Element Magic Trinity
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紡がれた言葉は傷を癒して
語られたルーの過去。
悲しそうな表情で目を伏せ、何かを諦めるような笑みを浮かべたルーは、頬を小さく掻きながら顔を上げた。
「・・・ね?聞いても楽しくない話でしょ?」
何も言えなかった。
うん、と頷く事も、ううん、と首を横に振る事も。
どちらの行動を取ろうと、ルーを傷つける事に変わりはないと、全員が解っていた。
傷つけない答えを見つける事は、今はまだ出来なかった。
「で、今になって気づいたんだけど・・・父さんが玩具の銃を構えた理由」
父親の形見である銃に触れながら、ルーは紡ぐ。
静寂を裂くように、男にしては高く、柔らかい声を響かせる。
「父さんは、アルカのお父さんに考え直してほしかったんだよ。2人が友達なのかライバルなのかは解らないけど・・・父さんには、エストに銃を向ける気なんてなかったんだ。だから僕に銃を渡して、言葉で全てを終わらせようとした・・・」
結局、出来なかったけどね。
ルーは消えてしまいそうな声で呟いた。
「それでも、それでもだよ?エストに殺されるかもしれないのに、父さんは逃げも隠れもしなくて、最後まで立ち塞がってたんだ。僕に銃を渡さなければ、エストを殺す事だって出来たのに」
その瞳に、憎しみは無かった。
その声に、怒りは無かった。
ただただ―――――純粋な、悲しみだけ。
「自分が死んでも殺したくなかった相手を・・・息子の僕が殺すなんて最高の親不孝でしょ?だから―――――僕はエストを殺さないし、傷つけない」
静かに響いた、強い決意。
憎しみも怒りも悲しみもあって―――それでも、ルーは仇を取る事を止めた。
敵討ちよりもするべき事を見つけたから。
そのするべき事は―――家族も、村人も、同居人も、誰も悲しませないで済むと知ったから。
「だから・・・だから、さ」
そう呟いたルーの頬を、涙が伝った。
ポタリ、と落ちて、染みを作る。
悲しげな笑みはそのままに、特定の誰かに言う訳でもなく、ルーは呟いた。
「―――――――――もう誰も、僕の前からいなくならないで」
カルディア大聖堂近く。
そこに、2階建ての一軒家があった。
少し汚れた淡い黄緑の壁に、焦げ茶色の屋根。
特別広い訳でも特別狭い訳でもないこの家に―――アルカはいた。
「・・・はぁ」
ボスッとソファに倒れ込んだアルカは溜息をつく。
自分の父親が犯した罪に、同居人でチームメイトのルーが背負い続けてきた現実の原因、姉の死の原因―――。
今日1日だけでいろんな事が起こり、アルカの周りを彩り、しっちゃかめっちゃかにして姿を消した。
姿を消しても、根本的な部分は何も変わっていない。
(つまり、親父のせいでルーは辛い思いしてた・・・って事だろ)
ぎゅっと唇を噛みしめる。
いつだったかに見たテレビ番組で、加害者家族が被害者家族に謝罪をしたところ、「顔も見たくない」とか「あの子を返して!」とか言われていた。
ルーは被害者家族で、自分は加害者家族。
どうしようもない血の繋がりが、絆の繋がりを簡単に破壊する。
「・・・くそっ」
どうしようもない怒りが向く。
父親に、血塗れの欲望に、そして―――自分に。
ぐっと拳を握りしめた、その時――――――
「アルカ・・・」
心配するようなソプラノボイスが、アルカの耳に入ってきた。
アルカはソプラノボイスの主を2人知っている。
1人はティア。軽やかな中に冷たさと厳しさ、温かな優しさを丁度よく混ぜた声をしている。
そして、もう1人は――――
「・・・ミラ」
ミラジェーン・ストラウス。
ギルドの天然系看板娘。
先ほど別れを一方的に告げたばかりの、アルカの恋人。
「お前、どうして」
「いろんなトコ探したけどいないから・・・家かなって。鍵は前にもらってたし・・・勝手に入っちゃってゴメンね」
そういえば合鍵渡してたか、とアルカは思い出す。
何度か家に招いた事もあり、場所を知っていて当然だ。
ミラは小さく謝罪すると、アルカの隣に腰掛ける。
「・・・ねぇ、アルカ。私、アルカに何かした?」
「?」
ポツリと呟かれた言葉に、思わずアルカは眉を顰めた。
長い銀髪がミラの顔を隠していて、表情が解らない。
「特に、何もしてねぇよ?」
「そう、だよね・・・そのハズなんだ・・・」
「??」
アルカの頭の?が1つ増える。
俯くミラはアルカの声が掠れたのに気づいていないようだ。
「でも・・・だったら・・・」
ミラの声が震える。
ゆっくりと、顔が上がった。
「どうして、別れるの・・・?」
ミラの目に、薄く涙が浮かんでいる。
色素の薄い青い目が真っ直ぐにアルカを見つめていた。
(うっ・・・)
思わずアルカは目線を逸らす。
アルカは女から真っ直ぐに見つめられるのが、実は苦手なのだ。
特に、こういう純粋な目。今のミラの目や、冷たい事以外で構成されていないティアの目。
その中でも1番苦手なのはティアの目だ。
あの青い瞳から放たれる冷たさは、目を背ける事も逸らす事も許さない。
そして感情が一切籠っていない為、どこまでも純粋で。
「鬱陶しい事聞いてるかもしれないけど、解らないの。私、何か嫌われるような事した?私の事・・・嫌いになっちゃった?」
「―――――っ」
ドラマや小説などでこういう女を見るたび、正直鬱陶しいと思っていた。
「別れたいっつってんだから別れてやれよな」と。
でも、今はそんな事思っている余裕もなかった。
「!」
ミラが目を見開いた。
それと同時に、じわりと体を包む熱を感じる。
炎使いの体温は並より高く、何も羽織らず街へ飛び出したミラを温かく包んだ。
僅かに視界に映る深紅色の髪。
ふわり、とその髪が小さく揺れた。
「・・・嫌いになんか、なってねぇよ」
間近で聞こえる声。
その顔は、見えない。
「オレがミラを嫌いになれるハズねぇだろ。なれたら一種の奇跡だ」
そう――――アルカはミラを嫌いになれない。
ミラの涙を見ない為に大地を取り戻したアルカが、嫌いになんてなれるハズない。
「悪いのは、オレだ。全部オレなんだよ」
目の前にあった事実を再確認して、アルカは声を歪ませる。
悔しさと苦しさと僅かな憎しみを、声に乗せる。
「オレの親が闇ギルドの人間だ・・・って、解っただろ?実はさ、知ってたんだよ。どういう手ェ使ったか知らねぇが、ティアが親父達のギルドに映像録画魔水晶仕掛けて、オレに映像くれたんだ。一目見てピンと来た・・・悔しい事にな」
その映像を見た時、戦う事を決めたはずだった。
相手が牙を剥くのなら、こっちも牙を剥いてやると。
だが・・・結果として、戦えなかった。
それどころか、完全に敗北してしまった。
「つまり、だ。ミラ、お前は闇ギルドの奴の息子と付き合ってるっつー事なんだよ。そんなのダメだ。だったら別れた方がいい。だったら・・・オレよりいい奴と付き合った方がいい」
ふわりと抱きしめていた腕を解き、アルカは微笑む。
悲しそうで、辛そうで、諦めたような笑み。
「お前が幸せになるなら、オレは喜んで身を引くさ」
プツリ、と。
ミラの中で、何かが切れた。
俯き、ぎゅっとアルカの白いインナーを握る。
「・・・違う」
呟かれた言葉に、アルカは一瞬不思議そうな表情をする。
ミラが顔を上げた。
「違うっ!アルカは何にも解ってないっ!」
「おわっ!?」
いつものミラとはどうやっても結び付かない強い口調に、アルカは思わず自分でもマヌケだと認識するような声を出した。
「アルカが私の事嫌いになれないなら、私だってアルカの事嫌いになんかなれないの。アルカの側にいるのが私の幸せなんだよ?アルカがいなくなったら、私は幸せになんてなれない。不幸にしか、なれないの」
口調が落ち着きを取り戻す。
「闇ギルドの人間の息子とか関係ないよ。闇ギルドの人間の息子だとしても、私がアルカを好きなのに変わりはないの」
たとえ紡ぐ言葉が、彼の嫌うありがちなものだとしても。
放つ言葉が、彼の心に全く届かなかったとしても。
その脚を止める、枷になるのなら―――――――
「私が心から愛する人を好きでいる事は、ダメなんかじゃない」
どれだけ自分に似合わない言葉も、紡いでみせる。
本気でミラは思った。
「っ・・・けど!解ってんのか!?オレは闇ギルドの奴の息子であるだけじゃなくて、お前の妹を救えなかったんだぞ!?お前の目の前でリサーナ死なせちまったオレが・・・お前の前にいていい訳がねぇじゃねーか!」
ルーが矛盾を抱えたように、アルカもまた、矛盾を抱えていた。
ミラが好きで傍にいたいと思うと同時に、リサーナを救えなかった人間がミラの前にいてもいいのか、と。
元々抱えていた矛盾と、今回の件。2つがぶつかって合わさって・・・アルカは別れる選択をしたのだ。
「いていいんだよ」
だが―――その矛盾を、ミラは一言で消し去る。
解除魔法をかけたように、一瞬で消え失せる。
「リサーナが死んだのはアルカのせいじゃない・・・ううん、誰のせいでもないの。だから、アルカが私の前からいなくなる理由にはならないし、なれない」
優しい微笑み。
ギルドで人気の、天然看板娘の笑顔。
大陸中が酔いしれたという美しい、ギルドが誇る看板娘。
「私・・・アルカの傍にいたいし、傍にいてほしい」
その両手を、ふわりと包む。
じわりと熱が滲み、優しさが流れる。
「お願い・・・別れるなんて、言わないで」
その目に、再び涙が浮かぶ。
アルカは俯き、ゆっくりと口を開いた。
「・・・いても、いいのか?」
「うん」
「オレは弱いんだぞ・・・ティアみてーに素早く相手を殲滅出来る訳でも、ルーみてーにスゲェ防御が出来る訳でもない。全部中途半端で、お前1人満足に守ってやれないんだ。それでも、いいのか?」
「中途半端でも、アルカにしか出来ない事もあるでしょ?それだけで十分よ」
「数えきれないほど泣かせるかもしれねーし、辛い思いをさせるかもしれねぇんだぞ」
「そうね・・・でも、アルカの傍にいられるなら、数えきれないほど泣いたっていいよ」
アルカの体が小刻みに震える。
涙は流れない。
ただ―――――気づいたのだ。
(オレは・・・)
ぐっと、噛みしめる。
ミラの紡いだ言葉全てがアルカの脳内で無限に再生され、深い傷を癒していく。
(―――――――こんなにも、愛されてやがったのか・・・)
知らなかった。
付き合っているのだから、好意がある事は当然であり、勿論知っていた。
だが―――ここまでとは。
優しく微笑む恋人は、自分の全てを受け入れ、全てを認め許し、全てを愛してくれている。
「好きでいて、いいんだな?」
「うん」
「愛してて・・・いいんだよな?」
「・・・もちろん」
押し寄せてくる感情に、名前を付けられなかった。
喜び、悲しみ、怒り・・・そんな一言じゃどうにも似合わず、この世界に存在する言葉全てを使ったって表せないような、複雑な感情。
そして―――――この優しき恋人の言葉でしか呼び覚ませない、温かな太陽の光のような感情。
それに名前を付けるほど、アルカは言葉を知らない。
「こんな小さい事でこんなに悩んでる、バカでどうしようもないオレを・・・愛してくれるのか?」
そう問いかけながら、アルカは密かに笑みを浮かべる。
こんな事、聞くまでもないじゃないか。
さっきから、否、ずっと前から、ミラはこの言葉に対して答えてくれている。
「うん」
ただ、ミラは頷いた。
微笑んで、最低限で最大限の言葉を呟く。
それだけで、十分だった。
「今のうちに言っとくけど・・・やっぱり別れるとかナシな?」
「うん」
「もう別れてやんねーぞ。別れ話されたって明後日の方向いてやる」
「じゃあ私も、アルカがまた別れ話してきたら明後日の方向くよ?」
「安心しろって。もう別れてやんねーから」
ケラケラとアルカが笑う。
そして、腕をミラへと伸ばした。
そのまま抱き寄せ、バランスを崩したミラの耳に口を寄せ、囁く。
「・・・もう、2度と離さねーよ」
砂糖を煮詰めても、どれだけのスイーツを用意しても足りないような甘さで構成された声が、ミラの耳を擽る。
「・・・うん」
恋人の傍にいられる嬉しさが込み上げる。
頬を赤く染め、ミラは頷いた。
【愚かな人間共め・・・ついに動き出したか】
静かな森の中。
そこに、美しい青色の光が舞う。
木々の間を軽やかに通り抜け、くるりと回り、舞い踊る。
【我が一族も随分と低俗な事を・・・12の時を持つ巫女よ、主に時を超えた巫女を愚弄する権利はない】
青い光は、強弱する。
笑うように、怒るように。
【人間ではない巫女・・・見せてもらうぞ。せいぜい楽しませておくれ】
響く声は、遠くなっていく。
光が弱まり、消えていく。
【“絆”という、見えぬ不確かな繋がりが、どれほど確かなものか――――――】
後書き
こんにちは、緋色の空です。
はい、ここで緊急募集!
緋色の空プレゼンツ(というか助けてほしいのです)
オリキャラ大募集!
・・・どういう事かと言いますと。
やっぱりオリキャラメインだから戦闘も(下手だけど)沢山書きたいんです。
だがしかし!だがしかし!(重要なので2回言いました)。
私には血塗れの欲望のキャラと魔法を考えるだけで精一杯だった・・・。
なので!皆さんのお知恵をお借りしたいのです。
設定的には、血塗れの欲望の傘下ギルドのキャラなんですけど・・・。
名前、性格、容姿、魔法。
この4つを募集させてください!
そして使用決定が決まったオリキャラは本編に登場します!キャラ崩壊は覚悟お願いです!
男でも女でも構いません!
・・・詳しく作っていただけたら嬉しいかなー、なんて。
感想・批評、お待ちしてます。
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