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戦国異伝

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第百五十七話 延暦寺その十四

「おかしくないのう」
「見たところ殆どの者が死んでいますが」
「この中にはおらぬと」
「まだ生きておると」
「逃げたというのですか」
「戦で負けても全ての者が死ぬことは有り得ぬ」
 必ず生き延びる者が出て来る、このことは戦の常だ。
「ましてや山じゃ、抜け道も多かろう」
「ではそうした抜け道を使って」
「そのうえで」
「逃げ延びたやも知れぬ」
 こう言うのだった。
「確証はないがな」
「ではこの度もですか」
「あの二人を」
「逃がしたと」
「そうなりましたか」
「それならそれで仕方がない」
 二人を討ち漏らした、そのことはというのだ。
「無念じゃが今はな」
「そのことを忘れて、ですか」
「どうしても」
「うむ、今は仕方がない」 
 諦めるしかないというのだ、あれこれ考えていても仕方がないことでありどうにもならないことであるからだ。
 それでだ、信長は言うのだった。
「これより都からじゃ」
「摂津ですな」
「いよいよですな」
「うむ、そこに向かうぞ」
 そうするというのだ。
「石山攻めじゃ、よいな」
「敵の総本山にですな」
「遂に攻め入りますか」
「まずは摂津、河内、和泉の三国を抑えてじゃ」
 そしてだというのだ。
「石山御坊を攻めるぞ」
「そしてあの寺を攻め落とし」
「この戦にも」
「紀伊を攻めることになるかも知れん」
 このことについても言う信長だった。
「あの国もな」
「紀伊ですか」
「あの国も」
「紀伊もまた一向宗の力が強いからですな」
「だからですな」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。
「あの国も攻めるかも知れぬ」
「では」
 そこまで聞いてだ、長政は確かな声で信長に言った。
「次の戦は」
「うむ、これまでになく大きな戦となる」
「そうなりますか」
「これまで門徒との戦は激しいものだった」
 伊勢でも近江でも北陸でもだ、だがそれ以上にだというのだ。
「しかしそれ以上にじゃ」
「激しいものになり」
「そうしてですか」
「勝たねばならぬ」
 戦をするからには、というのだ。
「わかったな」
「その覚悟を以てですな」
「今から摂津に」
「そのうえで勘十郎達と合流する」
 信行が信広と共に五万の兵を率いて石山御坊を囲んでいる、そこに四国からの援軍と徳川の兵一万も加わっている。
 そこにだ、信長も十五万の兵を率いてだというのだ。
「そうしてそのうえでじゃ」
「本願寺の拠点をですか」
「徹底的に」
「そうする、ではよいな」
「わかりました、では今より」
「摂津に」
「その時都を通るがな」
 それでもだというのだ。
「帝と公方様への挨拶は長くかけられぬ」
「すぐに、ですか」
「摂津に向かうからこそ」
「そうじゃ」
 信長は家臣達にその通りだと話す。
「今は仕方がない」
「では戦の後で」
 平手が信長に言って来た。
「あらためてですな」
「うむ、特に帝にはな」
 信長は義昭ではなく帝を第一に置いて答えた。
「そうするぞ」
「畏まりました」
「その様にする。しかしじゃ」
「しかしとは」
「うむ、戦が続いておる」
 信長はここで周りを見た。堂も塔も焼け落ち木も殆ど残っていない。倒れている僧兵達の骸も無残に焼け焦げている。
 そしてだ、織田の将兵達はというと。
「皆疲れておるな」
「いえ、ご安心下さい」
「我等のことは」
 すぐにこうした返事が来た。
「戦が終わるまで大丈夫です」
「力はあります」
「ですから殿はお気になさらぬよう」
「我等のことは」
「左様か」
 信長は彼等のその顔を見て言った。
「そう言ってくれるか」
「はい、ですから」
「その言葉甘えさせてもらう」913
 こう言ってだった、信長は全軍に指示を出してだった。
 都から摂津に向かう、そしてその途中都で帝、将軍である義昭に謁見するのだった。戦の最中でのことであるが。


第百五十七話   完


                             2013・10・25 
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