SAO-銀ノ月-
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第七話
前書き
…現実逃避って怖い。
まさかの連続投稿です。
シリカ目線より。
男の人の最初の印象は、怖い人だった。
ピナを、自分のワガママで殺してしまって、とにかく目の前にいる敵を無視して、ピナを殺した奴だけを狙った。
その時、真横を風が走り去った。
日本刀を装備した男の人が、一瞬の内に三体のモンスターをポリゴン片にする。
その迫力に、私はその場にへたり込んでしまっていた。
それから、その男の人が色々教えてくれた情報に、私はとても喜んだ。
ピナが生き返る!
その希望が見えただけでも、私はとても嬉しかった。
私を助けてくれた男の人は、
黒い和服の上に、更に黒いコートを着ている。
武器も日本刀を一つ。
…正直に言うと、あまり強そうには見えない。
《ドランクエイプ》を三体まとめて、一瞬で倒したところを見ていなければ、強いと言われても信じられないだろうと思う。
そして、その男の人は
「自分も第47層に行く」
と、言ってくれた。
…警戒心が先に立った。
SAOでは、甘い話には裏があるというのが常識だ。
自分も、何歳も年上の男性に言い寄られたことがあり、現実世界では同級生にも告白されたことのない私にとって、それは恐ろしかった。
そんな事情もあり、少し後ずさりした時−
「人が人を助けるのに、理由なんているのかよ!」
−男の人は叫んでいた。
その人の顔はとても真剣で、とても嘘をついてるようには見えなかった。
−良い人なのかな…
なんだか、変に警戒していた自分が馬鹿みたいで、ちょっと笑ってしまった。
「よし、ようやく笑ったな。」
「え?」
確かに、さっきまでは泣いていたけど…
「目の前にいる女の子が泣いてるより、笑ってくれてるほうが良いに決まってるさ。」
その一言で、その男の人から、
『怖い人』
という印象は消えてしまった。
「それじゃあ…お願いしても良いですか?」
「任された!約束は守るぜ…それより、」
男は苦笑して、宙に浮かんだままのトレードウィンドウを指差す。
「トレードウィンドウ、確認してくれない?」
「あ、はい!」
さっきから、出しっぱなしになっていたトレードウィンドウを操作する。
『クレッセント・ダガー』
『シルバーアーマー』
など、聞いたことのないアイテムが並ぶ。
−いったい、どういう人なんだろう…
そう思いながらも、トレードウィンドウに、持っているコルを全て入力する。
「あの…お金、これだけじゃ全然足りないと思うんですけど…」
「お金はいいさ。なにせ、ドロップ品だから元手は0だ。」
そう言って男は、お金を受け取らずにOKボタンを押した。
それは確かに0だけど…
なんだか悪い気がしたけど、シリカもお金に余裕がある訳でもない。
男の人の言葉に甘えることにした。
「そう言えば、お名前は?」
「ん、ああ。そういや、言ってなかったな。俺の名前は、《ショウキ》だ。よろしくな。」
男の人−ショウキさん−が手を差し伸べてくる。
「知ってたみたいだけど、私の名前は、《シリカ》です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ショウキさんと握手を交わす。
手から、じんわりとあったかいものが広がっていく。
久しぶりに、人の完璧な優しさに触れたからだろうか。
気恥ずかしくて、握手した後、ちょっと顔を赤らめてしまった。
−SAOは、感情表現がオーバーなんだから…
赤面したのをSAOのシステムのせいにしてみた。
「じゃ、ピナを助ける為に頑張りますか!」
「はい!」
「と、言いたいところなんだけど…」
ショウキさんは、言いにくいことがあるかのように、髪の毛を掻く。
「わ、笑わないで聞いてくれるかな…」
「?…はい。」
一体なんだろう。
「この《迷いの森》って、どうやって出るんだ?」
−なんで私は、この人に怖いなんて印象を持ったんだろう…?
そう考えると、やはり吹き出してしまった。
「わっ…笑わないって言ったじゃないか!」
そのリアクションが更に笑いを誘う。
−うん。きっとショウキさんは良い人だ。
一度は死にそうになった命だ、ピナを生き返らせる為に、ショウキさんを信じよう。
なんとか笑いを堪える。
「ショウキさん、そんなことも知らないで、この森に入って来たんですか?」
「…忘れたんだ。」
ショウキさんがそっぽを向く。
…また笑っちゃだめだ…
「ええっと、街で売ってる地図を持っていれば、簡単に出られるんですけど…」
「…持ってない。」
「…ですよね。」
地図持ってるのに迷いはしない。
シリカも、地図を持っているのは一緒に狩りをしていたギルド、《ミッシングリンク》のリーダーだけだ。
「後は、ただひたすら転移しまくるとか…」
「それをやってここにいるんだよな、俺たち。」
「…はい。」
と、なると、後はもうひとつの方法しかない。
「ここの森って、1分で隣のエリアが変わるんですよ。」
「ほう。」
「だから、1分以内に森を走り抜ければ…」
これが一番ムチャクチャだ。
夜遅くの森で、いつモンスターが出て来るか分からない。
しかも、曲がりくねった道を視界の悪い中…いや、良くても…走り抜けるなど不可能だ。
「よし、それだ。」
「それ、って…」
嫌な予感がする。
「今シリカが言ったろ?走り抜けるんだ。」
日本刀をアイテムストレージに入れ、屈伸をするショウキさん。
「こんな夜中じゃ…」
「大丈夫、ナイスな展開じゃないか!…ちょっと、おんぶさせてくれない?」
「お、おんぶ!?」
なんでおんぶ!?
「シリカ。君がこの方法を試していないってことは、君には出来ないってことだろ?」
「それは…そうですけど…」
…仕方ない…ピナの為に、恥ずかしいなんて言ってる場合じゃない…
ピナのため、ピナのため、ピナのため…
と、脳内再生しながら、ショウキさんの肩に手を乗せる。
これで俗に言う、『おんぶ』の完成だ。
−恥ずかしい…けど、なんか…安心する…
シリカは一人っ子だが、なんだか兄のような感じを感じていた。
「じゃ…しっかり捕まってろよ!」
そう言って、ショウキさんは走る。
−速い!
SAOを初めて以来、一番速いと思う速度でショウキさんは走る。
しっかり捕まっていないと、振り落とされる…!
「林の中、行くぞ!」
自分がさっき挫折した、林の中を真っすぐ進む。
木がかする。
猪がかする。
狼がかする。
元々、ジェットコースターのような絶叫マシンが苦手なシリカは、たまらず叫んでいた。
「キャァァァァァァ!」
並みのジェットコースターより怖い。
…もしかして。
「ショウキさん!もしかして、わざと危険な道選んでませんか!?」
「…バレたか。」
「バレたかじゃ…」
ドランクエイプの攻撃がかする。
「こっちの方がスリリングさ!」
「安全運転でお願いしますぅぅぅぅ!」
しかし。ショウキさんはやはり危険な道を行く。
「イィィィィヤッホォォォォォッ!」
「キャァァァァァァ!」
別の意味で叫び続ける男女が、森を駆け抜けて行った。
余談だが。
《叫びながら森を駆け抜けるモンスター》
として、この階層の怪談話として語り継がれることとなった。
後書き
着々とシリカがヒロインになっている気が。
もう、いっそのこと、みんなヒロインに…
いや、落ち着いて考えろ…!
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