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ドリトル先生と京都の狐

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第六幕その五

「狐じゃからな」
「狐は揚げですね」
「それがなくてはな」
 とてもだというのです。
「我等は駄目じゃ」
「そうですか、日本の狐はとにかく揚げなんですね」
「大好物じゃ、しかしイギリスにはのう」
「揚げはないですからね」
「そもそも豆腐自体がない」
 長老雨はこのことは困ったお顔で言うしかありませんでした、イギリスに揚げがないのは当然ですがそれがだというのです。
「ではのう」
「困るんですね」
「左様、あと東国に行っておったが」
 日本の東の方です、そちらはどうかといいますと。
「あちらもちと味が違う」
「そうなんですよ、東の方は」
「どうにも」
 母娘もこうお話するのでした、先生達に。
「味が尖っていまして」
「お醤油が違うのです」
「あとだしも」
「全然違いまして」
「うん、日本の東の方はね」
 そちらの味はどうかとです、王子も言うのでした。
「味が濃い、それも大阪と違ってね」
「尖ってますよね、味が」
「そうなってますね」
「そうだよね、うどんでもね」
 王子がお話に出すのはこれでした。
「だしが辛いんだよね」
「物凄く黒くて」
「墨汁みたいですね」
「インクを入れているのかと思ったよ」 
 実際にです、王子はこう思ったのです。東京の方のおうどんを見て。
「何なのかなってね」
「しかも味がのう」
 長老はまた言うのでした、困ったお顔で。
「合わんわ」
「そうです、本当に」
「東国の味は」
「そもそも東の方は長い間荒れておった」
 長老は母娘に応えながらこんなことも言いました。
「江戸が出来るまで国の外れじゃった」
「そういえば日本の歴史では」
 どうかとです、先生も言います。
「長い間、江戸時代まで関東は日本の中心ではなかったですね」
「中心はあくまでここじゃった」
「京都ですね」
「都だったここがな」
 まさにです、日本の心臓だったというのです。京都は長い間。
「そうじゃった」
「そうでしたね、かつては」
「東はのう、鎌倉もあったが」 
 それでもだというのです。
「本当に何もない草ぼうぼうの田舎じゃった」
「東京もですね」
「あそこは何もなかったわ」
 東京は最初はそうだったというのです。
「家康さんが大きな城を築くまではな」
「今の皇居ですね」
「帝がおられるな、しかし皇居もな」
 かつてはとです、長老はしみじみとした口調で言うのでした。
「長い間ここにあったのじゃ」
「京都にですね」
「いや、もうない」
「ない、ですか」
「そうじゃ、もうない」
 だからだというのです。
「帝はあちらに行かれた」
「残念です」
「この街の誇りでしたが」
 母娘もこう言います。
「東京になぞ何があるのか」
「あの様な場所に」
「どうも京都の狐さん達は東京が嫌いみたいだね」
「そうだね」
 トミーは王子の言葉に応えました、三人の口調からこのことを察したのです。
「どうもね」
「あちらは」
「東京が好きな京都の者はおらん」
 長老はこのことをはっきりと認めました、その通りだというのです。 
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