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万華鏡

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第六十一話 日本シリーズその三

「そうでしょ」
「はい、確かに」
「そういう時はやたら長く感じます」
「怒られてる時とか」
「嫌な先生の授業を受けている時とかは」
「それは集中出来ていないからよ」
 人間は嫌いな物事に対しては集中しにくい、嫌なことを進んでやるということは非常に難しいことであるからだ。
「だからよ」
「じゃあ日本シリーズを嫌だって思えばですか」
「もうそこで負けてるんですね」
「巨人ファンは今シーズン長いと思った筈よ」
 無様な最下位になったからだ、これが日本のあるべき姿である。巨人はその醜態を天下に晒し悪の末路がどうなるかを日本国民に見せることがその責務であるか故に。
「負けて負けて負けまくったからね」
「最下位でしたからね」
「それも記録的な」
「だからですね」
「巨人ファンは長く感じたんですね」
「私達はあっという間だったでしょ」
 それに対して優勝した阪神ファンはだというのだ。
「勝って勝って勝ちまくって。楽しかったから」
「つまりこういうことよね」
 ここで部長が副部長に言う、いつもの二人のやり取りになる。
「シリーズを楽しんで集中したら勝つのね」
「勝てると思わずに勝つって思ってね」
「三敗まで出来るけれど」
「先に四勝するのよ」
 一気にだというのだ。
「そういうものみたいねシリーズは」
「成程ね。じゃああれよね」
「あれって?」
「八十五年よ」
 部長は右の人差し指を立てて笑顔で言った。
「あの年のシリーズね」
「あの時ね、日本一になった」
「阪神ナインはあっという間だったって言ってたから」
 そのシリーズがだ、これは掛布雅之が言ったらしい。このスラッガーもまたミスタータイガースと呼ばれていた。
「そういうことね」
「あの時阪神は精神的にも余裕があったらしいわね」
「ええ、落ち着いていたらしいわね」
 殆どの選手がはじめてのシリーズだがだ。監督の吉田義男にしてもシリーズの経験はあまりなかったりする。
「逆に西武の方が必死で」
「場の空気が違ったからね」
 日本中が阪神だった、タイガースフィーバーの中で西武ナインは戦うことを強いられていたのである。
 そうした状況だったからだ、さしもの王者西武でもだ。
「戦いにくかったみたいよ」
「余裕がなくなっていて」
「結局阪神が勝ったわ」
「そういうことよね、余裕よね」
「そう、それも大事なのよ」
 集中しかつだというのだ。
「今の阪神には余裕がありそうだし」
「驕っていなければいいわね」
 ここでこう言ったのは書記だった、彼女はこのことも言ったのだ。
「それはね」
「慢心ね」
「巨人がああなったのもね」
 その相応しい姿になったのはというのだ、巨人に相応しい姿に。
「慢心よね」
「ええ、自分達が優勝して当然とか球界の盟主とかいつも言っていたからね」
 これこそが慢心だ、その慢心を助長したのが戦後日本の球界だ。これを悪質な病気と言わずして何と言おうか。
「驕ってたわよね」
「ええ、そうなっていたわ」
 あるシーズンは優勝間違いなしと開幕前から提灯記事が乱舞さえしていた、関東のスポーツ新聞特に夕刊フジはまさに北朝鮮の機関紙と同じレベルだった。おそらく日本のマスコミ人の多くは金正日を愛せるレベルなのだろう。変人と言うべきだ。 
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