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戦国異伝

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第百五十八話 義昭の愚痴その一

                 第百五十八話  義昭の愚痴
 信長が率いる織田家の大軍は都に入った、朝廷にいる公卿達はその大軍を見て頼もしい顔で話をした。
「いや、流石でおじゃるな」
「はい、右大臣殿が率いるだけはあります」
「見事な数でおじゃる」
「よい軍勢でおじゃる」 
 こう話すのだった。
「既に門徒達をかなり抑えたとか」
「そしていよいよ摂津でおじゃるとか」
「石山御坊を抑えればこの戦は終わりでおじゃるな」
「いや、よいことでおじゃる」
「本願寺が静かになれば」
 どうなるかとだ、彼等は話すのだった。
「一つ騒がしい者がなくなります」
「これまで門徒達は天下を騒がしてきたでおじゃる」
「ただ念仏を唱えていればいいのでおじゃるが」
「ああして一揆を起こして暴れられては」
「たまったものではありませんな」
「全くでおじゃる」
 こう話すのだった、そして。
 公卿達は信長の活躍に満足していた、そして帝も。
 信長の謁見の場でだ、満足したご様子でこう仰った。
「右大臣、ご苦労である」
「有り難きお言葉」
「その顔を見たいが」
「はい」
 信長は帝のお言葉に応え顔を上げた、既に御簾は上げられている。
 そのうえで信長は帝に顔を見せた、帝はその顔を見られ微笑んでこう言われた。
「よい顔である」
「それがしの顔がですか」
「ただ整っているだけでなく」
 信長の顔は非常に整っている、白い細面で目鼻立ちもいい。しかし帝はそうしたものだけを見てはおられなかった。
 その相も御覧になられてだ、こう仰ったのだ。
「覇もある」
「だからですか」
「その顔ならば天下を安らかに出来る」
 間違いなく、というのだ。
「任せてよい」
「かたじけないお言葉、それでは」
「その武、天下の為に安らかにせよ」
 帝、天下の君のお言葉だ、信長はそれを受けたのだ。
「是非な」
「畏まりました」
 信長は帝のお言葉に謹んで頭を下げて礼を述べた。そうしてだった。
 次に義昭のところに参上し頭を下げる、そのうえで帝に上奏したのと同じことを述べた。すると義昭は不機嫌そうにこう信長に言った。
「では北陸はか」
「はい、これで平定しました」
 そうしたというのだ。
「門徒達は皆村に戻りました」
「征伐はしなかったのか」
「向かって来る者は成敗しましたが」
 それでもだというのだ。
「灰色の、本願寺の色の者達は」
「討ってはおらぬか」
「そうしております」
「そしてじゃな」
「はい、次はです」
 その次の話もするのだった。
「摂津に向かいます」
「そうか」
「そして摂津において」
「石山御坊を陥とすか」
「そうします」
 こう言うのだった、義昭にも。
「間も無く吉報を届けてきますので」
「ふむ」
 義昭は返事をしなかった、このことについては。
「左様か」
「そうです、では今から」
「摂津に向かうのじゃな」
「そうさせてもらいます」
 こう話してだった、信長はすぐに義昭の下を去ろうとする。しかしここで義昭は信長に対して言ったのだった。 
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