Element Magic Trinity
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災厄の道化
カトレーンの家。
その、文字通りの“豪邸”の一室に、女性と少女がいた。
もっと詳しく言うならば、厳しい顔の初老の女性と、冷たい雰囲気の絶世の美少女がいる。
「・・・言ったわよね?明日、使いを出すと」
「ええ、確かにお祖母様はそう仰りましたわ。だけど私ももう子供じゃありませんもの、1人でここに帰る事くらい出来ますわ」
厳しい表情のシャロンに対し、ティアはいつもの調子を取り戻したように小さい皮肉のカケラを混ぜた言葉を放つ。
「それで・・・使いを無視してまで早く帰って来るなんて、どういうつもり?」
「嫌だわ。それじゃあまるで私が何か企んでいるみたいじゃないですか」
クスクスと笑い声を零しながら、ティアが小さく首を傾げる。
勿論、これは全て演技だ。
本来なら冷たい表情で答えているだろうが、今回いつもの手は似合わないとティア自身、気づいている。
だからわざと笑みを浮かべ、完璧なる淑女の仮面を纏って戦う。
「お祖母様・・・あなたこそ、一体何を企んでいるのかしら?」
「何、ですって?」
口調が、崩れた。
その冷たく、ネコを思わせるつり気味の青い瞳に物騒で鋭利で冷たい、殺気立った光が宿る。
スッ・・・と整った顔から笑みが消え、氷の女王が君臨した。
「そんなの、貴女には解るんじゃないの?無駄に頭が良くて、情報処理能力に長けた貴女なら」
「さあ?解らないから訊ねているのよ」
あくまでも、口調に柔かさは残す。
いつもの刃のような鋭い口調では気を荒げさせるだけだ。
(・・・この女は自分より出来の悪い人間を見下すのがお好きのようだからね、無能な女を演じ続けてあげるわ)
何も解っていない人間ほどバカにして見下す。
それが自分の祖母、シャロン=T=カトレーン。
それを知っているから、わざと下手に出る。
この演技が通じている可能性は低いが、手があるのなら全ての手を余すところなく使い切る。
「そう、なら・・・」
シャロンが目を伏せた。
「!」
嫌な予感がした。
ティアは思わず震え、ソファから立ち上がる。
一瞬冷静さを欠いた事に自分で気づき、改めて周りの情報を得ようとした瞬間―――――
「何も知らないまま、自分の役目を果たしなさい」
何者かがティアの体に手を突っ込んだ。
水である自分の体に違和感を感じたティアが違和感の正体を確かめようと、目線を下げたと同時に――――。
「っがは・・・っ!」
爆発音が至近距離で響き、ティアの意識が途絶えた。
「注意力散漫、ね・・・私が無防備に貴女と会う訳ないでしょう」
ぐったりとし、気を失ったティアを睨みつけ、シャロンが呟く。
ゆっくりと目線を上げると、そこには気を失うティアを支える1人の青年。
「ありがとう。その子は部屋に運んでおいて」
「・・・了解しました」
淡々と答える青年は、黒髪を揺らしてティアを抱えた。
鋭い光を宿したつり気味の目に、忍者を思わせる黒い装束。黒髪と相まって、闇の中や影の中に潜んでしまえばその姿は見えなくなるだろう。
「部屋の鍵を、もらってないんですが」
「ああ・・・そうだったわね、はい」
投げるように手渡された銀色の鍵を右人差し指と中指で持ち、気を失って動かないティアを横抱きに抱える。
「その子を部屋に運んだら今日はもういいわ。本部に戻りなさい、ザイール」
「はい」
小さく頭を下げ、部屋を出て行った青年『ザイール・フォルガ』。
その後ろ姿が見えなくなったと同時に、シャロンはソファへと座り直した。
「言ったはずよ・・・貴女に拒否権はない、と」
そんな事が起こっているとは全く知らない、妖精の尻尾。
だが、こちらはこちらで問題が立て続けに起こっているのだ。
ナツとライアーが本気で睨み合ったと思えばギルドが1つになり、そこにバラム同盟の一角を担う闇ギルドである血塗れの欲望所属の3人がティアを迎えにやってきて、ルーの故郷を滅ぼした存在だと発覚したと同時にギルドマスター直属部隊、暗黒の蝶のリーダーがアルカの父親『エスト・イレイザー』である事が発覚、そしてアルカがどこかへ消えルーが過去を語りミラがアルカの家へ行き以下略(略すのが遅い)で現在に至る。
「・・・つー訳で、さっきはいろいろ悪かったな。オレ、どうかしてたみてーだ」
なはは、と笑うアルカはミラと共に、先ほどギルドへと戻って来ていた。
いろいろ吹っ切れたようにその表情は明るく、いつもと変わらない姿である。
「それじゃあ・・・どこにも行かないよね?」
「当然だろ?オレみてーな問題児受け入れてくれんの、ここ以外ないだろうしな」
「・・・アルカぁぁぁぁっ!」
「うおっ!?どうしたルー!?」
ぐすっと鼻を鳴らしたルーは耐え切れなくなったようにアルカへと飛び付く。
それをよろけながらもアルカは受け止め、子供をあやすように頭を撫でた。
「で・・・何かいい空気になっているところ悪いんだが」
その空気をクロスの声が裂く。
全員の視線がクロスへと向いた。
カウンターの席に座るクロスは頬杖をつき、くるりとスプーンを回した。
「シュトラスキーもイレイザーも抱えていたモノが消えたようだが・・・お前達、何より大事なのは姉さんの無事だという事を忘れてはいないだろうな?」
『あ、あい』
当然ながら、忘れてなどいない。
だが、姉同様に軽やかなテノールボイスにドスが加わり、なんとなくぎこちない返事になってしまった。
まあそれでもクロスは満足なようで、嬉しそうにスプーンをカウンターへと置く。
「さあ、最初から語られる事を望むか?」
「は?」
「え?」
「クロス、何を・・・」
頬杖をついたまま、妖美に微笑む。
文字通り怪しく美しい笑みは姉譲り、といったところか。
見るもの全てを魅了し引き寄せるその姿とその意味不明な発言に、ギルドメンバーは首を傾げる。
クロスは右手を空気の渦へと突っ込み、別空間から何かを取り出した。
「最初から語られるか、最大の事件のみを語られるか―――――」
取り出したのは、トランプだった。
カードの束ではなく、スペードのエースの1枚だけ。
大きく黒いスペードが描かれたカードを、指先だけで器用にくるりと回転させ―――――
「お前達は、どちらを望む?」
スペードのエースが、落ちた。
そして、クロスの右人差し指と中指にはスペードのエースが挟まれていた。
エスト・イレイザーは、カトレーン宅を見つめていた。
その手に不思議な形をした杖を握りしめ、深紅の髪を風に揺らしながら、ただただ立っている。
「リーダー」
「・・・シェヴルか」
白銀の髪に空色の瞳の少女『シェヴル』に声を掛けられ、エストはゆっくりとした動作で振り返る。
鎖骨辺りには血塗れの欲望の紋章が瞳と同じ空色で刻まれていて、天使を思わせ、六魔将軍のエンジェルを彷彿とさせる白い羽と空色の布で構成されたようなワンピースから小さく覗いていた。
「アルカンジュ様と14年ぶりに再会したと聞きました・・・アルカンジュ様は、元気そうでしたか?」
「・・・ああ、元気だったよ。私を憎むほどに・・・ね」
どこか寂しそうに呟くエストを、シェヴルは悲しそうに見つめていた。
「ティア嬢は本宅におられ、妖精達が追ってくるだろうとマスターは考えておいでです・・・リーダーも、戦うようにと」
「はは・・・シグリットの命令なら仕方ないね」
乾いた笑い声を零し、エストは杖を背負う。
ゆっくりと目を閉じ――――――開く。
「運命は神以外に変える事は出来ない・・・戦う以外の、道はない」
ナツ達は、目を見開いていた。
その目は“床へ落ちたスペードのエース”を追い、“クロスの右人差し指と中指に挟まれるスペードのエース”を見ている。
「え・・・え?」
「同じカードが、2枚?」
「隠し持ってたのかーっ!?」
「何でそんなに嬉しそうなんだ」
ルーシィとルーが首を傾げ、何故かナツが嬉しそうに叫び、ヴィーテルシアが冷静にツッコみを入れる。
クロスはヒラヒラと右手を振った。
「2枚隠し持ってなどいないさ。何なら・・・そうだな」
スペードのエースをカウンターへと置いたクロスは視線を彷徨わせ、止める。
その視線の先には、魚を持つハッピー。
「ハッピー、その魚を貸してくれないか」
「オイラのだから食べないでよ?」
「勿論だ・・・ミラジェーン、大きめの皿を2枚頼めるか?」
「解ったわ、ちょっと待ってて」
ハッピーから魚を、ミラから大きめの皿2枚を受け取ったクロスは、魚を1枚の皿にのせる。
ギルドメンバー全員が不思議そうに見つめる中、クロスはゆっくりと手を翳した。
「流星の軌跡、星々の星彩、全天にて88星を形作る光よ―――星竜シュテルロギアの後裔が命ずる―――」
そして目を閉じ、通る声で何かを詠唱する。
全員が頭に?を浮かべる単語を並べていくと同時に、その両手に青い光が宿っていく。
「星竜の力によりて―――鏡に映りしその姿を―――命じるままに複製せよ!」
カッ!と目を見開いた。
青い光が魚を包む。
「!」
「眩しっ・・・」
その眩しさに全員が思わず目を瞑った。
ぎゅっと閉じた瞼の向こうで、光が治まっていくのを感じる。
「光は消えた。見てみろ」
どこか沈んだようなクロスの声に反応して、目を開く。
そして―――――――目を、見開いた。
「えっ!?」
「はぁっ!?」
「うあっ!」
「マジかよ!」
「魚ーーー!」
テーブルの上には、大きめの2枚の皿に魚が2匹。
1皿に1匹ずつ乗っている。
頭から尻尾まで同じ姿をしており、大きさも当然のように同じだ。
「ハッピー、協力感謝する。2匹とも食うといい」
「ありがとクロス!」
言うが早いが、ハッピーは右側の皿に乗った魚をはむはむと頬張り始めた。
「・・・解ったか?さっきも同じ手を使ってトランプを1枚増やした」
「クロス・・・お前、いつの間にそのような複製系魔法を・・・」
目を見開いて驚愕するエルザに、クロスは首を横に振った。
その目はどこか悲しそうで、口元には薄い笑みが浮かんでいるが、嬉しそうにも楽しそうにも見えない。
「これは魔法じゃない―――――魔法だったら、好めるがな」
呟かれた言葉にエルザは怪訝そうな表情になる。
姉同様にネコを思わせるつり気味の目をそっと静かに伏せ、クロスは笑みを浮かべたまま続けた。
「こんな力、欲しくなかった・・・姉さんを苦しめる、災いの力など」
「おーい、ザイール~」
ティアを部屋へと運び、キッチリと鍵を閉めたザイールは、自分にかけられた声に反応して顔を向けた。
そこには、ボサボサの髪に垂れ目の女性の姿。
「・・・マミー」
「ティア嬢は気ィ失ってる?羽毟り取るなら今チャンス?」
「やめておけ、シャロン様に殺されたくないだろ」
「・・・まーね、それもそうか」
この女性の名は『マミー・マン』。
女にしては背が高く、ボサボサの髪と垂れ目が寝癖そのままのいい人そうな印象を与えるが、実際にはいい人から1番距離のある場所にいる。
「そーいや聞いた?妖精がここに乗り込んでくるって話!」
「ああ・・・知ってる。ティア嬢を追ってきているんだってな」
「バカとしか言いようがないよねー、わざわざ闇ギルドの中に来るなんてさぁっ!」
「お前が言うのはどうなんだ・・・正規ギルド潰しが」
「アタシのアレは趣味☆一緒にしないでよね♪」
嬉しそうに言うマミーにザイールは溜息をつく。
この女、マミーは残忍な性格をしている。
口調は明るく普通の女性だが、放つ言葉は残忍の塊でしかない。
勿論、行動もだ。
「ていうかさザイール、アンタって闇ギルドの人間のくせして闇ギルドっぽくないよねー」
「闇ギルドっぽい人間って何だ」
「あー、やっぱあれ?昔正規ギルドに―――――――」
マミーの言葉はそこで止まった。
何故なら、ザイールが無言で左掌をこちらへと向けていたから―――。
「それ以上言うな。それ以上言うようなら、お前とはいえ・・・殺す」
「・・・キャハッ、やっぱアンタって闇ギルドっぽいかもね」
心底面白そうに笑うマミーを一瞥し、ザイールはカチャリ、と右手に持った鍵を鳴らした。
「あー・・・かったるいわ~・・・」
カトレーン本宅の、望遠鏡のある見張り部屋では1人の少女が心底面倒そうに机に突っ伏していた。
淡い緑色の髪の少女は、緑色のパーカーを着用し、被っているフードには黒で顔のようなものが描かれている。
同系色の膝上丈スカートを穿き、足元はやはり緑のニーハイソックスに黒いシューズだ。
森にでも隠れたら絶対に見つけられなさそうな全身緑の少女は、やはり面倒そうに望遠鏡を軽く覗いた。
「ん~・・・敵なーし」
ぼやくように呟いて、少女は再び机に突っ伏す。
彼女の名は『シオ・クリーパー』。
歳はザイールやマミーよりは下に見え、ティアと同じが1つ上くらいだろう。
「ていうかー、殲滅担当の私がー、見張りなんてー、かったるすぎてー、やってらんなーい」
いちいち語尾を伸ばすのが癖なのか、シオは突っ伏したままぼそぼそと呟く。
「こういうのはー、適当にー、デバイス何とかっていうー、機械に任せちゃえばー、いいのにー」
別にシオはぐうたらな訳ではない。
ただ、こういう見張りは本人曰くかったるく、やってられないのだ。
「あーあー、早くー、妖精が来ればー、私だってー、殲滅出来るのにー」
緑がかった瞳を気だるげに光らせ、シオは再び望遠鏡をチラッと覗く。
「んー、敵も味方も存在なーし・・・あー、退屈ー」
このまま任されている役割を放棄するなり寝るなりしたいシオだが、そうはいかない。
この屋敷にはシャロンがおり、同盟関係にある血塗れの欲望のメンバーもいる。
逆らう訳にはいかない。
という訳で、シオは交代の時間が来るまで変わらず退屈なのだった。
ザイール・フォルガ、マミー・マン、シオ・クリーパー。
この3人は、血塗れの欲望傘下のギルドに属している。
数々の闇ギルドの中でも、かなりの実力を誇るギルド。
その名は――――――
―――――――――災厄の道化。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今回登場した募集オリキャラはこちらの3人。登場順に。
・ザイール・フォルガ(非会員様より)
・マミー・マン(非会員様より)
・シオ・クリーパー(ちゃか様より)
ありがとうございます!
考えてたキャラと違う点があると思いますが、ご了承ください。
感想・批評、お待ちしてます。
オリキャラもまだまだ募集中です!
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