページも残り40ページを切った。はやてと一緒にクリスマスを祝うため、今日24日クリスマスイブも1日使ってリンカーコアの蒐集に勤しもう」
私と主はやてが倒れた23日の夕方。あれから半日と経ち、今は24日の午前9時過ぎ。主はやてとシャマルとヴィータは、これから病院へと出掛ける主はやての支度を手伝い、そして私とシグナムとザフィーラはリビングにてルシルの話を聴いている。
そんな中、主はやて達の賑やかな声が漏れ聞こえてきた。昨日、ナハトヴァールが本格的に目醒めだしたことで生まれた苦痛によって私は倒れ、その後に私の左腕に触れて倒れてしまった主はやてだったが、今はああして元気でいてくれている。しかし・・・。
(それもあと僅かの時間・・・。早く完成させなければ・・・!)
意識を失い倒れてしまった主はやての介抱を意識のある私が受け持ち、シャマルとザフィーラにはシグナムとヴィータ、そしてルシルを迎えに行かせた。
そうして無事に帰って来た皆に事情を話した。そこでルシルがナハトヴァールのことを知らないと言ってきたのだ。ルシルは様々な事情を知り、今回の一件の主導権を握ってきていた。それに管理局との繋がりもある。ゆえに知っているものだとばかり。
◦―◦―◦回想だ◦―◦―◦
「――そういうわけなのだ、ルシル。ナハトヴァール。お前が何も言わなかったから知っていたものだと思っていた・・・」
「ナハトヴァール、か。それが闇の書を暴走させている最大の原因なんだな?」
「ああ。自動防衛運用システム、ナハトヴァール。かつての主、アウグスタが組み込んだ代物だ。だがナハトヴァールを受け入れることの出来なかった私――管制プログラムや自動修復プログラム、そして元より有った防衛プログラムを侵し、書き換え、連鎖的にさらに暴走させた」
「なるほど。・・・先とは違う夜天の書の闇、か」
ルシルが何やら考え込むように俯き、ボソボソと何か呟いた。また何かしらの企てを考えているのだろう。そして「はやての侵食率、というかあとどれくらい保つ?」とあくまで冷静さを崩さないルシルにそう訊ねられた。
私を侵すナハトヴァールの痣は左腕に留まらず左胸まで達している。しかも主はやてが触れた事で、主はやてへの侵食も急激に進んでしまった。主はやての左腕と左胸部にも浮かび上がったナハトヴァールの痣。その侵食率からしてあと・・・「2日だろう」と答える。
「2日かぁ。まぁ、問題ないだろう。シナリオは変更しない。闇の書の完成も間近。やることは変わらない」
主はやてのお部屋へと目をやるルシル。ベッドの側にはシグナムとヴィータ、シャマルが居り、ベッドで眠る主はやてを心配そうに見守っている。皆のその姿を見、「ルシル。本当に我々は救われるのだろうか・・・?」私は不安からルシルにそう訊ねた。
「俺はあくまで手伝いだ。君たちを救うのははやての強い想い。でもきっと上手く行くさ。はやてなら必ず」
「そう、だな。主を信じきれずに何が騎士か、というものか」
ルシルの心強い言葉には本当に救われる。ルシルは「先に休ませてもらうよ。少々疲れた」と言ってリビングを後にしようとした。私は「ああ、お休み」と挨拶を言う。ルシルも挨拶を返してくれたのだが、その後に「ごめん、シュリエル」また何かしら呟いた。訊き返そうにもすでにルシルの背は見えず。
「悪い癖だよ、お前の呟きは」
そうして私も一度主はやてのお顔を見るべく、主はやてのお部屋へと歩を進めた。
◦―◦―◦終わりだ◦―◦―◦
「ホンマにすごいなぁ、ルシル君。痣とかなんも判らへん」
主はやてがヴィータの押す車椅子に乗ってリビングへ入って来た。これから病院で肌を晒すことになる主はやて。しかし左腕と左胸部のナハトヴァールの痣をどうするか、と私たちは悩んだ。病院の診察予定日であるゆえ、すっぽかすわけにもいかず。
そんな時にルシルが魔法で痣を隠すという話を持ちかけてくれた。ミッドでもベルカでもない、全く別の魔法を使って主はやての痣を消した――というよりは見えなくした。これで魔法関係者ではない病院の石田医師に肌を晒しても問題は無い。
「気に入ってもらえたようで何よりだよ。それじゃ、シャマルとヴィータははやての通院の付き添い、シュリエルとザフィーラは留守番。俺とシグナムで蒐集だ」
「ルシル。私は1人でも問題ない。ザフィーラも蒐集班に回して――」
そこまで言いかけた時に「アカン!」主はやてが大声が私の言葉を遮った。
「シュリエルが1人の時にまた倒れたりでもしたら、誰も助けてくれへんやんか!」
昨日のように私が倒れたとしても誰かが居てくれれば連絡を寄越せる、ということでザフィーラが私と一緒に留守番する事になってしまった。私としては1人でも構わないと思うのだが、それは主はやてがお許しにならないようだ。
「主はやての仰る通りだ、シュリエル。お前もまた我らの家族だ。心配するのは当然だろう」
「そういうこった。お前は大人しく待ってろ。シグナムとルシルが今日1日で集めて帰って来るからさ。な? シグナム、ルシル」
ヴィータからの期待の眼差しを受けたシグナムとルシルは「ああ!」強く頷き返した。そうして主はやてはヴィータとシャマルを連れて病院へ、シグナムとルシルはリンカーコアの蒐集の為に転移を行い、私とザフィーラは留守番で家事を担当することになる。洗濯に掃除などなど。皆を見送った後、早速洗い終わった洗濯物を庭で干し、ザフィーラは何気に体力の要る風呂・トイレ掃除を始めた。
「これまで祈る神など持ち合わせていなかったが、でもどうか。どうか、もうしばらく私たちの平穏をお守り下さい」
美しい青い空の下、私はそう願わずにはいられなかった。
†††Sideシュリエル⇒シャル†††
対ランサー班のわたし達、対セイバー班のアリサとすずか、対バスターのなのはは守護騎士との戦闘後、一度アースラに戻って仮眠。そこから海鳴市のハラオウン家に戻って、リビングで朝食を終えた。対ランサーの助っ人として呼んでおいたルミナとセラはすでに本局に帰ってもらった。本当はもっと力を借りていたいけど、いつまででもレンタル出来るような軽い局員じゃないしね2人とも。
「それじゃあ改めてみんな、ご苦労様。結果として守護騎士の捕獲には至らなかったけれど、いくつか判明したこともあります。まずはそれを喜びましょう」
リンディ艦長がわたし達をそう労ってくれた。
「艦長の言う通りだ。捕獲は出来なかったが、ランサーから興味深い話を聴くことが出来た。闇の書を破壊せずともいい方法がある、と。詳細は聴けなかったが、守護騎士やその主と深い関わりを持っている彼だ。僕たちが未だに知らない情報を持っているに違いない」
クロノが深刻そうにみんなに伝えた。ランサーのその話を直に聴いていたわたしとフェイトも小さく頷く。そこでなのはが「でもユーノ君やリーゼさん達が調べた情報だと・・・」って小さく手を挙げた。時空管理局が誇る巨大データベース・無限書庫。そこで調べた限りでは、“闇の書”の主を犠牲無くして救う方法は無い、ということだったけど・・・。
「それについてはユーノやリーゼ達にすでに報告してある。驚いてはいたが、その方法を自分たちでも見つけ出してみせる、と意気込んでいたよ」
「やはりランサーから詳しい事情を伺う必要があります。彼が闇の書の主と守護騎士を救える手段を見つけたからこそ、今回の一件が始まったようなものですから。みんな、もう少しだけ頑張って」
リンディ艦長の話にわたし達は「はい!」と強く返事した。
「それでだ。これからの僕たちの行動について話す。まずはフェイト、なのは、アリサ、すずかの4人は学校へ。今日は終業式だ、ちゃんと出席しないと。艦長とエイミィとアルフは自宅で待機となり、僕とイリスは一度本局に帰る」
なのは達は聖祥小の制服姿。今日は平日だからね。なのは達は学校だ。この場に居ないアリシアは学校でたくさんの友達を作っていて、わたし達の誰とも行動することなく遊びに行く場合もある。今はフェイトとアリシアとアルフの3人部屋で、携帯電話で友達と話をしている。ちなみにわたしは本局へ戻るために久々に局の青制服を着てる。
「今度はシャルちゃんも本局に行くの?」
「まあね。ランサーが最後に放った魔法の直撃を受けて、“キルシュブリューテ”の刀身が歪んじゃってね。マリエルに修理を頼もうと思って」
すずかにそう答える。今の今まで絶対に不備が起きることが無かった“キルシュブリューテ”を修理に出す。ランサーの魔法、やっぱり普通じゃない。特に最後の炎の魔法は。わたしの“キルシュブリューテ”には残念なことにリカバリー機能は無い。そんな機能が必要無いくらいに頑丈に作ってもらったから。でもランサーの魔法で刀身が歪んだ。憎たらしいやら称賛したいやら、もうホントメチャクチャだよ。
「僕はリーゼ、というより2人のマスターであるグレアム提督に呼ばれたんだ。何か渡しておきたい物があるって話だったが・・・。それは置いておいて。ほら、そろそろ出ないと遅れるんじゃないのか?」
クロノが時計を指さすとなのは達は目に見えて焦り出して、「いってきます!」って慌てて玄関を出て行って、フェイトは「っとと。アリシア、急がないと遅れちゃうよ!」って部屋に突撃。部屋の中から「いま行く~♪」なんとも呑気なアリシアの声が聞こえてきた。
「リンディさん、シャル、クロノ、エイミィ。いってきま~す♪」
「いってきます!」
ドタバタと出かけて行くフェイトとアリシアを「いってらっしゃい」とみんなで見送った後は、わたしとクロノのお出かけだ。リンディ艦長たちに「いってきます」と挨拶してから別室のトランスポーターに向かって、そして中継ポートを乗り継いで本局へ。
「しかしグレアム提督は僕に一体何を渡すつもりなんだろう?」
「う~ん、なんだろうね~。何をプレゼントしてもらえるのか判んないけど、出来れば良いモノを貰ってきてよね」
「それは僕に言うセリフじゃないだろ? そういう君も、きっちりキルシュブリューテを直してもらって来い。いつランサーが動くか判らないからな。おそらく闇の書の完成まで残り数日と言ったところだろう」
「判ってる。最後の最後で間に合わずに見学組なんて死んでも嫌だもん」
お互いの目的地に着くまでの廊下でクロノと話す。そんな空しい形で“闇の書”事件の最後に立ち会うなってごめんだわ。
「そうそう。クロノってクリスマスってどうするの?」
「地球での祝日だったか? この事件も片付いていないと言うのに局員が遊んでなどいられるか」
グサッと来るクロノの返事。そんなわたしを見たクロノが「君は遊んでくるといい。僕は気にしない」なんて言ってきた。嫌味か、こんちくしょー。まぁ、クロノのことだからそんな意味で言ってないと思うけど。クロノが、純粋に楽しんでこい、って言ってくれているんだから「お言葉に甘えま~す♪」クロノの前に移動して、見上げるようにしてウィンク。
「っ! そういうことをイチイチするな。君の悪い癖だぞ。変な男にそんなことをやって勘違いされても知らないぞ」
「だいじょ~ぶ。わたしの想いはルシル一途。それに、こんなことをするのはクロノだけだよ♪ からがいがいのある、ね♪」
「コラ!」
「きゃー♪」
振り被られた拳から逃れるように頭を抱えて逃走。っと、「ここで一旦お別れね、クロノ」目の前に広がるエレベーターホール。上に行けば執務部、下に行けばわたしの目的地の技術部区画。
「ああ。お互いに良い実りを受け取れるといいな」
クロノと拳を突き合わせてから別れて、別々のエレベーターに乗った。技術部区画のフロアで降りて廊下を歩いていると「あれ? ルミナ」が前から歩いて来た。アルテルミナスもわたしに気付いて「やっほ、ちょっとぶり♪」手を振ってくれた。
「ルミナも技術部に用が?」
「まあね。パーシヴァル君の槍を受け取りに来たの」
ルミナの手の平に乗る白い懐中時計、「ロンゴミアントを?」を指さす。パーシヴァル君。聖王教会の最高戦力、銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼに所属している騎士で、フルネームはパーシヴァル・フォン・シュテルンベルク。
わたしたち聖王教会が崇める聖王家の御一人、聖王女のオリヴィエ様。それに覇王クラウス・G・S・イングヴァルト、冥王イクスヴェリア、雷帝バルトロメーウス・ダールグリュンなどと言ったベルカ史の中でも超有名な騎士たちと交友があったとされる、ベルカ史上最強の一角と謳われてる騎士、魔神オーディンの子孫だ。
「痛っ!?」
「どうしたの?」
胸に痛みが奔った。けど理由が解らないから、「ううん、なんでもない・・・」そう訊いてきたルミナにそう答えておく。
「ならいいけど。・・・ねぇ、イリス」
「ん? どうしたの、そんな深刻そうな顔して」
なかなか見ることの出来ないルミナの真剣な顔に言い知れない不安が胸の内に生まれた。ルミナは何か迷うような仕草をした後「マリアンネ枢機卿から止められているんだけど・・・」いきなりわたしの母様の名前を出してきた。
「実はちょっと聖王教会で事件が起きてね。全パラディンが招集されたの」
「パラディン全員が!? 一体どんな大事件が聖王教会内で起きたって言うの!?」
パラディン。聖王教会騎士内で各種戦闘技能において最強とされる騎士たちに与えられる称号だ。ルミナは拳闘において教会騎士最強だからファオストパラディン。パーシヴァル君は槍術で最強の騎士だからシュペーアパラディン。残念ながらわたしはまだパラディンの域に達してない。でもいつかシュベーアトパラディンになって見せる。
「教会からある物品が盗まれたのよ」
まさかの「コソ泥騒ぎ!?」だった。ていうか教会内に泥棒が入って、盗んで、逃げるなんて出来るわけがないんだけど。あそこのセキュリティって結構なものだし。
「そう。盗まれたのは聖王教会の中でも最高クラスの聖遺物。聖王女オリヴィエ様の聖骸布と魔神オーディンの髪輪よ」
「んなっ!!?」
とんでもないことを言ったルミナ。聖王教会を代表する聖遺物じゃない、両方とも。そんな物を盗み出せるような奴が居るとは思えない。というか「パーシヴァル君ってもしかして今・・・」脳裏に過ぎるのはブチギレてる彼の姿。
魔神オーディンの髪で作られたとされる腕輪は、パーシヴァル君らシュテルンベルク家の家宝だ。それが盗まれたとなれば・・・。ルミナは苦笑しながら「それはもう酷い有様。盗んだ奴をブッ殺す!って息巻いてて。近寄り辛いわ~」そう話してくれた。
「・・・でも、どうしてわたしに教えなかったんだろう、母様。オリヴィエ様のことを尊敬しているわたしに伝えるのは当たり前じゃない? いくらわたしがパラディンじゃないとしてもさ。なんか悔しい」
わたしが尊敬しているオリヴィエ・ゼーゲブレヒト聖王女殿下。その聖骸布を盗んだド畜生の捜索にはわたしも参加したいし、犯人をぶちのめしたい。母様もわたしがオリヴィエ様のことが大好きなのを知ってるのに。
「あなたにはあなたの仕事があるでしょ今。闇の書事件。マリアンネ枢機卿はご存じよ。あなたが地球で出来た友達と一緒に頑張ってるってことを。イリス。盗人探しは私たちパラディンに任せて、あなたは自分の仕事を全うして。・・・じゃあ私はこれで。またね」
「あ、うん。またね、ルミナ」
去って行くルミナの後ろ姿を見送った。ルミナの言う通りだよね。今は“闇の書”の方を解決させないと。わたしも改めて技術部区画へと歩き出す。
「あ、そうだ。パーシヴァル君を少しでも冷静になれるように・・・」
携帯電話で撮影したある写真を通信端末へ送信、そこからパーシヴァルの通信端末へと送信。わたし、フェイト、アリシア、アルフ、それになのはやアリサにすずか、そして八神家の全員で撮った集合写真。大人で美人なシグナムやシャマル、シュリエルに、彼もドッキドキ。
お姉さん好きなパーシヴァル君のことだし、怒りも薄れて少しは冷静になるはず。どんな返事が来るか楽しみにしながら歩みを再開すること僅か10数秒。通信端末にコールが入った。きっとパーシヴァル君だ。「はいは~い。イリスです~♪」コールに応じる。
『イリス、お前な! シグナム様たちの画を勝手に使ってんなよ! というかいつ手に入れたんだよ! いやそれよりもすごい合成技術だな、あとで教えてくれ!』
なんでかメッチャ怒られちゃった。ううん、そんな事よりも「どうしてシグナムの名前を知ってるの、パーシヴァル君」って訊き返す中、ドッと嫌な汗が全身から噴き出してきた。なんか気付いちゃいけない、でも知らないといけない真実がいま目の前にまで来ているような・・・。
『知っているも何も。かつてベルカがまだ存在していた頃にシュテルンベルク家が誇ったグラオベン・オルデンという騎士様たちの御一人だぞ! 俺がもっとも尊敬しているシュテルンベルク家の先祖である魔神オーディン様とその仲間、シグナム様、ヴィータ様、シャマル様、シュリエルリート様、ザフィーラ様、それに現代では生死不明だけど、融合騎のアギト様とアイリ様』
パーシヴァル君の口から発せられた、地球で出来たわたしの友人たちと同じ名前に、「・・・うそ・・・」わたしは全身から力が抜けてへたり込みそうになった。グラオベン・オルデン。シュトゥラの最強戦力とされた少数精鋭の騎士隊。知っていた。知っていたけどメンバーの名前とか顔とかの詳細などは知らなかった。
『嘘なものか! ちょっと待っていろ。シュテルンベルク家の家宝の1つ、グラオベン・オルデンの集合絵画を見せてやる! ベルカ崩壊時の混乱の中で残された貴重な1枚だ!』
パーシヴァル君から送られてきた1枚の絵画写真。頭の中が真っ白になる。椅子に座る銀髪の青年。この青年が魔神オーディン。ルシルをそのまま大人にした外見。側に立つのはシグナム達と瓜二つ・・・というより本人たちだ。オーディンの両太ももに座る幼い子供が、融合騎のアギトとアイリ。生死・行方ともに不明。
『ほら、教えてくれよ、イリス。どうやってグラオベン・オルデンの画を手に入れ、こんな完璧な合成写真を作ったのかを』
「・・・ごめん。その話はまた後で・・・」
『あ、おい! イリ――』
通信を切って電源を落とす。わたしはフラフラと壁に寄りかかってとうとうしゃがみ込んでしまう。漏れる溜め息と、そして「どうしてこんなことになっちゃったわけ・・・」深い悲しみがわたしを襲う。でも・・・。
――オーナーは私たち騎士にとって大切で、大事な、とても愛おしい家族だ。それはオーナーも抱いてくれている想いだ――
「あぁ、そうか。そうよね。家族を助けるためにはあんな無茶な手段を取るしかなかったんだよね」
はやてとシグナムたち守護騎士と絆の強さは十分理解してる。これまでの八神家と関わりを持っていれば嫌でも思い知る。本物以上の家族に思える、笑顔が絶えなくてとっても温かな八神家。ここでわたしは通信端末の電源を入れ直してパーシヴァル君にコール。
『なんだよ、イリス。教えてくれる気にな――』
「ごめん、パーシヴァル君。オーディンのデバイスの名前って判る?」
『オーディン様のデバイスの名前? よーく聞け。オーディン様の御夫人、エリーゼ卿の日記に記されていたのを読んだことがあるから知っている。その名も・・・剣槍エヴェストルム!』
「っ! ありがと、パーシヴァル君!」
『あ、おい! ちょっ――』
通信を切ってまた電源を落とす。そしてわたしは急いで技術部区画を目指すために駆けだす。その最中に『クロノ! 守護騎士と主の正体が判った!』ってクロノに通信を入れる。
『なにっ!? それは確かな情報なのか!?』
「ほぼ確実よ! オーナーの正体は・・・はやて。八神はやて! 守護騎士はシグナム、ヴィータ、シャマル、シュリエルリート、ザフィーラ! ランサーの正体はルシリオンよっ!」
『・・・なにぃぃぃ!!?』
パーシヴァル君とした話、そして得た情報をクロノにも伝えると、『何てことだ。彼らが守護騎士とその主・・・!』クロノもかなりショックを受けてる。クロノはわたし達より八神家と関わっている時間は短いけど、それでも顔合わせくらいは済んでるし、話もした事があるからね。
「クロノ。リンディ艦長たちに連絡を! あと家宅捜査の令状を!」
『あ、ああ! 君は!?』
「まだキルシュブリューテの修復を終えてない! 先に帰ってて!」
『・・・判った! 待っているぞ!』
通信を切る。そしてわたしは、“キルシュブリューテ”の修理のために第零技術部へと向かって全力ダッシュ。
「ドクター!」
第零技術部と廊下を隔てるドアがスライドして開いて行くんだけど、あまりに遅く感じたから回し蹴りで無理やり早く開かせる。
「ぶふっ!? 騎士イリス!?・・・急になんだい、女の子がやることではないよ。なぁ、チンク?」
「あー、はい、そうですね。・・・イリス。はしたないぞ」
「ごめん、今はそれどころじゃないの! ドクター、キルシュブリューテの修復をお願い、大至急で!」
“キルシュブリューテ”の待機形態である指環をドクターの目の前に突き付ける。ドクターは自分が完成させた作品の不変を信じて疑わないけど、わたしの真剣さに「少し待ちたまえ」事情を聴かずに指環を受け取ってくれて、作業室の方へ入って行った。
「ドクターが改良したキルシュブリューテに損傷を与えることが出来る者が居るとは。どういった者なのだ?」
「古代ベルカ史に名を残す、魔法においてはベルカ最強とされた魔導騎士・・・オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードの末裔だよ・・・!」
チンクにそう答えた瞬間、
――今日から私は、×××××・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードと名乗ることにしたよ、シャルロッテ――
「ぅぐ・・・!?」
今までにない強烈な痛みがわたしの胸を、そして頭を襲った。フラッと体が傾く感覚。わたしはどうすることも出来ず、ゆっくりと閉ざされていく視界の中で「イリス!?」わたしの名前を叫ぶチンクの姿を見た。
後書き
ブオン・ジョルノ。ブオン・ジョルノ。ブオナ・セラ。
さぁ、ついに八神家の正体が管理局にバレてしまいました。情報をもたらしたのはオーディンと名乗っていた頃のルシルと、彼を心底愛していたエリーゼの間に生まれた息子と娘の子孫、名をパーシヴァル。
そして次回から最終決戦パートへ入って行きます。が、その前にお伝えしなければなりません。
わたくしLast testament EXは、昨日を以って無職となりました。本日より人生初の就職活動です。もしかしたら次週、次話を投稿できないかもしれません。それに投稿曜日や時間も変更するかも、です。
読者の皆様方には多大なご迷惑をおかけしますが、なにとぞご容赦のほどを。
ページ上へ戻る