ファイナルファンタジーⅠ
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3話 『カオス神殿』
何が、起きたんだろう。わたし達はいったい、何を────?
気がついたら、あの黒い騎士の人、いなくなってた。
ここへ来た時に感じた怖さもなくなって、代わりに耳が痛くなるくらいの静けさ────
わたし……、わたし達って、どうしてここにいるんだっけ。こんな……暗がりで廃墟の場所に ?
そうだ、確か………"誰か"を助けに来たんだっけ。誰かって、誰を? 誰に、そんな事頼まれたっけ。
"誰か"を助けられるような力、わたしなんて持ってなかったはずだけど────あれ、そうじゃない。わたし………そうだ、わたし達は────!
「ランク、ビル、マゥスン!」
我に返った白魔道士のシファは立ち上がり、三人の名を呼んで白ローブの赤いギザ縁の裾を翻さんばかりにシーフのランクの元に駆け寄った。
「大丈夫? 今、回復魔法かけるから……!」
未だ上体を起こしただけで立ち上がれずにいるランクに白魔法を掛けるシファだが、彼は放心したように動かない。
「ランク……? しっかりして。わたしにもよく分からないけど、もう終わったみたいだから」
「あ? あぁ……、それよか、アイツは──── 」
声を掛けてきたシファに何とか答えたランクだが、それよりも気になった相手………落としたと思われる羽付き帽子を取りに、シーフのランクから距離を置いて立ち上がっていた赤魔道士の彼は、白銀の長髪の頭部に帽子をし直しており、シファは彼にも声を掛ける。
「マゥスン、あなたは──── 」
「 ………私に構う必要はない 」
傷を負ったのではないかと聞こうとしたのを遮られ、冷淡な一言しか返してくれない。
「でも、回復魔法は掛けておいた方が……!」
「自分で済ませた。………問題ない」
「 あ…… 」
念を押して聞こうとしたシファを再び遮り、彼は緩やかに赤マントの背を向け独り祭壇中央へ歩み寄っていく。……シファは、少しやりきれない気持ちになった。
(赤魔道士は白黒魔法扱えるのは分かるけど、いつの間に回復したのかな。どこに、傷を負ったんだろう………)
ふと、視線をマゥスンの立っていた足元に向けると、薄暗い廃墟の中で分かりにくいが黒く見える血溜まりのようなものが点々としているのに気付く。
それに驚いて彼を呼び止めようにも、薄暗いなか少し遠のいた赤マントの後ろ姿からは血痕は判別できないが、目を凝らすと左肩から背にかけて多少マントが裂けているのにも気付くシファ。
(やっぱり、ランクを庇った時に……? 元はといえば、わたしがいけなかったのに──── )
4人として、協力して戦って欲しかった為に、白魔道士の自分がでしゃばってしまった事を悔いるシファだが、それ以上に思いがけなかったのはマゥスンの行動だった。
何事にも冷然と構えていた彼が、止めを刺されそうだったランクを漆黒のナイト・ガーランドの一撃から庇いに出た行為─────
あの一撃を受け止めに入るより、庇いに出た方が速かったのか。
その結果、自ら傷付く事をいとわなかったというのか。
本人にしか判らない思考に基づく事であるにしても、白魔道士のシファにとって"一国最強のナイト"を相手に誰も死なずに済んだ事に安堵はしたが、気掛かりなのはさっきの"現象"と赤魔道士の彼が受けたであろう傷の事。
(でもそれは自分で治したっていうし……、大丈夫だよね)
身体の痛みも白魔法で幾分引いたシーフのランクも立ち上がり、次にシファは暗がりに見紛うように立ち尽くしている黒魔道士、ビルの元に近寄る。
……だいぶ放心しているらしく、シファが傍に来ても気付いた様子なくとんがり帽子の中の二つの黄色く丸い眼だけが煌々としている。
「ビル? もう、終わったみたいだよ。あの黒い騎士の人、消えちゃったっていうか、いなくなったみたいだし……… 」
「 ────ふぇ? シファ、さん………??」
声を掛けられようやく我に返ったビルは、急に力が抜けてその場にへたり込む。
「す、すみませんでス、ボク……! 大したこと出来なくて……っ」
自責にかられているビルを、宥めるように白魔法を掛けるシファ。
(みんなの気持ち、やっぱりバラバラみたい。会って間もないから……? でもわたし達、気付いたら一緒にいたんだし、会ったばかりのはず、ないんだけどな……。それにさっきの光、わたし達いったい何を ───── )
記憶の断片を探し当てようにも、シファの思考はすぐ別方向に向いてしまう。
「あ、そういえば王女さまは……!?」
ナイト・ガーランド相手に緊迫した中ですっかり忘れていた本来の目的。
────コーネリア城前で兵士長に呼び止められて何人かと手合わせさせられ、最終的にマゥスンが兵士長を負かしその行きがかりで国王に会わされ、カオス神殿に浚われた王女を救うよう頼まれたのだ。
中央祭壇に乗り込んだ際に王女は確か、禍々しい球体の[黒水晶]が祀られた祭壇前に倒れていたはず。
そこには既に赤魔道士マゥスンが跪いており、誰かを抱き起こしているらしくシファもそこへ行くのと同じくして、ランクとビルも何とか気を取り直し歩み寄る。
「 ………おい、死んでンのか?」
「そ、そんなぁ、間に合わなかったって事でスか……!?」
「ちょっとランク、ビル、早まらないで? マゥスン、王女さまは──── 」
片膝を付いて王女を抱き上げた姿勢のままの彼に問うシファ。
「 ………気を失っているだけで、外傷はない」
彼に支えられたコーネリアの王女、セーラ姫は長く美しい翡翠色の髪と、星の瞬きを湛えたようなドレスに身を包んだ見目麗しい少女だった。
「回復魔法、かけておいた方がいいよね。…… <ケアル>!」
淡く、やわらかな光の粒がセーラ姫を包み込むと、意識が戻って来たのか身じろいだ。
「 ────ん ……… 」
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