魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep53『桜』それは出逢いと旅立ちを告げる花~Last testament~
†††Sideシャルロッテ†††
アグスティンも消え、私はゆっくりとみんなの待つ地上へ降下していく。そう、今度こそ本当のお別れを告げるために。私はゆっくりと地面に降り立つ。出迎えてくれたみんなにピースサイン。
「ありがとう、みんな。勝てたよ、みんなのおかげで」
今の私に出来る最高の笑みをつくる。みんなも笑顔になって、歓声を上げた。失ったものは多く、手にしたモノは何も無い。だけど今、事件は終わりを迎えた。
「・・・さてと。よし、笑顔のまんまでお別れといこう」
そう言うと、歓声の声がピタッと止まった。私は指を鳴らして、“ヘルシャー・シュロス”に創ってある桜の花弁を舞い散らせる。
「出逢いと旅立ちの花・・・桜。最後にピッタリじゃない?」
「シャルちゃん・・・」
私は笑顔で1人1人を抱きしめようと思う。みんなにありがとうを伝えるために、みんなの幸福を願うために。お別れの言葉は“さよなら”じゃなくて“ありがとう”。抱きしめ終えた子から現実世界へ還すために術式を整える。
「ありがとう。ウェンディ、ノーヴェ、ディエチ、チンク、ギンガ」
それぞれ抱きしめた5人の「ありがとう」をしっかり胸に刻んで、まず5人を還す。
「ありがとう。スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ルーテシア、レヴィ」
6人の「ありがとうございました!」をしっかり胸に刻んで、6人を還す。
「ありがとう。リイン、アギト」
「はい! ありがとうです、シャルさん!」
「ありがとう、シャルさん!」
リインとアギトを還す。
「ありがとう。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リエイス」
「ああ。ありがとう、フライハイト」
「ありがとな。・・・じゃあな、シャルロッテ」
「ありがとう、フライハイトちゃん」
「感謝している、ありがとう、フライハイト」
「シャルロッテ。私に未来をくれてありがとう。この恩、絶対に忘れない」
シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リエイスの5人も還した。
桜の花吹雪は止まらず、この世界に舞い散り続ける。
「シャルちゃん。ホンマにおおきにな。リエイスのこともやし、いろんなことに」
「うん。はやても、ありがとう。これからもみんな仲良くね」
私ははやてを抱きしめたまま、はやてを現実世界へ還した。
「えっと、次は私でいい、かな・・・? ・・・ありがとう、シャル。シャルのおかげで、私はルシルとこれからを生きていける」
フェイトは両手を胸の上に重ねて、そう微笑んだ。
「いやぁ、それはフェイトの頑張りでしょ。フェイトが頑張ったからこそ、ルシルが残ることが出来た。でしょ、ルシル?」
フェイトの隣に佇むルシルに聞く。
「・・・そうだな。フェイトの力だ。シャルは何もしてない。だから礼はいらな――痛ッ、蹴るな蹴るな」
事実だからしょうがないけど、ムカつくからルシルの太腿を何度も蹴る。逃げ出したルシルはもう放っておいて、私はフェイトをそっと抱きしめる。
「あはは。うん、でも、それでもありがとうだよ、シャル」
「フフ、そっか。なら受け取るよ、フェイトのありがとう。私も、ありがとう」
私の腕の中からフェイトが消える。フェイトも還した。
「ルシル~、次はルシルね~」
私がルシルを呼ぶと、ルシルは「だな」と言って戻ってきた。なのはは「いいの?」と聞いてきたけど、私としてはやっぱり、なのはは最後がいいから頷く。ルシルは私の前に立って、右手を差し出してきた。私はその手を取り、握手。
「ちゃんと幸せになりなさいよ? でないと許さないんだから」
「判っているよ。きっと幸せになってみせる。ありがとう。それじゃあ、また後で」
「うん。また後でね、ルシル。でも、この世界でのルシルとはこれで最後だから・・・ありがとう」
対人契約を行ったその瞬間、“神意の玉座”に居る本体と目の前に居る分身体との間の繋がりは途切れる。だからアグスティンとの戦闘も、こうして話している私たちとの会話も、これからなのは達と過ごす時間も本体には届かない。
だからこそ今のルシルとの別れを惜しむ。最後にキュッと右手に力を込める。最後に微笑み、ルシルを還す。握手していた今は何も握っていない右手を戻す。次に、最後にお別れをするのは私の・・・大切な親友。
「なのは。またトロイメライを預かってもらえないかな・・・?」
「うん。喜んで、だよ」
“トロイメライ”の指環を手渡す。なのはは左手の中指にはめて、そっと右手をその上から重ねて愛おしそうに抱きしめる。それがすごく嬉しくて、でも寂しくて。私は小さく「バイバイ、トロイメライ」と呟く。
顔を上げたなのはは「シャルちゃん」と私の名を呼びながら、そっと抱きついてきた。私も「なのは」と名を呼んで、なのはの背中に両手を回す。
「ありがとう。ありがとう、ありがとう、シャルちゃん」
「うん。うん、うん。ありがとう、なのは」
少しの間、なのはを抱きしめたまま。なのはもそう。大好きなみんなの顔も、声も、温もりも、私はその大切な思い出を全て忘れるだろう。だけど、それでも私は魂に刻み込む。親友たちの全てを。
「なのは。帰ったらユーノに伝えて。オムニシエンスで見つけた本は全て処分してほしい、って。魔術に関するモノは、もう現代には必要のないモノだから」
「うん」
「あと、クロノやリンディさん達にも、ありがとう、って」
「うん」
「ヴィヴィオとそのお友達にも、ありがとう、って」
「うん・・っく・うん・・・っ・・・」
なのはが小さく嗚咽を漏らし始める。でもハッキリと泣かない。私はなのはの背中から両手を離す。するとなのはも私の背中から両手を離して、俯きながら一歩後ろに下がった。
「えへへ、泣かないよ。お別れは笑顔で、だからね」
顔を上げたなのはの目の端には涙が浮かんでる。だけど表情は綺麗な笑み。うん。本当に綺麗な笑顔だよ、なのは。なのはが泣かないんだから私も泣かない。返すのは笑みだ。
「ありがとう、シャルちゃん。元気でね」
「ありがとう、なのは。なのはも、元気でね」
握手を交わす。そして私たちは笑顔のまま別れた。握るモノが無くなった右手を、胸の上に添えて左手を重ねる。私は蒼空を仰ぎ見る。桜の花弁が尚も散るその世界の空を。
「・・・解ってるよ、界律。本当の最後の契約はちゃんと片付ける。なのは達がオムニシエンスから離れるまでは、今はそっとしておいてよ」
私は私服姿へと戻って、本城へと視線を向け、本城に向かってゆっくりと歩き出す。瓦礫地帯を過ぎて、私の宝物がある宝物庫へと足を運ぶ。そこにはなのは達から貰ったプレゼントとか、この3千年の間に巡ってきた世界で気に入ったモノが多く収められている。
私はプレゼントの服を次々と着ては姿見の前でクルリと回る。もう2度と着ることが出来ないから。最後にまた自分の服に着替えて、ユーノから貰った本を読む。どれだけ時間が経っただろう。10冊は読み終えた。なのは達はもう“オムニシエンス”から遠く離れたはずだ。
「ヘルシャー・シュロス・・・・解除」
桜吹雪が舞う世界が消えていく。現実世界へと私も還り、地平線から昇る陽に目を細める。長かった1日が終わって夜明けを迎えた“オムニシエンス”の大地。“界律”とリンクしてなのは達の反応を探査。この世界付近に居ないことを確認。
「契約執行能力・・・顕現」
形態じゃなくて能力のみを顕現。最期くらいはお気に入りの服で迎えたいから。手にするのは純白の葡萄十字、“第三聖典”。
「オムニシエンス・・・いいえ、ギンヌンガガブを消滅させる」
それが私に与えられた本当の最後の契約。私は現実・物質に干渉する実数干渉能力を最大限に発揮。“第三聖典”を頭上に掲げて、地面に向けて一気に振り下ろす。
“ギンヌンガガブ”の核に虚数空間を作り出して、この世界を内部から瓦解させていく。震動が起こり始める。次第に大きくなって、背後にそびえる“エヘモニアの天柱”が崩壊していく。地面に亀裂。陥没。“ギンヌンガガブ”が終わりを迎える。
「契約執行完了・・・!」
ありがとう。さようなら。私の大好きなみんな・・・。
・―・―・―・―・―・
「終わっちゃった・・・」
純白の玉座に座する女性が残念そうに呟いた。3rdテスタメント・シャルロッテだ。そんな彼女に「お疲れさまでした」と労いの言葉を送る5thテスタメント・マリア。
「ん、ありがとう、マリア」
シャルロッテは微笑みながらマリアへ感謝を告げ、スッと玉座から立ち上がり歩き出す。彼女が向かう先、そこには漆黒の玉座に座する4thテスタメント・ルシリオンが居る。ルシリオンはそんな彼女に気付き、組んでいた腕と足を解き、俯いていた顔を上げる。シャルロッテはルシリオンの玉座のひじ掛けに座り、そして口を開こうとしたが先にルシリオンが言葉を紡ぎ出す。
「・・・約1万年の界律の守護神、お疲れ様、シャルロッテ」
「ありがとう、ルシリオン。私はここまでだけど、ルシリオンはまだ続くんだよね・・?」
「ああ。堕天使エグリゴリが見つからない以上、もうしばらく現状のままだ」
「大変だね・・・。その、さ、フェイトと対人契約した分身体のことなんだけど・・・」
意を決したように本題を切りだすシャルロッテ。
「私は何も心配していないよ。あの優しい子たちと過ごせるのなら、残った私の分身体はきっと幸せにその余生を過ごすだろう」
「そ、そうじゃなくて! だから、私は・・・貴方のことが、その・・・心配で・・」
最後の方は声がしぼんでいき、ボソボソと呟きになっていた。しかしルシリオンにはしっかりと届いており、彼はひじ掛けに座るシャルロッテへと視線を移す。
「・・・大丈夫だよ、シャルロッテ。私はもう大丈夫だ。だから、心配せずに旅立ってくれ」
綺麗な満面の笑みをシャルロッテへ向かるルシリオン。彼女は少し赤面して、小さく「うん」と頷き、ルシリオンの前へ移動。そしてそっとルシリオンにキスをした。唇を離したシャルロッテは満面の笑み。
「それじゃ、そろそろ行くね・・・。さようなら。またどこかでね、私の初恋」
「ああ。さようなら。またどこかで会おう、私の憧憬」
それが、2人が交わした最後の会話。
“神意の玉座”より3rdテスタメント・シャルロッテの姿が消える。彼女は新たな人生を歩むために、無限と存在するどこかの界律へと旅立った。
「行ってしまいましたね、シャルさん」
主を失くし空席となった第三の力の玉座を見て、マリアがルシリオンへ向けてそう声を掛けた。
「ああ・・・そうだな。もし願って叶うなら、今度は争いとは無縁な人生を歩んでほしい」
ルシリオンはそう祈った。今度こそ平和な世界でシャルロッテが過ごせるように、と。
そして、彼に届く新たな契約。
「・・・さて、もう少し頑張るとしようか」
ルシリオンは契約を求めてきた世界へとリンクを開始、分身体を送り出した。
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